ヨドバシリテイルデザイン
事業部長
戸田宏司さん
1982年、小学生時代からプログラミングを開始。1998年、フリーランスとしてCGIサーバ構築からキャリアをスタート。その後、入社したソフトウェアハウスで証券取引所開設プロジェクトに参画。2017年にヨドバシリテイルデザインに入社し、オンプレミス型プライベートクラウドの構築・運用、サービス設計、アーキテクチャ設計、セキュリティ設計などを担当
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データセンターも、クラウドも、ECサイトも……わざわざ自前で用意する必要のないこの時代に、圧倒的自前主義を貫く企業がある。国内売上2位のECサイト『ヨドバシ・ドット・コム』でもお馴染みの、ヨドバシカメラを展開するヨドバシグループだ。
膨大な時間とお金がかかる道をなぜあえて選ぶのか。その理由を、グループ全体のサービスをITで支えるヨドバシリテイルデザインの事業部長・戸田宏司さんは「目先の利益よりも10年後、20年後も愛されるサービスづくりが重要なんです」と語る。
国内家電量販店の中でも売上2位を誇る同グループだが、「10年後、20年後も愛されるサービスづくり」とは一体どういうことなのか。戸田さんに話を聞いた。
ヨドバシリテイルデザイン
事業部長
戸田宏司さん
1982年、小学生時代からプログラミングを開始。1998年、フリーランスとしてCGIサーバ構築からキャリアをスタート。その後、入社したソフトウェアハウスで証券取引所開設プロジェクトに参画。2017年にヨドバシリテイルデザインに入社し、オンプレミス型プライベートクラウドの構築・運用、サービス設計、アーキテクチャ設計、セキュリティ設計などを担当
――聞くところによると、ヨドバシグループは徹底した自前主義だと伺いました。改めて、どのあたりが自前なのか教えてください。
エンジニアのみなさんにお伝えする上で一番分かりやすいのは、クラウドでしょうか。世の中はパブリッククラウドが主流ですが、当社では100%プライベートクラウドでやっています。自社データセンターを建てる土地探しから始めました。
――土地探し!? そのレベルから自前なんですか?
そうなんです。実はヨドバシの実店舗や物流倉庫も、ほぼ全て自前の土地でやっているんです。
自社データセンターを立ち上げる際も、土地探しに始まり、建物が完成したら収容可能なラック数を見積り、それに応じて設置できるサーバーの台数を算出して、自分たちでマザーボードを買ってきて検証するところから始めたんですよ。
また、「スピード配達」「配送料無料」などの特典で知られるECサイト『ヨドバシ・ドット・コム』の配送システムも手作りで開発しています。
例えば、配送ルートの最適化アルゴリズムの開発では、それこそエンジニアが配送トラックに乗り込み、配送スタッフと実際のルートを一緒に回るなんてこともやっています。
――エンジニアがリアルなルートを見る意味があるということですね?
もちろんです。実際の配送ルートを回ったり、現場の道路情報に熟知した配送スタッフと会話をすると、机上では見つけることのできない課題が見えてきます。
例えば、最適と判断していたルートが「午前中は問題ないが、午後は車の流れが逆方向になって遅延が発生する」と分かる。それなら「午後からは別ルートを表示させよう」と改善につながるんです。
ある時はこんなシーンに出くわしたメンバーもいました。それは、箱買いした大量の水と、小さな日用品を購入されたお客さまへの配達時のこと。ご自宅へ届けるとご夫人しか在宅しておらず、「水は重くて運べないし、玄関に置くとスペースを取ってしまうので、夫が夕方帰宅した後に水だけ再配達してほしい」と配達スタッフへ要望されました。
弊社のスタッフは配送ではなく接客をしているつもりで動いています。ご要望通りに水だけ改めてお届けするという柔軟な対応をとりました。ここで、同行したエンジニアは設計できていなかった分割配送管理の必要性に気づくわけです。
データで分かることに加えて、リアルで出てくる課題のフィードバックを活かすことで、実態に即した効率的な配送アルゴリズムが開発でき、私たちにしかできないサービスを実現していけるのではないかと考えています。
――なぜ、そこまで徹底した自前を貫くのでしょうか? クラウドもECサイトの配送システムも他社のサービスを使う方が時間も予算も抑えられると思うのですが……
仰るとおり、他の企業が出しているサービスに乗っかる方がコストも労力も抑えられるとは思います。ただ、それでは意味がないのです。
――というと?
私たちが成し遂げたいのは、完全内製化でも、技術の追求でもない。本当のゴールは、お客さまにご納得いただける便利な買い物環境を提供することを通じて、「またヨドバシを利用したい」と思っていただくことです。
そのためにヨドバシの店舗があり、ECサイトがあり、テクノロジーがある状態にしたい。そんな夢を実現する答えが「自前」にあると思っています。
借り物の建物やクラウドサービスを利用し続けると固定費が発生し、どうしても早期の投資回収を意識せざるを得なくなります。それに借り物では、うまくいかない時に簡単に諦めてしまいがちになる。そんな姿勢では10年後、20年後も愛されるサービスにはなりません。
自社保有はコストがかかりますが、その分お客さまのニーズを的確に反映できる環境が整います。実店舗がお客さまの反応をリアルに把握できるタッチポイントとすれば、自社データセンターはバーチャルなタッチポイント。現代に求められるスピーディーな開発と改善を進めながらも、データ上でもお客さまの反応を直接確認できるのが自前のクラウドの良さです。
――とはいえ、経営陣から利益や開発スピードを求められる場面もありますよね?
もちろん求められますが、繰り返しお客さまにご利用いただけるヨドバシカメラでなくては意味がありません。
ただ、当社のカルチャーに大きな影響を与えている要因として、代表をはじめグループ全体がIT投資やテクノロジーに対して非常に積極的である点が挙げられます。
私も中途入社で当社へ転職してきたので、この積極投資に最初は戸惑いました(笑)。ただ、入社から8年が経ち、この風土はヨドバシが長年大切にしてきたマインドが関係しているのだと分かってきました。
ーーなぜヨドバシカメラはそんなにテクノロジーに積極的なのでしょうか?
そもそも、ヨドバシカメラとテクノロジーの結びつきは、ポイントカードシステム「ゴールドポイント」から始まりました。
導入のきっかけは、「POSレジ+バーコード」という商品販売情報の収集・管理システムを活用し始めた際、現会長が「また来店していただくために、われわれだけが利益を上げるのではなく、その利益をお客さまに還元して喜んでいただこう」と考えたからです。
ゴールドポイントで値引き分を還元することで、値段交渉の上手さによって購入金額が変わる不公平感の解消にもつながっています。
これを機に、商品の欠品によるお客さまへのご迷惑を防ぐため、人手では限界のある在庫管理や流通の効率化に注力し、コンピューターシステムの導入や配達システムの改善に取り組んできたヨドバシカメラ。
現在では、日本の複数箇所に配送センターを設置し、各倉庫内でロボットを効率的に活用しているんですよ。膨大な取扱商品数を、ミスのリスクを下げながら、お客さまへ迅速・正確・安全な商品配送を実現するために、テクノロジーの活用は不可欠です。
――継続的なIT投資には多額のコストが必要となり、テクノロジーへの理解は不可欠かと思います。代表の藤沢さんご自身もテクノロジーに精通されていらっしゃるのですね。
代表の藤沢は現在58歳で、コンピューターの黎明期を経験してきた世代です。学生時代からポケコンでプログラミングを行っていた経験があり、コンピューターの仕組みへの深い理解を持っています。
実践的な経験があるからこそ、「もっと可能性があるのではないか」という発想が自然と湧いてくるのでしょう。社長はテクノロジーへの興味が尽きることなく、「この技術でこんなことができるのでは」と自ら提案することも多いほどです。
実際、社長自身がエンジニアリングがすごく好きで、個人的にも研鑽を重ねています。社長は、実現に向けて前向きな提案であれば、どのような意見にも耳を傾ける姿勢です。多少遠慮のない意見でも、積極的に発言する社員を歓迎しているようです。そのため、新しいテクノロジーの導入に関しては、エンジニアにプロフェッショナルな意見を求められ、ともに議論を積み重ねる雰囲気になっています。
――2040年に向けて独自のAPI開発をすると伺いました。このAPIは「ヨドバシスタッフの魂を注入したもの」と表現されているそうですが、なぜ今このタイミングでAPI開発に踏み切られたのでしょうか。
正確に申しますと、APIは順次完成させていっており、これらは2040年まで通用するものとして設計されています。
ヨドバシカメラには、信頼性の高い正規品のみを取り扱う商品ラインナップ、専門知識を持つスタッフ、迅速な配達サービスなど、多くのリソース(資源)があります。
お客さまの利便性とセキュリティを最優先に考え、APIを開発することで、ヨドバシカメラのリソースをお客さまが自由に組み合わせて活用できる仕組みを構築したいと考えているのです。
もう少し具体的に申しますと、ヨドバシカメラは実店舗での販売からスタートし、ECサイトの開設により、お客さまがどこからでもお買い物できるようになりましが、今後はAPIの導入により、お客さまが商品の購入方法を自由にカスタマイズできる環境の整備を目指します。
ーー自由にカスタマイズ?
例えば、商品について詳しい説明をご希望の場合は、「店舗での対面説明のご予約」、「オンラインチャットでの相談」、「電話での問い合わせ」など、お客さまのご都合に合わせた方法をお選びいただけるといったことです。
ーーなぜそこまでやろうと?
API開発もそうですが、IT投資はお客さまへのサービス向上の一環として実施しています。便利で快適な買い物環境を整備し、「次回もヨドバシで買う」と選んでいただけるような価値を提供するには、テクノロジーを活用することが必須だと考えています。
――他社ではなかなか経験できないプライベートクラウドの設計やAPI開発に携われる貴社で、エンジニアとしてのキャリアを積むことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
開発工程全体に携わることで、どの企業でも活用できる汎用的なスキルが身に付きます。ソフトウェアエンジニアとしての技術を磨きながら、SREとして安全な運用の視点も養えますし、トラブル対応を通じて、今後のものづくりに活かせる実践的な知見を蓄積できます。幅広いエンジニアリング分野での経験は、キャリア形成において大きな価値になると思います。
やりがいの面でいえば、自前のクラウド構築ならではの充実感を味わえます。ソフトウェアエンジニアとして巨大なシステムの一部を担当していると、自分が作っているものが本当に誰かの役に立っているのか、という疑問を感じることがあります。しかし、私たちが開発するシステムはお客さまが実際に使用するため、稼働状況やお客さまの反応を直接確認でき、成果を実感しやすいです。
一般的なウォーターフォール型の開発では、ステークホルダーの要望から始まり、要件分析、要件定義、基本設計、詳細設計、プログラミング、テスト、納品という工程を経る中で、まるで「伝言ゲーム」のように本来の意図が歪んでしまうことがあります。「本当にステークホルダーがこれを望んでいたのか」という疑問が生じることも少なくありません。
また、プログラマーが持つ最新のテクノロジーが当初の要件に適していても、古い思考パターンが過程にあると、不必要に複雑な設計になってしまうこともあります。そのため、プログラムを作る人たちは「なぜこのような回りくどい設計で実装しなければならないのか」というフラストレーションを抱えがちです。
現在、ヨドバシカメラのITサービスを支えるリテイルデザイン部門は、10名程度の社員と外部ベンダーによる少人数体制で開発を行っており、社長との直接的な対話や提案が可能な環境です。
そのため「伝言ゲーム」のような情報の歪みがなく、「本当に必要なものを作っているのか」という疑問も生じません。同じ方向を向いた健全な環境で業務を進められるからこそ、お客さまに喜んでいただけるプロダクト開発に没頭できています。
――エンジニアにとってやりがいのある環境ですね。先進的な開発に挑戦できる点も大きな魅力だと思いますが、プライベートクラウドを内製化する際、皆さんはどのような反応を示されたのでしょうか。
社長がプライベートクラウドの内製化を提案した時、最初は全員、半信半疑な状態でした(笑)。しかし、一歩ずつ前進していくうちに具体的な形が見えてきて、チーム全体が手応えを感じ始めると、もっとできそうだという前向きな雰囲気が広がっていきました。普段は控えめなチームメンバーたちですが、エンジニア魂に火がついたようで、自主的に本を購入したり、調査を始めたりしていました。一見不可能に思える挑戦に一丸となって取り組めるのは、エンジニアとして本当に楽しい瞬間ですよね。
――お話を伺っていると、プログラミングに対して情熱を持った方が多いように感じます。貴社にはどのようなエンジニアが向いているのでしょうか。
エンジニアは、ヨドバシグループのサービス・利便性の向上と、確実なセキュリティの実現を担う重要な部門です。お客さまにとって店舗が接点となるように、システムもお客さまとの大切な接点となります。そのため、エンジニアは接客スタッフと同じように、お客さま目線でシステム開発に取り組むことが重要になります。
ヨドバシカメラの売り場には、カメラについて驚くほどの専門知識を持つスタッフや、冷蔵庫の各メーカーの製品哲学を情熱的に語るスタッフなど、商品への深い愛着を持つ人材がそろっています。
エンジニアも同じようなマインドを持ち、価値あるプロダクトを届けることに情熱を注げる仲間が揃っていますので、長期目線でいいサービスづくりをしていきたい方は一度お話してみたいですね。
文/福永太郎 撮影/桑原美樹 編集/玉城智子(編集部)
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