アイキャッチ

「to C向けサービスは分かりやすさとリリースタイミングが命」――レシピ動画『クラシル』を生み出した弱冠24歳CTOが語る、プロダクトヒットの秘訣

働き方

    dely株式会社 CTO 大竹 雅登氏
    プロフィール画像

    dely株式会社 CTO
    大竹 雅登氏

    2012年慶應大学入学。大学1年生の時にクックパッド創業者の佐野陽光氏による講演を聞きテクノロジーに興味を持つ。その後すぐに独学でプログラミングを学び始め、同年夏より実務経験を積むためにゲームアプリ開発のアルバイトを行う。大学2年生の時にバンガロールやシリコンバレーへと足を運び、テクノロジーの世界基準を肌で感じる。その後14年に現dely ・CEOの堀江裕介氏と出会い、delyを創業。CTOとして参画し、メインプロダクトであるレシピ動画『クラシル』の開発を行う

    日本のベンチャー企業は年々増え続け、日本ベンチャーキャピタルの報告書によると、2016年には、設立10年以内と定義されるベンチャー企業の数は過去最高の3,000社以上に及んだという。空前のベンチャーブームが日本に到来している中、2017年3月に総額30億円の資金調達を実施するなど、ひと際存在感を放っているのがdelyだ。

    1分で料理の作り方を説明するという“レシピ動画”を生み出した同社は、当初Facebook上で動画を投稿。すぐにユーザーからの注目を集め、同年5月にiOS、7月にAndroidのアプリ版『クラシル』をリリースした。同アプリは「アプリ・オブ・イヤー 2016」にて「スタートアップアプリ賞」を受賞したことからも、その注目度の高さが伺える。

    数ある「食」に関するサービスの中で金字塔を打ち立てた『クラシル』だが、開発の軸となり、さらに世に広めた立役者は弱冠24歳のCTO、大竹雅登氏だという。本記事では大竹氏に「良いプロダクトとは何か」を聞くとともに、サービスをヒットさせるための秘訣を聞いた。

    何よりも大切な普遍的価値

    日々新しいサービスが生まれては消えていく中、多くの人に愛されるサービスには共通点がある。プロダクトをヒットさせるためにはまず、そのものの“絶対的な価値”が必要だと大竹氏は語る。

    「日本中誰しも知っているような大きなサービスにしたいなら、人々にとって普遍的な価値を提供できるというのが何より大事だと思うんです。例えばクラシルのような料理・食のサービスであれば、ごはんを食べない人はいないから、老若男女関係なくいろんな人が使ってくれる。全ての人間がユーザーになり得るんですよ」

    クラシルのサービスが誕生した2016年当初は、料理を題材にした動画はほとんどなく、そういったブルーオーシャンに早くから参入できたこともヒットにつながったと大竹氏は語る。そして当初はFacebookやTwitterなどのSNS上に投稿していたというクラシルだが、アプリ版をリリースしたことでさらに爆発的にユーザー数を増やすことができたという。

    「アプリもやり始めたきっかけとしては、『Facebookだと投稿がだんだん他の投稿に埋もれてしまって保存ができない』というユーザーからの声をもらったことでした。それならアプリを作ったほうがいいんじゃない? ということでアプリ開発に着手したんです。結果、お気に入りのレシピをいつでも見られるようになったことで、ユーザーの暮らしにより定着し、新たなファンを獲得するこができました」

    “70億人に1日3回の幸せを届ける”ことをミッションに掲げるdely。アプリ化によるユーザー獲得の効果もあり、現在では月間1億7千万回の再生回数を誇るビッグプロダクトへと成長を果たした。そして大竹氏が言うには、ヒットの秘訣は普遍的な価値があることに加え、その価値をユーザーがどれだけ直感的に感じることができるかにかかっているという。

    良いプロダクトはシンプルで価値が分かりやすい

    「僕らがやっているようなtoC向け、マス向けのサービスで言うと、シンプルで価値が分かりやすいことがヒットの条件だと考えています。世界的に見ても今注目を集めているAirbnb(民泊仲介大手オンラインサイト)やUber(自動車配車Webサイトおよびアプリ)、そして日本のメルカリなど、流行のサービスは一目見ただけでその良さがユーザーに伝わるような構造になっています」

    クラシルの動画では、料理の下準備から完成までの一連の流れが簡単な説明文とともに1分間のコンパクトな動画にまとめられており、何も説明されずに動画を見始めたとしても、それが料理手順を説明していることが分かる。

    「それまでレシピは本に書いてあるものだって思っていた人たちでも、この動画が他に類の無いサービスで、さらに自分にとって見る価値のあるものであることが分かる。それを一瞬で伝えられるシンプルさが絶対に必要なんです」

    今やdely=クラシルというイメージが世間では定着したが、クラシルはdelyにとって3つ目のプロダクトだという。そして過去に経験した2つの大失敗が今回の成功に大きく役立っていると大竹氏は振り返る。

    3つの失敗したから学んだことを語る大竹氏

    「最初に立ち上げたのは『dely』というフードデリバリーサービスだったのですが、今考えると、サービスの機能としてはいいが、どこからユーザーが入ってきてどう行動するといった設計ができていなかったんです。だから一見した時に、何ができるのかを提示できなかった。そして2つ目の『クラシル』は、暮らしをテーマにしたキュレーションサイトでしたが、コモディティーすぎました。競合が多すぎて僕らのサービスを使う理由を作り出せなかったんです」

    ユーザーがいない。競合が多すぎて自分たちのサービスを使う理由がない。この2つの失敗を経験したからこそ、プロダクトに対して唯一無二の価値を作ること、そしてそれを一瞬で伝えることを重要視するようになったと語る大竹氏。そして本当に価値のあるプロダクトが完成した時、それをリリースする時期の選定もヒットのためには必要不可欠な要素であると続ける。

    サービスの成功はバットを振るタイミングで決まる

    「プロダクトの善し悪しももちろん大切なのですが、これまでを振り返ってみるとやっぱりタイミングが一番重要かなって思うんです。僕は野球をやっていたからよく野球で例えるんですけど、バッターって、いくらスイングが速くてもタイミングが合ってないとヒットは打てないじゃないですか。サービスも同じでタイミングが早すぎたり遅すぎたりすると流行らない。良いプロダクトを適切なタイミングで世に出すことがとても重要だと思います。」

    クラシルの場合は、ユーザーがスマホを使う環境が変化するタイミングに合っていたと大竹氏は当時を振り返る。

    ビジネスチャンスを得意の野球に例えて説明する大竹氏

    「クラシルで動画配信を始めた2016年当時、携帯各社がやっていた定額制のパケット量が一気に増えたんです。それによってYouTubeなどの動画を外で見ている人が増え始め、動画を見ることへのハードルが一気に低くなったんですよ。そういった背景もあって、Facebook上でのコメント数やシェア数がどんどん増えていった。明らかに『好球が来た』っていう感覚だったんですよね。だからそこに合わせてバットをフルスイングしたんです」

    そしてユーザーたちの中でアプリ化へのニーズが高まったと同時に、一気にアプリ化へと舵を切ったクラシル。波を逃さないように、アプリ開発着手から約1カ月でリリースまで至ったというから驚きだ。そして“好球”を見極める目は、CEOやCTOクラスの人材だけでなく、今後はプロダクトを作るエンジニア一人一人にも必要になってくると大竹氏は指摘する。

    「社員たちによく言っているんですが、プロダクトを作れるだけでは自分の市場価値って維持できないと思うんですよ。今はもう勉強しようとすれば誰でもできちゃう時代だから、今後“作るスキル”を持った人はどんどん増えていく。今、みんながエクセル使っているのと一緒ですよね。そうなってくると、『こういうものを作りたい』って思った時に、どういうタイミングでそのプロダクトを出せばいいかを分析して、ある時は直感で判断できる人材こそが、本当に活躍し続けていけるんだと僕は思っています」

    文・写真/羽田智行(編集部)

    Xをフォローしよう

    この記事をシェア

    RELATED関連記事

    RANKING人気記事ランキング

    JOB BOARD編集部オススメ求人特集





    サイトマップ