製造に携わる派遣エンジニアに確かなキャリアを。現場を横断しながら成長できる“両利き人材”になるための秘訣
「私たちのような主に製造業をクライアントとする人材派遣会社では、企業が求めるスキルセットにマッチする人材を派遣することがこれまでのミッションでした。しかし最近では、企業に求められるスキルを持った派遣人材を、いかにして育成するのかにシフトしているんです」
そう語るのはUTグループの代表である若山陽一氏だ。1月17日、同社が行ったエンジニアの育成施設『UTACC』(ユータック/UT Advanced Career Center)の開設発表会には、キャリア開発部門部門長の桑原壽己氏、センター長の岩田道広氏が登壇し、今の人材派遣業界においての課題を説いた。そして、シーメンス専務の島田太郎氏は日本の製造業の将来について独自の見解を語った。
製造業の高度化で派遣ニーズは「労働」から「高い技術力」へ
人材派遣会社がエンジニア育成をするようになった背景について、桑原氏は説明する。
「日本の製造業はここ20年で一気に高度化したため、これまで『労働力』を期待されていた派遣エンジニアには、『高い技術』が求められるようになりました。現在、企業側が求めるスキルを満たす派遣エンジニアは市場にほとんどいません。そのため一部の高いスキルを持った派遣エンジニアには好待遇が用意され、月ベースでの単価は何十円ずつか上昇しています」(桑原氏)
若山氏によると、高いスキルを持った派遣エンジニアが少ないのには、“派遣”ならではの働き方が関係しているという。
「まず派遣で働こうとする場合、入社時期がバラバラでまとまった研修を受けることができません。そして常駐先が転々とし、その都度求められる技術が異なるため、ひとつの技術を深く追求できない。そして派遣社員の多くが正社員ではなく契約社員での雇用なので、スキルが成熟しきる前に転職してしまうんです」(若山氏)
インダストリー4.0が変える派遣エンジニアのキャリアビジョン
派遣エンジニアでも中長期的なキャリア形成ができるよう、厚生労働省は平成27年に「派遣社員のキャリアアップ支援に関する法案」を提出した。法案の中では、派遣で働く人たちが安定して仕事に就くため、人材派遣会社による新たな派遣先の提供が義務付けられたり、派遣元が派遣労働者に対してスキルアップ措置を行うことが施策として発表されている。
シーメンスの島田氏は、上記の法案に加えて第四次産業革命とも言われているインダストリー4.0を積極的に取り入れることが、派遣エンジニアのキャリア形成の後押しに繋がると力説した。
「近年、製造業をIT化して生産性を高めようとする“インダストリー4.0”の動きがドイツを中心に広がっています。この動きが定着してくれば、今まで単調な作業に手を追われていた派遣エンジニアたちは、より上流の工程を経験することができ、専門的なスキルを身に付けていくことが可能になるんです」(島田氏)
さらにインダストリー4.0による恩恵は、派遣エンジニアを受け入れる企業側にも及ぶ。IT化が進み生産性が上がると、顧客の好みに合わせた製品をいち早く、なおかつミニマムコストで提供することが可能となり、企業の競争力の強化に繋がる。こうした変化が製造業全体の生産性を向上させ、業界の活性化に結びつくという。
それでは、国によるキャリアアップ支援とインダストリー4.0が普及した後、派遣エンジニアたちにはどのような働き方が求められるのだろうか。
流動的な現場を渡り歩くために必要なものとは?
島田氏によると、身に付けた専門スキルを横断的に活用できるかどうかが、製造業界における派遣エンジニアのキャリア形成の鍵だという。
「ドイツでは労働市場革命が起こり、さまざまな製造業が立ち上がる中で、労働者たちは現場を転々としながらモノづくりに携わってきました。そして彼らは異なる現場で身に付けた知識や技術を掛け合わせて新しいものを生み出したんです。
今の日本で言うなら、エキスパートシステムに対する知識とビッグデータに関する知見を組み合わせ、AI技術の開発に活かすようなものですね。異なる知識を融合できる“両利き人材”になることができれば、“派遣”という働き方の流動性を活かしながら、エンジニアとして中長期的なキャリア形成が可能になることでしょう」(島田氏)
製造業を取り巻く環境がめまぐるしく変化している中、UTグループがUTACCを通し目指すエンジニアはこれまでの「不安定な働き方」「短期的なもの」というマイナスイメージを払拭しようとしている。IT化技術の発展が加速している今、島田氏の語る“両利き人材”こそが、今後の製造業の中心を担っていくことになるかもしれない。
取材・文/羽田智行(編集部)
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