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習慣化には「差分を見つけ出す力」が重要? 14年間毎日パンダを撮影したエンジニアにみる“三日坊主”卒業のカギ

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    新年に立てた目標が、早くも三日坊主になりかけてはいないだろうか。

    「今年こそ」と意気込んでも続かないのは、あなたの意志が弱いからではない。継続を「努力」の枠組みで捉えてしまっているからかもしれない。

    14年間、雨の日も、仕事が立て込む日もパンダを撮影し、ブログ『毎日パンダ』を更新し続けてきたエンジニアの高氏貴博さんは、「続けようと決意したことは一度もない」と言い切る。

    高氏さんを毎日動物園へと向かわせたのは、強靭な精神力ではなく、昨日との違いを見つけることを楽しめる力だった。一見、趣味の極致に見えるその歩みから、激変するIT業界で自分を飽きさせず、パフォーマンスを維持するための「習慣術」を探った。

    毎日パンダ運営者-高氏貴博

    クラシノ株式会社
    エンジニア 高氏貴博さん

    ブログ:毎日パンダ
    Twitter:@mainichipanda
    Instagram:mainichipanda

    「続けるつもり」は、最初からなかった

    14年間、ほぼ毎日パンダを撮影し続けてきた——そう聞くと、強い意志や明確な目標があったように思えるかもしれない。

    だが、高氏貴博さんは、そのイメージをきっぱり否定する。

    「続けよう、なんて考えたことは一度もありませんでした」

    高氏さんが上野動物園に通い始めたのは、2011年8月のこと。Web制作やマーケティングを手がけるエンジニアとして忙しく働く中で、ふと気分転換に立ち寄ったのがきっかけだった。

    「最初は、ただパンダが面白かったんです。 一頭一頭で表情も動きも全然違うし、竹の食べ方にも好みがある。見ていて飽きなかった」

    その「面白さ」に突き動かされた高氏さんの日常は、端から見れば驚異的だ。毎朝8時半に動物園へ出かけ、開園から約3時間パンダを観察・撮影してから出社する。業務を終えて帰宅した後は、さらに2時間かけて膨大な写真からベストショットを選び抜き、ブログを更新する。このサイクルを、彼は14年間、4000日以上も繰り返してきた。

    パンダを撮影する高氏さん

    いくら面白いとはいえ、なぜそこまで続けたのか。それは、昨日とのわずかな「違い」を見つける楽しさだった。

    「今日は左手で竹を持っているな」「昨日は食べなかった皮を、今日は剥いて食べているな」 そんな小さな変化(差分)を発見する面白さが、結果として彼を翌日も動物園へと向かわせた。

    習慣化の正体は、強靭な精神力ではない。対象を細かく観察し、昨日との違いを楽しむ。その「面白がりの解像度」を上げることが、努力を努力と感じさせないまま、14年という歳月を積み重ねさせたのだ。

    物理的な制約を「思考のスイッチ」に利用する

    パンダの観覧には、時に数時間並ぶ必要がある。特にシャオシャオとレイレイの中国返還が迫る今、開園前の数時間はただ待つだけの時間になりがちだ。しかし、高氏さんはこの環境を、「デスク以外でもできる仕事を進める時間」に利用している。

    「開園を待つ列の中でノートPCを開いて、進められる仕事をこなしています。列の中では、主にメールの返信やドキュメント作成、一日のタスク整理といった、定型的な作業を片付けています。重いコーディングやデザインは、環境の整ったオフィスで行う。そうやって場所によって作業の種類を明確に分けることで、オフィスに着いた瞬間、すぐにメインの業務にフルスロットルで入れるんです」

    インタビューに応える高氏さん

    「以前は出社してからエンジンがかかるまで時間がかかっていました。でも今は、列に並んでいる間に細かなタスクが片付いている。開園後にパンダを見てリフレッシュした状態でデスクに向かえば、あとはメインの仕事に没頭するだけ。このリズムが、結果として仕事の精度を高めてくれたと感じています」

    もともと朝は苦手なタイプだったという高氏さん。しかし今では、この「行列ワーク」が一日で最も集中できる時間だという。

    「パンダに会えるという確実な報酬が直後に控えているからこそ、驚くほど集中できるんです。そして、その趣味を継続するためには、仕事で穴を開けることは絶対に許されない。パンダに会い続けるために、いかに仕事の密度を上げるか。その意識は高く持つように律することが周囲からの信頼を損ねないように気を付けています」

    習慣を止めないための、レッサーパンダという選択

    そんな14年間に及ぶ『毎日パンダ』の日常に、かつてない変化が訪れようとしている。2026年1月、上野動物園のシャオシャオとレイレイが中国へ返還されるのだ。それは、高氏さんにとって14年間積み上げてきた日常の「柱」が、物理的に失われることを意味する。

    上野動物園のパンダ シャオシャオ

    国内のパンダは上野動物園のシャオシャオとレイレイの2頭だけだったが、返還されることで日本からパンダがいなくなる。

    「上野にはパンダがいるのが当たり前と思っていたので、いなくなるなんて夢にも思っていなかった。考えれば考えるほど、ただ悲しいですね」

    ここ最近の国際情勢を背景に、「日本に新しいパンダは当面来ないかもしれない」という見方もある。そんななかで『毎日パンダ』の更新はどうなるのか。

    「やめるつもりは全くありません。近い将来、また新しいパンダが上野に来てくれるだろうという希望を持って、これからも続けていきたいと思っています」

    当面は、撮りためた写真の整理に時間をかける予定だ。1日数千枚撮影しても、ブログに載るのはせいぜい100〜200枚。日の目を見なかったカットを少しずつ紹介しながら、これまで通り上野動物園にも通い続ける。

    「しばらくはレッサーパンダを撮ろうかなと思っています。前から好きで見てきた存在ですし、何より、これで上野に通うのをやめてしまったら、せっかく身に付いたこの『リズム』が完全に崩れてしまう。それが怖いんです」

    もともと朝が苦手だった高氏さんが、14年かけて手に入れた「早起きし、開園前の列で仕事を片付け、パンダを見てから出社する」という生活。それはパンダという強烈な存在があったからこそ構築できた、彼自身のコンディションを支える「型」そのものだ。

    「いったん崩れたリズムを元に戻すのは、本当に大変ですから。いつかまた新しいパンダが上野に来てくれる日が必ず来る。その時、自分が寝坊助な生活に戻っていたら、彼らを迎えることができないじゃないですか。その日が明日来てもいいように、自分自身を『パンダがいつでも撮れる状態』に維持しておきたいんです」

    Webサイト 毎日パンダのトップページ

    『毎日パンダ』は収益化はしておらず、「パンダの可愛さやおもしろさを伝えたい」という純粋な思いで続けている。ブログをきっかけに上野動物園を訪れる人や、「毎日、パンダに会っているような気持ちになります」とメッセージを寄せる読者も少なくない。

    「毎日上野に行く」というマイルールを守るため、これまでは遠出を控えてきた高氏さん。だが今は、「機会があれば、中国まで会いに行きたいですね」とはにかむ。

    もし、新年の目標が続かないと悩んでいるなら、立派なゴールを立てるのを一度やめてみてはどうだろうか。

    まずは高氏さんのように「自分を面白がらせるための、小さな差分」を探し、自分のリズムを刻むことから始めてみる。その積み重ねこそが、変化の激しい業界で自分を見失わずに生きていくための、最強の武器になるはずだ。

    上野動物園を歩く高氏さん

    文/福永太郎、玉城智子(編集部)、撮影/桑原美樹、編集/玉城智子(編集部)

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