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レンタルEM・久松 剛が生まれるまでの軌跡【聴くエンジニアtype Vol.41】

働き方

エンジニアtypeが運営する音声コンテンツ『聴くエンジニアtype』の内容を書き起こし! さまざまな領域で活躍するエンジニアやCTO、テクノロジーに関わる人々へのインタビューを通じて、エンジニアとして成長していくための秘訣を探っていきます。
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今回からのゲストは、自らを「レンタルEM」「流しのEM」と語り、数々の企業やチームを救ってきた久松剛さん。

「当初は大学教員を目指していた」と話す久松さんがどのようにして現在の立ち位置に至ったのか。

決して順風満帆とは言い難い、そのキャリアの軌跡を紐解いた。

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【ゲスト】
博士(慶應SFC、IT)/合同会社エンジニアリングマネージメント 社長
久松 剛さん(@makaibito⁠⁠⁠

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、LIGに参画。プロジェクトマネージャー、フィリピン開発拠点エンジニアリングマネージャー、T&O(Talent & Organization、組織改善)コンサルタント、アカウントマネージャーなどを担当した後、22年2月より独立。レンタルEMとして複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる

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【MC】
エムスリー株式会社 VPoE
河合俊典(ばんくし)さん(@vaaaaanquish

Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている

大学の研究室時代の事業仕分けで痛感した“需要”の重要性

ばんくし:エンジニアであればnoteやSNSで見ない日はないと言っても過言ではない、久松剛さんにゲストに来ていただきました。まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

久松:学生時代は大学教員になるつもりで、慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学しまして、その後、インターネットの父と呼ばれている村井純先生のもとに学部1年生の夏から弟子入りしたんです。そこから動画転送やP2Pなどの基礎研究にこってりと従事していました。

当時の村井研究室は後期博士課程の単位取得が平均7年かかるようなところで、私も取得したころには30歳になっていました。

しかしそのタイミングでリーマンショックや東日本大震災が次から次へと訪れ、研究室に国から与えられていた予算がまったくなくなってしまったんです。ある日、先生に「君のポジションは無期限延期になった」と言われ、突如高学歴ワーキングプアになりました。

聴くエンジニアtype

その後、アルバイトJavaプログラマー期間を経てネットマーケティングに入社。インフラエンジニアとして経験を積んで、情シスの部長をやったり、上場の準備をやったりしました。入社翌月からはエンジニア採用も手伝うようになっていました。

当時は一般的ではなかったカジュアル面談を積極的に行っていたら、「面白いことをやっているやつがいる」とレバレジーズの方が面白がってくれたんです。そこから、レバレジーズの開発部長兼キャリアアドバイザーの教育担当をするようになりました。

その後はLIGでオフショアのマネジメント業務をやったり、プロジェクトマネージャーやアカウントマネージャーをやったり……と雪だるま式に業務が増えていって。「これだけの業務ができるなら一人で会社できるのでは?」と思って独立したのが2022年2月ですね。

今は「レンタルEM」として約10社のエンジニアリングマネジャー業務や採用のお手伝い、中間管理職の育成、評価制度の構築などいろいろとやってます。

ばんくし:質問したいことがありすぎるのですが……そもそも久松さんが教員志望だったとは初耳でした。そこからのキャリアの変遷がすごいですね。

久松:大学から研究室時代の経験で言うと、研究室のメンバー募集をやっていたことは今につながっているかもしれないです。

僕が研究室に入った当初は「インターネットの父のもとで学びたい」という人が絶えず来る状態だったのですが、2000年代後半にインターネットが一般化するころにはプログラマやデジタルクリエイティブの人気が高まって行きました。インターネットインフラの研究開発の志望者が減ってきたんですね。「これはまずい」と思い、会社説明会ならぬ研究室説明会のようなものを独自にやっていたんです。これが今やっている「採用」の原体験ですね。

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ばんくし:当時から「人に伝える」ということが好きだったのですね。

久松:研究室に対して思い入れがありましたし、TA(ティーチングアシスタント)として村井先生の代わりに登壇することもよくありましたからね。

ばんくし:聴くエンジニアtypeの視聴者の中には村井先生を知らない世代もいるかもしれませんが、私もヤフーにいたときに研究所の顧問をやっていただいていた関係で講演を聞いたことがあって。かなりクレイジーだと感じたと同時に、日本のインターネットを支えた先生なんだなと思いました。

久松:村井先生のプレゼンには学ぶところが多いし、マネできない域に達してますよね。

ばんくし:久松さんからは「村井先生のもとで育った方だな」という感じがひしひしとしますが(笑)。久松さんがキャリアの中で一番きつかったのはいつですか?

久松:一番は、在学中にあった事業仕分けですね。

事業仕分けとは、旧民主党が導入した、特定の事業に対して必要か否かを審議する予算編成作業のことなのですが、研究費の補助金も事業仕分けの対象になり、予算がどんどん減ってしまったんです。

それにより、それまでは「研究者が必要だと思う研究」に予算がついていた状態から、「国民の生活につながったり、需要が示せるものを作らなければならない」という状態に変わっていきました。

ばんくし:それまでとはやることがガラッと変わったんですね。

久松:事業仕分けの後は、小さい備品一つを買うにも、それがどう役に立つのかをいちいち言語化しないといけなくなったんですよ。否が応にも「需要」を意識せざるを得なかったですし、需要を語れない研究テーマは諦めなければいけませんでした。

キャリア的な挫折や金銭面でも恨めしいところはありますが、ものすごくポジティブに捉えると、その時の経験はプロダクトマネジャーやプロダクトオーナーと話す上でだいぶ役立っていると思います。「需要があるか」という考え方はエンジニアのキャリアだけでは気付けなかったポイントだと思うので。

ばんくし:「事業仕分け」という自分ではどうにもできない大きな流れによって、ストレスを感じたわけですね。

久松:そうですね。それによって研究テーマを変える必要もありましたから。論文でいうところのアブストラクトもだいぶ意識するようになりましたし。

事業仕分けの前と後で、レポートの書き方からプレゼンの仕方まですべてを変えないといけませんでした。国民の何につながっているのかをしっかりと説明しなければならなくなったのです。物品を買う際にもそれが何に使われ、どう研究に貢献するものかを明言しなければなりません。プロダクトマーケットフィットまではいかずとも、近しいところが要求されたという意味では斬新なストレスでしたね。

ばんくし:会社の方針がいきなり変わったり、エンジニアが作りたいものが作れるわけではなかったりするのは、民間の企業だと日常ですよね。

久松:そうなんです。エンジニアや創業者が作りたいものを作ったとしても、必ずしも売れるわけじゃないですからね。需要を後付けするのは非常に苦しいものです。そういう意味では「マーケットに需要がどれくらいあるか」「需要に対してどうアプローチしていくか」を考える練習にはなりました。

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エンジニアの「事業共感」はどう促す?

ばんくし:「エンジニアが作りたいもの」と「プロダクトマーケットフィット」のバランスって難しいですよね。

久松:そうですね。ただ、「売上にどれだけ貢献できるか」という視点は採用においてもかなり求められてきているのを感じます。

去年までエンジニアは売り手市場で、給与や待遇がどんどん釣りあがっている印象でしたが、今は厳選採用が増えているんですよ。業界理解や事業理解なども求められるようになり、「エンジニアファースト」も死語になりました。特にシニア層の採用やコンサル界隈では、ビジネス志向以上に顧客開拓や深耕など売上を意識した営業的な視点を持っている人が求められる傾向があります。

ばんくし:ビジネス要素が大事なのは分かるものの、そればかりになってしまうとエンジニアとしての成長が妨げられることも多いじゃないですか。そのあたり、久松さんはどうアドバイスしているんですか?

久松:正直、エンジニアに「売上に対して分かりやすいバリューを出せ」と言っても難しいと思うんです。それを要求できるのは年収1,000万円レベルのシニア層ですね。

ただ、エンジニアも事業共感みたいな意識は持つべきですし、そのための社内施策は必要だと考えています。

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例えば、私が業務委託でEMをしていたSaaS企業では、エンジニアの事業共感に課題がありました。

そこで営業のトップやCSのマネジャーを呼んで、お客さんがどういうところに課題を感じていて、自社サービスをどう使っているのか、どういう機能があると売りやすいのかという観点で定期的な勉強会を開催しました。開発部門と他部門の交流も図りながら盛り上げていったところ、とても効果的でした。

ちなみに、最近はSES企業でも採用で「事業共感」が求められるようになってきているんですよ。SESって客先で働くスタイルなので、「事業共感とは……?」って思いますよね。その部分を人事から深堀りして言語化したら、要は「顧客理解」と「顧客貢献」だったんです。つまり、「フルリモートが良い」「フルフレックスが良い」などというような権利を主張する利己的な姿勢ではなく、利他的な姿勢が重要ということだな、と理解しています。

次回も久松剛さんをお迎えし、お話を伺います。お楽しみに!

文/赤池沙希

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