キャリア Vol.221

2061年から来たというサザエbotの中の人いわく、「地球の未来を救う“ネオ”になるのはエンジニア」

2014年5月に開催された『TEDxTokyo2014』で、開催の4日前に突如登壇を発表、メディアアーティストの落合陽一氏や音楽プロデューサーのVERBAL氏ら、名だたる登壇者にまぎれてマネキンの姿で登壇し、注目を浴びた出演者がいた。

サザエbot(@sazae_f)の“中の人”こと、ナカノヒトヨさんである。

サザエbotと言えば、Twitterでは24万人ものフォロワーを抱え、SNSを中心に集客を行ったリアルイベントが各メディアに取り上げられるなど、SNSの世界で名を馳せている。

また、日本でグロースハックという仕組みが現在ほど理解されていなかった2013年12月にslideshareで彼女が公開した『桜新町の主婦が教えるGrowth Hack』はFacebookで6000いいね!を超えている。

フェイク姿のトリックスターでありながら、技術や知識の先端を捉え、鋭く世界の行く末を発信してきたナカノヒトヨさんが何者なのか、各方面で憶測を呼んだが、その正体はいまだベールに包まれている。

そんな謎の多いナカノヒトヨさんであるが、彼女のnoteでは自身が2061年から地球滅亡を食い止めるためにやってきた未来人であることを明かしている

そこで未来のエンジニアリングについて聞こうと取材を申し込んだところ、「20年後の未来についてエンジニアに伝えなければならないことがあるわ~」と快諾してくれた。

人工知能がヒトを超える日=シンギュラリティが近づいている

取材場所に指定されたのは都内のとあるバー。到着したころには、ナカノヒトヨさんを名乗る女性がすでに待っていた

取材場所に指定されたのは都内のとあるバー。到着したころには、ナカノヒトヨさんを名乗る女性がすでに待っていた

―― 「未来人」であるナカノヒトヨさんにぜひお伺いしたい。今から20年後、世の中はどうなっているんでしょう?

ナカノヒトヨ 今から20年後以降の世の中を決定付けるキーワードは「シンギュラリティ」よ。エンジニアの方たちにも関係してくる重大なキーワードなの。

―― 「シンギュラリティ」というのは、人工知能の領域のお話ですか?

ナカノヒトヨ そうよ~。アメリカの有名な未来学者、フューチャリストであるレイ・カーツワイル氏らが以前から公表しているわ。高度に進化したAI(人工知能)、もしくは知識増幅が可能になったポスト・ヒューマン(進化系人類)が、ヒトの知能を上回ってしまう日がやってくる、と。

そのターニングポイントのことをシンギュラリティと呼んでいるの。彼らによれば、シンギュラリティが起こるのは2045年。今から30年後になるわね。

―― じゃあ、そのシンギュラリティの前兆みたいな動きが、今から20年後も起きているってことでしょうか?

ナカノヒトヨ そう考えるのが自然よね~。AIやポスト・ヒューマンの大部分がヒトの知能を超えるタイミングは2045年と言われているけれど、その手前の2029年ごろには、1台のAIが歴史上初めてヒトを超えるだろうと言われているわ。

2012年にGoogleのスーパーコンピュータが猫を認識した話はご存じかしら? このできごとからも、シンギュラリティの到来が「仮想の未来」ではなく「現実的な未来」に起こり得ることが読み取れるはずよ。

―― Googleが発表したニューラルネットワーク研究の成果でしたよね? YouTubeに流れている無数の動画にアクセスしたスーパーコンピュータが、自発的に自動学習プログラムを発動させて、動画に映っているものを「猫だ」と認識した。人間が前もって何か手掛かりになる情報を教えたわけでもないのに、人工知能が自分の力だけで成し遂げてしまったというニュースは覚えています。

30年後には人口知能が人間を追い越す日が来る、とナカノヒトヨさんを名乗る女性は話す
30年後には人口知能が人間を追い越す日が来る、とナカノヒトヨさんを名乗る女性は話す

ナカノヒトヨ だったら、このままいけば20年後の世界がシンギュラリティに向かう道をひた走っていることも想像が付くはずよ。

人工知能の研究は、「構造化されていないデータを統計的推論に結び付ける」形で進んでいるわ。

2010年代の今でさえ、それは身近な場面で実用されているの。スマホなどで使っている文字変換の予測機能や、Amazonなどが採用している「おすすめ商品」機能。こういうものも人工知能の産物。

―― なるほど。

ナカノヒトヨ 人間が過去に経験した、不連続で構造化されていない行動や事実などをすべてデータとして取り込み、それを人工知能が統計的推論に結び付けることで「未来」を予測する。

これって、今多くのエンジニアの皆さんが手掛けているビッグデータ活用の未来形なの。

ヒトの未来の行動を予測できたり、そのうえで変化を起こさせたりすることが可能になったら、ビジネスでは大儲けよね~。例えば、GoogleやFacebookやAppleといった企業が今、ネットユーザー獲得競争を繰り広げているでしょ?

これも、「過去」を「未来」につなげるための競争。私たちの知らないところで、急激に進化したAIが未来予測をし続けているかもしれないわ~。

AIからの支配で変わる、「幸福」の定義

―― こうやって話を聞くと、AIの進化は面白い未来、今と違うビジネス界につながる気がします。それを支えるIT業界はさらに影響力を強めそうですし。

ナカノヒトヨ もちろん技術の進歩によってポジティブなこともあるでしょうね。でも、AIやポスト・ヒューマンの進化にかかわっているようなシリコンバレーの研究者や技術者たちは今、とっても深刻な問題に直面しているとも言えるのよ。

だって、そうでしょ? 「機械がヒトを超えてしまう日」が来ちゃうんだもの。私が5月のTEDxTokyoで話した言葉、覚えていらっしゃるかしら?

「あなたはもう気付いたかしら? ヒトの意志がインターネットをコントロールしているのではなく、インターネットの意志がヒトをコントロールしていることに……。アップデートはヒトの幸福を奪うものではなく、ヒトが幸福になるためのものでなくてはなりません。だからこそいまのうちに、現実に訪れるかもしれない未来のことを少しだけイメージしてみる必要があるのです。高度なAIがフェイクではなく、本当にあなたの前に姿を現す前に。」

「AIは拡張性を持ち、疲れを知らないため、ヒトよりも進化のスピードが速い」と話す
「AIは拡張性を持ち、疲れを知らないため、ヒトよりも進化のスピードが速い」と話す

ナカノヒトヨ 人間には限界があるわ。寿命が来たら死ぬし、毎日寝ないといけない。それに個人差はあれど、暗記できる容量だってある程度は決まっている。でも、機械はとりあえず電源が入っているうちは動くでしょ?

―― 確かにそうですね。

ナカノヒトヨ どんなに構造化されていないデータが無限にあっても、ハードディスクを増設すれば容量の限度もない。それを読み続け、推論し続けるの。

そうして、私たちヒトが進化させたAIなどの技術は、いつしか私たちの手の届かない次元で未来を予測し続ける。「この先、何が起こるのか」を機械に尋ねなければいけなくなるの。

いいえ、もうそうなり始めているとも言えるわ。

―― サザエbotであるあなたが呼びかけたイベントを通して、人間のリアルな行動とインターネット技術との関係が変わりつつあることを示したTEDxTokyo2014は、とても興味深く聞かせてもらいました。

でも、シリコンバレーの人たちに起きている変化というのは初耳です。具体的に、彼らはなぜ深刻な問題に直面しているんでしょう?

ナカノヒトヨ AIやロボット技術をはじめとするポスト・ヒューマンのテクノロジーが発展すれば「便利」になるし、物事を「効率化」することが今よりもさらにできるようになるわよね。

そもそも、ヒトと機械の関係は昔からそうでした。ヒトにとっての便利な世の中を、技術によって実現することで、ヒトは「幸福」を感じたのよ。2010年代の今だって、最先端の研究者や技術者は「ヒトを幸福にできる」というモチベーションで、AIやポスト・ヒューマンの発展を目指していると思うの。

でも、シンギュラリティの到来が現実的になってきて、今では違う感情も芽生えるようになったみたい。だって、これからの技術は「ヒトが望んでいることを代わりに実現してくれるお手伝い役」じゃあ済まないもの。

「ヒトが望むはずのことを先回りして、勝手に実現しちゃう」かもしれない存在になるのよ。分かりやすくイメージしてもらうならば、映画『マトリックス』のあの世界観だわ。

―― 人間は睡眠状態のままケーブルにつなげられていて身体を動かしたりはしない。その代わり、脳の一部領域だけは動いていて、コンピュータというかAIが創り出した仮想の世界の中で、まるでリアルな生活をしているかのような幻想に浸り続ける……というヤツですよね?

ナカノヒトヨ それ、あれよ。あの映画に出ていた人間たちは「幸福」だったかしら? 違うと感じたからこそ、主役のネオたちは反乱を起こした。シンギュラリティがやってくれば、あのマトリックスの世界観が現実になってしまう危険性も増大する。そういう危機感を誰よりも強く抱いているのが最先端にいるエンジニアでもあるのよ。

―― さすがに、あそこまで悲しい未来が来るとは考えづらいんですけど、ああいうSF映画が悲劇的に描いていたような世界がやってきてしまうのだとしたら怖いですね。「技術がヒトを支配する」「ヒトはコンピュータの言いなりに」なんてことが、現実味を帯びてきているせいで、先端技術者は不安を感じていると?

「2014年のエンジニアに未来を変えてもらうため、取材に応じた」と明かす、ナカノヒトヨさんを名乗る女性
「2014年のエンジニアに未来を変えてもらうため、取材に応じた」と明かす、ナカノヒトヨさんを名乗る女性

ナカノヒトヨ 私が2061年から2014年にやってきた理由も少しは分かってもらえたかしら?

未来につながる道筋は1つではないけれども、今あなたが言ったような悲しい未来もあり得るのよ。

ただし、こんな悲しい話をするために、今日あなたに会いに来たわけではないの。今なら、未来は変えられるわ~。

―― もしかして、エンジニアtype読者のような技術者から、ネオやトリニティやモーフィアス(『マトリックス』に登場する人類の救世主たち)が生まれると?

ナカノヒトヨ 広い意味で言えば、技術の最先端を知る者の中からネオのような存在が現れても不思議ではないと思っているわ。

さっき私は、今シリコンバレーの精鋭たちが深刻な問題に直面している、っていう言い方をした。でも未来の悲劇的な可能性を知って、ただ悲しんだり、怖がったりしているだけでもないの。

彼らの間では、真剣に「人間の幸せってなんだろう」というような議論が行われるようになっているのよ。

シンギュラリティへの対抗手段を作るのはエンジニア

ナカノヒトヨ 私がTEDxTokyoでスピーチを行ったのは5月31日でしたが、その5日後、Softbankが人工知能を搭載したヒト型ロボット『Pepper』を発表した。さらにその2日後、英国で人工知能が初めてチューリングテスト(対話している相手をヒトかAIか見分けるテスト)に合格しました。このわずか1週間を見ただけでも、技術の側はシンギュラリティに向かって突き進んでいます。

でも、私、人間の側にある未来にも注目し、期待しているの。「人間の脳は、せいぜいその能力の30%程度しか使われていない」という話は有名よね。残る70%には大いなる可能性があるということなの。

―― その70%が活用されるようになれば、違う未来も見えてくるということでしょうか?

お酒が好きだという、“中の人”を自称する彼女。カクテルを飲みながらの取材で、饒舌になる
お酒が好きだという、“中の人”を自称する彼女。カクテルを飲みながらの取材で、饒舌になる

ナカノヒトヨ 私、以前、noteで発信したけれど「スターチャイルド」出現の可能性は増大しているわ。タラちゃんにも「好奇心は大切よ」と言ってあるのよ。

―― noteでは、教育システムに依存していた従来の「脳への知識情報インプット」作業が、インターネットの進展やスマホなどデバイスの普及で大きく変わる、という話を書いていましたよね? 

子どもたちが抱く「空はなぜ青いのか」というような根源的・知的好奇心に解答をくれる存在が、親や教師ではなく、インターネットやGoogle検索に代わり始めている。好奇心のある子どもは、自ら知識や情報を積極的にインプットしていける。

ナカノヒトヨ そんな好奇心の強い子どものうちにもっと効率よくインプットさせてあげられるツールを与えてあげれば、技術に合わせてヒトも進化することができるの。もちろん、人間の根底にある、「愛」とか「思いやり」というような思想も含めてね。

これらを吸収して進化したポスト・ヒューマンなら、シンギュラリティを迎えつつある技術に一方的に支配されることはなくなるはずよ~。そのためにツールを生み出すエンジニアの存在が重要になってくるはずよ。

―― そうすると、今回のテーマについての答えは、こうなるんでしょうか?

「AIやポスト・ヒューマンなどの技術が20年後までの間にも急進する」
「それはIT業界ばかりでなく、世界や人類を変えてしまうような大きな流れになる」
「でも、うかうかしていると『マトリックス』のような世界にもなりかねない」
「だからヒトの側にも、愛、思いやり、平和といった人間ならではの思想を持ったうえで、進化することが必要」
「それを今、誰よりも真剣に考えるべきなのがエンジニアたちである」

ナカノヒトヨ おおむね、そういうことよ~。インタビューなんて受けたことのない私が、今日なぜここに来たのかも分かってもらえたようで、うれしくなるわ~。

6月28日には日本で映画『トランセンデンス』が公開になるわね。人間の脳の未開の可能性について知ることができると思うわ~。しかも同じ日に映画『her/世界でひとつの彼女』も公開される。こっちでは、人間とAIの向き合い方を疑似体験できるはずだわ~。2本の映画が同じ日に公開になるのも、ただの偶然だと思わないでね? うふふふふ~!

とにかく、これからのエンジニアは「便利」とか「効率」ばかりを創るのではなくて、「愛」や「幸福」を創る存在であるべきなの。技術の進歩はマッドサイエンティストを生み出してしまいそうな魔性の魅力もあるけれど、「愛」を忘れないエンジニアがいれば、未来は明るくできると思うわ~。

ブルーハーツも歌っていたように、「未来は僕らの手の中~♪」なのよ。2014年のエンジニアの皆さーん、頼んだわよ~!

スーッ……(足元から透けていき、消える)

取材・文/森川直樹 撮影/佐藤健太(編集部)

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