“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!
CTO's BizHack技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう
“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!
CTO's BizHack技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう
前回、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを展開するLuup CTO・岡田直道さんと対談したLayerX CTO・松本勇気さんが今回のお相手に指名したのは、グリーの最高技術責任者である藤本真樹さん。
ともに日本CTO協会の理事を務め、自社の成長だけでなく日本のテクノロジー領域をもリードする二人の親交は長く、深い。
二人の信頼関係が伺えるなごやかな対談では、プロダクトグロースをけん引できるエンジニアに必要なスキルや、プロフェッショナルたちを育てるためのマネジメント方針が語り合われた。
グリー株式会社
取締役 上級執行役員 最高技術責任者(CTO)
藤本真樹さん(@masaki_fujimoto)
2001年に上智大学文学部卒業後、株式会社アストラザスタジオを経て、03年に有限会社テューンビズに入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画し、オープンソースソフトウェアシステムのコンサルティングなどを担当。04年のグリー株式会社立ち上げから参画し、翌05年には同社の取締役に就任。21年よりデジタル庁CTOも務める
株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本勇気さん(@y_matsuwitter)
株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。LayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。18年より合同会社DMM.com CTOに就任。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、ブロックチェーン、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援など広く歴任。19年、日本CTO協会理事に就任
ーーお二人はCTO協会の理事同士で親交が深いと伺っています。松本さんが藤本さんを対談相手に指名した理由は何でしょう?
松本:おっしゃる通り藤本さんにはCTO協会などで日ごろからお世話になっているのですが、最近は特にお忙しそうでお話ししたり飲みに行ったりできていなかったんですよ。
なので、今回は取材にかこつけていろいろ相談してしまおうと思い指名させていただきました(笑)
藤本:いやいや、松本さんのためならいくらでもスケジュールを空けますよ(笑)
松本:真面目に答えると、ちまたにあふれる「CTOとは?」論は飽きてきたので、シンプルに「今、あなたは何を考えているんですか?」という話をいろいろな人に聞いてみたかったんですよね。
エンジニアとしての僕は、モチベーションの変化に伴って数年おきに所属を変えてきました。一方で藤本さんは、創業期からグリーの運営に携わっているので、当たり前のように「ずっとグリーで活躍していくんだろうな」と思い込んでいたんですよ。
ただ、最近になってデジタル庁のCTOに就任されましたよね。何か心境の変化があったに違いないと思うのですが、どうですか?
藤本:正直なところ、大それたキャリア戦略があるわけではないです。「自分にできることがあるなら、やってみよう」の一言に尽きるんじゃないですかねー。
何か必要とされるなら期待に応えたいし、その結果、世の中に何らかのポジティブな結果を残せたらもっと良いじゃないですか。
強いて言うなら、デジタル庁のCTOへの挑戦については、「40代」という節目に差し掛かったからかもしれません。
ーー節目、というと?
藤本:日本の男性の平均寿命は、だいたい80歳くらいじゃないですか。つまり、40歳くらいが折り返し地点なんですよ。
人間不思議なもので、折り返しを過ぎるとあらゆる物事を「残り●回」とカウントダウンし始めるんです。
食事にしたって、「3食×365日×40年だから残りは……」なんて計算してしまう。先は長いな、と思って走ってきた前半戦とは、また違った心境になってきます。
その結果、仕事に求めるものもおのずと変わってきて、以前より純粋に「未来をよくしたい」がモチベーションになってきたんですよね。クリーンすぎてうそっぽいと思われるかもしれないけれど(笑)
ただ、日本のデジタル環境には数百、数千、数万もの課題が山積みになっているのは事実。
未来に思いを巡らせると「このまま老後を迎えていいのか」「未来をよくするために自分にもできることがあるのでは」と考えるようになったんです。
ーーライフステージが変わったことで、未来に目が向くようになったということですね。
松本:その感覚には共感しますね。というのも、僕も子どもを授かってから、視点が未来へ移動した実感がありまして。
日本の人口が年々減少し、国が衰退していく現実を前に、「この子が生きる未来を明るくしたい」と考えるようになりました。
そのためにも、僕が藤本さんをはじめとする先輩方から学んできたものを次の世代に渡していくことが大切だな、と思っているんです。
日本ではまだまだエンジニアが足りなくて、プロダクトを引っ張っていけるようなCTOやVPoEクラスとなると、人材不足はより深刻。
CTO協会でもエンジニア育成のためのワーキンググループを立ち上げて、プロダクトグロースをけん引できるエンジニアを増やそうと動いているところです。
ーーということは、松本さんの現在のモチベーションの一つは「人材育成」なんですね。
松本:そうですね。そこで、藤本さんにグリーの人材育成について聞いてみたかったんですよ。
現在テック業界で活躍しているスタートアップのCTOやVPoEの中には、グリー出身の方が大勢いますよね。これだけエンジニアが育つ組織はなかなかないので、ぜひその理由を教えていただきたいな、と。
藤本:それは、グリーのビジネスの在り方が大きく影響しているかもしれませんね。
グリーは、いわゆる「仕組み」だけでやっていける会社ではありません。良い感じのシステムを作ったら、あとは自動的に……というビジネスモデルではなくって、プロダクトがあってユーザーさんがいないと始まらないんですよね。
ゲーム事業とかは分かりやすくてで、ユーザーさんが「面白い」「質が高い」と感じてくれるプロダクトを届けなければ、始まりません。
なので、プロダクトに向き合う姿勢を持ったエンジニアが育ちやすいのだと思います、たぶん。
松本:藤本さんは、エンジニア育成に対して意識していることはありますか?
藤本:役員である私が言うことではないかもしれませんが……誤解を恐れずに言うと「一つの会社に一生雇われる」って、もう前提として誰も考えないじゃないですか。なので、人材の流動性を否定しないようにしたいと思っています。
もちろん末永く働いてもらえることがベストだけど、「絶対」はない。その前提のもと、エンジニアには一人のプロとして自立してもらいたいと考えてます。
第一に、自分が人生で成し遂げたいことを持っていてほしい。そのためにグリーで働くことが一番だと思ってもらえるような環境を用意することが私の仕事かな、と。
松本:一人一人をプロとして認めた上で、働く上で魅力的な環境を提供し続けるよう努力しているということですね。
ーーお二人にお聞きしたいのですが、エンジニアのマネジメントをする上で意識していることはありますか?
松本:僕は、ファジーな事柄こそ徹底的に言語化して伝え続けるようにしています。
「良いプロダクト」とか「ユーザーのため」って、定義が曖昧ですよね。しかも、良いプロダクトを作ればユーザーのためになるのか、というと必ずしもそうではありません。
だからこそ、「僕たちの考える『良いプロダクト』とは、●●な体験をユーザーに提供できるものだ」「その目標を達成するためにはこの機能を実装して、この数値を追いましょう」というようにブレークダウンさせていって、方針をブレさせないことが重要かなと。
藤本:ブレないっていうのは大切ですよね。リーダーシップの基本は一貫性だと思ってます。
松本:ただ、それだけでマネジメントの問題がすべて解決するわけではないということが最近分かってきました。
組織に課題が生じたとき、僕はついつい「こういう仕組みをつくれば解決するはずだ」と思ってしまいがちで。以前、藤本さんにも相談したことがあるんです。
その時、藤本さんが「結局のところ、一人一人にどれだけ真摯に向き合えるかどうかだよ」と言っていたことをよく覚えています。
それからは、チームマネジメントに特効薬はないんだ、という考えになりました。
藤本:マネジメントはある種の技能ではあるかもしれないけど、最終的には人と人との関係に帰着する仕事でもある。
だからこそ丁寧に対話して、エンジニアにも「このマネジャーは使えるぞ」と思ってもらえるように行動で示し続けることが大事なんですよね。
例えば1on1でお互いに小さなToDoを立てて、そのToDoを確実に実行する、とか。そういう小さな積み重ねの先に、「この人は約束を守る」という信頼が形成されていくものだと思います。
ーープロフェッショナル人材の育成方針について聞いてきましたが、改めて、ビジネスやプロダクトを成長へと導けるエンジニアになるにはどのようなスキルが必要なのでしょうか?
松本:一つ挙げるなら、変化の兆しに気付く視点を持つこと、ですね。
ビジネスやプロダクトが大きくグロースするときというのは、物事が激しく変化していくタイミングなんです。
会社の内部はもちろん、社会情勢や法規制などの外的環境が大きく変わることもある。どこかで必ず「やり方を変えなければいけないタイミング」が訪れます。
だから、プロダクトの成長をリードするには、自分たちが変化のただなかにあることを認識し、小さな「変化の兆し」をいち早くキャッチする。そして先回りで行動することが大切です。
僕の場合、ときどきサウナに入って、目指す将来像から逆算で物事を考えてみるようにしています。すると、「今、これをやるべきなのでは?」といったポイントに気付けるんですよ。
藤本:私も、松本さんと完全に同意見ですね。
松本さんの言うとおり、プロダクトが勢いよく成長するタイミングというのは変化のときなので、どこかしらに不足が生じるものです。
単純に開発が遅れてしまう場合もあれば、組織の成長スピードが追いつかないこともある。他にもいろいろなリスクを抱えているケースが多いでしょう。
そのポイントに気付けるエンジニア、さらに言えば、変化に対応するために行動できるエンジニア、あるいはそういった経験はとても貴重なんだと思います。
だからこそ、その能力を鍛えておけばプロダクトの成長にダイレクトに貢献できるはず。
エンジニアとして十分なプレゼンスを発揮できますし、結果的に自分自身の待遇が上がったりポジションが変わったりと、キャリアにも良い影響が出ると思います、きっと。
取材・文/夏野かおる
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