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「若者よ、技術と資本をぶんどってこい」河野太郎はなぜ、AI時代に“早く世界で叩かれろ”と言うのか?

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実装の自動化が進み、開発の物理的境界が消失するこの「AI前提時代」において、エンジニアが最も警戒すべきは、技術力の不足ではない。「日本市場という、居心地の良いガラパゴス」に自らを最適化し、思考を停止させてしまうことだ。

「日本に留まることは、もはやリスクでしかない。世界へ行き、知見と資本をぶんどってくるくらいがちょうどいい」

そう断言するのは、数々の要職を歴任し、デジタル大臣として世界のDXを目の当たりにしてきた河野太郎さんだ。

なぜ、同じ努力をしてもBTSは勝ち、AKB48は世界を席巻できなかったのか。
なぜ、日本のスタートアップは世界の投資家から「不思議な人たち」と冷笑されるのか。

河野さんが語った、綺麗事一切抜きの生存戦略を紹介しよう。

※本記事は、東大生を中心とした27卒・28卒のエンジニア学生145名が参加した、日本最大級の大学生向けAIキャリアフェス「AIチャレンジャーズフェス2025」の取材記事です。基調講演・河野太郎登壇「AI時代をどう生きるか」(聞き手:TBS「東大王」レギュラー・後藤 弘)より一部抜粋、編集して紹介しています。

プロフィール画像

【話し手】
衆議院議員 元デジタル大臣
河野太郎さん(@konotarogomame

慶應義塾大学を経て、米ジョージタウン大学を卒業。1986年に富士ゼロックス(現:富士フイルムBI)入社後、在宅勤務の黎明期における実証実験や、シンガポール赴任時の東南アジア向け商品企画や新商品の市場導入を指揮した。1996年衆議院議員初当選。外務大臣、防衛大臣、デジタル大臣などの要職を歴任。行政DXやAI政策の旗振り役として知られ、テクノロジーへの深い知見と国際感覚を武器に、デジタル前提の社会改革を一貫して推進している

プロフィール画像

【聞き手】
株式会社bestiee 代表取締役CEO
後藤 弘さん(@kou_goto_

開成高校を経て、東京大学工学部を卒業。現在、同大学院工学系研究科に在籍中。TBS『東大王』のレギュラーメンバーとして活躍したほか、「ミスター東大コンテスト2023」ではグランプリを受賞。2024年3月に株式会社bestieeを創業し、AI×人材領域で事業を展開。AI面接対策ツールの開発など、次世代の就活支援に取り組む。Forbes誌「2026年に注目すべき100人」に選出。本イベント「AIチャレンジャーズフェス」の主催を務めるなど、学生と社会を繋ぐ次世代リーダーとして精力的に活動している

AKB48とBTSの差は「努力の量」ではない

「AIという破壊的技術を前に、我々はどう生き残るべきか」

当日、聞き手を務めた後藤弘さんから投げかけられた、参加学生たちの切実な問い。、これに対し、河野さんは日本のアイドルグループAKB48と、世界を席巻したBTSを例に挙げ、こう切り出した。

「両者は同じように、血の滲むような努力を重ねてきたはずです。しかし、得られた結果にはあまりにも大きな差が生じました。なぜか。それは最初から80億人を相手にしようと思っていたか、あるいは1億2000万人でいいやと思っていたか。その差が、結果として残酷なまでに表れたのです」

これは、エンジニアにとっても決して他人事ではない。 あなたが今磨いている技術、設計しているサービス、書いているコード。それは最初から「世界」というマーケットを見据えたものだろうか。それとも、慣れ親しんだ「日本国内」という心地よい閉鎖空間に最適化されたものだろうか。

河野さんは、この「ターゲット設定の差」こそが、AI時代の勝者を分かつマインドセットであると断言する。

英語は「ツール」ではなく「生身の武器」である

世界に目を向けた時、避けて通れないのが、言語の壁だ。昨今、AIによる翻訳技術の精度は飛躍的に向上している。しかし、河野さんは「自動翻訳があるから英語を学ばなくていい」という安易な風潮に、あえて釘を刺す。

AI時代の英語力を説く河野太郎

「仕事の合間のコーヒーブレイクや、何気ない雑談の瞬間。いちいち自動翻訳機を介さずとも、生身の人間としてやり取りができるスキル。それが決定的に重要です」

エンジニアの世界において、最新のドキュメントやライブラリ、グローバルな議論の場はすべて英語が標準だ。しかし、河野さんが強調するのは、さらに一歩先の「コンテクストを共有する力」だった。

意見が異なる相手とも直接対話し、信頼関係を築くコミュニケーション能力。それが英語という共通言語の上に乗って初めて、1.2億人の枠を突破するための武器となる。

「AI時代であってもなくても、最後は人と人。世界へ羽ばたける人間になるためには、この生身のスキルこそが土台になるのです」

「日本に留まる」という損失は大きい
知見がある場所へ行き、その資本をぶんどれ

AI開発において、日本は世界に遅れをとっているのではないか。

そんな悲観論が漂うなか、河野さんはエンジニアのキャリア形成において極めて合理的な、ある種「ドライ」とも言える解決策を提示した。

それは、「日本という国に固執しない」という選択だ。

莫大な投資が行われている場所へ、物理的に飛び込め

「今、他の国でAIに莫大な投資がされているのであれば、そこへ行けばいい。そこへ行って、自分もその投資を受け、その研究費を使い倒して、何かを成し遂げればいいんです」

河野さんの言葉は明快だ。エンジニアにとって、最高の開発環境や膨大な計算リソース、そして潤沢な資金は何物にも代えがたい「武器」である。もし、そのリソースが日本国内よりも海外に偏在しているのなら、場所を移してその知見を「ぶんどってくる」ことこそが、個人の成長を最大化させる最短距離となるというのだ。

「皆さんのような若い人たちが最初から日本という枠をはめてしまうのは、大きな損失です。金があるところへ行き、その金を奪ってくる。それくらいの気概で全く問題ありません」

若者よ海外へ行ってこいと説く河野太郎

「本社は日本、市場は世界」がエンジニアの鉄則

もちろん、誰もが今すぐ海外へ移住できるわけではない。しかし、河野さんが警鐘を鳴らすのは、「物理的な場所」以上に「思考の枠組み」だ。

「将来的に日本の企業のトップや政治家になるのであれば、日本の中でどうするかという議論になるでしょう。しかし、たとえ本社が日本にあっても、市場は常に世界です」

特にAIのようなボーダレスな技術領域において、ドメスティックな視点に終始することは、自ら賞味期限を早めることに等しい。設計の初期段階から「これは世界で通用するアーキテクチャか?」「グローバルなユーザーの課題を解決しているか?」と自問自答し続けることが重要だと示唆している。

「日本国内でどうしよう、と枠を決めて思考を絞り込むことだけは、今日を限りにやめてもらいたい」

河野さんのこのメッセージは、技術を「自国のため」という狭い考え方から解放し、もっと純粋に、世界標準のフィールドで戦うべきだという、エンジニアへの強烈なエールでもある。

なぜ日本のスタートアップは「特殊すぎる市場」に固執するのか?

エンジニアや起業家が新しいプロダクトを世に送り出すとき、まず「身近な日本市場で実績を作ってから、いずれ世界へ」と考えるのは、一見すると堅実なステップに思える。しかし、河野さんは「この順序こそが致命的なミスリードを生んでいる」と指摘する。

日本市場という「特殊すぎる実験場」の罠

デジタル大臣として、世界中のスタートアップやベンチャーキャピタリストと対話を重ねてきた河野さん。後藤さんから「日本の若者が世界で勝つために障壁となるものは何か」と問われると、彼らが抱く共通の疑問を代弁した。

河野太郎さんに質問する東大王 後藤弘さん

「彼らはみんな不思議がっています。『なぜ日本のスタートアップは、まず日本市場を取りに行くのか?』と。外から見れば、日本市場は極めてユニーク(特殊)です。その特殊な市場に最適化して成功したとしても、いざグローバルへ打って出たとき、そこは全く異なるマーケットであることに気づかされる。日本での成功体験が、グローバルでの成功を保証しないどころか、足かせにすらなり得るのです」

エンジニアにとっても、これは深刻な問題だ。日本特有の商習慣や法規制、言語の壁に守られた「ガラパゴスな仕様」を実装することに時間を費やすことは、世界標準の技術スタックやUXから遠ざかることを意味するからだ。

最初からグローバルを獲れば、日本は「おまけ」で付いてくる

河野さんは、欧州の小国やアジア、中近東のスタートアップの戦略を例に出し、視点の切り替えを訴えた。

「彼らは最初から、EU全体やアメリカ、あるいはグローバルマーケットを取りに行きます。市場規模が小さい自国を相手にしても勝負にならないことを知っているからです。そうして世界でシェアを獲れば、自国市場なんていうのは後からいくらでも付いてくる。なぜ日本だけが、この逆のステップを踏もうとするのでしょうか」

この指摘は、プロダクトのロードマップを描くエンジニアにとって非常に重い。AIという、コピーコストが限りなくゼロに近く、瞬時に世界中に広がる技術を扱っているならなおさらだ。

「言葉の壁」を言い訳にするフェーズは終わった

さらに、河野さんは日本人がグローバル進出を躊躇する最大の理由についても一刀両断した。

「よく『言葉の壁があるから外に出ていけません』という人がいますが、この21世紀にそんなことを言っているなら、もう最初から競争を辞めた方がいい。世界にはどんな課題があり、どんなマーケットがあるのか。それを常に見続けること。そして、どこから情報を取るかという日頃の行動から変えていかなければならない」

エンジニアがGitHubや公式ドキュメントで英語に触れるのは日常茶飯事だが、それは単なる情報収集に過ぎない。河野さんが求めているのは、その先にある「世界の課題を直接解決しに行く」という当事者意識なのだ。

「20代の敗北」には価値がある。早めに世界標準で叩かれろ

若者よ失敗してこいと鼓舞する河野太郎

エンジニアとしてのキャリアを考えるとき、我々はつい「失敗しないための最短ルート」を探してしまいがちだ。しかし、河野さんは最後に、若さの最大の武器は「リカバリーの速さ」にあると強調した。

50歳で海外へ放り出される悲劇を避けるために

河野さんは、自身が20代でアメリカに渡り、その後シンガポール駐在などを通じて「外の視点」を体得した経験を振り返りながら、若者にこう訴えた。

「早いうちに海外へ出て、世界標準で戦うとはどういうことか、身をもって体験してほしい。若いうちは体力もあるし、たとえ叩かれても、そこから這い上がる余裕がある。これが50歳になってから『お前、明日から海外に行け』と言われても、もう右も左もわからず、立ち直るのは非常に厳しいでしょう」

エンジニアにとっても同様だ。日本のコミュニティの中だけで「すごいエンジニア」と称賛されて満足するのではなく、シリコンバレーやグローバルなオープンソースコミュニティなど、世界中の才能がひしめく「プレミアリーグ」に自分を置いてみる。そこで自分のコードが、自分の設計が、世界標準でどこまで通用するのかを早いうちに確認すること。

「世界でやるのはやっぱり荷が重かったな、と気づくこともまた、立派な収穫です。何が足りないのかが明確になれば、それを身につけてもう一度挑戦すればいい。その試行錯誤ができるのが、20代の特権なのです」

AI時代だからこそ、利害を超えた「生身の友人」を大切に

AI時代こそ生身の友人が重要と語る河野太郎

河野さんの熱を帯びたメッセージの締めくくりは、意外にもデジタルとは対極にある「友情」の話だった。

現役の東大院生であり、自らスタートアップを経営する後藤さんの姿に、かつての自分を重ねたのかもしれない。

「社会に出てから知り合う人は、どうしても損得や利害関係がついて回ります。でも、学生時代や若い頃に知り合った友達は違う。肩書きや成功の度合いに差が出ても、なんとなくほっとできるし、困った時に損得抜きで助け合える。それは一生の財産です」

AIによって多くの作業が自動化され、人間関係さえも最適化されていく時代。だからこそ、河野さんは「生身の信頼」の価値を説く。

「リスクを恐れずに挑戦すること。そして、今まで築いてきた友情を裏切ることなく、大事にすること。この二つを忘れないでほしい」

若者にエールを送る河野太郎

撮影/桑原美樹 文・編集/玉城智子(編集部)

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