キャリアVol.332

グリー藤本真樹氏が、繰り返し「古典」を読み直す理由【連載:エンジニアとして錆びないために読む本】

グリー株式会社で取締役 執行役員常務 最高技術責任者を務める藤本真樹氏
グリー株式会社で取締役 執行役員常務 最高技術責任者を務める藤本真樹氏

業界内で知られるCTO(最高技術責任者)や、新たにCTOに就任したエンジニアたちに、仕事に役立つ書籍や読書体験を紹介してもらうこの連載。第1回目となる今回は、グリーの最高技術責任者・藤本真樹氏の登場だ。

取材の依頼をした当初、長年にわたって最先端の技術領域に身を置き続けてきた藤本氏であれば、各種テクノロジーに関わる書籍から愛読書を選ぶのでは? と筆者は考えていた。

だがその予想は大きく裏切られる。「若いエンジニアにオススメの本を選ぶのであれば」という前提で、長く人々に読み継がれてきた「古典」をピックアップしてくれたからだ。

それも、3冊の中で技術書は1冊のみ。この真意はどこにあるのか、話を聞いてみた。

良いと思った本は繰り返し何度でも読む

最初に聞いたのは、藤本氏の「書籍」への接し方について。最近は、以前ほど読書に時間を割けなくなったという同氏だが、折に触れ本を手にするようにしていると言う。

好んで読む分野は、仕事に直結する技術書やビジネス書のほか、小説や哲学書など幅広い。ただし、多読・乱読タイプというより、気に入った本を何度も読み返すタイプだと自己分析する。

「最新のテクニカルな話題をキャッチアップしようと思ったら、今はWeb上の一次情報に当たった方が効率的なのは間違いない。でも、書籍からしか得られない情報もまだまだたくさんありますし、以前読んだ本でも、何度か読み返すうちに自分の解釈が変わることも多い。先人の知恵が詰まっている書籍を繰り返し読むのは、自分にとって大事なことなんです」

この考え方でセレクトしてくれたのが、以下の3冊になる。

グリーCTO藤本氏の座右の書

【1】『ソクラテスの弁明・クリトン』(岩波書店)
プラトン著 久保勉訳

すごくいいコードが書けたと満足していたのに、半年後に見返してみると自分の考えの甘さに、うんざりさせられることがたまにあります。

そのたびに、一瞬でも「自分はデキる人間」だとか「これ以上追求する必要なし」なんて思ったら成長が止まるって反省するんです。

でも、しばらくするとまた慢心が頭をもたげてくる。この本は、物事の理解する、本当に知る、ということの難しさを対話を通じて教えてくれると思っています。時々読みかえすことで、謙虚に学び続ける大切さを思い出すようにしているつもりです。

【2】『ライト、ついてますか―問題発見の人間学』(共立出版)
ドナルド・C・ゴース著 G.M.ワインバーグ著 木村 泉訳

中学生の時、藤原博文さんの『Cプログラミング診断室』という本の巻末で、この本が紹介されていたので読んだのが最初。

その後何度も読み返しましたが、実を言うと大学に入って、バイトでプログラミングをするようになるまで、あまり内容にピンときていなかったんです。

仕事として開発に携わってみて、初めて『問題発見って、こういうことなんだ』と理解できました。それ以来、継続的に愛読している一冊です。

【3】『コンパイラ―原理・技法・ツール』(サイエンス社)
A.V.エイホ著 R.セシィ著 J.D.ウルマン著 M.S.ラム著ほか 原田賢一訳

超有名な“ドラゴンブック”を選んでおいてアレなんですけど、必ずしもこの本であるべき、という理由で選んだわけじゃないんです。

では、なぜ紹介したかと言うと、コンパイラに限らず、OSとかプロトコルなど、普段何気なく使っている技術の根っこにあたる部分を深堀りすると、知識の欠落を見つけられたりすることがあるから。

枯れた技術の話ではあるのですが、これが意外に今直面している課題解決のヒントになったりするので侮れません。

現実を相対化し成長を確認するために読む

藤本氏にとって、読書は2種類に分けられるようだ。

一つは純粋にストーリーを楽しんだり、情報を吸収したりするための読書であり、もう一つは現実を相対化するための手段としての読書だ。

とりわけ今回は、後者の読み方をしているものから選んだと藤本氏は話す。

「もちろん小説を読む時は、ストーリーにハマって読みますし、未知のノウハウを得るためだけに読む本もあります。でも今回挙げた3冊、特に1番目、2番目の2冊は、メタ的な読み方と言いますか、書かれている内容を吸収するというより、本の内容と現実を相対化しながら読んでいる本です。

先ほど『同じ本を繰り返し読むことが多い』と言いましたが、それは無意識に読後の感想が自分の中で変化したり、新しい見方や感じ方をしたかどうかで、自分の成長を確かめたいからなんだと思います」

それは、日々の忙しさの中で忘れがちな「原点」に立ち帰る作業でもある。

「自分にとってコードを書くということは課題解決をするということ。エンジニアは、多面的に物を見る目を養うべきだと思うし、与えられた情報を現実として受け入れるのではなく、絶えず疑問の目を向けるべきだと思います。課題を前にした時、その背景にどんなコンテキストがあって、どんなゴールを目指すべきなのか、本質から理解しなければなりません。

しかし、頭では分かっていても、それを継続してやり続けられないのが人間というものかなと思っていて、少なくとも僕自身はそうです。僕はそうした思いを本を読むことで取り戻すことが多い。読書は僕にとって、エンジニアとしての原点に立ち返る手段でもあるんです」

気になったら手当たり次第に読めばいい

『Team Geek』で、チーム文化を作る上で重要な要素とされる「謙虚さ」をたびたび口にする藤本氏
『Team Geek』で、チーム文化を作る上で重要な要素とされる「謙虚さ」をたびたび口にする藤本氏

つまり本質をつかみ、技術を使って問題解決に当たるというエンジニアに求められる基本的な能力を、錆びつかせることなく伸ばし続けるために、藤本氏は読書を活用していると言うわけだ。

「僕が紹介した本は、仕事にすぐ活かせるものでも、最新のノウハウが得られる内容でもないので、誰しもが『今』読むべき本として薦めるのは適切ではないかもしれません。新しい技術を学んだり、トレンドを吸収できる本の方が、仕事上のプライオリティはどうしても高くなりますからね。

でも、これらの本は、僕にとって自分の頭で考えることの大切さや、エンジニアのあり方を振り返るのに適したものだと思っています。少なくとも自分にとっては、仕事に取り組む姿勢を正すきっかけになってくれています」

そんな藤本氏に、改めて若いエンジニアに読書の効能をどう伝えるべきか尋ねてみると、次のような言葉が返ってきた。

「僕にとってタメになる本が、多くの方にとって役立つかどうかは分かりません。でも、読書することによって、現実の出来事を変化させたり、捉え直したりするきっかけになることは確かです。一度読んで分からなければ繰り返し読んでもいいし、他の本と並行して時間をかけて読んだっていい。年に1回でも、3カ月に1回でもいいので、普段読まないような本を手にしてみるのを勧めます。意外な発見があるかもしれません」

もし、どんな本を読むべきか迷ったら、気になる本を手当たり次第に読んでみたらいいと藤本氏は言う。あなたも気負わず自分なりの「1冊」を探してみてはどうだろう。

取材・文/武田敏則 撮影/伊藤健吾(編集部)

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