Vol.611

楽天の「働き方改革」実例! 東日本大震災を機に加速した、“本当に成果を出す”リモートワークの秘訣

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働き方改革の一環として、社員同士が離れた場所で仕事をする「リモートワーク」を導入する企業が増えている。だが、メンバー間のコミュニケーションや情報共有がうまくいかなかったり、給与や評価の公平性に課題があるなどの理由から、なかなか組織として成果を上げられないケースも多い。

そんな中、リモートワークを実践しながら、高いパフォーマンスを発揮している開発チームが楽天株式会社に存在する。他社では難しいことが、なぜ同社では可能なのか。リモートワークで働く当事者お二人に、その成功の秘訣を聞いた。

楽天株式会社
ECカンパニー ECマーケットプレイスビジネスサポート開発部
ECビジネスエンパワーメント課シニアマネージャー
南條融氏学生時代まで宮城県・仙台で過ごし、就職と同時に上京。プログラマーとしてアフィリエイトシステムなどの開発を手がける。2008年楽天に入社し仙台支社に勤務。12年よりマネージャー、17年より現職

楽天株式会社
ECマーケットプレイスビジネスサポート開発部
ビジネスグロースエンジングループ マーチャントサクセスチーム アシスタントマネージャー
池田祐子氏2006年、新卒で楽天に入社。文系出身ながら、自ら希望して開発部門のエンジニアになる。楽天市場の店舗向けシステムやAPIのサポートを担当

マネージャーは仙台、メンバーは東京。
350kmの距離があるからこそ、共有が密になる

楽天でリモートワークを実践しているのは、ECマーケットプレイスビジネスサポート開発部(以下、ECBD)と呼ばれる組織だ。同社の主力事業である「楽天市場」に携わる開発部は、楽天市場を利用するユーザーに対応する「MALL」や、楽天市場に出店する店舗向けシステムを開発・運用をする「RMS」などと同規模の組織として、楽天の社内向けにシステムやデータを活用した業務支援を行う「ECBD」が存在する。

楽天 南條氏

「ECBDは、営業や企画、間接部門といった開発部門以外の社内の人たちに対し、業務改善や効率化を実現するための提案や技術支援を行っています。例えば最近では、『カスタマーサポートのコスト削減や顧客満足度の向上を図りたい』という事業部門のニーズに応えて、AI技術と連携したチャットボットを開発しました。これにより、楽天市場のユーザーからの問い合わせに自動応答サービスで対応できるようになりました」

そう話すのは、ECBDのシニアマネージャーを務める南條融氏。こうして社内の期待に応えて成果を出し続けているチームが、リモートワークで動いているというから驚きだ。ECBDは現在、東京・大阪・仙台の3つの拠点で連携しながら業務に取り組んでいる。なお、管理職である南條氏も、普段は仙台支社で働く一人だ。

一方、アシスタントマネージャーの池田祐子氏は東京勤務。同じグループのメンバーたちは3つの拠点に分かれていて、直属の上司は大阪と仙台にいるとのこと。バラバラの場所にいながら、日常の業務をどのように進めているのだろうか。

楽天 池田氏

「3つの拠点をWebでつないだグループミーティングを毎朝15分ほど行い、メンバー全員で情報共有やタスクの確認をします。より大きな部・課単位の会議やプロジェクトの打ち合わせも、やはりテレビ会議やWeb会議で定期的に行います。別の拠点にいるメンバーとの普段のコミュニケーションは、チャットツールを使います。『今こんなことで困っているんだけど、詳しい人いません?』とか、『こんな情報が手に入ったから、皆も参考にしてね!』なんて。感覚としては、同じフロアで働いている人と話すのと全く変わりませんね」(池田氏)

とはいえ、あくまでコミュニケーションはWebやテレビを介してのこと。距離が離れているデメリットはないのかと問うと、池田氏は真剣な表情で考えた末に、「特にないですね」と答えた。

「上司と拠点が離れたのは今年からですが、むしろそれまでよりコミュニケーションは質量ともに充実しました。近くにいる者同士だと、『皆も分かっているよね』という思い込みで確認不足のまま仕事が進むことがありますが、お互いに距離があるからこそ、言葉にして丁寧に説明しようとか、口頭だけでなくきちんと明文化しようといった意識が生まれる。以前より高いレベルで、より良いプロダクトを生み出す環境が整ったと感じています」(池田氏)

「仙台さん」「東京さん」の呼び方を変えた、震災後のシステムトラブル

楽天がリモートワークを始めた経緯を辿ると、話は10年ほど前にさかのぼる。同社は2007年頃から「地方にいる優秀な才能が活躍する場をつくりたい」という経営判断を明確に打ち出し、東京以外の地域に拠点をつくり始めた。大阪と仙台に開発部門を持つ支社ができたのも同時期だ。

「ただし当時は、あくまで東京とは別の地方組織という位置付け。しかも、できたばかりの新しい組織なので、仙台には仕事が全然なかった」と振り返る南條氏。そこで南條氏ら仙台の開発メンバーは、東京本社へ足を運び、社内営業から始めることにした。

「さまざまな部門へ行き、『開発案件はありませんか』と声をかけて回りました。そうして他部門の人たちと話すうちに、業務改善や効率化をしたいというニーズは社内にたくさんあると分かったんです。それに応えるシステムを開発したり、技術的な支援をするうちに、私たち地方支社の実績が認められた。しかしそれでもなお、お互いのチームのことを“仙台さん”、“東京さん”と呼んでいたり、組織間には壁がありました」(南條氏)

その壁を壊す大きな転機となったのが、2011年の東日本大震災後に発生したシステムトラブルだった。そのリカバリーを担ったのが、東京と仙台のチームだった。

楽天 南條氏

「震災後、仙台のエンジニアと東京をリモートで繋ぐインフラを強化していたタイミングでした。東京と仙台のエンジニアが連携し、一週間でシステムを復旧できた。かなり精緻な計画策定や段取りが必要な難易度の高いミッションでしたが、それをリモートでやり遂げたことで、本社も地方拠点への信頼を深めてくれました」(南條氏)

こうして2014年には、仙台支社も含めた「東日本市場開発課」という組織が誕生。これで東京と地方の壁はなくなり、一つの組織として仕事ができるようになった。さらに16年からは現在のECBDへ組織が移行し、eコマースのビジネス構築に関する開発や支援を担う専門組織へと生まれ変わった。

「ここで組織名から完全に地方の名前が消えた。つまり、どこで働いているかは全く関係ないという環境や文化が形成されたということ。まずはこの文化の醸成、お互いの壁を取り払うことが大事だと思います。さらに以前は東京より低かった地方の給与も、2013年からは同じ水準に引き上げられた。これも楽天が『働く場所に関わらず、同じパフォーマンスは出せる』と考えている表れだと思います」(南條氏)

大事な場面では必ず顔を合わせる。リモートと対面のバランスを重視せよ

こうして今では、「リモートワークがすっかり当たり前」と2人は口を揃える。だが、同じようにインフラや組織のルールを整備しても、リモートワークがうまくいかない企業はたくさんある。なぜ楽天では、これほど運用がうまくいっているのか。

「理由の一つは、お互いに離れているからこそ、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを大事にしている点だと思います」と池田氏。Web会議やチャットで会話できるとはいえ、一度も会ったことがない相手だと、どうしても「この人、何でこんな言い方をするんだろう?」などとフラストレーションが溜まりやすい。

「でも、直接会って相手の人となりを知れば、『あの人はこういう性格だから、私のことを思って言ってくれているんだな』と納得できる。だから私は数カ月に一度は地方の拠点へ行き、一緒に仕事をする相手と顔を合わせて話をします。特に新しいプロジェクトが立ち上がったばかりのチームビルディングの段階では、じっくり時間を取ってお互いのビジョンや方向性を擦り合せたり、それぞれが自分の個性や性格を見せ合って、相手への理解を深めることが重要。こうして一度信頼関係ができてしまえば、あとはオンラインのやりとりだけでもスムーズに仕事は進みます」(池田氏)

評価についても、上司と部下が離れたオフィスで働いていたら、「普段の私を見ていない人が公正に評価できるのか」と不満が出そうなもの。だが楽天では、マネージャーが遠隔地で働く部下の評価に戸惑うことはない。

「リモートと対面のバランスを重視しているので、四半期に一度の目標設定や振り返りの際には必ずフェイス・トゥ・フェイスで面談を行うようにしています。また楽天の評価軸は、『目標達成のために取った行動と、それに伴う結果』という客観的事実を重視します。メンバーが100%の力を発揮して目指すゴールを達成してくれてさえいれば、労働時間や働く場所など問題ではありません。もし部下から不満が出たり、逆に『自分が見ていないところでさぼっているんじゃないか』と部下を疑う上司がいたら、そもそも相手との信頼関係ができていないということでしょう」(南條氏)

2人の話から見えてくるのは、リモートワークを成功させるには、インフラやネットワークを整備するだけでは不十分ということ。その前提となる“人と人との関係”を大切にしているからこそ、楽天は高い成果を上げているのだろう。

「いくら技術的に遠隔地をつなげることができても、『人を尊重し、コミュニケーションを大事にする』という社内の文化が醸成されなければ、リモートワークはうまくいかない」。この南條氏の言葉こそが、“リモートワーク成功の秘訣”を物語っている。

取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太

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