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【中島聡】そもそもWeb3とは何か? 実際にプログラムを書いてみて分かったこと

働き方

2022年、欧米に続き日本国内でも一気に注目度が高まった「Web3」。Web3がどんなもので、この技術にどんな可能性があるのか、さまざまな情報が目に入ってくるけれど、何となく腑に落ちない……そう感じているエンジニアもいるのでは?

そこで今回は、Windows95生みの親として知られ、現在はシアトル在住でWeb3時代の新たなビジネスモデルを作るべく活動している中島聡さんの最新著『シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』(SBクリエイティブ)から日本人がまだ知らないWeb3の基本について紹介したい。

※本記事は、『シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』の1~8頁を一部抜粋して転載しています

熱狂する人、冷ややかに見守る人…賛否両論のWeb3

中島聡

コンピュータやインターネットといったテクノロジーの分野では、日々新しい技術やサービスが誕生し続けています。その中でも、「Web3」ほど、賛否両論、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論を呼んでいる言葉はないでしょう。

ある人たちは、Web3はコンピュータやインターネットの未来そのものだと言います。何十兆円、何百兆円という規模の新しい産業が生まれるのだと。

お金の流れを完全に透明化することで、国家や企業の支配から脱して、誰もが公平に恩恵を受けられる非中央集権の仕組みを作り上げるのだと言う人もいます。

日本政府もこの流れに乗り遅れまいと、2022年6月にはWeb3推進の方針を明らかにしました。

別の人たちは、Web3は詐欺だと言います。今Web3と銘打っているものは、大がかりなホラ話で投資を募ったり、ネズミ講まがいのいかがわしいサービスで消費者を騙しているだけじゃないかと。

アメリカでは、2022年6月に、1500人のコンピュータ科学者やソフトウェアエンジニアたちが、Web3の誇大広告に踊らされてはならないと、議会に対して「責任あるフィンテック政策を支持する」(筆者訳)と題した公開書簡を送りました。

また、世界的にも、いわゆるWeb3業界への投資は2022年の夏以降急激に落ち込んでおり、「Web3は冬の時代に入った」とも言われています。いったいどちらの言い分が正しいのでしょうか?

Web3はインターネットの未来、それとも詐欺のどちらなのでしょうか? いや、そもそもWeb3とはいったい何なのでしょうか?

中島聡

私は、1970年代からコンピュータに触れ始め、インターネットの普及やビジネスの隆盛を間近で見ていただけでなく、自分自身もプログラマーとしてソフトウェアを作り続けてきました。そんな私も、当初はWeb3の喧噪からは距離を置いていました。

暗号資産(仮想通貨、暗号通貨、クリプトともいわれます)が世間的な話題になり始めていた2014年頃に、根幹となるブロックチェーン技術の論文を読んで非常に面白いアイデアだと感心しましたが、それが暗号資産を悪用したマネーロンダリングの手段以外に何の役に立つのかイメージできなかったのです。

暗号資産の売買にもまったく興味を持てませんでした。しかし、2021年以降、Web3という言葉が世間的に注目を集めるようになりました。

Web3という用語は暗号資産業界(クリプト業界ともいう)がWeb3自体を世間に売り込みたいがためのマーケティングの側面が強いのですが、結果的にこのマーケティングは大成功し、各国の金融機関や政府もWeb3を無視できなくなりました。

私の周りでも、シリコンバレーなどで働いているプログラマーや起業家がWeb3を話題にすることが増えてきました。

そうしたIT分野に通じたエキスパートの間でも、Web3に対する意見は割れています。夢中になってWeb3関連のプログラムを書くようになったプログラマーもいれば、ビジネスを立ち上げた起業家もいます。

ただ、大方は先に挙げた一部の例のように、Web3の熱狂を冷ややかに眺めているといったところでしょう。

手を動かすことで見えたWeb3の可能性

中島聡

これだけ話題になっているのであれば、さすがにWeb3が何なのか勉強しておこうか。そう思ってWeb3に取り組み始めたのが、2022年3月です。

とはいっても、Web3だとかスマートコントラクトだとかについて、他人が書いた本を読んでもまったく腑に落ちません。

上っ面の仕組みを難しげな用語でもっともらしく説明しているだけで、本質的なことは何も書かれていないのです。

やはり自分で手を動かすしかない。

コンピュータに限らず、私は何かを学ぶ際に必ず手を動かします。仕様書などの資料も参考にはしますが、自分なりに手を動かして試行錯誤しながらモノを作ることに勝る学習方法はありません。

最初の1週間は従来のプログラミングとの違いに戸惑いましたが、Web3の概念がつかめてくるに従い、面白さがわかってきました。

それ以降はほかのことはそっちのけでWeb3でのプログラミングに没頭し、あっという間に時間がすぎました。

とにかく、Web3という仕組み自体が面白い。Web3のシステムは「ワールドコンピュータ」と呼ばれ、一言で説明するならば「世界中のコンピュータをつなげることによって維持されている、どこの国にも規制・管理されず、個々が安全にデータを管理し、国を超えて生活を変えるような、世界そのものが一つのコンピュータになるシステム」です。

そしてそのシステムの上では、処理を自動化する「スマートコントラクト」といわれるものが動いています。これは、これまで私が携わってきたコンピュータとはまったく異なる仕組みです。

最初のうちは面白いだけで、これでいったい何ができるのか見当がつきませんでしたが、あれこれスマートコントラクトを作っているうちに、Web3の可能性が具体的に見えてきました。

同時に、現在のWeb3業界でいかにいかがわしいビジネスが横行しているかということについても、はっきり見えてきたのです。外野からWeb3を見ていた時と、実際にWeb3のプログラムを書いてからでは目に見える景色が一変しました。

新しい技術は黎明期に「遊んで」おく

中島聡

パソコンやスマホ、インターネット、そのほかあらゆる技術についていえることですが、その技術が本当に世の中の役に立つものだとわかった時に活躍できるのは、黎明期から「遊んで」いた人たちです。

新しい技術が出始めた段階では、誰もその技術をどう使っていいのかなどわかりません。だけど、面白いからいじってみる。

一銭にもならなくても何かを作ってみる。そういうことを繰り返していた人たちは、その技術が社会のメインストリームになった瞬間、スポットライトを浴びることになります。

なぜ、そんなことを言いきれるかといえば、私がパソコンの黎明期からGAFAMが覇権を握る時代まで、技術が変化する節目で常に、新しいソフトやサービスを開発し、成果を上げ続けてきたからです。

一部をご紹介すると、たとえば、こんなものです。

・パソコンの黎明期・マウスが登場した時に、CADソフトを開発し、約3億円のロイヤリティを得る

・米マイクロソフト時代にWindows95の開発にチーフアーキテクトとして携わり、現在のWindowsOS にも搭載されている「右クリックメニュー(コンテキストメニュー)」や「ドラッグ&ドロップ」の機能を初めて実装した

・インターネットが登場した頃、Windows98の開発に携わり、いち早くOSとブラウザの統合を行なって、マイクロソフトが世界のインターネット市場で成長する基礎を築いた

・モバイルの市場が広がり始めた時、記憶容量が少なくて複雑な機能が使えない携帯電話へのソリューションを開発・起業し、352億円で売却できるところまで成長させた

・iPhone が登場した初期に、写真を保存しシェアできるアプリを作成し、App StoreのSNS部門で2年間トップになる

逆にいえば、すでに成熟した分野に後から入って成功を収めるのは難しいものです。

たとえば、今からユーチューブに対抗できる動画配信サービスを一から立ち上げて、大きくスケールさせるのは大変だということはおわかりでしょう。

莫大な資金と、才能ある人々、そして時間をつぎ込んだとしても、はたして勝算があるかどうか。

そんな分の悪いチャレンジをするよりは、面白いと思える、可能性を感じる、黎明期の技術に早いうちに取り組んだほうがいい。私はWeb3の技術に、自分の時間を投資する価値があると信じています。

はっきりいえば、現在のWeb3は発展途上もいいところで、クリプト業界の宣伝文句にあるようなものではまったくありません。

Web3が世の中の役に立つとわかるまでには、3年や5年、あるいはもっと時間が必要でしょう。けれど、だからこそ、エンジニアは今から取り組む価値がありますし、そうでない人もWeb3がどんなものかということは知っておいてよいでしょう。

プロフィール画像

中島聡さん
エンジニア・起業家・エンジェル投資家。早稲田大学大学院理工学研究科修了・MBA(ワシントン大学)。1985年に大学院を卒業しNTTの研究所に入所し、86年にマイクロソフトの日本法人(マイクロソフト株式会社、MSKK)に転職。89年には米国マイクロソフト本社に移り、ソフトウェア・アーキテクトとしてMicrosoft本社で Windows 95 と Internet Explorer 3.0/4.0 を開発。Windws95に「ドラッグ&ドロップ」と「(現在の形の)右クリック」を実装したことによって、両機能を世界に普及させる。後に全米ナンバーワンの車載機向けソフトウェア企業に成長するXevo(旧UIEvolution)を2000年に起業し、19年に352億円(3億2000万ドル)で売却。元EvernoteのCEOが立ち上げたmmhmmの株主兼エンジニア。現在はフルオンチェーンのジェネラティブアートの発行など、Web3時代の新たなビジネスモデルを作るべく活動している。堀江貴文氏に「元米マイクロソフトの伝説のプログラマー」と評された

書籍紹介

中島聡

シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』(中島聡著/SBクリエイティブ)
日本人の知らない本当のWeb3とは? PC黎明期からコンピュータ業界に携わり、マイクロソフトでも先見的なエンジニアとして活躍。現在もWeb3関連のプロジェクトを手掛ける著者が、技術の変化を踏まえ、Web3時代の働き方を説く一冊

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