日進が実現した“いいとこどり”の開発体制、「ハイブリッド・オンショア」が理に適っている
1990年代から2000年代にかけて、日本のSIerでは開発を海外に委託する、いわゆるオフショア開発が一般的になった。海外の安価な労働力を頼ることで開発コストを抑えられると人気になったオフショア開発であるが、設計と開発の距離があることにより、品質の面で不安視する声や、アジア圏の経済成長によりオフショアでのコストメリットが薄れているのも事実だ。
とはいえ、開発をすべて国内で行う場合、オンショア開発よりは品質を担保しやすいものの、依然コストが高くつくというデメリットがある。
そんな課題を踏まえ、2つの開発手法の“いいとこどり”で、高い品質を保ったままコストを下げる独自の開発体制を採っている企業がある。1998年に創業し、現在は東京・千代田区に本社を構えるSIer、日進だ。
日本のみならず中国にも子会社を持つグローバル企業で、ERPソリューション、金融ソリューション、自治体向けソリューション、OSSソリューションなどの開発で事業を拡大しつつある。
同社はどのようにして“いいとこどり”を実現しているのか、また、実際の開発現場からはどう見えているのか、同社代表取締役の唐沢雄三郎氏と、現場でエンジニアとして働く今崎康行氏に聞いた。
日本の悪しき産業構造に風穴を開けたい
唐沢氏は「日本のSIerに新風を吹かせたい」と力強く語る。それは日本のSIerの産業構造に対する「強い憂い」から来る言葉だ。
「プログラマー35歳定年説、なんて言葉もあるように、日本のSI産業は全体的にゼネラリスト志向が強く、スペシャリストが評価されにくい傾向にあります。現場で一生懸命汗を流している人が、組織的にはハンコを押しているだけのゼネラリストの部下になってしまう。また、たとえ仕事をリタイヤする年齢になっていても、労働意欲のある人はたくさんいます。そんな方々が、ちゃんと評価されなかったり、働く場所がないのっておかしいじゃないですか」(唐沢氏)
こう唐沢氏が語るように、日進では現場でスペシャリストとしてのスキルを磨きたい若手エンジニアのみならず、ベテランエンジニアの層も積極的に採用している。
そして、技術力を磨く若手と知見の豊富なベテラン、日本人と外国人それぞれのよさを掛け合わせた開発スタイルを構築しているという。それが、先述の“よいとこどり”を支える「ハイブリッド・オンショア」である。
日本人のマネジメント力×中国人のパフォーマンスでQCDを担保
日進の掲げる「ハイブリッド・オンショア」とは、日本で詳細設計を行い、その後の開発も日本国内の外国人エンジニアを含めたチームで行う、というものだ。
同社が「ハイブリッド・オンショア」開発に行き着いたのは、日本の従来の開発体制に問題点を見出したからだ。また、唐沢氏から見ると、日本人と中国人の働き方には大きな違いがあるという。
「どちらかというと日本人はマネジメントに長けている傾向があります。しかし、開発には慎重な一面があり、スピードも中国人に比べれば遅い。一方中国人は、開発のスピードはとても速いが、マネジメントに関しては日本人ほど得意ではない。この両者の特徴をうまく組み合わせたチームで開発を行うことで、互いの不足を補い合い、手戻りも少なくなるので、結果、QCDが担保できるようになるのです」(唐沢氏)
日本企業特有の業務知識には、日本人の経験がものをいう
また、日進の開発チームでは、マネジメントに日本人のベテラン層を、開発部隊には日本人や中国人の若手を多く配置するという体制が採られているという。
「このようなチーム編成にすることで、各エンジニアがそれぞれのスキルを活かしながら活躍できるのです。日本の業務システムの開発では、日本企業特有の業務知識が必要となり、それは経験によって身に付く部分が多いからです。また、ベテランの経験による勘も、時に頼りになるでしょう」(唐沢氏)
他方、中国のIT技術系大学では、日本とは異なり2~4年次に実務レベルのJavaを学ぶ。4年次には企業へのインターンが必須となっており、さらに高度な技術を身に付けて、即戦力として卒業する。そのため、日本人の新卒の社員よりも技術レベルが高く、開発に要するスピードも非常に速い。
そんな双方の良さを組み合わせる狙いが、この人員配置にあるという。
同社でエンジニアとして働く52歳の今崎氏も、それぞれの役割について現場社員の立場からこう話す。
「中国人の若いエンジニアは仕事が速いですよ。ただ、手順を守り、きっちりと作業する、ということに関しては日本人の方が向いているようです。わたしたちベテランのエンジニアの中で、プログラムを書く速さで中国人の若手エンジニアにかなう人はほんの一部です。しかし、作りこみの勘所はわれわれの方が長けています」(今崎氏)
若手とベテラン、日本人と中国人、それらの最大公約数ともいえる、日進の「ハイブリッド・オンショア」開発が日本のIT産業の救世主となり得るのか、見守っていきたい。
取材・文・撮影/佐藤健太 (編集部)
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