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コードを書いて「好き」を形にするために大切なこと~CAゲームクリエイター奨学金プログラムレポート【3】

働き方

    土曜の午後、買い物客でにぎわう東京・銀座。ゆうに100名以上は入りそうな会場は、小学生たちや子連れの親で満席となっていた。メディア関係者も訪れていたとはいえ、名もないクリエイターたちの発表会にこれだけの人が集まるのは、プログラミング教育に対する注目が高まっていることの表れだろう。

    今年1月14日、Apple銀座で行われたのは、『Kids Developer Pitch Winter 2017』なるイベント。サイバーエージェントのゲーム事業に携わる子会社11社が所属するSmartphone Games&Entertainment(以下、SGE)事業部と、プログラミング教育事業を行うCA Tech Kidsが昨夏より実施している『ゲームクリエイター奨学金プログラム』の集大成として、本プログラムに選ばれた4人の小学生たちが自作のゲームアプリを披露する会だ。

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    『Kids Developer Pitch Winter 2017』でプレゼンを行った奨学金4名と、プログラム修了証書を渡したサイバーエージェント副社長・日高裕介氏(写真左から2番目)らの大人たち

    イベントの冒頭で、運営元の一つであるCA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏は、奨学生プログラム実施の意図をこう説明した。

    「これからの教育では、コンピュータやアプリを『使いこなす』だけでなく、『自ら作り出す』ためのスキルを養うことが大事だと考えています。ゲームづくりは、そこで必要になるスキルを楽しく学ぶための入り口。アプリ開発では、プログラミング以外にもたくさんの要素が求められます。この半年間は、それらを総合的に教えていく時間でした」

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    今回の奨学生やCA Tech Kids運営の『Tech Kids School』では“ウェンツ校長”の愛称で親しまれている上野氏

    弊誌は過去2回にわたってこのプログラムの内容を紹介してきたが、その過程では、まさにこの「コードを書くだけではない『モノを作り出す力』を高める」ための取り組みが行われていた。

    >> ゲーム開発を通じて学ぶ「21世紀を生き抜く力」って何だ?~CAゲームクリエイター奨学金プログラムレポート【1】

    >> ゲームを「作る」から「面白くする」の間にある壁を乗り越えるには~CAゲームクリエイター奨学金プログラムレポート【2】

    詳細は上記2つの記事に譲るとして、レポートの最後となる今回は、4名の奨学生たちが開発したゲームアプリの内容と、そこから見えた「好きを形にするために大切なこと」を紹介していこう。

    高橋温さん~植物育成ゲーム『のび~る』

    CAゲームクリエイター奨学金03-のび~る

    『のび~る』のプレイ中画面

    CAゲームクリエイター奨学金03-高橋温さん

    今回の奨学生の中で最年少だった高橋温さん

    「子どもも大人もみんなが楽しめるゲームを作りたかった」という思いでこのプログラムに取り組んだ小学4年生の高橋さんは、タップで水をあげながら画面下から伸びる木をどれだけ高く育てられるか?を競うゲーム『のび~る』を開発。

    ゲーム中、成長をさまたげるさまざまな「害虫」が落ちて来るので、それらをスワイプ操作で“除去”しながら木を育てていく仕掛けになっている。

    開発時の工夫点は、伸び続ける木に合わせて背景もスクロールし続けるようにした点と、強さが異なる害虫がランダムに登場するように10の確率分けを行った点。

    また、強い虫と弱い虫で駆除した際の効果音が変わるようにもプログラムされており、奨学生の中で最年少とは思えないクオリティを誇った。

    七丈直史くん~クイズバトルゲーム『STUDY QUEST』

    CAゲームクリエイター奨学金03-「STUDY QUEST」

    『STUDY QUEST』のプレイ中画面

    CAゲームクリエイター奨学金03-七丈直史くん

    お父さんがビッグデータ解析の仕事をしていることからプログラミングに興味を持ったという七丈直史くん

    「勉強が好き」と語る七丈くんは、ゲームをしながら学習できるクイズバトルRPGを開発。プレイヤーが3Dフィールドの中を歩き回り、クイズに答えながらモンスターを倒していく形式で、正解数が多ければ多いほどボスキャラの「魔王」と戦う際の時間=クイズに答えるまでの時間が長くなる。

    ゲーム開発エンジンのUnityを使って見事な3Dフィールドを実現しており、プログラミングでは「問題をランダムに出す」ことと「同じ問題が何度も出ない」ように工夫したそうだ。

    途中、問題と答えの組み合わせが一致しないというバグが出て、修正に苦労したそうだが、最終的にゲーム内容はもちろん、魔王をはじめとする敵キャラのクオリティも非常に高いものに仕上がった。

    麻生俊くん~バスケ×シューティング『Thrilling Shooter』

    CAゲームクリエイター奨学金03-「Thrilling Shooter」

    『Thrilling Shooter』のプレイ中画面

    CAゲームクリエイター奨学金03-麻生俊くん

    ゲームアプリ開発だけでなく、YouTubeで自作ゲームの紹介も行っている麻生俊くん

    スポーツ好きで、特にバスケットボールが大好きと言う麻生くんは、そのバスケとシューティング要素を組み合わせたバトルゲームを開発した。

    ゲームは2つの連動するステージで構成されている。1つ目のステージでは、画面上を動く大小さまざまな円形の「敵」をタップで壊しながらプレイし、壊したボールの数と強弱に応じて次のステージで「シュート」できるボールの保有数が決まる。

    そして2つ目のステージでは、宇宙空間風の背景の中を動き回るバスケットゴールに向けて、前のステージで入手したボールをスワイプでシュートして得点を稼ぐ。この2つのステージを制限時間内で行き来しながら、総合点を競う形になっている。

    開発で大変だった点は、シュートするボールの軌道を調整しながら、「シュート一回にかかる時間をどう短くするか?」だったそう。また、ボールの動きを制御するためにfor文やRayのスクリプトを駆使するなど、プログラム期間中に学んだ成果を遺憾なく発揮していた。

    菅野晄さん~3D百人一首×避けゲー『回一首(まわりっしゅ)』

    CAゲームクリエイター奨学金03-「回一首(まわりっしゅ)」

    『回一首(まわりっしゅ)』のプレイ中画像

    CAゲームクリエイター奨学金03-菅野晄さん

    学校では陸上クラブに所属したり、放課後にサッカーを楽しむなどアクティブな一面を持つ菅野晄さん

    お姉さんがCA Tech Kids運営のプログラミングスクール『Tech Kids School』に通っていたことからプログラミングに興味を持ったという菅野さんが開発したのは、趣味の百人一首を3Dで表現したゲームだ。

    画面中央にある球をフリックで操作しながら、下からせり上がって来る文字(百人一首における「下の句」が一文字づつ出てくる)を避けることでサバイバルしていく内容になっている。

    文字そのものが3Dでプログラミングされている他、「上の句」が詠み上げられるBGMや水彩画で描かれたゲームキャラクターもすべて自分の手で作成するなど、オリジナリティたっぷりな出来栄えとなった。

    本人いわく、一番工夫したのは「ゲームが進むにつれて文字が出てくるスピードが速くなるようにプログラムしたところ」だそう。

    アプリを開発する上で「プログラミングスキル以上に大切なポイント」って?

    プレゼン終了後に行われたアプリ体験会で、奨学生たちが開発したゲームを遊ぶ子供たち

    プレゼン終了後に行われたアプリ体験会で、奨学生たちが開発したゲームを遊ぶ子どもたち

    これら4つのプレゼンが終わった後に行われたパネルディスカッションでは、奨学生たちのアドバイザーを務めてきたSGE事業統括室CTOの白井英氏が「期間中は『奨学生がプログラミングを学んでいる』というより『大人のクリエイターと同じように開発していた』という印象だった」と感想を述べていた。

    同氏の言葉が決してお世辞ではないことは、この日発表されたゲームのクオリティを見れば一目瞭然だ。

    また、筆者がすごいと感じたのは、4名それぞれが非常にオリジナリティあふれるゲームを開発していたこと。

    子どものころにプログラミングを学ぶきっかけは、自分がプレイしてハマッたゲームを「自分でも作りたい」というものが多いものだが、今回奨学生に選ばれた子どもたちは、スワイプ&タップの連打で楽しめるといった操作性の良さという人気ゲームの長所を取り入れつつ、「何となくあのゲームに似ている」というのを一切感じさせないオリジナリティを形にしていた。

    その理由の一つは、「自分が好きなこと」をベースにゲームを企画していたからだろう。4人共、普段から好んでやっているスポーツや趣味を題材にしつつ、「ゲーム性を高める他の要素」と組み合わせることで独自のゲームアプリを生み出していた。

    この視点こそが、ゲーム開発を単にプログラムを書く作業ではなく「好き」を形にする作業にするための大切なポイントなのだろう。

    最後に、会場から「次に作りたいゲームの構想はあるか?」という質問が寄せられた際、全員が挙手していた姿が印象的だった。何かをゼロから生み出した経験は、もっと新しい何かを作る糧となったようだ。

    取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)

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