『プロダクトマネジメントのすべて』小城久美子の
エンジニアのためのプロダクト開発本連載では、プロダクト開発に携わるエンジニア読者向けに「成功につながるプロダクト開発」を実現するためのプロダクトマネジメントの基本の考え方や応用テクニックを、国内外の企業の優れたプロダクト開発の取組みを事例にとり、小城久美子さんがエンジニア向けに紹介・解説。明日からすぐに使える「いいプロダクト開発」をかなえるヒントを提供します。
『プロダクトマネジメントのすべて』小城久美子の
エンジニアのためのプロダクト開発本連載では、プロダクト開発に携わるエンジニア読者向けに「成功につながるプロダクト開発」を実現するためのプロダクトマネジメントの基本の考え方や応用テクニックを、国内外の企業の優れたプロダクト開発の取組みを事例にとり、小城久美子さんがエンジニア向けに紹介・解説。明日からすぐに使える「いいプロダクト開発」をかなえるヒントを提供します。
小城久美子(@ozyozyo)
ソフトウェアエンジニア出身のプロダクトマネジャー。ミクシィ、LINEでソフトウェアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、『LINE CLOVA』や『LUUP』などにプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを活かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)共著者
「エンジニアのためのプロダクト開発」連載、前回はユーザーとの対話をするためにどのように仮説を構築して、検証するのかの基礎となる考え方について書きました。
今回はせっかく実施したユーザーとの対話の結果をもとにプロダクトとしての成長指標の目標を設定する方法について、お話ししようと思います。
「仮説検証」の重要性は多く語られていますが、KPIについてはエンジニアではなくビジネスサイドのものだという誤解もあるようです。
KPI(プロダクトの指標)は、プロダクトの戦略を最もシンプルかつ計測可能にしたものです。プロダクトがどうなったら成功と言えるのかを定義し、その成功に対していまどれくらいの進捗であるのかを知ることができます。
つまり、仮説を数値化して目標として定義し、その進捗を追うためにKPIと向き合うフローこそが仮説検証の可視化となります。
しかしながら、KPIを売り上げ1億円などといった仮説を持たない目標として設定してしまうと、それは仮説検証のツールではなくノルマになります。
ノルマをどう達成していくのか、売り上げ1億円を達成するためにユーザーのどの課題を解決して、どんな価値提案をするのかといった仮説をもとにノルマ達成までの筋道の仮説を明確にしましょう。
そして、その筋道が計画通りに進んでいるのか、計画の根拠にしていた仮説は正しかったのかを検証することで仮説検証を繰り返していきましょう。
日本には「風吹けば桶屋が儲かる」という有名なことわざがあります。風が吹く→砂が舞い上がる→砂が目に入る→…紆余曲折を経て…→ネズミが増える→ネズミが桶をかじる→桶屋が儲かるというフローで、巡り巡って影響がでるという話です。
この話をもとにKPI設計を説明すると、桶屋としては売り上げをあげることが目的です。そして、桶屋の経営者は売り上げを上げるためにとれる戦略がいくつかあります。
・儲かるためにねずみを増やす戦略(KPIはネズミの数)
・桶を使う銭湯を増やす戦略(KPIは導入銭湯の数)
・桶をおしゃれな食器として使ってもらう戦略(KPIは食器売場での購入数)
桶を使う銭湯を増やす戦略を取るなら、いろいろな銭湯への営業によって導入するというアクションを実施することになります。つまり、売り上げに対して、導入銭湯の数を増やすというInputを実施することになります。
売り上げのように直接操作しないものをOutput Metric、Output Metricを上昇させるために実施するアクションを測る指標をInput Metricといいます。
桶屋の昔話から、プロダクト開発の話にもどりましょう。プロダクトを買ってもらうために、私たちは価値提案をします。つまり、価値というInputで売り上げというOutputを出します。
このプロダクトとしてどんな価値提案をして、売り上げを上げていくのかはプロダクトチーム全員が目指す北極星のような存在なので、英語圏ではNorth Star Metricと呼ばれています。
例えば、ビデオ会議ツールのZoomのNorth Star Metricは「一週間で開催された会議の数」です。一日に開催された数でも、会議の参加人数でも、総会議時間でもなく、有料会員数でもないのです。
同じビデオ通話ツールでも、「多くの友人と気軽にオンライン飲み会ができる」という価値提案をするならそのツールがあることで話せなかった友人と話せるようになることで価値提案が測れるためNorth Starは「1週間の参加人数」になるでしょう。
「まるで同僚が隣の席にいるように雑談できる」という価値提案をするなら「アクティブであった時間」や「1日アクティブだった人数」などが適切です。
プロダクトの北極星を定めることは、どうやって売り上げをあげるかという戦略を決めることです。
「銭湯で使いやすいすぐ乾く桶をつくる」という戦略に決めたのに、風を吹かせてねずみを増やそうというアクションを取ると、せっかく導入してもらった銭湯にねずみが増えてプラスチック製の桶に取り変わられてしまいます。
プロダクトをつくる時、日々誰のどの課題にフォーカスすべきか頭を悩ませることになりますが、その重要な選択軸となるのが北極星です。
実施したとしても、North Star Metric向上のInputにならないようなバックログには気を付けましょう。
プロダクトのNorth Star Metricを定めることで、以下のような良い影響があります。
・どのように売り上げを立てるのかの認識がそろう
・短期的に売り上げに直結しない施策も、North Starへの貢献度で優先度がつけやすくなる
・プロダクトの価値提案を数値化するので、仮説検証がしやすい
・プロダクトが成功に向かっているのか一目瞭然となる
ぜひ、売り上げにどんな価値提案のInputをする戦略であるのか、実装中の機能がどんな指標のInputとなっているのかを考えてみてくださいね。
すぐにプロダクトのNorth Starを定めるのは難易度が高いかもしれません。まずはプロダクトがどのように売り上げをあげようとしているのか、チームでその指標の関連性の可視化をしてみることをおすすめします。
この可視化を議論することで、手段と目的の整理ができるようになり、プロダクトチームとして何を追うべきなのかの目線が合います。
ビデオ会議ツールでどうして「チャット投稿数」が大切なのかを改めて考えることで、例えば「オフラインだと表情で示せていたリアクションを何らかの方法でオンラインでも伝える機能を提供する」という戦略の言語化ができます。
こうすることで、ただ闇雲にチャット投稿数を増やすのではなく、「オフラインと同じようにリアクションを伝えるためにはどうすればよいか?」と問いを立て直すことになり、本質的なプロダクトの成長につながる指標管理の第一歩となります。
私は多くのNorth Star Metricの作成をサポートしてきましたが、North Star Metricの意思決定をしたくない/できないと言われることがあります。
私が何度もこの連載の中で紹介している以下の魚の絵のような、様々な人の要望を聞いた結果誰にとっても使いづらいプロダクトになっている場合、目指している未来が一つではないのでたった一つの北極星を定めるのは難しいです。
何かを切り捨てて、それを使ってくださっているユーザーを諦めて、このプロダクトを今後は魚として育てていくのか、移動ツールとして育てていくのか決めなければ、プロダクトの成功を測る指標を定義することはできません。
これはプロダクトの今後を左右する重要な意思決定となりますので、もしそのプロダクトに足が生えているなら、あせらず、指標をきっかけにしてプロダクトの成功がどんな状態であるのかを第二回や第三回の内容も参考にご検討いただけますと幸いです。
今回は、「KPI」について解像度を上げて、ユーザーと数字を使ってどのように対話をするのか書きました。
次回はNorth Star Metricを意識した優先度付けのお話をしようと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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