「精度高すぎ」と話題のニュースキュレーション『Gunosy』は、どんな設計思想で作られているのか?
ここ最近、個人の関心や嗜好に合わせて情報を紹介するキュレーションサービスが人気だ。Amazonのような大手ECサイトで利用が進む「レコメンド」や「キュレーション」技術を情報配信分野に応用したサービスだが、このカテゴリーの中で、特に注目を集めているサービスがある。
それが、現役東大大学院生3人が立ち上げた『Gunosy(グノシー)』だ。
人気を集めている理由は、その手軽さと推薦情報の的確さにある。
ユーザーが『Gunosy』を利用するにあたって唯一すべきことは、最初にFacebookもしくはTwitterのアカウントを利用してサービスサイトにログインすることだけ。
あとは『Gunosy』独自のレコメンドエンジンが、過去にユーザーがポストした投稿内容の傾向やソーシャルグラフ内でのアクティビティを分析し、ユーザーの関心を惹くと思われる情報を毎日自動でメール配信してくれる。
そのため、ユーザーが「自分の欲しい情報の種類」をあらかじめタグなどでチェックする手間も一切発生しない。こうした徹底したシンプルさによって、『Gunosy』人気は口コミで広まっている。
「検索文化」は、スマホ普及後の時代にそぐわない
現在『Gunosy』は、2011年10月25日のサービス開始以来、今年12月時点で約3万人のユーザーを獲得。今秋には法人化も果たしている。
同社で開発に携わるのは、事業統括とインフラ回りを担当するCEO福島良典氏のほか、アプリケーション回りの開発を担当している吉田宏司氏と、分析やレコメンドエンジンの開発を担う関喜史氏だ。
3人とも院生ではあるが、それぞれソーシャルゲーム、求人サイト、人物検索サイトを手掛ける会社で開発アルバイト(およびインターン)経験を持っている。
開発チームを率いる福島氏は、『Gunosy』開発の背景について、「2011年の8月ごろ、学部時代の同級生である吉田と関を誘って、自分たちの勉強になればという思いで開発を始めたが、どうせやるなら簡単にマネできないサービスを作ろうと思っていた」と話す。
『Gunosy』開発当時、すでにソーシャル上のアクティビティを活用したキュレーションサービスがいくつか存在していたが、そのほとんどは自分のSNSタイムライン上で「つながりのある人の間で話題になっている情報」を配信するというもの。
そこで『Gunosy』は、ユーザーのソーシャルグラフではなく、あくまで自分自身の過去のポストやソーシャル上のアクティビティを分析対象とした。
3人が大学院で勉強していたデータマイニングの技術を駆使すれば、ソーシャル上で流通しやすいメジャーなニュースばかりではなく、「例えばサーチエンジンだと検索結果の100ページ目に掲載されているようなマイナーな情報」(福島氏)も含めて、ユーザーにとって重要な情報を取り出すことができると考えたからだ。
「これまでのネットでは、情報を検索する際に『キーワード』を考える必要がありましたが、これってネットリテラシーの高い人をさらに高くするためのやり方だと思うんです。『Gunosy』が目指すのは、必ずしもそうでなくて、普通の人でも有益な情報がすぐに得られる仕組みを作ることなんです」(関氏)
『Gunosy』は自らを“パーソナルマガジン”と呼んでいるが、これも、「新聞のように誰もが受動的に情報を得られる世界を作りたい」(福島氏)という思いがあってのことだという。
ユーザー1人1人にフィットしていく“進化するエンジン”の作り方
では、サービスの肝となるレコメンドエンジンは、どんな設計思想で作られているのか。
「よく誤解されるんですが、そもそもレコメンドエンジンって、あらゆるドメインで汎用的に使えるものは存在しないんです」(関氏)
学部生時代からデータマイニング研究に勤しんできた関氏によると、「Amazonのレコメンドエンジンが優れているのは、データマイニングの最新技術とECサービス開発が一体になって進められているから」だと言う。
サイトの種類によって、ユーザーの行動パターンは違ってくる。だから、提供するサービスごとにユーザー行動の「真意」を掘り起こし、寄り添うようにチューニングを重ねなければ、優秀なレコメンドエンジンにはなり得ない。
「ですから、僕たちも『Gunosy』のレコメンドエンジンを開発するにあたって、オリジナルのアルゴリズムを設計して改善に務めています。今動いているエンジンは、『Gunosy』リリース当初に設計したエンジンとはまったく別物と言えるほど、進化しているんです」(吉田氏)
具体的にどこを改善したかは「企業秘密なので言えない」(福島氏)そうだが、データマイニングの最新論文などに目を通しながら、「メジャーな記事からRSSにも入ってこないような記事までを網羅的に引っ張ってくるアルゴリズム」(吉田氏)に日々アップデートしている。
「例えば以前の『Gunosy』は、Web上でより多くの人に読まれた記事を『重要度の高い情報』として認識していました。でも、人気記事の中から『ユーザーの興味のないものをリジェクトする』発想だけでは、意外性や多様性は生まれないだろう、と。今は、このロジックを前提にしつつ、さらにユーザーの動向によって情報の抽出精度を可変できるようにチューニングしています」(関氏)
ユーザーの動向とは、例えば『Gunosy』から送られてきた情報の中で、その人がどんな種類の記事をクリックしたか? など。
つまり、ユーザーが『Gunosy』経由で気になる記事をクリックすればするほど、「アナタの興味」を学んでいく。ユーザーそれぞれのアクションに応じてレコメンドの精度が高まっていくという、“進化し続けるエンジン”となっている。
ソフトウエアでこれを実現していること自体がスゴいが、今後さらにユーザー数を伸ばすには、まだまだ乗り越えなければならない壁があると3人は考えている。
「現在の『Gunosy』は3万人にとっては良いサービスかも知れませんが、完成度として50%くらいだと思っています。スマートフォンが普及して、一般的なネットリテラシーの人にも使っていただくためには、『100万人が満足するレコメンドエンジン』を作らなければならない。それをどんなモデルで実現すべきかを考えるのが、これからの課題です」(福島氏)
課題はほかにもある。ユーザーの嗜好に則ったものを提供するだけでは、レコメンドエンジンが果たすべき役割をまっとうしたことにはならないからだ。最近議論が盛んになってきた「フィルターバブル問題」である。
「『フィルターバブル問題』というのは、情報の偏りがユーザーに不利益をもたらすのではという懸念を示すものです。例えば今のフィルタリング技術だと、ユーザーの嗜好や過去のアクティビティに合致しない情報はすべて排除されますが、排除されている情報の中にも耳を傾けるべき内容はあるはずです。この問題にエンジン側がどう対処するかが、これからの課題になるでしょう」(関氏)
求人企業と求職者の距離を近づける『Gunosy Career』の開発も
そして、3人の挑戦は『Gunosy 』の精度を高めることだけにとどまらない。来春をローンチ目標として、『Gunosy Career(グノシー・キャリア)』という新サービスの準備も進めている。
ターゲットは、その名の通り転職市場。11月にティザーサイトがオープンしたばかりだが、さっそく巷で話題になっている。
「『Gunosy Career』をやろうと考えたのは、求人のレコメンドはニュースレコメンドと“解き方”が似ているから。とはいえ先ほど申し上げた通り、レコメンドエンジンは異なるドメインでも汎用的に使えるものではありません。『Gunosy』本体とは別の進化を遂げることになります」(関氏)
「僕たちは、解決した時に社会的なインパクトが大きいドメインを開拓するのが好きなんです。転職市場は、データマイニング技術を応用すれば劇的に改善できる分野の一つ。求職者が職務経歴書を書いたり転職サイトに登録する手間だけでなく、企業が選考にかける金銭的、時間的コストも大幅に圧縮できるはずですから」(福島氏)
それまで「ヒト」がコストを投じて行っていた分野を、「機械」で解決したい――。それが、彼らを開発に向かわせる原動力だそうだ。Webサービスとキュレーション技術は、今後いっそう密接な関係になることが予想されている今、グノシーの面々はそのど真ん中へ斬り込もうとしている。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴
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