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SIerが直面する3つの変化。これからもクライアントに必要とされ続けるために必要な“つなげる”力とは?
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従来のITソリューションでは満足されない、SIerを取り巻く3つの変化
ITの導入と活用を通じ、SIerを取り巻く環境はここ10年の間に大きく変わってきている。クライアントの要望を要件定義としてまとめ、仕様書・設計書に基づいて設計・開発……実装・稼働というプロセスそのものの存在意義が問われているのだ。
その背景にあるのは、クライアント自身が直面している課題にほかならない。時代の変化に即応していくべく、柔軟性とスピード感ある経営が求められているからだ。SIerとしてそういったクライアントたちの円滑な企業活動をサポートするためには、SIerもクライアントが抱える課題をすばやく把握し、その具体的な解決策を提案して実現を目指さなければならないからだ。
1983年11月、ブラザー工業のシステム開発部門を前身として設立されたアビームシステムズでは、システム開発の現場が直面する課題に日々向き合ってきた。これまで約15年間、その最前線で躍してきた杉本博文氏によると、今SIerが直面している「変化」は次の3つだという。
【1】エンジニアに求められる「技術」が変わった
【2】顧客がITに対する「期待」が変わった
【3】業界全体でSIerに求められる「役割」が変わった
近年のこうした変化に直面してきた同社では、ユニークな取り組みを行いながらSIerとしての在り方を変化させてきたという。現在はマネジメントの立場である杉本氏に話を聞いた。
ベテランエンジニアが肌で感じたSIerの存在価値とは?
まず始めに、多くのエンジニアにとって生命線といえる「技術」は、近年の開発の現場でどう変わってきたのだろうか。
「以前までは、お客さまから『こういったシステムが欲しい』と言われた時、ゼロから自分たちの手で開発していました。しかし近年ではクラウドサービスが拡充し、今まで自分たちの手で設計・開発していたようなツールやソリューションが、『パーツ』のようにさまざまなベンダーから提供されています。そういったパーツをつなぎ合わせて課題を解決する力が求められるようになりました」(杉本氏)
オープンソースが充実してきたことで、開発体制はどんどんアジャイル化が進み、少人数でも早いスピードでの開発が可能になったと語る杉本氏。
続けて、ITに対する「期待」の変化について以下のように続けた。
「最近新たに期待されるようになったのが、ITを使った業務予測などです。例えばAIやビッグデータなどの最新技術を用いて、お客さまが今後どのように業務をストレッチさせていくべきか、その指針となることなどが求められるようになってきました」(杉本氏)
業務効率化のためのシステムを導入はある程度やり尽くされたように感じているという杉本氏。だからこそ次はITを使って「可能性」を見いだすことが期待されているという。そして3つ目のSIerに求められる「役割」については以下のように語る。
「クライアントにも以前は専任の担当者がいて、どんな課題があってそれをシステムでそう解決していくか、じっくりと時間をかけてディスカッションしてから提案、稼働させることができました。でも今は担当者も兼任が多くてなかなか協議する時間がとれません。どこにどんな課題があるのかも我々SIerが把握して最適解を提案する時代になりました」(杉本氏)
こうしたクライアントの変化を受け、SIer側はもっと顧客の業全体を理解し、課題の抽出方法からその解決の仕方まで、今までの形を変えなければいけないという思いを強く持ったという。
「クライアントの部門や業務ごとに設計・開発のチームも分かれているんですが、それでは個々の部門や業務ごとの課題解決だけで終わってしまいます。しかし、お客さまの業務は大規模な組織で、部門も業務も数多く多岐にわたっています。だから今必要とされているのは広い視点でお客さまの業務全体の仕組みを捉えられるエンジニアなんです」(杉本氏)
SIerに求められる「異なる組織・業務課題・技術・データ」同士を”つなける”力
エンジニアの一人一人がクライアントの業務をより深く理解できるようになるために、アビームシステムズでは杉本氏が主体になってユニークな取り組みを続けているという。
約4年前から始めた取り組みが、各チームから一人ずつ選出し、課題の抽出方法からその解決策までをプレゼンテーションするという試みだ。別の部門の開発チームの内容であっても、課題の見つけ方などは共通する部分があり、さらに他のチームが何をやっているのかを知ることで、クライアントの業務全体を理解することにつながる。そしてシステム同士をつないだり、連携させるためのヒントに結びつけるのだ。
「当然ながらお客さまは、モノを作って売っているだけではありません。製造現場から物流、財務、総務と、部門や業務は多岐にわたります。こうした各部門がスムーズに連携していなければ、理想的な企業活動に結び付きません。まずは、一人一人のエンジニアが取り組んでいる設計・開発が他のチームのもの、最終的にはクライアントの業務をどう結び付けていけるのかまで考えてほしいと思って続けています」(杉本氏)
自分の担当分野以外も理解するための取り組みの一環として、2016年にはエンジニア全員で『ビジネスキャリア検定』の受験にも挑戦したという。一般事業会社で求められる知識やスキルの基礎を学ぶ内容で、ロジスティクスや生産管理、営業、 マーケティング等の事務・管理分野を幅広くカバーしているという。
「エンジニアは自分の専門分野や専門領域にしか興味がないように思われますが、そうでもないんです。知らないことはとことん勉強したいという性格の人が多いですから、みんな懸命に学ぶんですよ」(杉本氏)
また、物流部門でのシステム開発を手掛けていたエンジニアには、財務や販売といった別の部門・業務の開発現場へ異動させるジョブローテーションを導入したという。クライアントの部門と業務に接することで、企業の組織全体が直面する課題とその解決に役立つ発想力・提案力を身に付けてもらう意図だ。
現在、杉本氏の後任として設計・開発部門のリーダーを務める馬淵晶子さんもこのジョブローテーションを通してクライアントから確かな信頼を得てきたと話す。
「エンジニアには財務なんて無縁で苦手だと思っていましたが、いざ勉強してみると製造や物流などの部門や業務がクライアントにとってどんな意味があるのか、どう結び付いているのかが明確になります。何より、クライアントも気付いていない『本当のニーズ』はどこにあるのかを、ディスカッションしている場で提案できる力が身に付くんです」(馬淵さん)
生産部門で作られた商品は販売部門を通じて市場へと送り出される。物流部門との円滑な連携がなければ、スピーディーな商品展開が滞ってしまう。そして売上は、瞬時に企業の収益・利益へと反映させていかなければならない。こうした企業活動の全体像を思い描いた上で設計・開発に取り組むエンジニアこそがSIerにとって必要な人材像なのだ。
「これまでIT業界は各社が専門分野に特化し、細分化が進んできました。しかし、そうして細かくなったパーツの一つ一つだけではお客さまの課題は解決できない。今度は私たちのようなSIerがそれらをつなぎ合わせる必要があるんです。それも、今までのように一つの表面的な課題を解決するためでなく、お客さまの業務全体のことを考えながら。私たちはこれからIT業界の中で“つなげる”存在でありたいと考えています」(杉本氏)
文/浦野 孝嗣 撮影/羽田智行
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