2005年度下期IPA「天才プログラマー」認定、第24回独創性を拓く先端技術大賞 学生部門文部科学大臣賞(部門最優秀賞)など華々しい経歴を持ち、三児の母でもある五十嵐悠紀の連載です
博士号取得者の約1/5が進む道! 知られざる「ポスドク」の正体
五十嵐 悠紀
計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある
皆さんは「ポスドク」という言葉、ご存知でしょうか?
ポスドクとはPost Doctorのことで、博士号を取得した研究員のことです。日本では、大学は学部4年間があり、卒業した後には大学院があります。大学院は大学によっては名称が異なることもありますが、修士課程2年間、博士課程3年間があり、それぞれ修士、博士の学位が取得できます。
大学院で博士号を取得した後は、企業に就職するか、大学のポジションを探すか、大きく二つの選択肢があります。大学にとどまることを選択した場合、助手・助教などのポジションに就職するまでに経ることの多い任期付きのポジション、これが「ポスドク」です。
欧米ではよく聞くポジションの一つですが、日本ではまだまだ認知度が低いのではないでしょうか。
わたしは現在(※2012年時点の情報です)、日本学術振興会(通称、学振)の特別研究員(ポスドク)として筑波大学に所属しています。
学振のポスドクは3年任期。1年前の春に、どのような研究テーマで3年間研究を行いたいかの申請書を出し、審査され、10月末ごろ採否が決定します。ポスドクの間は、基本的に提出した申請書に沿ったテーマで研究していきます。
ポスドクにもいくつか種類があり、自分で研究テーマが設定できるか否かというのは、このポスドクの種類によります。
例えば、大学の教授や大学の研究費によって雇われるポスドクであれば、その教授の研究テーマに沿った研究を行うことが多いです。また、大学や学振の他にも国の研究機関(例えば、産業技術総合研究所、理化学研究所など)が博士研究員を募集していたりもします。
助教に就けるか? 審査の基準はひとえに「論文数」次第
大学の場合、ポスドクの後は、助教→講師→准教授→教授と昇進していきます(分野ごとに多少異なるかもしれませんが、情報科学の分野ではこんな感じが多いです)。
准教授は昔の助教授のことで、「教授を助ける」ではなく「教授に準じる」であることから、最近名称が変わりました。博士号を取得する人は年々増加傾向にあるものの、博士号を取得した人のポジション(就職先)は大して変わりがないことからも、なかなか狭き門であることがうかがえます。
また、講座制の大学などでは、教授の先生が退官されると、准教授の先生が教授になり、講師の先生が准教授になり、とエスカレーター式に昇進していくこともあります。
就職活動や昇進の際の評価は、一般的には論文数によって下されます。ほかでは著書や特許の本数、教育実績もカウントされることが多いです。大学によっては近年5年での研究成果は別途カウントするような仕組みになっており、毎年コンスタントに論文発表することが必要です。
一方、欧米でのアカデミック界では、若手研究者は大学院への進学、博士号取得、ポスドク、大学のテニュアトラック、大学教授テニュアと進んでいきます。
この「テニュア」という言葉。これは終身雇用権とでもいうのでしょうか、大学教員が定年まで雇用されることを指します。
テニュアトラックという制度は、教員を一定期間の任期をつけて採用し、任期中の業績を審査して、合格するとテニュアが取れる(終身雇用が与えられる、つまり任期付きではなくなる)制度です。
欧米の学会などに行くと、「テニュアが取れたよ!」、「おめでとう!」なんて会話もよく聞きます。日本でも、テニュアトラック制度を用いた採用を取り入れている大学も増えてきたように思います。
意外と不透明な博士たちの未来。16%が「無職」というデータも
博士進学することを決めた時期にわたしが教えてもらったのが「博士が100人いる村」でした。これは博士号を取得した人の進む道の割合を、村人に例えて示したものです(上のリンク&動画参照)。
最後の方は統計的にデータが取れなかった、ということだと思いますが、博士号取得するのも、した後も、そう簡単ではないのだな、と考えさせられるきっかけになりました。
最近では、企業でも博士号取得者はめずらしくなくなり、また女子学生もどんどん博士課程に進学するようになりました。学会での女性率も、5年前に比べて格段に増えてきています。会社で働きながら博士号取得を目指す、「社会人ドクター」も増えてきています。
学生時代は博士号を取得することが目標でしたが、ゴールではなくスタートだったんだ、と最近はつくづく思います(これは「結婚」も一緒ですね 笑) 。
博士号を持っているだけではダメで、それ以上の何かを常に模索しながら研究をしている毎日です。
撮影/小林 正(人物のみ)
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