【川邊さんがXで投稿した「不機嫌な上司4選」】
1.リーダーの重要な条件に「いつも機嫌が良い」という事がある旨を、平時から伝えておく
2.勇気を出して不機嫌の原因を聞いてみる
3.不機嫌な奴は上司失格!部下に気を使わせるな!上司が部下を気遣え!と川邊が言ってたと常日頃から伝えておく
4.早速この投稿をリポストして牽制
ソフト老害、フキハラ(不機嫌ハラスメント)、上司ガチャ……ーー
このところ、SNSやマスメディアで取り上げられることが多くなったキーワードの数々。周囲に対して不機嫌な態度をとる管理職やマネジャーへの風当たりは、時代を経るごとに強くなっている。管理職になったばかりの人や部下とのコミュニケーションにギャップを感じているマネジャーにとっては、決して他人事ではない。
そんな中、LINEヤフー代表取締役会長の川邊 健太郎さんとさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕さんが、相次いでマネジメントに関する考えをXに投稿して注目を集めている。
不機嫌な上司対策4選
①リーダーの重要な条件に「いつも機嫌が良い」という事がある旨を、平時から伝えておく
②勇気を出して不機嫌の原因を聞いてみる
③不機嫌な奴は上司失格!部下に気を使わせるな!上司が部下を気遣え!と川邊が言ってたと常日頃から伝えておく
④早速この投稿をリポストして牽制…— 川邊健太郎 (@dennotai) April 21, 2024
新卒の人など、報連相(報告・連絡・相談)をちゃんとせよと言われると思いますが、元々の原著での話は報連相のしやすい環境を、経営者や上司が作らないといけないという話です。いつの間にか部下・社員の義務にされているけど、本来は上司・経営者の義務なんですよね。https://t.co/EdBClOFyDZ
— 田中邦裕(Kunihiro Tanaka) (@kunihirotanaka) April 23, 2024
共通するのは「部下が安心して伸び伸びと働ける環境を作るのが上司の役目である」というメッセージだ。
「不機嫌な上司」がもたらす弊害とは何なのか。自分がチームのパフォーマンスを下げる管理職にならないためにはどうすればよいのか。お二人の対談を通じて、具体的なノウハウを探ってみよう。
ーー川邊さんは今年4月、「不機嫌な上司対策4選」として管理職によるフキハラへの対処法をXに投稿されました。これには何かきっかけがあったのでしょうか。
川邊:そもそものきっかけは、2023年4月にLINEヤフーの社長から会長へと立場が変わったのを機に、より幅広い発信をしたいと考えたことです。
社長時代のX投稿は自社の事業やサービスに関する内容が中心でしたが、今後は会社のためだけでなく、世の中で頑張っているビジネスパーソンやエンジニアの役に立つようなメッセージを届けていきたい。そんな思いから、自分のキャリアや経験をもとに、仕事がうまくいくコツや読んで元気が出るメッセージを発信し始めました。
そのなかでよく取り上げるテーマの一つが、マネジメント。理由は、上司と部下の関係性が上手くいっていないケースが多いと感じているからです。
【川邊さんがXで投稿した「不機嫌な上司4選」】
1.リーダーの重要な条件に「いつも機嫌が良い」という事がある旨を、平時から伝えておく
2.勇気を出して不機嫌の原因を聞いてみる
3.不機嫌な奴は上司失格!部下に気を使わせるな!上司が部下を気遣え!と川邊が言ってたと常日頃から伝えておく
4.早速この投稿をリポストして牽制
ーー「上司と部下の関係性」が上手くいかない要因の一つに、上司の「機嫌」が挙げられるのですね。
川邊:そうです。不機嫌な上司たちは往々にして、組織運営にはリーダーシップよりフォロワーシップが大事だということを理解していません。
現場に最も近いところで実務を行っているのはメンバー層であり、組織に占める人数割合も圧倒的に高い。仕事の成果や結果に対するメンバーの影響力はリーダーよりも大きいわけです。
メンバーが主体的に考えて動ける組織にしなければいけないのに、上司が不機嫌だと部下は精神的にキツいし、伸び伸びと働けないのでパフォーマンスも落ちます。
あのポストはメンバー層に向けて「不機嫌な上司対策」を紹介する形を取っていますが、本当はマネジメント層に向けて「上司は機嫌が良くなければダメですよ」と伝えたくて書いたものです。
ーー田中さんも同時期に「報連相は部下や社員の義務ではなく、本来は経営者や上司が報連相しやすい環境を作らなければいけない」という趣旨の投稿をされています。これもマネジメント層に向けたものですね。
田中:私も以前から「経営者やリーダーは機嫌を良くしましょう」というメッセージを発信し続けていまして、今回のポストもその一環です。
きっかけは6年前に行われたスタートアップイベント「IVS2018」のセッションで、「社長の機嫌が悪くなると会社は傾く」という話をしたこと。これが思いのほか大きい反響があったんです。
今日IVS DOJOで「結局未来は社長次第」という話をしました。
ありがたいことに、角さんに #ぶっちゃけ1219 にてご機嫌の話をして頂いたようで、IVSでもまさしくその話をしました。
社長は現場を邪魔するより、機嫌のいい職場づくりにコミットした方が良さそうです。 #ivs2018w https://t.co/UGU1gS2m9l— 田中邦裕(Kunihiro Tanaka) (@kunihirotanaka) December 19, 2018
ーー早くから「不機嫌な上司」に対する課題意識を持たれていたんですね。
田中:正直なところ、かつては私自身も「不機嫌な上司」だったんです。
20年ほど前は会社が債務超過に陥っていたため、経営を立て直すため一睡もせずに働いていたので、ストレスが溜まってすぐに腹を立てたり、周囲にきつく当たったりしていました。その結果、人がどんどん辞めてしまい、まさに会社が傾いてしまった。
イライラを誰かにぶつければ、その瞬間は多少スカッとするかもしれませんが、中長期的に見れば何もいいことはない。自分の不機嫌な振る舞いが、いかに会社に悪影響かを痛感しました。
そんな失敗体験があるので、今では意識して笑顔で過ごしたり、アンガーマネジメントを実践したりして、常に機嫌の良い上司でいられるよう心掛けています。
ーーご自身の経験にもとづく発信だったのですね。川邊さんは「不機嫌な上司」になってしまった経験はありますか。
川邊:私の場合、管理職時代はむしろ周囲の機嫌を良くすることを意識していました。私は純然たるエンジニアではなく、事業やサービスを企画するプロデューサーでしたから、作りたいものを形にするためにはエンジニアに動いてもらわないといけません。
いわば他力本願の立場なので、エンジニアが機能を一つ作るたびに「これはすごいね」と褒めたり、お菓子を差し入れしたりと、相手の機嫌にはかなり気を遣っていました。
ただ、自分のポジションが副社長、社長と上がるにつれ、今度は自分自身の機嫌をとることが重要だと気付きました。
経営者は戦略や数字など抽象的なものを扱うのが仕事なので、現場時代のような具体的なサービスやプロダクトを作る面白さや楽しさを感じる機会は少なくなり、どうしてもストレスが溜まりやすい。
田中さんのおっしゃる通り、自分で意識しないとつい不機嫌になりがちです。それで私もキャリアの後半からは、アンガーマネジメントやメンタルコントロールなどを意識するようになりました。
ーー「不機嫌な上司」にもさまざまなタイプがいると思いますが、管理職やマネジャーの振る舞いで特に気になるものはありますか。
川邊:朝いちの機嫌が悪い上司は最悪ですね。一日の始まりに笑顔で「おはよう!」と声を掛けてくれる上司と、ろくに挨拶もせず明らかにイライラしている上司では、その日の部下たちのコンディションが大きく変わってしまいます。
これは大手企業に勤める私の友人の体験談ですが、ある日出社したら、顔を合わせた部下から「家庭で何かありました?」と聞かれたそうです。実際に彼はご夫人と何かあって(笑)、朝から機嫌が悪かったらしいんですよ。
でもそれは部下には全く関係のないこと。部下にとってみれば、自分たちに無関係なことが原因で不機嫌を撒き散らされるのは迷惑なだけです。「正直に指摘してくれてありがたかった」と彼は話していましたが、それくらい部下は上司のことをよく見ているということです。
田中:その方のように、部下からのフィードバックを素直に受け入れる上司は素晴らしいですね。上司と部下とはいえ同じ人間なのに、ポジションや年齢が上だからという理由でマウントをとる人っているじゃないですか。
部下の意見や指摘に耳を貸さず、自分の考えを一方的に相手に押し付ける上司は組織の輪を乱す。エスカレートすると、相手を傷つけるような酷いことまで口に出すようになり、パワハラ上司と化していくのだと思います。
川邊:上司と部下はただでさえパワーバランスがありますからね。私は「上司は不機嫌厳禁」というメッセージを繰り返し投稿していますが、毎回バズるんですよ。それだけ部下の立場にいる人たちが共感してくれているのだろうし、「自分も不機嫌上司かもしれない」と気付く管理職が多いのでしょう。
ーー日本でもハラスメントの概念が浸透し、部下に不適切な態度をとる上司に厳しい目が向けられています。にもかかわらず、なぜ高圧的だったり、上から目線の上司が減らないのでしょうか。
川邊:理由の一つとして考えられるのは、日本の雇用形態がいまだにメンバーシップ型中心で、ジョブ型へのシフトが遅れていることです。
メンバーシップ型組織は学校の部活のようなもので、「通過儀礼」として行われる説教や雑務を通して、組織への属し方を教えようとするスタイル。社会的不条理を経験させることで、自分はこの組織の一員になったのだという自覚を植え付けるのが、日本の伝統的なマネジメント手法でもあったわけです。
ひょっとしたら、上司の中には“あえて不機嫌にしている”という人もいるのかもしれない。意味もなく厳しい態度をとることが、部下を一人前にする良い方法だと本気で信じている人もいるんじゃないでしょうか。なぜなら、自分もそうやって育てられてきたから。
しかしそれが許されたのは終身雇用が前提だった頃の話で、この人材不足の時代に上司がそんな態度をとれば、部下はさっさと転職するに決まっています。特にエンジニアは引っ張りだこなので、われわれのようなIT企業は人材流出によって大きなダメージを受けてしまう。不機嫌な上司は、自分のマネジメントが会社にとって何のメリットも生んでいないことを自覚する必要があります。
田中:私も高専時代の寮生活で先輩たちから理不尽な扱いを受けた経験があるので、上下関係を押し付ける日本型組織の不条理さはよく知っています。だから18歳で起業した時は、すごくうれしかったんですよ。「誰も理不尽な思いをしなくて済むような、自由でフラットな会社が作れるぞ」と。
インターネットはすべての人に対して平等でオープンなテクノロジーであり、私はそのカルチャーが大好きで起業したので、自分の会社もインターネット的な社風にしたいと思ったんです。
ただ、会社が大きくなる過程で外部からたくさん人を採用したので、中には古い価値観を持つ人もいて、次第に組織が硬直化していきました。加えて先ほど話した通り、私自身も多忙すぎて不機嫌だった時期があり、起業時に思い描いたような会社はなかなか作れなかった。
だから10年ほど前に「自分が作りたかった会社を作る」という原点に戻る活動を始めて、自由でフラットな社風を実現するためのさまざまな施策を行なったんです。その成果か、今ではメディアなどでもさくらインターネットを「働きやすい会社」として取り上げていただくことが増えました。
過去の経験があるので、「放っておくと組織は簡単に従来型の日本的文化に染まってしまうのだ」と肝に銘じています。
ーー不機嫌上司がもたらす代表的な弊害として人材の流出が挙がりましたが、他にエンジニアリング組織におけるデメリットとして考えられるものはありますか。
川邊:クリエイティビティーは間違いなく低下するでしょう。みんなが自由な発想で意見を出し合うから新しいものや面白いものが生まれるのであって、不機嫌な上司がいると周囲も発言しにくくなり、ものづくりの力は下がります。
そしてもう一つは、重大事故のリスクが高まることです。
ITサービスに不具合や異変が起こった場合、その前段階にはヒヤリハットがあったはず。しかし現場のエンジニアがそれに気付いたとしても、「報告すると上司に怒られそう」「どうせ機嫌が悪くて聞いてもらえないだろう」と思って口をつぐんでしまったら、何の対策もとらないまま放置されて、最終的に大事故に至ることになります。
田中:まさに会社が傾きかけた頃のさくらインターネットがその状態でした。かなりのコストダウンをしたので人が減り、残った社員の業務負担が増えて、全員が不機嫌になっていった。足りない人手は派遣社員や契約社員で補いましたが、非正規の人たちは立場が弱いので、管理者である正社員が不機嫌だと怖くてネガティブな報告ができません。
川邊:不機嫌上司がもたらす弊害がこれだけ大きいのだから、企業がマネジメント職を選ぶ際の要件に「常に機嫌がいいこと」を加えるべきですよね。逆に「常に機嫌が悪い人はマネジメント職には登用しない」とルールを決めてしまうくらいでいい。
田中:それは名案ですね。早速うちでも取り入れようかな(笑)
ーー旧ヤフーは日本企業の中でいち早く1on1を取り入れるなど、心理的安全性の高い環境づくりに力を入れてきた印象があります。川邊さんが上司と部下の対話の重要性を意識したのはいつ頃ですか。
川邊:30代半ばでGYAOの社長に就任した時です。当時のGYAOは累積100億円の赤字を抱え、経営の立て直しが急務でした。
私はもともと率先垂範型のリーダーで、自分が先頭に立って頑張れば部下はついてくると考えていたし、GYAOの社長になってからもしばらくはそのやり方で乗り切ろうとしました。でもこれだけ大きな赤字を自分一人の力でなんとかするのは到底無理で、社員の皆さんに頑張ってもらえるような環境を作る必要があったわけです。
そんな時、ヤフーのメディア事業部で、フォロワーシップ型マネジメントを取り入れる活動の一環として1on1を始めた人がいた。それがのちに『ヤフーの1on1』(ダイヤモンド社)の著書で知られることになる本間浩輔さんでした。
私も初めのうちは「あれって意味があるのかな?」と半信半疑で見ていたのですが、率先垂範型のリーダーシップでは限界があると気付き始めていたので、本間さんにアドバイスをもらってGYAOにも1on1を取り入れてみたんです。すると社員一人一人のやる気が明らかに向上し、業績も改善し始めました。
ーー上司と部下のコミュニケーションが変わるだけで、会社の経営にも直接的な影響をもたらすのですね。
川邊:本間さんはいつも「良いリーダーシップとは、部下のやる気を引き出すことである」と言っていました。1on1はまさにそのための手法で、上司が部下の話に耳を傾け、自問自答の幅を広げてあげることで、本人のやる気と能力を引き出します。
私の場合、そもそもの動機はなんとかして会社の業績を伸ばすことであり、1on1も必要に迫られて導入しました。だからリーダーやマネジャーは、まず会社が目指すビジョンと、そこに到達するために自分が果たすべきミッションを明確に意識することが大事です。その二つが自分の中ではっきりしていれば、会社や組織の成長につながる行動をとるようになるし、結果的に部下の才能を引き出す方向に変わっていくと思います。
ーーもし上司としての立ち振る舞いに迷っている読者がいるとしたら、まずは何を意識したら良いと思いますか?
田中:一つは、基本的なことですがよく寝ること。機嫌のいい上司でいるために寝不足は大敵なので、私も毎日8時間は睡眠をとることを徹底しています。
もう一つは、相談することです。上司になるとそれまで同僚だった人たちと距離ができたように感じ、孤独に陥る人も多い。でもポジションが上がれば、そこにはまた同じ職位の人たちがいます。何かあれば相談できるし、社内でメンターを見つけて自分が1on1を受ける立場になるのもいいでしょう。
それに、部下に相談したっていいんですよ。最近はヴァルネラビリティー(脆弱性)という言葉が注目され、リーダーが自分の弱みを見せることで部下との間に信頼関係や安心感が育つと言われているので、上司も悩みがあるなら部下に聞いてもらえばいい。上司・部下を問わず皆がお互いに頼り合えば、不安やイライラを抱えて不機嫌になる人も減って、すごくいい世の中になると思います。
川邊:私からは、これまでプレイヤーだった人がマネジメント職になったら、まずは「喜び」の対象を変えることを意識するようにアドバイスしたいです。
私も現場時代は自分が成果を出すことがうれしかったのですが、GYAOの社長を経験して以降は、社員の活躍や成長を見るのが喜びになりました。
今も、自社の社員が他社の方から褒められることが一番うれしい。「川邊さんの会社の○○さんは素晴らしいですね」と言われると、心の底から喜びが湧いてきます。喜びの対象が自分ではなく部下になれば、相手が仕事をしている姿を見るだけで「今日も頑張ってるな」と機嫌よくいられるものです。
田中:確かにそれはありますね。私も若手社員が仕事で成果を出して喜んでいる姿を見るとうれしいですから。喜びの対象が自分ではなく他人になると、お互いに機嫌よくいられるというのはよく分かります。
川邊:いきなり考え方を切り替えるのは難しくても、「喜びの対象を変えれば良いリーダーになれる」と頭で理解していれば、「これが部下の成長を喜ぶということか」と分かる瞬間がいつか訪れます。皆さんも今日からそのことを意識して、ぜひ「ご機嫌な上司」を目指してください。
取材・文/塚田有香 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)
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