Vol.310

ITガラパゴスの飲食業界に一石を投じる。エンジニアが居酒屋勤務から学んだ“究極のユーザー視点”とは?

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訪日外国人の増加や、持ち直しつつある個人消費動向など、飲食業界に明るい兆しが見え始めている。しかし、2019年10月に予定されている増税や、少子高齢化による労働力の減少、コンビニのカフェ化、中食市場の台頭など、今後、業界の成長を阻みかねない不安要素も少なくない。

今こそ、ITによる徹底したコスト削減と業務効率の向上が急務なのは明白だが、導入コストの高さやITリテラシーが高い人材の少なさゆえ、その対応に苦慮している飲食店が多いのが現状だ。

こうした飲食業界が抱える悩みを解決しようと奮闘している企業がある。飲食店向け総合経営管理システム『K1くん』(けいいちくん)の開発・販売を手がけるアプリラボだ。

エンジニアが居酒屋勤務で身に付けた、究極のユーザー視点とは?

居酒屋店長の嘆きから始まった、“安くて使える”システム開発

同社の代表を務める菅野壮紀(かんの・たけのり)氏は『 K1くん』開発のきっかけを次のように振り返る。

アプリラボ代表の菅野壮紀氏

「学生時代、居酒屋でアルバイトをしていた時、店長から『飲食店向けのシステムは、高くて古くて使いにくい』と聞いたことが、『K1くん』を開発するヒントになりました」

当時から、飲食店向けのビジネスを立ち上げたいという夢を抱いていた菅野氏は、大学卒業と同時に大手ITサービス会社に就職し、商社や銀行などのシステム開発を3年ほど経験した後、2007年に独立。安価で使いやすい飲食店向けシステムを提供しようと、たった 一人で『K1くん』の開発に着手した。

「初期の『K1くん』は、タイムカード機能だけの簡易なものでしたが、約5年の歳月をかけて、商品仕入、売上、シフト管理、POSレジ機能へとお客さまの要望に応えていった結果、経営分析機能も提供できるようになりました。今では、日頃使い慣れたスマートフォンやタブレットを、ハンディ端末として使えるようにもなっています」

使いやすさとコストパフォーマンスを兼ね備えたシステムとして好評を博している『K1くん』。その開発コンセプトは、個店から10店舗までの小規模飲食店チェーンに、経営管理を安価に提供することにある。そのポリシーは「ユーザーに寄り添ったシステムを開発する」ことだという。

この開発コンセプトとポリシーを両立するため、同社には独特の社内制度が存在する。エンジニアが3つの役割を担うマルチロールなワークスタイルと、『シフトイン研修』なる耳慣れない教育制度だ。

イチから百まで頼れるエンジニア像とは?

アプリラボには営業や顧客サポートを担当する専任スタッフは存在しない。なぜなら、それらは全て10名のエンジニアが担っているからだ。菅野氏はその理由を次のように話す。

「お客さまが抱えていらっしゃるお悩み事やご要望を、直接エンジニアが受ければ、話が早いというのが一番の理由です。エンジニア自身が日頃からお客さまと親しく接していれば、難易度に応じた的確な見積もりを出せますし、技術的に無駄のない解決策も提案できます。だからこそあえて職種を分けずに、エンジニアが営業とサポートも担っているのです」

開発を担うエンジニアが、営業とサポートを担うというのは、いささか過大な気もするが、菅野氏によると、新規開拓ノルマや売上ノルマが課せられるわけでも、トラブル対応で現場に駆け付けるわけでもなく、エンジニアが「お得意さま窓口」を兼務しているという方が実態に近いという。

「営業とはいっても、基本的に口コミで集客しているので、既存のお客様からのご紹介を承るような業務が中心です。また、サポートについても、電話でシステムの使い方についての簡単な質問に対応したり、遠隔操作でトラブルに対処したりする程度。メンバー全員でお客様をフォローする体制も整えていますから、個人に過大な負担を強いるものではありません」

顧客の隠れたニーズを引き出す『シフトイン研修』

ではなぜ、そこまでしてエンジニアに業務を集中させるのだろうか?

「それはお客さまに、いつでも『分かっている人』が対応してくれるという安心感を与えたいからです。飲食店にお勤めの方々のITリテラシーには大きなバラツキがあります。現状の人員規模で、きめ細やかなサポートを提供しようと思ったら、こうした体制を敷くことがベストだと思っています」

そして、同社のスタンスをシフトイン研修も、同社のエンジニアを特徴付ける一つの理由となっている。

「入社から3カ月後の月末に、1週間ほど『K1くん』の導入店舗でスタッフとして働いてもらうというのがシフトイン研修です。飲食店で働いた経験がないエンジニアが、システムの利用環境やお客さまが抱えている課題を知るには、現場を経験するのが一番だと考えて導入しました」

16年11月にアプリラボに転職してきたばかりのエンジニアの石田竜也氏は「実際、注文や会計が集中するピーク時の忙しさや、疲労や睡魔と戦いながら行う集計作業の難しさは、コンピュータの前で開発しているだけではわからなかった」と当時を振り返る。

研修が本当の意味でのユーザー視点を考えるきっかけになったと語る石田氏

「研修先は深夜営業の居酒屋さんだったのですが、店内の照明は入力作業をするには暗過ぎますし、お客さまに対応している途中で別のお客さまから声を掛けられることも少なくありません。例えば『多くのお客さまの対応をしなければならない時間帯に、多くの画面遷移を伴うような入力画面はミスのもとになる』というのは、おそらくオフィスにいるだけでは分からなかったと思います」

こうした苦労を伴った「実感」こそが、顧客への共感を育み、優れたプロダクト開発に生かされるのだと菅野氏は考えている。

「飲食店の業務はたくさんありますが、実はその多くは従業員の皆さんの多くの頑張りを前提に成り立っているんです。休憩中や仕事の合間に聞こえてくるちょっとした愚痴や失敗談が、課題発見のヒントになることもあるわけです。こればかりは、現場に居合わせなければなかなか分からないですからね」

“開発”だけではないエンジニアの働きがい

『K1くん』は、およそ国内外の750店舗に導入されており、現在、10名のエンジニアでサポートしているという。多忙な働きぶりが容易に想像できるが、石田氏は同社の職場環境を挙げて、エンジニアとしては以前よりも働きやすくなったと話す。

「前職ではお客さまの顔を見ることはなかったですし、どのように使われているか知る機会さえなかったので、お客さまとの距離が近いところで開発できるのは、とてもありがたいことだと思っています。またアプリラボは、お客さまとの間だけでなく、エンジニア同士の距離も大変近い。技術的な困り事があってもすぐに相談できる環境があるので、仕事はしやすくなったと思いますね。開発だけをしていた頃よりも、仕事への責任感やプレッシャーは増しましたが、お客さまからの対応に応えるたびに信頼関係が深まるので、前職より大きなやりがいを感じているのは確かです」

現在アプリラボでは、既存店舗に導入された『K1くん』に加え、多店舗データをより高速に処理できるようクラウド環境に最適化したバージョンの開発も進行しているという。そのため、エンジニアチームの増強が急務だと菅野氏は話す。

「新規のお客さまには導入をお待ちいただくケースも出始めており、一人でも多くのエンジニアが欲しいというのが実情です。VBやPHPでの開発経験があり、飲食店向けの経営管理システムに関心がある方には、ぜひお会いしたいと思っています」

ピラミッド型の多重下請け構造の中で、プロジェクトの一部にしか関与できず、仕様をただ満たすだけの開発に不満を感じているエンジニアは少なくないはずだ。アプリラボのワークスタイルは、こうした仕事へのフラストレーションを解消し、開発のモチベーションを取り戻す大きな原動力になるかもしれない。

研修現場で実際に『K1くん』のユーザビリティを確かめる

取材・文/武田敏則 撮影/赤松洋太 撮影場所:和ビストロ HANABI

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