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お笑い、映像作品、アイドル活動にテクノロジーはどんな影響をもたらすのか【エンタメ×技術を考えるインタビュー】

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2025年、エンターテインメントとテクノロジーの距離はかつてないほどに縮まった。生成AIの急速な進化は、単なる作業効率化の枠を超え、「真のクリエイティビティーとは何か」という問いを私たちに突き付けてくる。

幼少期からありとあらゆるエンタメに親しんできた私にとって、「テクノロジー×エンターテイメント」や「AI時代のクリエイター論」は最も関心のあるテーマ。2025年もさまざまなプロフェッショナルたちの声に触れる機会をいただいた。

今回は、編集部・秋元が担当した記事の中から「エンターテイメント」を主題とした6本を紹介しよう。

AI時代の「お笑い」を考える

日本を代表するエンタメの一つであるお笑い。私も休日には劇場に足を運び、賞レースの決勝ともあればテレビにかじりつく(行けるものなら予選も観に行く)くらいにはお笑いが好きだ。

さまざまな表現活動にテクノロジー、特にAIが活用されつつあるが、お笑い業界の最前線で活躍する人々は、この流れをどう見ているのか。そしてお笑いという文化に、テクノロジーはどんな恩恵をもたらしてくれるのか。

3本の記事から、お笑いの“今”を垣間見ることができるはずだ。

AIは笑いを理解できるのか? ビスケットブラザーズが感じたAIの足音と「生身の俺から出る“変さ”」の強さ

「お笑い力が高いのは人間かAIか。世紀の大決戦が今始まる!」

よしもと幕張イオンモール劇場で開催されたお笑いライブ『お笑い大戦争 芸人vsAI』の説明文らしいそれを目にした瞬間、「これは行かねばならない」と謎の使命感に駆られ、取材の機会をいただいた。対応してくれたのは、キングオブコント2022王者のビスケットブラザーズのお二人だ。

ビスケットブラザーズのお二人

あらゆる物事がAI化していく中で起こりやすい「人間の価値とは」という議論について、お二人はこう語った。

原田さん

例えば、僕という人間の能力が全部AI化されて、ピッタリ同じ中身になる……っていう未来はそう遠くないかもしれないですけど、それは僕ではないと思うんですよね。正確に言うと、33年間生きてきた原田ではない。

「風呂に入らへん」とか「公園で寝てた」とか、「こいつありえへんやろ」っていう要素は、生まれてからの33年間にあるものだから。生きてきた過程って、ある程度見た目にも出ると思うし。

きんさん

僕もほぼ同じ感覚ですね。例えば企画で罰ゲームを受けることになったとして、AIに「嫌がっていた方がウケる」って学習させてリアクションをとらせることは、多分もうできますよね。でも、僕らはほんまにイヤやから嫌がっているんで、そういう感情の部分は、まだ生身で戦えるんやないかなと思います。

AIアプリに課金をしてネタの相談をする芸人も出始めている昨今、仕事でAIを使うことはほぼないというお二人。後半では、持ち味でもある「生身」以外の武器を用いたネタの構想についても明かしてくれた。

AIは笑いを理解できるのか? ビスケットブラザーズが感じたAIの足音と「生身の俺から出る“変さ”」の強さ type.jp
AIは笑いを理解できるのか? ビスケットブラザーズが感じたAIの足音と「生身の俺から出る“変さ”」の強さ

■ 編集担当・秋元より

最新のテクノロジーに飛びつくことも、かといって否定することもなく、「ちゃんと見て、丁寧に取り入れていきたい」と語ったビスケットブラザーズさん。人間らしさが魅力のお二人のネタに、技術や新たなプロダクトが活用されたら、と想像すると期待が膨らみます。

取材の最後で教えてくださったとある“モノ”を使うコントのアイデアが実現する日が楽しみです!

“人間味”が愛される今、ロングコートダディが貫くもの「先人を真似ない、自分たちだけの道を探したい」

ビスケットブラザーズのお二人

あらゆる物事の変化の速さが取り沙汰される中でも、上手くその波を乗りこなしているように見える。そんな不思議な魅力を持つ実力派お笑いコンビ・ロングコートダディ。2025年はキングオブコントで悲願の優勝を果たし、彼らの面白さをより一層知らしめる一年となった。

芸歴17年。コンビ結成から今日に至るまでの間に、世間が「お笑い」に求めるものも少しずつ変わってきているように思えるが、当の本人たちはどう感じているのか。聞くと、それぞれ次のように実感を明かした。

堂前さん

「人間らしさ」が求められている感じはしますね。ドッキリが人気なのも、人間らしさが出るからやと思う。AIにドッキリしても、まだそこまで面白くないはずやから。

兎さん

僕らが芸人を目指した頃って、芸人には「プロっぽさ」みたいなものが求められていた気がするんですよね。「お笑い芸人」という職業のプロとして、漫才の上手さとか、笑いに関する技術が必要だったと思うんですよ。

でも今は、堂前が言ったように人間らしさが重要だから、一種のキャラクター性がいるんかも。技術が高い人は増えたし、その人らしさがある方がみんなに好きになってもらえるんかな。

一人一人、一組一組にオリジナリティーが求められるようになっているとしたら、二人が思う「ロングコートダディらしさ」とは何なのか。時代に合わせて何をアップデートし、そして何を貫いていくのだろうか。しなやかでいて芯が通った二人の言葉が印象的なインタビューだ。

■ 編集担当・秋元より

ChatGPTを「チャッピー」と呼ぶ人が多いということに興味を示す兎さんに、AIの進化に話が及ぶと「人間はもう終わり」と終焉を語りだしそうになる堂前さん。時折互いの回答に笑い合いながらも、真剣に「テクノロジーとお笑い」というテーマについて話してくださったことをよく覚えています。

キングオブコントの決勝前に実施した今回のインタビューでは、「優勝」が実現した先で挑戦したいと思っていることについても答えてくださいました。ぜひ最近の様子と照らし合わせながらご一読ください!

“人間味”が愛される今、ロングコートダディが貫くもの「先人を真似ない、自分たちだけの道を探したい」 type.jp
“人間味”が愛される今、ロングコートダディが貫くもの「先人を真似ない、自分たちだけの道を探したい」

漫才・コントを「面白いまま」翻訳するAIサービス開発チームが明かす、言葉の“正しさ”よりも重要だったこと

『CHAD 2』

提供:FANY

ビスケットブラザーズやロングコートダディが所属する吉本興業グループであるFANYが、とあるAIサービスを開発していることをご存じだろうか。お笑い特化型の翻訳AIサービス『CHAD 2』だ。

ボケとツッコミ、面白さを高めるための「間(ま)」、関西弁や造語、同音異義語を駆使した言葉遊びなどなど、日本特有ともいえる漫才やコントを「面白いまま」翻訳するハードルが高いことは、プロでなくとも想像に難くない。

事実、従来の翻訳ツールでは「正しくも面白くもない」ような翻訳になる可能性が高かったが、ブレインパッド社の協力のもと開発された『CHAD 2』は、「笑い」を損なわずに翻訳することが可能だという。

話を聞いていくと、面白さを保つヒントは、言葉の正しさ以外の部分にあることが分かってきた。

LLM開発&バックエンド担当・武井さん

(開発にあたっては)お笑い関連の翻訳家や作家の方々にも繰り返しヒアリングを行い、机上だけでは得られないフィードバックを積極的に取り入れていきました。

翻訳の内容以上に「間の取り方」や「字幕を表示するタイミング」が重要だということが分かったことが大きな収穫でしたね。

海外向けのコメディショーを観た際も、「何を言うか」よりも「どのタイミングで言うか」が笑いにつながっていることが見て取れましたし、翻訳家にも「まずは字幕の出し方を突き詰めていった方がいいです」とアドバイスをいただきました。

前例のないお笑い特化型の翻訳AIサービス開発に挑んだチームのインタビューを通じて、お笑いという文化を世界に誇るものに育てていこうとするエンジニアたちの情熱をぜひとも感じていただきたい。

漫才・コントを「面白いまま」翻訳するAIサービス開発チームが明かす、言葉の“正しさ”よりも重要だったこと type.jp
漫才・コントを「面白いまま」翻訳するAIサービス開発チームが明かす、言葉の“正しさ”よりも重要だったこと

■ 編集担当・秋元より

数値化できない「面白さ」を、どう再現するのか。取材前は全く想像ができませんでしたが、その地道な努力の積み重ねを聞いて頭が下がる思いでした。開発チームが一丸となり、「笑い」に対する理解を深めながら情熱をもって開発に取り組んできた様子が感じ取れる記事になっているかと思います。

一言では説明し尽くせない「翻訳」「字幕」サービスの奥深さを感じ取っていただけたら嬉しいです。

「映像」とテクノロジー

アニメーション制作にはテクノロジーの活用が欠かせないと言っても過言ではない。近年ではゲーム作品の映画化も目立つようになってきた。もはや、「映像」とテクノロジーは切っても切り離せないものとなっている。

ここでは、作り手であるクリエイターと、表現者であるエンターテイナーの双方の記事を紹介しよう。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』生みの親・亀山陽平が明かす制作裏「限りあるリソースを嘆かずに“上手く”やる」

2025年7月にテレビ放送が開始されたアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』。宇宙空間を走る「惑星間走行列車」を舞台に、キャラクターたちが事件に巻き込まれていく作品だ。

9月18日に最終回を迎えたものの、2026年2月6日には劇場版として『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』の公開を予定しており、その熱狂は冷めることを知らない。

この作品を生んだのは、3DCGアニメーション作家の亀山陽平さん。監督・脚本・キャラクターデザイン・モデリング・アニメーション・編集に至るまでの制作工程をほぼ一人で担当しているというから驚く。

亀山陽平さん

「日本で愛される国産3DCGアニメーションを作りたかった」と制作背景を語る亀山さんは、アニメーション制作の現場におけるテクノロジーの普及をどう感じているのだろうか。

亀山さん

アニメーション制作に限らず、新しい技術の問題点がよく議論されないまま社会に広がっていくことに対しては、正直なところ不安な気持ちもあります。ただ、AIが発展していく様子を見ていると、近い将来にはAI抜きでアニメを作るのは難しくなるかもしれないと思うのも事実です。

亀山さん

アニメーション制作についていえば、AIって「クリエーティブ」の領域に強い気がするんですよ。キャラクターデザインだったり、シナリオ制作だったり。でも、この作業が好きでアニメを作っている人はたくさんいると思うんです。

僕もその一人なので、一番楽しいところは自分でやりたい。だから、クリエーティブに関する部分は今後も自分で行って、その他の大変な作業をAIに頼めるようになったらいいですね。

その他、本作に込められたこだわりや工夫も聞いた今回のインタビュー。作品ファンはもちろん、アニメーション制作に関心を持つ人、携わっている人にも広く読んでいただけたら幸いだ。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』生みの親・亀山陽平が明かす制作裏「限りあるリソースを嘆かずに“上手く”やる」 type.jp
『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』生みの親・亀山陽平が明かす制作裏「限りあるリソースを嘆かずに“上手く”やる」

■ 編集担当・秋元より

技術的制約との向き合い方について真摯に答えてくださったことが印象に残っています。クリエイターの方のこだわりを聞く機会は多いですが、亀山さんが明かしてくださった「上手くごまかす」というテクニックに、限られたリソースの中で最大のアウトプットを生み出すプロフェッショナリズムを感じた取材でした。

クリエイターの方にとっては自身の権利を脅かす存在にもなりかねないとされるAIやテクノロジーについて、率直な考えを聞かせていただいたことで、私自身も刺激を受けました。

【二宮和也】途方もない状況で「最悪、終わらなくてもいい」と思える理由/映画『8番出口』

2023年にインディーゲームクリエイター・コタケ(KOTAKE CREATE)さんが個人開発したウォーキングシミュレーター『8番出口』。このゲームを原作とする実写映画で主人公を演じたのは、アイドルグループ・嵐のメンバーである二宮和也さんだ。

二宮和也さん

特筆すべきは、二宮さん自身が大のゲーム好きである点。多くの映像作品に挑む中で、「ゲーム」は二宮さんにとってどのような存在なのか。

二宮さん

これまでの人生を振り返っても、僕はずっとゲームをし続けてきたタイプの人間なので、すでに生活の一部になっています。

昔は呼吸するように自然とゲームをしていた感覚で、言うなれば息抜きに近かった。でも、最近はゲームとの付き合い方も変わってきているかもしれません。

二宮さん

今はもっと、人生と連動している気がする。例えば、冒険してフィールドを広げていったり、仲間を増やしていったり……そういうゲームをやりたくなるときって、私生活でも同じ願望があるときなんですよね。

ゲームの中で冒険しながら、現実世界でも「新しいことに挑戦したい」と思ったり、新しい作品作りのための仲間を集めたいと考えたりしている。だから、自分が今何をしたいのか、どんな気持ちなのかは、選んだゲームが教えてくれるんです。

今も昔もゲームが好きなことに変わりはないけど、最近は「助けられているな」と思うことが多いですね。

記事内では、「脚本協力」としても携わった本作撮影時のエピソードや、より深い仕事観についても明かしてくれた二宮さん。ぜひその柔らかくも胸に響く言葉に耳を傾けていただきたい。

【二宮和也】途方もない状況で「最悪、終わらなくてもいい」と思える理由/映画『8番出口』 type.jp
【二宮和也】途方もない状況で「最悪、終わらなくてもいい」と思える理由/映画『8番出口』

■ 編集担当・秋元より

多くの人の心を掴んだゲーム『8番出口』。私自身、本作が実写化されると聞いて期待に胸を躍らせた一人です。記事では、ゲーム『8番出口』が人々を虜にした要因を振り返っています。

いつたどり着くかも分からない出口を目指す主人公に照らし合わせ、多くの仕事と向き合う中で「見えない出口」に思いをはせることはないのか……との質問に対する二宮さんの言葉は、多くの人の背中をそっと押してくれるものだと感じています。

アイドルと共に生きるAI

エンターテインメントの中でも、とりわけ「生身の人間」としての魅力が重要となるアイドル。ステージ上のきらめきや、声ににじむ感情、成長の過程そのものを応援する体験。そこには、データ化しきれない“人”そのものの力がある。

そんな領域だからこそ、テクノロジー、とりわけAIとは最も遠い場所にあるようにも思える。しかし今、そのアイドルカルチャーのど真ん中で、AIと共に新しい表現や関係性を模索する試みが始まっている。

村上信五「AIには“完璧”を求めない」AIシンゴに見る、不完全さを許容するプロジェクト推進の強さ

アイドルグループ SUPER EIGHTのメンバー・村上信五さんが、自身をモデルとしたバーチャルタレント『AIシンゴ』を開発ーーそのニュースはファンを中心にエンタメ業界の各方面から注目を集めた。

エンジニアtypeでは、2025年6月に東京グローブ座にて上演された舞台『笑う門にはデジ来タル〜SHIN – GO!〜』の公開ゲネプロ(最終リハーサル)に潜入。村上さんとAIシンゴのリアルタイムでのコミュニケーションや、即興での作詞・作曲、“二人”による漫才など、まさに村上さんの分身のように振る舞うAIシンゴの姿を目の当たりにした。

村上信五さんとAIシンゴ

村上さんは、ゲネプロ後のトークセッションでAIシンゴに込めた思いを語ってくれた。

村上さん

僕たちの活動は、コンサートやイベント、ミュージカルなどの舞台が根幹です。最近ではSNSやYouTubeでもファンの方との交流ができるようになってきましたが、生身の人間がやるには限界があります。

そして僕自身を“アイドル”として考えたときに、こちらは当然ながら歳を取っていくわけですよね。<中略>だったら、2024年モデル、2025年モデル……と定期的に作っていけばいつまでも楽しんでもらえるんじゃないか、と思ったんです。

もちろん、『僕はもう引退するからAIが頑張ってくれ』ということではありません。AIシンゴとのコミュニケーションを楽しんでもらいつつ、引き続き僕自身も活動していくことでファンの方の喜びを倍にしていきたい。それが一番の望みですね。

「生身であること」の価値を手放すのではなく、あえてAIと並走することで生まれる可能性に挑んだ村上さん。その根底にあるのは、ファンに対する深い愛だ。「エンタメ×AI」の未来に一筋の光が差し込むような、期待が膨らむトピックだった。

村上信五「AIには“完璧”を求めない」AIシンゴに見る、不完全さを許容するプロジェクト推進の強さ type.jp
村上信五「AIには“完璧”を求めない」AIシンゴに見る、不完全さを許容するプロジェクト推進の強さ

■ 編集担当・秋元より

上記でも記載している通り、村上さんからのファンに対する思いが随所に表れていたことに感服したゲネプロでした。アイドルとして誠実にファンと向き合うための方法として、自らの意思でテクノロジーの活用を模索する村上さんの姿勢に脱帽です。

記事公開後、ファンの方々にも村上さんのメッセージが届いている様子がSNSでうかがえて、村上さんとファンの間に確かな信頼関係があると感じ、胸が熱くなりました。

エンターテインメントやクリエイティブな活動においては、AIは時にネガティブな要素となり得るのが実情だ。しかし、技術革新やルールの整備が着実に進む中で、作り手や表現者たちの活動を広げるような事例がきっと増えていくだろう。エンジニアtypeでは、今後もそんなニュースを取り上げていきたい。

文・編集/秋元 祐香里(編集部)

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