世界650万DLのカップル専用SNS『Between』CEOいわく、「今後はバーティカル・プラットフォームが盛り上がる」
FacebookやLINEが一般社会にも普及していく過程で、コミュニケーションサービスには新たなニーズが生まれている。とりわけ、親しい人間関係だけでつながることを前提にした、クローズドSNSやメッセンジャーサービスが成長著しい。
日本では、つながりの上限を150人に限定した『Path』(Path)や、9人にまで絞り込んだ『Close』(REVENTIVE)などが知られるが、特に最近は1対1での利用を前提としたクローズドSNSも流行の兆しを見せている。
その中で、最も「1対1」のニーズが強いのは、カップル専用SNSである。
この領域のサービスとして知られているのは、欧米を中心に利用が広がる『Couple』(TenthBit)や『Avocado』(Avocado Software)、シンガポール発の『LoveByte』(LoveByte)、また国産サービスとしては『Pairy』(TIMERS)や『HUGG』(HUGG)、『sweetie』(リクルート)などがある。
中でも、日本のみならず、アジア全域とアメリカマーケットで存在感を見せているのが、韓国生まれの『Between』(VCNC)だ。
これまでに全世界で650万ものDL数を誇り(2014年2月末時点)、今年2月にはDeNAからの資金調達も行っている。
メジャーなメッセンジャーアプリがユーザー数を急伸させる中で、なぜ彼らのようなクローズドSNSが一定の地位を占めるようになったのか。そして、メジャーSNSとの棲み分けはどうやって進めていくのか。
今回は、出資を受けたDeNAとの協議のため来日していたVCNCのCEOパク・ジェウク氏と、VCNC Japanの代表を務める梶谷恵翼氏に話を聞いた。
海外展開の基本は「市場の黎明期に仕掛けること」
―― まずは『Between』の現況をお聞かせください。
パク おかげさまで、『Between』はアジア諸国で人気を集めています。日本でも、昨年4月の日本法人設立以来、順調にDL数が伸びています。
―― 先日はDeNAから資金調達されましたね。
パク はい。シリーズCの資金調達を行い、第三者割当増資を実施しました。DeNAさんには、『Between』の成長性を高く評価していただいたこともあり、まずは出資を受け入れるところから関係を築くことになりました。具体的な提携内容はこれからです。
―― DeNAとの提携で期待していることは?
パク DeNAはITサービス全般に幅広く取り組んでいる会社なので、協業し得る事業範囲は非常に幅広いと考えています。
具体体な交渉は現在行っている最中で、詳しいことはお話できませんが、カップル向けに提供できるサービスは、食に関するものや旅行などと幅広い。また、コンテンツづくりの面でも強みをお持ちですから、そういった面でも長期的なお付き合いができればと考えています。
―― IT・Web系のサービスは、多くがシリコンバレーを中心とするUSから世界に広まることが多い中で、『Between』がアジア圏で高い人気を誇る理由は何だと考えていますか?
パク シリコンバレーの企業がアジアに進出する場合に比べれば、わたしたちは非常に優位な立場にある。その理由は2つあると考えています。
1つは、アジアの多くの国々が、中華圏から派生した文化や言語を共有しているということ。欧米の文化や言語に比べ、断絶が少なく、親和性が高い点が挙げられます。
そしてもう1つが時差の問題。機動性を考えると、アジアに活動拠点がないシリコンバレーの企業より、効率よく活動することができるのは、わたしたちにとって有利です。
地の利を活かし、きめ細かなローカライゼーションとカスタマイゼーションを行えることが、アジアでの成長につながっていると思います。
メジャーSNSの寡占状態にある国ほど、クローズドサービスが伸びる
―― ただ、アジア圏では、通信インフラにまだまだバラつきがあります。メッセンジャーアプリで最大の肝となる「つながりやすさ」への対応は、どのようにやっていますか?
パク インフラが整った国とそうでない国の差が大きいのは確かです。でも、あと2~3年もすれば、多くの国々で通信インフラが改善され、スマートフォン普及率も上がるでしょう。
大事なのは、条件が整う前に進出し、現地のアーリーアダプターの心がつかめるかです。韓国で2年前に『Between』をリリースした時点では、今ほどスマートフォンは利用されていませんでしたが、普及率が上がるのに比例して『Between』も成長しました。
市場が成長過程にある最初の入り口で、いかに食い込めるかが、海外展開する上でも重要だと考えています。
―― では、普及のカギは?
パク 実は『Between』が浸透しやすい国には共通点があって、韓国では『KakaoTalk』、日本や台湾では『LINE』、シンガポールでは『WhatsApp』といった、1つのメッセンジャーアプリが市場を寡占している場合がほとんどです。
誰しも上司からのフレンドリクエストや、見知らぬ人からのメッセージに困惑した覚えがあると思いますが、クローズドSNSが注目されるようになるのは、こうした経験が契機となってオンライン上のプライバシーを考えるようになるからでしょう。
アメリカではアジア圏ほど『Between』の普及が進んでいないのは、『WhatsApp』のようなメッセンジャーアプリより、まだSMSの利用率が高いことが要因の1つだと考えています。
バーティカル・プラットフォームの構築で不可欠なのは「文脈設計」
―― 先月、パクさんが受けたインタビュー記事では、『Between』のプラットフォーム化に言及されていました。どんなプラットフォームを目指しているのか、構想を聞かせてください。
パク マスを対象にしたSNSやメッセンジャーアプリが行うプラットフォーム化をホリゾンタル(水平)展開とするなら、『Between』のプラットフォームはバーティカル(垂直)展開を目指しています。
広く・浅くというより、「カップル向け」という軸に沿ってニーズを深く掘り下げるようなイメージになります。われわれがAPIを提供するサードパーティも厳選し、ARPU(1ユーザーあたりの売上高)を高めるようなサービス展開を考えています。
―― バーティカル・プラットフォームの事例はあまり聞きませんが、他社で参考にしている事例はありますか?
パク ジャンルはまったく違いますが、DropboxやEvernoteが近いかもしれません。彼らはクラウドストレージに求められる限定されたニーズを深掘りしながら、サードパーティに対してAPIを提供し、サービス領域を拡大しています。
特にEvernoteは、独自のマーケットプレイスも展開し始めていますし、面白い動きだなぁと思って観察しています。
―― 『Between』の構築するバーティカル・プラットフォームでは、どのようなサービス展開が考えられますか?
パク ユーザーニーズを満たすという意味では、思い出の写真をアルバムにするようなサービスや、カップルのための旅行プランキュレーションのようなものも考えられるでしょう。
こうしたサービスを実施するにあたってまず大事なのは、データのコンテクスト、つまり文脈をよく理解すべきだということです。カップルが大切にしている記念日、写真、チャット内容には、固有の文脈があります。それを正しく理解し、本当に必要な機能やサービスだけを提供する。
これができるのは、一定数のユーザーを得ているクローズドSNSならではの強みです。
ですからわたしたちは、このコンテクストを理解する上で、ユーザーの行動履歴を徹底して分析した後、必ずユーザーインタビューを実施して、データとユーザー声をすり合わせるようにしています。サービス開発では、何よりもこのコンテクスト設計が最優先されます。
一例を挙げると、世の中にはすでにレストラン検索のサービスがたくさん存在しているものの、カップルに特化した検索サービスはほとんどありませんし、カップルの記念日や互いの好みに合わせてキュレーションして提案するようなサービスもありません。
わたしたちにはカップルという特化した領域の膨大なデータがあるので、その解析とユーザーヒアリングに基づいて、こういったサービスを実現することができるかもしれない。ですから、今後はバーティカルな展開によって、より成長していくことができると考えています。
社員が「エンジニア5割」の理由は、過去の失敗体験にある
―― サービス開発やデータ解析のお話が出てきましたが、『Between』の開発体制はどのようになっているのですか?
パク チームの半分はエンジニアで、残りの2/3がビジネスディベロップメント、1/3がデザイナーという構成です。
エンジニアの比率が高いのは、以前、『m&Talk』という別のメッセンジャーアプリの開発に携わった時に、エンジニア不足が原因でプロダクトがスケールしていかなかった反省を踏まえ、このような体制にしています。
たとえるなら、エンジニアは『Between』のエンジンで、ビジネスディベロップメントはハンドルのような役割ですね。
組織もプロダクトも、速度と方向性が正しくコントロールされて、初めてゴールに辿りつけるわけですから、今後もエンジンとハンドルのバランスをうまく保ちながら、組織を拡大していくつもりです。
―― いわゆるビッグデータ、つまりユーザーログの活用の仕方については?
パク 『Between』は、恋愛という繊細なテーマを扱っているため、サイエンティフィック(科学的)であるべき面とエモーショナル(情緒的)であるべき面が、絶妙なバランスで共存しています。
海に浮かぶ氷山に例えるなら、水面下はデータ解析によってユーザー理解を深め、サービスを継続的に発展させる部分。水上に出ている部分は、サービスのブランディングやアプリの操作感などによってユーザーを惹きつけるのが役目になる。
ですから、ユーザーの目に触れる部分はよりエモーショナルに、そしてユーザーの目に触れない部分はよりサイエンティフィック(科学的)に進めることを常に心掛けています。
―― 具体的には?
パク メッセンジャーアプリは、それほど機能で勝負する部分が多いわけではありません。ですから、通信や写真データのやりとりをより高速にするインフラ面の強化であったり、バーティカル・プラットフォームを構築するためのAPI設計といった部分に関しては、かなりテクノロジードリブンで進めています。
一方、ブランド構築や広告宣伝、UI改善、キャンペーンなどの「水上に浮かぶ部分」は、まず情緒的な理想を決めて、それに向けてさまざまな施策を練り上げていくイメージですね。
韓国では、恋人ができたら『Between』を使うのがある種のステータスになるようなマーケティングを実施してきましたし、プロ野球球団とのコラボレーションでカップル専用シートをわれわれが提供したりもしています。
こういったビジネスディベロップメントの糸口は、データを分析するだけではなかなか出てきませんから、データは参考にしながらも、専門チームが別途担うようにしています。
―― 最後に、ユーザー動向について聞かせてください。『Between』を利用する最もアクティブな期間、すなわち恋の継続期間は、どのくらいなんですか?(笑)
パク 韓国だと、平均値を取ると11カ月くらいですね。日本は?
梶谷 平均すると、16カ月くらいだと思います。
―― 一般的なSNSやメッセンジャーと違って、アカウントは破局すると消えるのですか?
パク いえ、アカウントは残り続けるので、新しい恋人ができたらまた同一アカウントで『Between』を利用できるようになっています。もちろん、カップル解消となったら同期も解除されるので、以前の恋人とのデータは一切漏れないような仕組みになっています(笑)。
誰とつながっていても、快適なつながりを提供するというのが、『Between』のポリシーです。
―― 以前、CTOのYoungmokさんにお話を伺った時、「どちらか一方が別れる決断をしてから、復縁することもあるので、30日間はつながりが解消されない仕組みになっている」と聞きましたが、それもデータドリブンで決めた日数なのですか?
パク いえ、30日という「復縁期間」は、データ重視で決めたわけではありませんね(笑)。
―― そうでしたか(笑)。今日は貴重なお話をありがとうございました。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小林 正
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