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【萩本順三と放談90min】「業界不振と心中しないSEになるため、『3つの際(きわ)』を行き来せよ」

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    萩本順三と放談90min「業界不振と心中しないSEになるため、『3つの際(きわ)』を行き来せよ」

    「SEの本質的な仕事は、仮想世界をカタチにすること」(萩本)

    【3つ目の際】  「抽象化」と「具体化」

    萩本 なぜなら、SEの本質的な仕事って、ごちゃごちゃした仮想世界をカタチにすることなのです。もっと具体的に言うと、システムとして創り上げること。これを、「コンピュータシステムとして創り上げる」という考えから「人間系も含むシステムとして創り上げる」と置き換えることさえできれば、10年、20年経ってもお客さんに価値を提供し続けられるエンジニアになれるでしょう。というか、ITという業種が、最先端を走れる業種として今後も重宝がられる。

    ござ先輩 「仮想世界を人間系も含むシステムとして創り上げる」とは、面白い表現ですね。システムを作るのが人間である以上、新たなシステムを構築する際には、どのように人間が判断を行い、動いてもらえればシステムもユーザーもベストなのかを良く吟味する必要がありますよね。そのためには、もしそのシステムが業務系であれば、作り手であるエンジニア自身がその実業務を体験してみるのが一番ですよ。

    萩本 おっしゃる通りです。

    ござ先輩 ごちゃごちゃした現実をそのまま形にすると、えらいことになりますから(笑)。

    萩本 人間系のシステムが確立できない限り、コンピュータシステムを作る意味が薄れるんですよね。業務的に間違っているものを「正しい要求」と認識したまま作っても、意味がありませんから。でも、それがこの業界では日常茶飯事に起こっている。

    ござ先輩 ホントそうですよね。

    萩本 ですから、システムをきちんと”カタチ化”できるエンジニアは、人間系のシステムも含めてカタチ化できる潜在能力を持っているものなのです。あとは、それにチャレンジする勇気があるか(笑)。

    ござ先輩 (笑)

    複雑さを整理する際に意識したい、「5つのレイヤー」の上下動

    萩本氏が対談中に手書きした、システム構築時に必要となる思考法の図。左上にあるのが、重視すべき5つのレイヤーだ

    萩本氏が対談中に手書きした、システム構築時に必要となる思考法の図。左上にあるのが、重視すべき5つのレイヤーだ

    萩本 ところで、本質を見る目を養うという意味で、僕は昔から実践していることがあります。それは、以前共著で出した『最新オブジェクト指向技術 応用実践』にも書きましたが、物事を複数のレイヤーでとらえること。抽象化の最上位が「理念」だとすると、その下に「目的」、「コンセプト」、「メカニズム」というレイヤーがある。そして、抽象化の一番下にあるのが「実体」レイヤーです。

    ござ先輩 つまり、5つのレイヤーがあるということですね。

    萩本 そうです。経験が浅いと、具体的な事象にばかりとらわれてしまい、5つのうち「実体」のレイヤーしか見ていないこともあります。つまり、現実世界のいろんな事象を引き起こすメカニズムとかコンセプト、さらに目的を見ないかぎり、本当に起こっていることが分からず、表面的な事象に流されてしまうのです。

    ござ先輩 若い時は「実体」にとらわれがちでしたよ、僕も。

    萩本 でも、「この開発コンセプトは理念に即しているか」、「これからやろうとしていることは本来の目的に反していないか」という風に、頭の中で自由にレイヤーを上下動してみることで、新発見に出会えるかも知れない。それに、理念が変われば目的も実体も大きく変わるということも理解できるようになります。

    ござ先輩 頭の訓練が必要ですね、その上下動ができるようになるには。

    萩本 はい。でも、それができさえすれば、前半に申し上げた「複雑な事象をシンプルに説明する力」も磨かれてくるんだと思います。

    ござ先輩 なるべく伝わりやすいように、短い言葉で端的に表現するって大事なことですね。僕の場合は、説明になるべく「例え話」を加えるようにしています。

    萩本 それは良い方法ですね。言葉も一つの価値だということですよ。ビジョンや理念が方向性を示すように、人間がある概念を理解する時には、やはり言葉を必要としますから。時に言葉を発明することも必要でしょうね。さっき例に挙げた「シーズからニーズをプロモーションする」という言葉も、僕たちが発明したものです。

    ござ先輩 そうなんですか。

    萩本 もう一つ、「守・破・離」って言葉がありますよね。これも、わたしが大事にしている言葉なんですが、「守」っていうのはいわゆる知識で、「破」はその知識を実践へとつなぐステップアップのこと。そして「離」は、かつての理論が通用しない状況に遭遇した時、自分なりの対処をその場で創造することではないかと思うんです。

    アジャイル開発は、「守」と「破」があって初めて実践できる

    萩本 僕はどちらかというと理論派なので、机上でプランを考えるのが得意ですが、今はそんな常識から離れるため、お客さんと同じ場の空気を共有しながらプランを考えたりすることもあるんですよ。万全な準備をしなければならない場合もありますが、時に手ぶらに近い状態で伺った方が良い結果になることもある。

    本質的な指摘をする「業界の大先輩」萩本氏の話に、強く同意するござ先輩

    本質的な指摘をする「業界の大先輩」萩本氏の話に、強く同意するござ先輩

    ござ先輩 そういうものですか。

    萩本 例えば論理的な議論が通用しない経営者に接する時もそうです。何が響くか分からないので、シナリオ通りに物事を進めようという考え自体が甘いということになる。これは、常識からは逸脱していますが、リアルな世界でプランをダイナミックに構築するという感覚は、ある種のアジャイル的な感覚に近いかも知れませんね。

    ござ先輩 それができるようになるには、何が必要なんでしょう。

    萩本 大前提として、自分なりに「守」と「離」が確立できているからこそ、できることだと思います。つまり、このようなやり方やアジャイルは、少なくともその場の状況や空気に合わせて短時間でプランを組み立てる能力を持っておく必要があるのだと思います。

    ござ先輩 でも、その場その場の状況に対処しながら、アドホックにものづくりをするのって、一番難しいことですよね。

    萩本 だから、挑戦するのが面白いんですよ。ときどき、時間をかけてプランニングしている社員を見つけると「一回それを捨てると新しい世界が見えるよ」なんて言うんですが、言われた社員は「何言ってるんですか! 僕は萩本さんじゃないんです」と返してきます(笑)。でも、「守」と「離」を経験した皆さんには、ぜひ、その世界を目指してほしいんですよね。

    ござ先輩 ということは、考えるクセ付けをする意味でも、エンジニアは仕事を通じて見つけたちょっとした疑問を、流さないで大事にした方が良いのかも知れませんね。僕は忘れないようにブログに書くようにしていますが。

    萩本 今の文脈で考えても、ござ先輩がブログを書き連ねてきた行為は良い試みなんだと思います。小さな疑問から本質にたどり着くこともありますから。僕は、そもそも遅咲きの落ちこぼれエンジニアでしたから、結果的に物事を考えられる時間が持てました。だから、今はあまり評価されていないエンジニアを、もっと勇気付けたいんですよ。もっともっと戦略的に物事を考えることができれば、きっと道は拓けるって。

    ござ先輩 それは心強いお言葉。今日は長い時間お話いただき、ありがとうございました!

    対談を終えて記念撮影。硬派なテーマの対談だったが終了後はなごやかな雰囲気に

    対談を終えて記念撮影。硬派なテーマの対談だったが終了後はなごやかな雰囲気に

    取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小林 正

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