【萩本順三と放談90min】「業界不振と心中しないSEになるため、『3つの際(きわ)』を行き来せよ」
「凡庸なSE」から「優れたSE」になるカギは“見せる技術”にある
ござ先輩 先ほども話に出ましたが、エンジニア目線でいうと、自分の技術やシステムで成し遂げようとしていることを他人に伝えるのってなかなか難しいものですよね。萩本さんはどうやってその能力を高めてこられたんですか?
萩本 うーん、それについては、本質を見極める努力をするしかないんだと思います。
ござ先輩 萩本さんの考える「本質」って何なんですか?
萩本 難しいですね。過去の経験で言うと、僕が初めてオブジェクト指向を知ったころは、どうやってその理想を現実の価値に変えていくべきか、大いに悩みました。理想と現実の間には、大きな壁が立ちはだかっていましたから。でも、そこであきらめたら終わってしまいます。
ござ先輩 わたしも、「技術屋はプログラムを書くことに喜びを感じる」というのはすごく分かるんです。でも、常々感じるのは、それだけで踏みとどまってしまう人の多さ。自分の書いたプログラムが、世の中に出てどうビジネスに活用されているのかも分かった方が、よりいっそうやりがいを感じると思うんですが、実際はこの部分に関心が薄い人が多いですね。
萩本 あー、面白い指摘ですね。僕は理論と実践のギャップを話しましたが、ござ先輩は、技術と価値の話をされました。理論と実践をつなげるのが「技術を広げる」という意味での課題であり、その技術は何らかの価値を高めるための技術でなければならないですよね。
ござ先輩 はい。
萩本 この「価値が高まる」ということをユーザーに実感してもらうためには、エンジニアが価値を説明する能力、つまり“見せる技術”が必要なんだと思います。
ござ先輩 “見せる技術”とは?
萩本 自分の中の「身になっている技術」を、ユーザーが理解できる言葉で、その価値を説明したり、言葉化することです。あるいは、一般的な技術用語に、自分の身になっている技術をつなげることです。ところが、エンジニアの多くは、「身になっている技術」がたくさんあっても、“見せる技術”に転換できていない。最近のSEに“見せる技術”が足りないのは、ござ先輩がおっしゃったことと関係しているんだと思います。
ござ先輩 世界をつくり上げているのは、プログラム言語じゃなくて自然言語だということを忘れちゃいけませんよね。エンジニアがお客さんの語彙を理解し、お客さんの語彙で話せるということは、開発言語にこだわる以上に大事なポイントなのかも知れないですね。
萩本 えぇ。言葉の問題はとても大きいですが、実はそれと同じくらい大事なポイントが、ほかにもあるんですよ。
潜在ニーズを探るには、「Howの手探り」「Howからの突き上げ」が大切
ござ先輩 それは何なんでしょうか?
萩本 そもそも人間が将来を見据えた戦略を立てる時の「戦略」とは何か、ということです。これを単純化して言うと、何をしたいか、何をすべきかという「What」なのです。そして、このWhatとは、これまで人類が経験を積み重ねる中で得てきた「できていること(How)」の勝ち組が、概念化されてWhat(○○が欲しい、××をしたい)になっていると思いませんか?
ござ先輩 あー、確かに。
萩本 ですから、「Howの勝ち組」が概念化されたWhatを、時に疑うことも必要なんです。それを僕は、「Howの手探り」って言っています。
ござ先輩 なるほど。
萩本 が、単に手探りをしているだけでは、画面デザインや帳票のレイアウトが変わる程度の改善に収まってしまいがちです。もし、もっと大きなイノベーションを起こそうとするなら、「Howからの突き上げ」も大事にしないといけない。
ござ先輩 どういうことでしょう? 詳しく聞かせてください。
萩本 さきほど挙げた「身になっている技術」としての「How」を使って、自分たちのやりたいことにつなげていく考え方です。もっと分かりやすく言うと、よく経営者が「もっと顧客ニーズを大切にしよう」なんて言いますが、お客さんが感じているニーズがすべてかというと、そんなことはありませんよね。
ござ先輩 「何がニーズなのか」なんて、真剣に考えていないお客さんも多いですしね。
萩本 そうなんです。すでに見えているニーズを追いかけるより、実はシーズ、つまり「ニーズの種」からニーズをプロモーションしたり、ブランディングしたりして生み出すことの方が、お客さんに大きなインパクトを与えることができるんです。自分の仕事がどうお客さんに役立つのか、またどんなシチュエーションならそれが可能なのかを、作り手であるエンジニアがお客さんに伝えて、初めて理解されるニーズが生まれる。
ござ先輩 そうですよね。
萩本 これは、ファッションブランドやクルマの世界ではよく用いる手法だと思うのです。ファッションやクルマの最新デザインは、必ずしも「今、顧客が望んでいるもの」にはなっていないじゃないですか。新たに創造されたものを、いつの間にか顧客が好んでいるのです。
ござ先輩 確かに。
萩本 このような社会に大きくかかわる総合的な心理状態は、ある意味、そこに存在しているものではなく、新たに創造されているのです。
Whatの正しさを知るために、他人目線で自分の考えを叩いてもらう
萩本 じゃあなぜ、ITという見えない世界を作り出しているわれわれが、シーズからニーズをプロモーションしたり、ブランディングしたりできないのでしょうか? それは、シーズからニーズを生むという意識がまだ足りないからで、その辺りは、ほかの業界から学ぶことが多いと僕は思います。
ござ先輩 とても本質的な示唆ですね、それは。
萩本 よく、SEにこういう話をすると、「それは企画担当がやることでしょう?」と言う人がいるんですね。でも、「Howの手探り」ができるのは誰か? 「Howからの突き上げ」ができるのは誰なのか? と考えてほしいのです。それは、システム構築における「How」を一番よく知っているはずのSEが一番ふさわしい。
ござ先輩 顕在化しているニーズを拾うだけでは、エンジニアはただの「御用聞き」になってしまいますからね。
萩本 そうなんです。だから、自分で生み出したものや進もうとしている道が、正しいかどうかを知りたければ、まずは他人目線で自分の考えを叩いてみることです。自分から常に産み出すことを念頭におくことが、SEとして生き残る上で大きな力になると思います。
ござ先輩 それ、僕がブログを書く時の考え方にも似ている気がしました。ブログを書き続ける上で大切なのは、自分の言葉で表現することです。誰かが言った言葉をそのまま鵜呑みにしない。そこから自分なりの見解を表明して、それを公開する勇気を持つことです。当然反論されることも多いですが、他人目線で自分の考えを叩いてもらえるという経験は非常に勉強になっています。何も考えず、何も語らないより、はるかに良いことだと思うんですが、いかがですか?
萩本 同意です。価値を生み出すには、目に見えやすい「How」と、必ずしも見えているとは限らない「What」との間を行ったり来たりしながら、落としどころを見つけることが欠かせません。その一歩として、自分の頭で考えることを表明してみるのは効果的だと思います。
次のページ:SEの本質的な仕事は、仮想世界をカタチにすること
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