“納品物はチームそのもの”。クライアント視点も追及したPMの新たな職責とは?【及川卓也のプロダクトマネジャー探訪】
新卒で楽天に入社。以後、主にWebサービスの分野でUXデザインの専門家としてキャリアアップを実現してきた坂田氏がPivotalジャパンに入社したのは2016年9月。以来、クライアントと一体となったリーン・スタートアップとアジャイル開発の考え方を取り入れた Lean XP ソフトウェア開発に携わってきた。そんな坂田氏との対談で、
■クライアントに提供すべき価値とは?
■PMになるために必要なスキルとは?
■プロジェクトを進める上での最適なツール選定は?
■PMが意識すべきパートナーシップの本質とは?
という4つの軸を中心に、エンジニアがPMを目指すにあたって心掛けるべき姿勢や取り組むべき課題を見いだしていこう。
Pivotalジャパン Product Manager
坂田一倫(さかた・かずみち)氏
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、楽天に就職。UXデザイナーとして多くのサービス改善や新規事業の立ち上げを担当。以後、デザイン会社であるコンセントやリクルートテクノロジーズでもWebサービスの IT 戦略に基づいたユーザー体験の設計と改善を手掛ける。2016年9月にPivotalジャパンへ転職してクライアントと一体となったプロダクト開発を行っている
及川卓也(おいかわ・たくや)氏
早稲田大学理工学部を卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。2015年11月、技術情報共有サービス『Qiita』などを運営するIncrementsに転職。17年6月より独立し、プロダクト戦略やエンジニアリングマネジメントなどの領域で企業の支援を行う
ミッションは自走できるチーム作り。二人三脚で育て上るPivotal流のプロダクトマネジメント
及川 Pivotalジャパンといえば「納品するのはプロダクトではなくて、チーム」というキーワードが印象的だったんですが、かなり特徴のあるサービスを提供しているんですね。
坂田 ソフトウエアの開発はもちろん進めますが、Pivotal Labs が大切にしているのはクライアントにとって「理想のチーム」も一緒につくりあげることです。
及川 クライアントのIT戦略やIT部門向けサービスというと、システムやソリューションの開発とその活用方法の提案が一般的です。その「チーム」というのにすごく興味があるんですが……。
坂田 Pivotal では「ソフトウェア開発そのものを変革する」というミッションとして掲げているのですが、まず大前提としてクライアントには弊社のオフィスに常駐していただき、対象のプロジェクト、ないしはプロダクト開発に100%コミットメントしていただいています。
及川 つまり、IT戦略やIT部門のみならず、プロダクト開発そのものを大きく変える覚悟をしてほしいと?
坂田 そうです。ソフトウェアは常に変化し続けます。そのため、一度きりの開発ではソフトウェアの良さが活かせません。プロダクトそのものはもちろん重要ですが、開発し改善しつづけるチームが維持されていることが何よりも重要だと考えています。そのチームにはクライアントの組織の中で「PM」「デザイナー」「エンジニア」の3人を選出してもらいます。
及川 チームを構成する“人”をまず決めてもらうわけですね。
坂田 はい。そういった3つ役割によって構成されているチームを“バランスチーム”と呼んでいます。そして我々 Pivotal Labs の中でも同じ役割と職責を担うスタッフを決めて、それぞれの役職同士がペアを組み、一緒になって課題を見つけて、その解決のために必要な戦略や取り組みを見いだしていくというプロセスです。
及川 クライアントとPivotal Labs のスタッフとが一緒に取り組むのが原則ですか?
坂田 決められた時間内は共に取り組みます。これを繰り返すことで「PM」「デザイナー」「エンジニア」それぞれが役割と職責を自覚するだけではなくて、Pivotal Labs との共同プロジェクトが終わった後も社内で“自立したチーム”として機能するようになります。
及川 つまり、メンター制のようなシステムで「PM」には「PM」が、「デザイナー」には「デザイナー」が、「エンジニア」には「エンジニア」がそれぞれ役割と職責を身に付けさせていくわけですね。
坂田 そのとおりです。常にペアとなり「I do(まずは私がやってみる)」「We do(次は一緒にやってみる)」「You do(最後はあなたがやってみる)」の3ステップで一緒にプロジェクトを進めていきます。
及川 我々はよく「ユーザーの視点に立って」と言いますけど、 Pivotal Labs の場合はまさに「クライアントとチームとして一体になってユーザー視点に立つ」ですね。
坂田 このような手法や考え方で一緒にプロジェクトを進めていくと、正しいプロダクトを正しく開発していく際に必要なチームとはなにか、がわかるようになります。そこからより伸ばしていくべきところと、課題解決が必要なところを明確に把握することもできるんです。
及川 なるほど。ただクライアントの中にはPMの候補ではあるけれども、まだまだ必要な資質や能力が備わっていない人もいそうです。そんな人にまず坂田さんが求めるのはどんなことですか?
坂田 まず「ファシリテーション力」でしょうか。PMだからと言って一人ですべてを決めるという考え方を可能な限りなくし、チームとして、バランスチームとして取り組むべきことにフォーカスして、チーム全員からアイディアや意見を引き出す力です。そのためにはユーザーはもちろん、ビジネスニーズなど様々な視点に立った課題の設定と優先度に基づく判断が求められます。加えて、プロダクトを成功に導くためのロードマップを描き、その達成へ向けて具体的な戦略を立案していく能力も求められます。
及川 我々は「プロダクトの成功」と「プロジェクト成功」は違うとよく言いますが……。
坂田 やはり対象のプロダクトないしはサービスのユニークな「バリュープロポジション(提供価値)」をまずチームとして確信のある言葉にすることが重要なんだと思います。特にエンジニアとしてのバックグラウンドがあると、技術的なハードルの高さを制約として考えてしまう傾向があると思うので……。
及川 そうそう。あぁ、これは実装するのが大変そうだからやめておこうか……みたいな(笑)。
坂田 そうなんです。もちろん、プロダクト開発において大変重要な視点ではあります。ですが、その議論によって規制をかけてしまう前に、まずはニュートラルな姿勢でプロダクトの存在理由を示す「あるべき姿」を追求していきます。
UXデザイナーとPMの意外な共通項。求められるは“顧客視点”
及川 坂田さんはずっとUXデザイナーとしてWebサービスの分野で活躍してこられたわけですが、UXデザイナーからPMというのは珍しいキャリアパスですよね。
坂田 珍しいとは思いますが、そういったキャリアパスはもっと一般的になってほしいと思いますね。
及川 それはやはりご自身の経験から?
坂田 そうですね。UXデザイナーもPMも関与する範囲が幅広く1人では自己完結できないという点で共通しているので、そんなにかけ離れたものではないと思うんです。
及川 自己完結できない部分はチームのリソースを使ったり、役割分担をしながら?
坂田 そうですね。ただ、UXデザインは常にユーザーありきなので、組織やチームの中で誰よりもユーザーのインサイトを的確に捉え、ユーザー視点を保てる自負はありました。その経験や視点から、組織やチームにはなかった提案をして実際に企画を遂行するPMを務めたこともありました。
及川 なるほど、ユーザーに一番近いポジションというのは強みになりますね。そういう意味では、もっとUXデザイナーからPMを目指す人がいてもいいのかも……。
坂田 これは持論ですけど、日本の企業こそユーザー視点やユーザーと向き合う姿勢をいまいちど大切にすべきだと思います。日本は長く“モノづくり大国”と言われてきましたけど、ITの導入・活用で活性化を目指すのであればソフトウエアのみに頼るべきではないと思っているんです。
及川 なるほど、先ほどの顧客に一番近いポジションから見ると、ですね。
坂田 ええ。ITの導入・活用で組織や事業の活性化を目指すなら、ユーザーからのフィードバックをデータとして収集して分析・解析するだけではなくて“顧客の真の姿”を見いだすべきだと思っています。
及川 顧客をデータとして捉えるのではなく、きちんと向き合うこと。
坂田 僕はよく UX デザインについて話す際に「ユーザーとの共感を得ること」と言うんですが、どんなサービスもビジネスもユーザーからの「共感」を得られなければそもそも必要とされませんよね。かつ、開発しようとしているプロダクトあるいは解決したいユーザーの課題がそもそも正しいかどうかを深く探る必要があるのではないかと考えています。
及川 坂田さんのお話を伺っていると、PMに向いている人っていうのはUXを意識してチームとして開発に取り組める資質や能力と言えそうですね。
「ブレスト中のメールは禁止!」時間を有効活用するためのツール選びとは?
及川 この連載ではいつもPMの方が活用しているツールや発想法を伺っていますが、坂田さんの場合は?
坂田 まず バックログを管理するツールとして Pivotalジャパンのアジャイル開発マネジメントツール『PivotalTracker』は必ず使います。また、我々は TDD で開発を進めているので CI、それを映し出す CI モニターがあります。これらのツールを顧客と一緒になって活用することで実際のプロジェクト管理をどう進めていくかを検証しています。
及川 他にはありますか?
坂田 個人的にタスク管理用に『Trello』を使っていますね。
及川 Trelloは使っている人が多いようですけど、カスタマイズも必要なようですね。
坂田 ええ、実際に使ってみて不便だなとか、もう少し改善した方が……と思った点は開発元にフィードバックしました(笑)。
及川 そこでもUXデザイナーとしての経験とキャリアが活きているんですね(笑)。会議室にはカラーリングの違うポストイットとペンが用意されていますが……。
坂田 そうなんです。アイデア出しをするブレインストーミングやディスカッションの時は全員がこのポストイットに書き出していって、ホワイトボードにどんどん貼りつけていくんです。
及川 ポストイット、いいですよね。ボツになったアイデアはどんどん剥がしていけるし。
坂田 そうなんですよ、剥がして捨ててしまえばもうなかったことになります。Pivotal Labs ではブレインストーミングやディスカッションの会議録も録らないんです。
及川 ということは、ポストイットを貼り出していった結果が全てというわけですね。
坂田 ええ。それに、ブレインストーミングやディスカッション中のケータイやメールも一切禁止です。
及川 クライアントもですか?
坂田 そうです。基本、常にここに来ているメンバーで簡潔する体勢を築いているのでメールをする必要性がまずありません。メールを打つための手間や時間があったら一緒にプロジェクトを進めるように集中しようというスタイルなんです。ブレインストーミングやディスカッション、そしてプロジェクトに取り組んだ結果は全てPivotalTrackerに蓄積していくことで情報が整理され、プロダクトに反映されますから。
移り行く技術の中で、変わることないパートナーシップを
及川 オフィスに卓球台が置いてあって対戦成績も貼り出されていますが、これもクライアントとスタッフとが共に楽しむために?
坂田 そうなんですよ、仕事だけじゃなくて食事も休憩も一緒です(笑)。
及川 ここまで徹底してパートナーシップというかリレーションシップ作りに取り組んでいるのは珍しいですね。
坂田 目指しているのは、“プロジェクト遂行力を持ったチームをクライアントの組織で実現すること”なんです。そのためにはPMとPM、デザイナーとデザイナー、エンジニアとエンジニア同士が緊密なタッグを組んだパートナーになることが大前提です。
及川 そのパートナーシップからチームワークも生まれるというわけですね。
坂田 そうですね。だからこそ、我々が大切にしているのは「Always Be Kind」の姿勢です。仕事も、生活も共にすることでチームワークが強化され思いやりはもちろん、時には真剣に、素直な意見をぶつけ合うことに抵抗はなくなります。そのため、我々スタッフが100%コミットしていることが伝わりますし、それに接してクライアントのチームも真剣な姿勢で臨むようになります。
及川 お互いに真剣な姿勢で臨むからこそ、最短で最善の成果が目指せる?
坂田 そういう効果もありますね。今はPMという立場ですが、これだけ技術の進化と変化が激しい時代ですから、やがて職種もソリューションも大きく変わっていくと思うんですよね。でも、このチームとパートナーシップというマインドだけは変わらないと思っています。
坂田 僕が最初の転職を決意したきっかけは“日本で創業から100年以上続いている老舗企業をもっと数多く生み出したい、そのサポートをしたい”と思ったからなんです。
及川 それがUXデザイナーからPMへのキャリアアップを実現した原点ということですか?
坂田 ええ。創業100年を超える老舗企業はやはり、モノづくりで生き残っています。日本はモノづくりが弱体化したと言われていますけど、ITの導入・活用でかつての“モノづくり大国”を取り戻すだけではなく進化させることができるのではないかと確信しています。技術やソリューション、人の働き方もどんどん進化して変わっていくと思いますが、ITの導入・活用でモノづくり、特にソフトウェア開発を基点に企業が数多く成長していく姿を見たいと思っています。
及川 そして、そのために坂田さん自身も仕事を通してサポートしていくということですね。本日は、とても有意義なお話をありがとうございました。
取材・文/浦野 孝嗣、撮影/佐藤健太(編集部)
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