三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社
預金商品開発部 部長 ※24年8月現在
五島良太さん
2002年新卒入社。東京三菱銀行・UFJ銀行統合や、リアルタイム振込の24時間365日対応など、内国為替業務を中心に、預金為替の勘定系システム開発・保守に約17年従事。その後、営業店事務端末やATMなどのチャネルシステムを担当する部署を経て、22年より現プロジェクトを担当
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経済産業省が公表した「DXレポート」により、DXの遅れによる経済損失の増加を懸念する「2025年の崖」の問題が広く知られるようになった。その要因の一つとして挙げられているのが、いわゆる“レガシーシステム”だ。
レポートではシステムの複雑化・肥大化やブラックボックス化が、DXの足かせになっていると指摘されている。解決策としてシステムのモダナイゼーションが推奨されるが、多くの企業ではコストや業務中断のリスク、そして変革への抵抗感が障壁となり進んでいない。
そんな中、三菱UFJインフォメーションテクノロジー(以下、MUIT)は、厳格な規制要件、膨大なトランザクション量といった特有の課題を抱える金融業界において、いち早くモダナイゼーションに着手。金融業務の根幹を担う重要な基幹システムを刷新するプロジェクトを展開している。
三菱UFJ銀行を始めとする三菱UFJフィナンシャル・グループのシステムを支える「金融×IT」のトップランナーである同社は、難易度が高いとされるモダナイゼーションをどう推進しているのか。その取り組みから、成功の鍵を探っていきたい。
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社
預金商品開発部 部長 ※24年8月現在
五島良太さん
2002年新卒入社。東京三菱銀行・UFJ銀行統合や、リアルタイム振込の24時間365日対応など、内国為替業務を中心に、預金為替の勘定系システム開発・保守に約17年従事。その後、営業店事務端末やATMなどのチャネルシステムを担当する部署を経て、22年より現プロジェクトを担当
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社
シニアプロフェッショナル ※24年8月現在
名渕拓海さん
2013年新卒入社。預金の勘定系システムの開発・保守を担当。デビットカード発行や、QRコード決済の新規プロジェクトを経験し、20年に勘定系モダナイゼーションのプロジェクトリーダーに就任
ーーモダナイゼーションが進まず、レガシーなシステムを使い続けている企業は少なくありません。こうしたシステムを使い続けると、具体的にどのような問題が引き起こされるのでしょうか。
名渕:最大の問題はシステムの複雑化・肥大化です。それに伴い、保守運用にかかるコスト増大やビジネスニーズへの対応の遅れなど、さまざまな課題が発生しやすくなる。これがいわゆる「レガシーシステムを使い続けることによる一般的なデメリット」であり、多くの企業が同様の問題に直面しているのではないかと考えられます。
当社の場合についてお話しすると、三菱UFJ銀行の勘定系システムを支えてきた現在のメインフレームは、1987年に窓口業務のバックエンドサーバーとして構築されたものです。以来35年以上にわたってシステムを大きく変えることなく、基本的な部分は構築した当時のまま使われ続けてきました。
その間に金融業界を取り巻く環境は大きく変化し、窓口以外のチャネル拡大や金融サービスの多様化への対応を求められる場面が増加。そのたびに、さまざまな機能を既存システムにつぎはぎする形で対処してきたため、非常に複雑な内部構造となってしまっています。
五島:稼働当初からメインフレームを扱ってきた熟練の技術者が在籍しているうちは、長年の経験によってシステムを保守・運用できていました。ただ、この世代が定年退職する時期を迎え、複雑化した既存システムの構造を理解できる人材がいなくなりつつあります。
組織内でスキルが継承されず、既存システムに関する知見が失われれば、生産性の低下やメンテナンスコストの増大などのリスクが高まる。最悪の場合は「預金・為替・融資」という、金融の基幹業務を担うシステムを安定稼働できなくなる事態も考えられます。システムの複雑化・肥大化と人材ロスは、金融機関の経営に非常に大きなインパクトを与える問題であるというのが私たちの認識です。
名渕:特に近年はインターネットバンキングやスマホアプリのサービスなど、多様な環境や条件のもとで勘定系システムを利用したいとのニーズが高まっています。ただ、複雑化したシステムでは、新たな要件に対応する際のシステムへの影響を特定するのが難しく、時間もかかる。熟練者の暗黙知を頼りにシステム開発を行ってきた経緯から、システムの構造に関するドキュメントが残っていないことも多く、当社でも対応に苦慮してきました。
環境変化が加速する中、本来なら新しいサービスを迅速かつ柔軟にリリースしていきたいのに、スピードの面でもシステムのレガシー化がネックになっている。その課題を解決する取り組みがモダナイゼーションであり、当社に限らず、既存システムを使い続けている企業にとって有効な取り組みだと考えています。
ーーモダナイゼーションは「2025年の崖」を乗り越える手段として注目されていますが、実際にはなかなか取り組みが進まない企業も多いようです。基幹システムのモダナイゼーションを実現する難しさはどこにあるとお考えですか。
五島:一つは経営判断の難しさです。先ほど話したように、基幹システムは経営の根幹を担う主要業務を支えており、安定的な稼働が大前提となります。
長年維持してきた安定性は損なわれないのか。万が一にも障害などが発生する可能性があるなら、そのリスクを抱えてまで既存システムを刷新する必要があるのか。しかもモダナイゼーションには人や予算など大きなリソースが必要となるため、本当にそのコストに見合うのかと迷うケースもあるでしょう。
名渕:経営判断を促すには「なぜ現行システムを使い続けるべきではないのか」を納得させるための十分な材料が必要です。
エンジニアであれば、システムのレガシー化によって引き起こされるデメリットについては認識しているはずです。ただしシステムの何がどう複雑になっていて、それが自社の事業や業務にどのような影響があるのかといった、具体的な情報を経営陣に提示できていないケースも多いのではないかと考えられます。
銀行のシステムを支える私たちは、まさにその点に留意してモダナイゼーションを推進してきました。メインフレームにはどんな課題があり、システム構造を変革しなければ、どのような未来が待っているのか。既存システムの問題点をできるだけ具体的に可視化し、ユーザーである銀行各部に判断材料として明示することを心掛けています。
そのためにはモダナイゼーションの効果をしっかり分析し、定量化したデータや数字で示すことが重要です。またシステムについても概念的な説明で終わるのではなく、メインフレームや各種アプリケーションの構造を分かりやすく紐解き、複雑化の根源を詳しく伝えることが求められます。
その結果、三菱UFJ銀行では経営判断の難しさを乗り越え、モダナイゼーション実現に向かって進み出すことができました。
ーーMUITが現在取り組んでいる基幹システムのモダナイゼーション・プロジェクトの概要を教えてください。
名渕:プロジェクトの目的は、現在の課題であるシステムの複雑化・肥大化および人材ロスの抜本的解消と、今後予測されるビジネスの変化に瞬時に対応できるアーキテクチャへの刷新です。メインフレームとオープン系の基盤を適材適所で利用するハイブリッド型を目指します。
モダナイゼーションの手法については、米国ガートナー社が複数のアプローチを定義していますが、当社ではその中から「リアーキテクト」と「リビルド」を柱としてプロジェクトを進める計画です。
ーーその二つはどのような取り組みなのでしょうか。
名渕:「リアーキテクト」は、簡単にいえばメインフレームの作り替えです。世間一般ではネガティブなニュアンスを込めて、「レガシー」と表現されることが多いメインフレームですが、現在も堅牢性や高可用性においてこれに勝る技術はないと私たちは判断しています。
よって、金融業務において止まることがあってはならない「預金・為替・融資」の機能については、今後も継続してメインフレームで運用していく方針です。ただし複雑化したままでは課題を解決できないので、プログラムを最適化して新たなアーキテクチャへシフトします。
一方の「リビルド」は、現行のメインフレームから切り出した機能を、オープン系の基盤へ移植する取り組みです。切り出す対象は、ビジネスの変化に応じて頻繁に作り替えることが想定される機能たち。先ほど例に挙げたインターネットバンキングやスマホアプリサービスを始めとする、新たなニーズに関連したものが中心となります。
これらを新たに構築するオープン系のプラットフォーム上で運用することにより、環境変化に耐えうる柔軟で迅速な開発が可能になります。
ーープロジェクトの進行状況についてもお伺いしたいです。
名渕:まずは第一段階として、オープン系基盤の構築に取り組んでいるところです。これまでは窓口業務のために作られたインターフェースを他のチャネルに流用する形で対処してきましたが、今回の構築ではREST APIを採用し、どのチャネルからも勘定系サービスを利用できる汎用的なインターフェースにします。
この段階ではメインフレームにあまり手を入れず、新たな基盤を作りながら部分的にメインフレームとつないで動作確認を行うなど、スピードを重視してスモールに開発を進めています。
続く第二段階がプロジェクトの本丸で、メインフレームの機能をオープン系基盤へ切り出す作業に着手します。メインフレームは膨大な機能を担ってきたので、約10年かけて段階的に切り出していく計画です。
ーー日本を代表する金融グループのシステム刷新となると、プロジェクトも大掛かりになりますね。プロジェクトの進行を阻む障壁もあるのでは?
名渕:最大の障壁は、メインフレームとオープン系の両方のスキルを備えた人材が少ないことです。特にメインフレームについては、前述の通り特定の技術者が長く扱ってきた経緯もあり、専門スキルを持つメンバーはグループ内でも局所的にしか在籍しません。
しかしモダナイゼーションを進めるには、それぞれのスキルを保有する技術者が対話し、双方の仕組みや特徴を理解することが不可欠です。例えばデータベースにしても、メインフレームは階層型、オープン系はRDB(リレーショナルデータベース)を採用しているため、階層型を理解した上で「RDBではどのようにデータを配置すべきか」を考えなければ最適な形にリビルドできません。両者のスキルをどう一致させていくかが本プロジェクトの難しさです。
五島:さらには技術的なスキルに加えて、金融業務の知識も必要です。メインフレームが一手に担ってきた業務を、今後はメインフレームとオープン系基盤の二つで成立させるわけですから、業務への理解がなければ、それぞれにどの機能を振り分けるのが最適かを判断するのは難しくなります。
ーー今のお話だけでも、モダナイゼーションの難易度の高さが伺えます。その難しさを乗り越えるために取り組んでいることはありますか。
五島:重要なのは、新しいシステムの構築と次世代へのスキル継承を同時進行で進めていくことです。プロジェクトは比較的若い世代のメンバーが中心となって進めていますが、メインフレームの経験豊富な熟練技術者と対話する機会を作るようにしています。オープン系が専門の若手も、業務知識を含めたメインフレーム側のスキルを学べる体制を作っているのです。
これほどの大規模改修であれば、業務を通じて技術的な知見を深める絶好の機会となる。人材育成の場としても本プロジェクトは意義があります。次世代へのスキル継承が進めば、課題だった人材ロスの解決にもつながりますからね。
名渕:私たちはこのプロジェクトをリバースエンジニアリングの機会でもあると捉え、メインフレームに関する昔からの知識を紐解き、ドキュメント化する作業にも力を入れています。暗黙知として引き継がれてきた部分についてはソースコードしか残っていないことも多く、それがどのように業務と関連し、どのような仕様から現在の動作につながっているのかについて、次世代の技術者が確認するのは困難です。
この現状を打破するには、暗黙知をドキュメントに落とし込み、誰もが共有できる状況を作る必要があります。定年退職などによって人数が減りつつあるとはいえ、まだ熟練の技術者が社内に残っている今こそ取り組むべきと考え、モダナイゼーションと共にドキュメント作成を進めているところです。
ーーこのモダナイゼーション・プロジェクトを経験することは、若手エンジニアにとって貴重な学びになりそうですね。
名渕:エンジニアにとって最大のメリットは、やはりメインフレームとオープン系の両方の技術が身に付くことです。本プロジェクトでアーキテクチャの構造を検討するにあたり、外資系金融機関のカンファレンスなどに参加してモダナイゼーションの方向性について話を聞きましたが、グローバルでもメインフレームとオープン系のハイブリッドで進めるアプローチが主流だと分かりました。
おそらく今後は日本でもモダナイゼーションに取り組む企業が増えていくでしょう。そのときにオープン系の技術しか知らないエンジニアより、どちらの技術も理解しているエンジニアの方が、IT市場における価値は間違いなく高い。マルチなスキルを養える貴重な機会として、若手が今後のキャリアを考える上でもメリットが多いと思います。
それに当社の若手メンバーを見ていると、今まで自分が知らなかった知識や考え方に触れることを純粋に面白いと感じているようです。新たな気付きを得て視野が広がり、自身の成長を実感できるのもやりがいになるはずです。
五島:やりがいという点では、社会的影響力の大きいシステムを扱えるのも醍醐味です。金融システムは重要な社会インフラであり、中でも金融機関の根幹を担う勘定系システムの刷新は、世の中への貢献度の高いプロジェクトです。その一員として新たなシステムを作っていく若手の技術者は、大きなやりがいを感じられるのではないでしょうか。
ーーこれから10年単位でプロジェクトは続きますが、最終的にはどのような形のシステムを目指していますか?
名渕:目指すのは、自分たちが作るシステムを持続可能なものにすること。1980年代にメインフレームを立ち上げた際も、当時の技術者は完璧だと思えるシステムを作ったはずです。しかし想定以上に激しい環境変化や技術の進歩に対応しきれず、年数を重ねるごとに複雑化していきました。
その経験を踏まえ、今回のモダナイゼーションではガバナンスを効かせて、プログラムの複雑さを再発させないように管理体制やルール、運用の手順なども考慮しながら一つ一つの作業に取り組んでいます。
五島:今後はますます技術革新が加速し、10年後や20年後には今とは大きく異なる世界が広がっているはずです。その時にまたコストをかけてシステムを刷新しなくていいように、どんな技術にも適応できる基盤を作り、将来に渡って維持できるシステムの礎を築いていくつもりです。
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取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太 編集/今中康達(編集部)
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