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投資家や政府が注目するインパクトスタートアップって何だ? 三社のCTO・VPoEが明かす「社会課題解決を仕事にする」のリアル

働き方

今、インパクトスタートアップと呼ばれる「社会課題の解決」と「持続可能な成長」を両立しながらポジティブな影響を社会に与えようとする企業が国内外で注目されている。

広木大地

「環境・エネルギー」「医療・福祉」「教育・保育・子育て」「食・農業」などの分野で、社会課題解決に取り組むインパクトスタートアップが目立つ

英国の金融機関「Big Society Capital」の調査レポート『What is an impact startup?』によると、10億ドル以上の価値があり、10億人以上の生活を改善する「インパクトスタートアップ」はグローバルで179社あり、そのうち40%はユニコーン企業へと成長しているという。

それを受けて海外では、インパクトスタートアップに対する投資が積極的に行われるようになっており、日本国内での注目度も高まっている。

そんな中、国内インパクトスタートアップ3社による合同イベント「技術で社会課題を解決する インパクトスタートアップ エンジニアトーク‼」が2023年1月26日に開催された。

本イベントのパネルディスカッションに登壇したのは、テクノロジーの力で保育現場の課題解決に取り組むユニファの取締役CTO・赤沼寛明さん、中高生向けにIT・プログラミング教育サービスを展開するライフイズテックの執行役員VPoEの奥苑佑治さん、生産者から直接食材やお花を購入できるオンライン直売所『食べチョク』で一次産業の課題解決に取り組むビビッドガーデンの執行役員CTO・西尾慎祐さんの3人。

モデレーターは日本CTO協会理事の広木大地さんが務め、インパクトスタートアップでエンジニアが働く魅力や、社会課題解決とビジネスの両輪を回す現場で活躍できるエンジニア像について聞いた。この記事では、パネルディスカッションの一部内容をお届けしよう。

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ユニファ株式会社
取締役CTO
赤沼寛明さん(@akanuma

エムスリーやNubee Tokyoでの開発業務を経て、2015 年にユニファ東京オフィスの立ち上げ時に入社。ユニファの開発体制を構築し、さまざまな新規サービスの立ち上げにも関与。 現在は取締役CTOとして、システム開発を担うプロダクトデベロップメント本部全体を統括。また、外国籍エンジニアも積極的に採用し、約10カ所に及ぶ国籍のエンジニアのマネジメントも担う。技術系カンファレンスにも多数登壇し、これまで多くの賞を受賞

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ライフイズテック株式会社
執行役員VPoE/サービス開発Div. 部長
奥苑佑治さん(@yuji_okuzono

1987年生まれ。新卒でベンチャー企業へ入社、SI事業の立ち上げを経験。2011年にEC事業会社を創業。その後事業売却を行い、サイバーエージェント、バンク・オブ・イノベーション CTOを経て16年にライフイズテックへジョイン。 Cloud Architecture、Back & Front開発などの技術領域から、UI/UX、Growth Hackまでプロダクト開発全般の知識を元にサービスを統括する。AWS Summit Online 2021、日本CTO協会『Day One』などにも登壇

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株式会社ビビッドガーデン(食べチョク)
執行役員CTO
西尾慎祐さん(@nishio_dens

山梨大学大学院医学工学総合教育部を修了後、SI企業に就職。Rubyエンジニア、開発チームリーダーとして動画配信サービスのフルリプレイスに携わる。2017年12月からビビッドガーデンのWebアプリケーション開発をサポート、18年3月より正式メンバーとして参画。22年5月執行役員CTOに就任

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モデレーター:株式会社レクター代表取締役/ 一般社団法人 日本CTO協会 理事
広木大地さん(@hiroki_daichi

2008年に株式会社ミクシィに入社。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。株式会社レクターを創業。技術経営アドバイザリー。著書『エンジニアリング組織論への招待』がブクログ・ビジネス書大賞、翔泳社技術書大賞受賞。一般社団法人日本CTO協会理事

課題が山積する領域を技術でハックし、変化を目の当たりにできる

広木:今日はよろしくお願いします。最初のテーマですが、「インパクトスタートアップでエンジニアとして働く魅力」については皆さんどう感じられていますか。

西尾:当社は生産者から直接食材を購入できるオンライン直売所『食べチョク』というサービスを展開しているのですが、生産者さんの役に立っていることを実感できるのが、一番うれしいですね。

エンジニアも実際に生産者の方と対面で会う機会が多いので、「『食べチョク』さんのおかげで新しい販路ができて助かっています、ありがとう」という声を直接いただけることもあるんです。そういう言葉を聞けると、やっていて良かったなと感じますね。

西尾慎祐

広木:たしかに、インターネットサービスってお客さまの姿が見えにくいから、喜んでもらっているかどうかをエンジニアが直接感じられる機会って少ないですもんね。ユニファの赤沼さんはどうですか?

赤沼:われわれは保育の現場を支えるサービスを展開していますが、『食べチョク』さんと同様、保育者さんから直接「ありがとう」と言ってもらえる機会があって、それはやりがいになっていますね。

以前、保育施設の方からお礼の動画をいただいて、全社総会で流したことがあったのですが、社内のエンジニアのモチベーションもすごく上がったと思います。誰かの課題解決に役立つサービスを開発している実感が得やすいのは、インパクトスタートアップで働く醍醐味ですよね。

奥苑:ライフイズテックは教育のフィールドで事業を展開していますが、ライフサイクルに根付いているサービスを供給しているテックカンパニーって多くないので、本気でエンジニアリングしてハックしていくのは自分たちだけだというオンリーワン感がありますね。

西尾:インパクトスタートアップがビジネスの対象にしている業界は、IT化が進んでいない領域が多いので、エンジニアが改善できることの余地が大きいですよね。

課題解決のためのソリューションを、どのようにしたらプロダクトやサービスとして落とし込めるのか考えるのは面白いです。

赤沼:分かります。われわれのサービスでいうと、保育施設のお昼寝中の事故を防ぐため、園児の体の向きを数秒間隔でセンサーが検知し、専用アプリに自動記録するプロダクトを作ったのですが、センサーデバイスを用いたIoTプロダクトになるので、技術的なワクワク感があります。

ただそれだけでなく、なかなかICT化が進んでない領域にイノベーションを起こせるのは大きな魅力です。

奥苑:社会課題の多い医療・福祉や教育・子育て、食・農業といった領域は、なかなか技術投資もされていないからこそ、マーケットも効率化されず、ビジネスも改善されない。

そこにエンジニアリングできることは技術者として面白いなと思うし、「もうかるから」という観点だけではない意思決定ができるのが、インパクトスタートアップでエンジニアとして働く面白さだと感じますね。

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社会課題の解決と利益の追求に“バランスよく”取り組む

広木:続いて、インパクトスタートアップならではの事業の良い点・つらい点というテーマでお話を聞いてみたいと思います。

奥苑:つらいと感じる部分は、正直あまりないかもしれないですね。

ただ、われわれの事業について難しいと感じるのは、「情報教育(情報に関する知識や活用の仕方についての教育)」という先進的かつ多くの人が難しいと感じている領域で、社会全体の意識改革や知識レベルの底上げをいかに実現していくか、という点ですね。

奥苑佑治

赤沼:良い点でいうと、インパクトスタートアップの領域は投資家や行政、メディアからの注目度が高まっているので、さまざまなところで支援してもらえたり、取り上げていただけたりすることですね。

それによって、僕らが事業を通して解決しようとしている社会課題そのものに皆さんの注目が集まるのもありがたいです。

あとは、政府や自治体と一緒に課題解決に取り組めるのも良い点ですね。

西尾:食やお花など一次産業を扱うサービスを行っている私たちにとって大変なのは、会社として短期間で成長が求められる一方で、一次産業の生産は栽培や収穫などの年間スケジュールがきっちり決まっている分野なのですぐに利益を出すのが難しい点です。

長期的な目線で課題解決へと導いていくことと、短期的に利益を出すこと。強いて言えば、そのバランスをとるのがつらさでしょうか。

広木:課題解決と利益、このバランスは皆さんどのように取られているのでしょうか?

赤沼:ここは難しいところですよね。インパクトスタートアップに入社する人たちって、社会貢献がしたい思いが強いんです。

ただ、その気持ちが行き過ぎてしまうと、会社の利益はいったん置いておいて、課題が山積している現場をとにかくよくしようという発想になりがちです。

広木:それだと、ボランティアみたいになっちゃいますよね。

赤沼:そうなんです。でも、僕らは事業会社ですから、しっかり利益を生み出して社員だったり、世の中のためにその利益を使って還元していくことが大事。

ですから、インパクトスタートアップで働くエンジニアには、社会課題解決への熱意と、利益を生み出すビジネス感覚、両方が必要なのかなと思いますね。

赤沼寛明

インパクトスタートアップに必要なのは、手段に固執せず目的に向かうエンジニア

広木:インパクトスタートアップで活躍できるエンジニアについて、向き不向きでいうとどんな点があげられると思いますか?

奥苑:私は子どもが2人いるのですが、自分の子どもが使う未来を想像するとプロダクトへの思いも強まりますし、細部までこだわりたくなります。

そういうふうに、「誰かのために」という考え方ができる人は、良いサービスが作れると思います。

逆に、社会課題解決のキラキラした部分にだけ目を向けている人は、入社後にギャップを感じるかもしれません。

当社の場合は教育事業ですが、この分野の課題解決においては、行政との調整業務や不具合を起こさないよう地道なエンジニアリングが必要だったり長期間にわたる研究が必要だったりと、地道で泥臭い仕事も山ほどありますから

あとは、学校って4月始まりで年間スケジュールが決まっているので、ウォーターフォールできっちりスケジュールを組んでプロジェクトを進めていく必要があって、自由に進めづらい側面がありますね。

広木:たしかに、年度のサイクルがあるとスケジュールもシビアですし、何でもかんでもアジャイルにはしづらいですよね。

奥苑:おっしゃる通りです。コンシューマー事業みたいに、気楽に検証してアジャイルでまわすというのはなかなか難しい。

赤沼:当社も保育現場向けのサービスということもあって、ライフイズテックさんと共通点は多いです。年度サイクルによってプロダクトの導入は4月が多いので、3月末までにはリリースしておかなければいけません。

広木:メンバーから、「アジャイルでやりたいです」という声が上がったりはしませんか?

赤沼:過去にはありましたね。ただ、プロダクトの内容的にマッチするならいいんですけど、デッドラインまで見通しやすいウォーターフォールの方がやっぱり合うんですよね。

そういう意味では、「どういう手段やプロセスをとるか」にこだわる人はインパクトスタートアップにあまり向かないかもしれないです。

われわれにとって大切なのは、あくまで「どんな価値を届けられるか」なので、目的達成に対して最適であれば、アナログだったり泥臭い手段だったりする場合もそれを採用する判断になりますから。

広木:保育者さんに「これスクラムで作ったんです」って言っても仕方ないですからね(笑)

広木大地

赤沼:そうなんですよ。保育現場の方々に喜んでもらえるか、かつビジネスとしても成り立つかというところを考えなければいけないので、手段を問わずやれることをやっていきたいエンジニアには向いていると思います。

西尾:あとは何より、難しい課題の解決にやりがいを感じるエンジニアには向いているはず。

逆に、エンジニアリングだけに興味があって突き詰めたい人は、ちょっと違うなと思いますね。

先ほどの赤沼さんのお話とも重なりますが、技術を極めるよりも、課題解決のための手段として技術をどう使うかに関心がある人の方がインパクトスタートアップには合うと感じます。

広木:業務で生かせる技術を手に入れて、社会にインパクトを残したい人こそが、インパクトスタートアップで活躍できるエンジニアということですね。

三社の今後の成長が楽しみです。皆さん、今日はありがとうございました。

文/光谷麻里(編集部)

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