本連載では、業界の第一線で活躍する著名エンジニアたちが、それぞれの視点で選んだ書籍について語ります。ただのレビューに留まらず、エンジニアリングの深層に迫る洞察や、実際の現場で役立つ知見をシェア!初心者からベテランまで、新たな発見や学びが得られる、エンジニア必読の「読書感想文」です。
任天堂元社長・岩田聡の仕事哲学に学ぶ。「ボトルネックを見極め、最善を尽くす」【データサイエンティスト・からあげ】
著名エンジニアが、独自の視点で「おすすめ書籍」の紹介を行う本連載。
今回の語り手は『面倒なことはChatGPTにやらせよう』(講談社)の著者であり、データサイエンティストのからあげさん(@karaage0703)だ。
発売日:2019年7月30日
著者:ほぼ日刊イトイ新聞
発行:ほぼ日
定価:1,870円 (税込・配送手数料別)
ISBN:978-4-86501-422-8
ページ数:224ページ
書籍概要:任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた本です。ほぼ日刊イトイ新聞に掲載されたたくさんのインタビューや対談、そして任天堂公式ページに掲載された「社長が訊く」シリーズから重要なことばを抜粋し、再構成して1冊にまとめました。岩田聡さんを誰よりも深く知っている、任天堂の宮本茂さんとほぼ日の糸井重里の特別インタビューも収録。「岩田さん」を、盟友のふたりがたっぷりと語ります。
本書をピックアップした背景
エンジニア向けの書籍を選ぶという企画を受けたものの、取り上げる書籍に関しては非常に悩みました。技術書は、基本的に時間が経つほど、どうしてもその内容が古くなってしまいます。特に私が仕事の関係でよく読む「AI関係」の書籍であればなおさらです。
「せっかくなら、何年後に読んでも内容が古くならない、普遍的な内容の本を紹介したい!」
そう思い、今回あえて技術書ではなく『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』(※以降『岩田さん』)を選ばさせていただきました。
写真提供/からあげ
『岩田さん』は、任天堂の元社長・岩田 聡さんの残した言葉を紡いだ書籍です。
岩田さんを知らない人でも、岩田さんの関わった『星のカービィ』『大乱闘スマッシュブラザーズ(※1)』『脳トレシリーズ』『ニンテンドーDS』『Wii』といった数々のゲームコンテンツ、ゲームハードを知っている人は多いのではないでしょうか? そのようなゲームを、岩田さんがどのような思いと考えで生み出してきたかが書かれています。
技術について直接書かれている本ではないのですが、「ものづくりをするエンジニアであれば、ジャンルを超えて学べるものがある」と思い、紹介させていただきます。私自身も、折に触れて何度も読み、そのたびに新しい発見がある本です。
(*1)スマブラのプロトタイプは、企画やデザインをゲームクリエイターの桜井政博さん、プログラムを岩田さんが担当するという超少数精鋭体制で開発されていたそうです
本書で得られた学び・教訓
書籍を通じて岩田さんから語られることの一つに、仕事の「ボトルネック」を意識して、そこにフォーカスすることの重要性があります。
それ自体は当たり前のことかもしれませんが、岩田さんの凄いところは、まず覚悟を決めて一番重要なところに徹底的に取り組むところです。そのためには、炎上している現場に飛び込むこともいとわない、むしろ喜んで飛び込んでいたというので驚きます。炎上している現場を一度でも経験している人は、なかなかそう覚悟を決められないのではないかと思います。
そんな岩田さんの有名なエピソードとして、『MOTHER2』のゲーム開発を立て直した話があげられます。
開発が破綻し、炎上していた『MOTHER2』の開発現場を立て直すために助っ人として呼ばれたのが、当時HAL研究所の社長兼プログラマーだった岩田さんでした。既に多忙を極めていたはずの岩田さんは『MOTHER2』の立て直しを引き受けることを決めます。そして『MOTHER2』のソフトウエアの現状を分析した岩田さんは、今ではもはや伝説となったセリフを、プロデューサーであった糸井重里さんに告げます。
「今あるものを活かしながら手直ししていく方法だと、2年かかります。1から作り直していいのであれば、半年で作ります」
炎上しているプロジェクトを立て直す当事者として、こんな痺れるセリフを言える人がどれだけいるでしょうか?
そして糸井さんが「1から作り直す」という決断を下した後、岩田さんが最初に取り組んだのが「環境整備」でした。開発者が開発を効率的に行えるツールやバージョン管理ツール、まだインターネット黎明期(*2)でほとんど使われていなかったメールシステムを整えたというのです。
岩田さんは凄腕のプログラマーなので、自分がゴリゴリ開発する選択を取っても不思議ではありません。ただ岩田さんは「環境整備をすることがプロジェクト全体のパフォーマンスを高めて、一番結果を出せる」、すなわちそこがボトルネックでありフォーカスすべき課題であることを、冷静に見抜いて判断していたのですね。
実際に、岩田さんは『MOTHER2』プロジェクトを見事立て直し、絶望と思われていたゲームの完成を実現したのですから驚きです。
(*2)大きいデータのやりとりに、バイク便を飛ばしてROMを渡しているような時代です
実務での活用方法
岩田さんの『MOTHER2』開発のエピソードは、『岩田さん』が発売される前からネットでは有名だったので、単純な私はこの話に感銘を受けて、これをいつか真似しようと思っていました(笑)
その機会が来たのは、私が社会人になって数年目のときでした(※3)。
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データサイエンティスト
からあげさん(@karaage0703)
『面倒なことはChatGPTにやらせよう』(講談社)『人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室』(日経BP)『Jetson Nano超入門』(ソーテック社)を執筆。『ラズパイマガジン』『日経Linux』など多数の商業誌・Webメディアへも記事を寄稿。 個人としてモノづくりを楽しむメイカーとして「Ogaki Mini Maker Faire」をはじめとした複数のメイカー系イベントに出展。好きな食べ物は、からあげ
文/からあげ 編集/今中康達(編集部)
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