これは、村上福之氏が昨年12月に立ち上げた無料・放置・無審査のクラウドファンディングサイト『FreeStarter』に、「プログラミングを始めたいがPCを買うお金がない」と投稿したことがきっかけで出会った中学生のさびゅ君(※当時。今春から高校生)と村上氏との交流を取材したものである。村上氏は、「プログラムを学び、自らスマホアプリを開発して1000ダウンロードを達成する」ことを条件に、無料でMacBook Airを進呈。後に目標は1万ダウンロードに変更された
ある高校生プログラマーのリアル~Macとボクと、時々、ふくゆきさん【特集:New Order】
Webサービスの盛り上がりやスマートフォンアプリの普及を背景に、近年はその作り手たち=プログラマーにスポットライトが当たる機会が増えた。中でも、未来の新ビジネスを作り出すかもしれない小中高生のプログラマーは、ハッカソンイベントやエンジニアコミュニティでは常に「期待の新星」として注目される。
だが、彼らがその後、どのようにプログラミングを学び続けているのかを取り上げるメディアはさほど多くない。そこで編集部は、ある学生にプログラミング学習の話を聞くため、村上福之氏とともに岐阜に向かった。
今年3月下旬、岐阜駅の改札で待っていたのは、今春から高校生になったばかりの「さびゅ」君。
なぜ彼の下を訪れたのかというと、村上氏とちょっと変わったつながりを持つ学生プログラマーだからだ。
さびゅ君と村上氏は、昨年12月末、とある“契約”を交わすために名古屋で一度会っている。その契約とは、「プログラムを学び、1万ダウンロードされるアプリを開発すること」と、「学習&開発プロセスをブログにアップし続けること」を条件に、無料でMacBook Airを提供するというものだ。
村上氏が立ち上げた無料・放置・無審査のクラウドファンディングサイト『FreeStarter』に、当時中学3年生だったさびゅ君が
「プログラミングを始めるためにMacが欲しいです」
と投稿。そこから村上氏がMacBook Airを提供することになった詳しいいきさつは、IT mediaのオルタナティブブログを参照にしてほしい。
FreeStarterで中学生がMacBook Air欲しいというので、名古屋まで行って買っていくことにしました。
村上氏は「単なるひやかしの投稿なら放置するつもりだった」と当時を振り返る。
だが、さびゅ君とTwitterで会話を重ねるうちに、彼が何カ月も前から「プログラムを始めたい」とつぶやいていたことを知り、上記の条件を前提にMacBook Airを提供したのだ(※さびゅ君のご両親の同意を得た上で購入している)。
ではなぜ、さびゅ君はプログラミングに興味を持つようになり、村上氏にMBAを求めたのか。きっかけは、アプリ開発へのあこがれだった。
小さなころからガジェットが大好きで、お年玉でiPod touchを買ったのが小学6年生の時。その後iPhoneを持つようになり、いろんなアプリを触るうちに、自分でもアプリを作ってみたくなった。
とはいえ、当時のさびゅ君が使うことのできたPCは父親のもの。「早く自分用のPCを買って、もっとプログラミングをしてみたい」。そう思いつつ、自分のお年玉ではPCを買うことができず、悶々としていたのだ。
そんな折、ニュースアプリのGunosyで、『FreeStarter』の紹介記事が配信されてきたのを偶然見つけた。
「これまでも、ニコ動にあったVBScriptのサンプルを見よう見まねで模写してみたり、ドットインストールを眺めてみたりはしていました。でも、父親のPCを使える時間は限られていたので、ほとんど身に付かず……。とにかくプログラミングを始めたい一心で、FreeStarterにMacが欲しいと投稿してみました」
独学の学習スピードを維持し続けるのは難しい
そんな偶然の出来事から、予想外の形で念願の自分用PCを手に入れたさびゅ君は、さっそくプログラミングを学び始める。
ドットインストールを見ながら、XcodeとTitaniumとUnityをインストール。とにかくアプリを作りたいという気持ちが強かったからだろう。Unityを使ってコインプッシャーアプリを作るまで、1週間とかからなかった。
その開発スピードには、村上氏も驚いたという。
ただ、そのアプリのApp Store申請をリジェクトされてから、実はこれといった成果物がない。今年に入り、高校受験の勉強で忙しくなったからというのが理由だ。
それに加えて、さびゅ君にはある悩みがあった。
「正直に話すと、MBAをもらった直後に比べて開発のスピードがちょっと落ちていました。1万ダウンロードされるようなアプリを作るには何をテーマにすればいいか、良いアイデアが浮かばなかったからです」
さらに、周囲にプログラミングをやっている友だちが1人もいなかったことも、彼の学習スピードを鈍化させた。
大人のプログラマーに取材していても、「新しく勉強し始めたプログラミング言語の勉強会に参加するのはちょっと怖い」という話をよく聞く。同じ目線の高さで相談できる仲間が身近にいないのは、プログラミング初心者にはけっこうしんどい。
「LIfe is Tech(※編集部注:中高生向けプログラミング教室の一つ)の紹介記事なんかを見て、『東京の人たちは恵まれてるなぁ』とうらやましく思ったこともあります」
昼食に岐阜名物の飛騨牛を食べながら、そう本音を明かしてくれたさびゅ君に対して、村上氏は自身の学生時代を話し始めた。
「大事なんは、Hello, Worldした後や」
「オレが中学2年の時、大阪でプログラミングを始めた時も、同じ趣味の友だちなんて周りにおらへんかったよ。昔はネットもなかったし、本屋でプログラミングの本を立ち読みしては、“目コピ”でコードを覚えてゲーム作ってた。今考えたらクソゲーやったけど、いろいろ作りながら、プログラミングを体で覚えていったんや」
体で覚える。それがプログラミングを学ぶ上で最も大事だということは、XcodeをビルドしたりUnityを触ってみたりしながら、文字通り体で覚えていったさびゅ君も理解していた。
「僕みたいな初心者は、何の言語から勉強するのがイイですかね?」
そうさびゅ君が尋ねると、村上氏はこう言葉を紡いだ。
「最初はどんな言語でもええと思うよ、作りたいものが作れれば。それよりも大事なんは、Hello,Worldした後や」
「どんな世界も、やり続ける人間って、1割くらいしかおらへん。雑誌やネットに載ってる『モテの法則』を実践している奴なんかほとんどおらへんのと一緒や。思春期のころに一度は試してみるけど、うまくいかへんから、信じなくなんねん」
「でもな、愚直にモテを意識して、服の着こなし術とか実践してる奴って、大人になってからもカッコよかったりする。大概のおっさんがユニクロしか着なくなった時、初めて差が出てくるんや」
「プログラミングも一緒やと思う。コードを書きたいって言って始めた人たちも、9割は途中でやめんねん。ウチの兄貴もそうやった。『思ったようにできへんわ』って。じゃあ、何でオレが今もプログラマーをやってるのかって言ったら、才能があるからとかじゃない。好きだからやり続けるって決めたからや」
プログラミングを始めるきっかけをくれた村上氏の言葉を聞きながら、さびゅ君がどう感じていたのかは、大人であるわれわれには分からない。
ただ、さびゅ君のブログを覗くと、村上氏と会った日からちょうど1週間後、『絶対に挫折しない iPhoneアプリ開発「超」入門』という本を買っていた。
ブログには「簡単なレシピが載ってるのでなんかいいかなーと」と書いてあったが、もしかすると
「絶対に挫折しない」
というキャッチコピーが、心の琴線に触れたのかもしれない。
《エピローグ》岐阜シティ・タワーにて
取材の帰り際、さびゅ君はわれわれを駅の近くにある『岐阜シティ・タワー43』に連れて行ってくれた。最上階にある展望台から、岐阜市内を一望できる場所だ。
景観を眺めながら、交わされる他愛もない会話。
村上氏は「見ろ!人がゴミのようだ」とおどけながら、ふと、「東京に住んでないからとか、(アプリ申請を)リジェクトされたからとかで腐ったら負けやで」とつぶやいた。
それは、大阪で独り、プログラミングに没頭していた学生のころの自分に話し掛けているようだった。
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