人生やり直すならスタートアップ?それともSIer?急成長スタートアップ6社のCTOが語るエンジニアキャリア論
スタートアップ企業のCTOといえば、ベンチャーで働くITエンジニアにとってのキャリアの一つの頂点だ。
しかし、成長著しい各社の開発トップといえども、そのポジションに就くまでには十人十色、紆余曲折のキャリアを積み重ねている。最初に就職した企業がスタートアップだったという例はむしろ稀で、SIerや大手企業を経て転職・起業しているケースの方が圧倒的に多い。
では、もしも今、何のしがらみもなく自身のキャリアをやり直せるとしたら、各社のCTOはどのような道を選ぶのだろうか。いきなりスタートアップで勝負するのか、はたまた再び大手からキャリアをスタートさせるのか。
注目のスタートアップ6社が合同で開催した、若手エンジニアのキャリアパスを考えるイベント『Developers carrer event』(1月21日、スターフェスティバル株式会社)内のパネルディスカッションでは、各社のCTOに向けて、実際に上記のような質問が投げかけられた。
《登壇者》
■カタリズム株式会社 取締役執行役員CTO 江部隼矢氏
■スターフェスティバル株式会社 CTO 加藤彰宏氏
■トークノート株式会社 開発責任者 藤井拓也氏
■株式会社nanapi 取締役CTO 和田修一氏
■株式会社ヒトメディア DeputyCTO 井村元宗氏
■BASE株式会社 取締役CTO 藤川真一氏
《モデレーター》
■株式会社クラウドワークス 執行役員CTO 大場光一郎氏
以下では、その模様をダイジェストでご紹介しよう。
柔軟な開発スタイルは、SIerで学んだ基礎があってこそ
この日登壇した6人のCTOのうち、実に半数以上の4人がSIerの経験者。しかし、冒頭の質問に対して「再びSIerに行くことを選ぶ」と明言したのは、カタリズムの江部氏だけだった。
新卒でITコンサルティング会社に就職し、大手企業向けのサービス開発に携わってきた江部氏は、次第に「お客さんのシステムを作るよりも、自分でサービスを作りたい」との思いを強くするようになり、2012年に退職してカタリズムに参画した。
「要件定義して仕様を固めて、それに基づいて作るウオーターフォール的な動きは肌に合わないと感じていた」とも話したように、自身の経歴や発言から、SIerでキャリアをスタートさせることに対して否定的な立場のようにも映った。
にもかかわらず「ゼロからキャリアを築くのであれば、再びSIerから始めるのも悪くない」と話すのは、そこで学んだことが、現在のカタリズムでの開発スタイルの礎となっているからだという。
「工程管理や開発の流れが一番よく見えたのは、前職にいた時。スタートアップに移ってから、柔軟に開発スタイルを崩すことができたのも、SIプロジェクトでしっかり学んだベースがあったからこそだと思っています」(江部氏)
一方、自身はSIer経験組でありながら、スターフェスティバルの加藤氏は、今の時代であればSIerを経由する必要はないと主張する。
「SIer時代にプログラミングやプロジェクト運営の基礎を築けたことは確かに良かったです。が、今であれば学校でもプログラミングは学べますから」(加藤氏)
楽天時代には、自分が良いと信じるサービスをなかなか作らせてもらえずに歯がゆい経験をしたという加藤氏は、自由にサービスを作れる環境を求めて、開発トップとしてスターフェスティバルにジョインした。
「いまや一つのアプリを1から10まで作れる時代ではありますが、そうは言っても、大企業ではそうしたアプリ自体が大きな歯車の一つでしかない。全体を見られるという意味でも、スタートアップの方がいいと思っています」(加藤氏)
スタートアップでしか見れない「景色」がある
nanapiの和田氏も、若いうちからスタートアップで働くことを支持する。しかしその理由は、エンジニアリングスキルの話にとどまらない。
「エンジニアリングのスキルは年を取ってからでもある程度身に付くんです。でも、働き方のスタンスについては、20代でついた癖は抜けないもの。大企業にいると自分でも気付かないうちに、誰かが設計した仕事をこなすスタンスになってしまいがちなんです。根本的な課題が転がっており、一通りのことを経験できるスタートアップに身を置いた方が成長できると思います」(和田氏)
2009年に共同創業者としてnanapiを立ち上げ、資本金60万円から現在の規模に成長するまでの一部始終を経験してきた和田氏だからこそ、その言葉には重みがある。
「代表も自分も会社経営を最初から分かっていたわけではありません。VCとの交渉だったり、取締役とはどういうものかということを一つ一つ整理していきながら、会社の成長とともに成長できました。nanapiの創業から現在に至るまでの歩みをすべて経験できたことが今に活きていますね」(和田氏)
もともとは小説家志望、そこからSIerを経て現職に至るという異色の経歴を持つトークノートの藤井氏も、スタートアップだからこそ得られる経験を重く見る。
「SIerは、少なくとも僕が在籍していたころは『作って納品したら終わり』でしたが、スタートアップはそこからサービスを回した上で、利用者からフィードバックを受けて改善し、さらにそれをお金にしないといけない。自分自身もスタートアップに入って、エンジニアとしての働き方、考え方が大きく変わりました」(藤井氏)
小説家になるのをあきらめたわけではないとしながらも、現在は「違う形で物語を書きたい」と話す藤井氏。それがすなわち、スタートアップで働くということだ。
「人間を形作るのは、出会った人と通り過ぎた景色。スタートアップであれば、ジェットコースターみたいにいろんな景色に囲まれますよ」(藤井氏)
最大の焦点は、誰がどの業界を最先端で変えていくか
若いうちに積む経験を重視している点は和田氏、藤井氏とも共通するが、必ずしも大企業かスタートアップかという問題ではないというのが、ヒトメディア井村氏の立場だ。
29歳でエンジニアにキャリアチェンジしたという井村氏にとって、やりたいことを実現する上では、「いかに自分をデキそうに見せるかが大事だった」と振り返る。
「これできる? と聞かれた時には『できます』と答えた後で、必死に調べるということをひたすら繰り返してきた。その経験が今につながっています」(井村氏)
次々に直面する難題一つ一つに向き合い、克服してきたからこそ、現在の地位があるということ。その観点から今転職するのであれば、導き出される答えは、「ある程度トラフィックのあるサービスを運用している企業であること。毎日ドタバタしているようなところがいい。そうでないとできない経験がたくさんありますから」と語る。
そしてBASEの藤川氏は、あらためて「インターネットの今」を説く。
「製造業、働き方、商取引……インターネットがようやくリアルな社会に対して影響を及ぼすことができる時代になった今、どの業界の最先端を誰が変えていくかという話だと思っています。UberやAirbnbなど世界中で軋轢がすごく起きているのはその表れで、こういった動きは誰かがやらないと変わっていかないし、やると変わっていくものです」
そういった役割を担えるのであれば、スタートアップだろうと大手SIerだろうと変わらないというのが、藤川氏の答えだ。
問われているのは「働き方のスタンス」
CTOになった経緯を問われたカタリズム江部氏が「エンジニアがまだ少なかったので、“消去法”で決まりました」と答えて笑いを誘っていたが、実際、他の登壇者を含めても自ら望んでCTOになったという人は少数派。続けて行われた若手エンジニアのパネルトーク登壇者も話していたように、「目の前の課題に全力で向き合ってきた結果」として、現在のキャリアがあるということだろう。
問われているのは「働き方のスタンス」であって、問題の本質は「スタートアップかSIerか」の二元論にはない。そのことにいち早く気付き、追求し続けられるかが、キャリアの今後を決めるといえるのかもしれない。
創業間もないスタートアップで新卒採用を行っている例はいまだそう多くはないが、「その気になれば、いくらでも直接CTOに会える時代」(加藤氏)だ。実際、中途採用しか行っていないnanapiでも、紛れ込んだ新卒生が採用されたケースが過去にあるといい、働き出すより以前に「スタンス」が問われ始めているともいえる。
取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)
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