Twitterクライアント『モバツイ』開発者であり、2012年11月に想創社(version2)を設立した有名エンジニア・えふしん氏が、変化の激しいネットベンチャーやWeb業界の中で生き残っていくエンジニアの特徴を独自の視点で分析
スタートアップ一桁社員のススメ【連載:えふしん】
藤川真一(えふしん:@fshin2000)
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後、想創社(version2)を設立しiPhoneアプリ『ShopCard.me』を開発。2014年8月1日からBASE(ベイス)株式会社のCTOに就任
ちょっと前に自分のブログで、スタートアップの人材採用における記事を書きました。スタートアップが開発者を採用するにあたって、開発言語の選択がすごく大切なのではないか!? という話でした。
この記事に対して、はてなブックマークのコメントで非常に興味深い反応が返ってきました。わたしの解釈で、いくつか要約させていただくとこんな感じ。
・スタートアップは「スピード重視のブラック企業」と思っている人がいそう。相応のお給料を出さないと来てくれないのでは!?
・スタートアップは何でもできるエンジニアが求められる。大企業は人をスケールさせるために分業するので、スキルの質が違うのではないか!?
・スタートアップとは零細企業のこと。採用難である理由はそこにあるのでは!?
・求める経験と支払う給料のアンマッチが酷いだけなのでは!?
・相応の規模の会社の方が面白い仕事ができるし、スタートアップでレベルの低い仕事をやるなら自分で起業した方がいい。
これに同感の人はけっこういるのではないでしょうか。
かく言うわたしも、昔、某求人サイトを見た時に、掲載されていたWeb制作会社が提示していた給与が低過ぎて「こりゃキツイなー」と思ったことがあるので、その気持はよく分かります。
また給与の話は、以前、ネットサービスの会社に転職した時に、給料が20%下がった経験があるので、思うこともあるのですが、今回はその話ではなく、「相応の規模の会社の方が面白い仕事ができるし、スタートアップでレベルの低い仕事をやるなら自分で起業した方がいい」という話を深堀りしてみたいと思います。
言い換えると、「2013年末時点で、開発者は社員数人の会社にジョインするより独立した方がお得なのか!?」という選択についてです。
スタートアップが人を採用できるタイミング
一言にスタートアップと言っても、会社それぞれの状況があるので、僕が知っている事例で言いますと、ツイキャス(モイ株式会社)とBASEという2社が挙げられます。
現在のフェーズで言うと、共にVCから投資を受けている名実ともに「スタートアップ」で、共にサービスとしても多くのユーザーをかかえており、離陸が完了してまさに今、採用活動をしており、空高く飛んでいくステージになっています。
最初はどのスタートアップも、ユーザーさんに使ってもらえるか!? という離陸の段階が一番難しいです。ちょうど、ツイキャスの初期のお話が出ていたので、是非参考にしてみてください。
なお、ツイキャスの創業者である赤松さんは、元々オブジェクト指向のコンサルをしていて、その後サイボウズに転職し、成長を支えていた生粋のエンジニアです。起業のころのお話は特に参考になると思います。
さて、無事サービスが離陸して出資を受けたとします。出資を受けるということは、成長を投資家に約束した状態になります。だから、成長のために人材が必要になります。
最初は友だちや元同僚と一緒に立ち上げてきていることが多いわけですが、このフェーズに来ると、多くは転職市場からの採用活動が始まります。一緒に戦える人を募集するわけです。
求める人材は、サービスの成長をしっかり支えられる人です。
すでにサービスは離陸しているわけですから、まったくゼロからプログラムを書くわけではありません。すでにユーザーさんに使ってもらっているシステムを、うまく改良、改善していくのがメインの仕事になります。
新機能はどんどん追加していかないといけないので、ユーザーがいる中での運用技術や、開発技術が必要になり、攻撃と防御を同時にやっていく必要があります。
また、扱うデータも大きくなってくるので「まったく経験がありません」というのでは難しいのが正直なところです。
会社の知名度が大企業に比べてないに等しい状態でありながら、求めるスキルや経験が決して低くはないというのが、採用の難しさに直結してしまうのだと思います。
スタートアップに早いうちにかかわるメリット
こういう規模の会社に行くメリットについて考えてみたいと思います。
仮に未来が見えて、その会社が成功することが分かっていたとしましょう。創業メンバー以外の人が、そういう会社に一番美味しい形でかかわるためには、
・投資家であれば、できるだけ早いフェーズで投資に参加できること。
・事業家であれば、早いうちに経営陣として参加すること。
・社員であれば、「社員番号一桁の社員」になること。
です。もし成功することが見えていたなら、時価総額ができるだけ低いうちに関与することがベストです。
社員番号一桁社員は、自分の活躍が会社の成長に直結します。何せ人数がいないのですから、うまくいくも、うまくいかないも自分たち次第です。
まずここにやりがいを感じるかどうかが、スタートアップに参加することにメリットを感じるか否かという部分だと思います。
そして、会社が大きくなれば自動的に出世します。会社の成長に合わせて人を採用すれば、自動的にチームになります。チームになればリーダーが必要です。上司に向いてないか、自分が上司を望まない選択をしなければ、自動的に出世します。
その結果として、冒頭のコメントにあった、経験と給与のミスマッチの問題は、自分で解決ができる可能性が高いです。
さらに、ストックオプションがもらえていたら、上場までたどり着いた場合に相応のメリットを得られます。ストックオプションは、役職か経験に応じて付与する量が変わります。ただし、社員は会社にかかわり続けることで権利が保持されますので、途中で辞めない会社であることがすごく大切です。
一般採用で成長企業に入り込めるラッキーな機会を逃すな!
「社員番号一桁」で新しい会社にかかわれるのって、開発者の特権だと思うんですよね。
何のコネもない状態で、自分の技術力と経験で、成長が見込める会社に入り込めるチャンスって滅多にないと思うんです。
創業当時は、大体、信頼できる友だちや元同僚でどうにかするわけです。つまりコネ採用ですよ。そのタイミングで声をかけてもらうのは、なかなか難しいことですが、一般採用ならコネがなくても堂々と面接を受けて入社できます。
だから僕からすると、スタートアップの人材募集のチャンスをみすみす見逃すかなぁという印象の方が強いですね。今は数億円の調達をしているスタートアップも少なくありません。そういう会社に、これから成長しなくてはいけないフェーズにかかわれるのであれば、開発者としてはお金払ってでも入りたいと思う方です。
もちろん、それ自体が賭けじゃないかと言われれば、その通りです。信頼できるかどうかは、あくまでも社長次第。興味がありスタートアップが人材募集をしていたら、面接を受けてじっくり話を聞いてみることが大切です。
どんな規模の会社でも、毎日、かかわる上司が信頼できるかが一番大事だと思いますから、この規模で社長や創業メンバーをリスペクトできそうになければ、ジョインするのは絶対にやめるべきです。それが一番大切なこと。
そして、冒頭に書かれていたような、「ブラックなのではないか!?」、「給料が安いのではないか!?」、「仕事がつまらないのではないか!?」という点は、すべて自分たちで解決していくという視点が不可欠です。
そりゃあり余るほど売上があるわけでも、既得権もあるわけではない会社が、それを持っている成長した会社よりも余裕がないのは当たり前の話です。
しかし、新しい売上を作り、新しい既得権を作っていくのが、スタートアップの役割です。そこに社員という時間的な投資で創業者のチャレンジに相乗りできるのが、スタートアップに参加する意味といえるでしょう。それでも、ゼロからサービスを作り上げてきた創業者よりはるかに楽で安全な立場ですし、社員は会社と契約し、お給料を毎月いただく契約をしている立場ですから。
あと、もう1つ大切なことですが、スタートアップは2~3年で次の未来を投資家に見せていかないといけないので、成長できなそうな時に残るべきか否かという判断をするまでに、そんなに時間がかかりません。
その段階でも、創業者やチームが信頼できるかどうかで決めれば良いのです。
以上のことから、一桁社員はけっこうお得な立場なので、ぜひ、新しい何かにチャレンジしてみたいと思っている開発者の方は一考してみてはどうでしょう。独立という選択肢もありますが、一桁社員として、創業者の想いにコミットするという役割も、ぜひ検討してみてください。
■バックナンバー>>連載:えふしんのWebサービスサバイバル術
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