300億円超と言われる「動画広告市場」は今年こそ立ち上がるか!? 現状と課題、エンジニアの参入余地を紐解く
昨年12月、Facebookが試験的に導入したことが話題になるなど、今後の注目ジャンルとして話題を集めている「動画広告」。
今年度、アメリカにおける動画広告マーケットはすでに約4000億円規模に達しており、2016年までには2倍の約8000億円規模になると予測する業界関係者もいる(出典記事)。
とはいえ、日本ではまだマーケットが立ち上がっているとは言い難い。多くのネットユーザーにとって、ポータルサイトにたまに載っている動画広告を観たり、YouTubeで動画視聴をする前後に流れる広告を見かける程度のものだろう。
こうした中、日本における同マーケットの開拓を目指し、動画配信ソリューションを手掛けるスキルアップジャパンから分社・独立する形で2013年8月に設立されたのが、スキルアップ・ビデオテクノロジーズ(以下、SUVT)である。
SUVTは、大手TV局が行うオンデマンド配信や、eラーニングにおける動画活用といった開発案件を多数請け負っている。
独自の動画配信プラットフォーム『ULIZA』も開発・運営しており、課金型動画配信サイトの導入数では国内最大規模となっている。
このプラットフォームの運用や、動画配信の受託開発でさまざまな事業者のニーズに応えてきた知見を基に、SUVTは拡大が見込まれる動画広告マーケットに乗り出そうとしているのだ。
日本で普及しそうなスタイルは「インストリーム型」
SUVTの取締役を務める平井強氏は、今後、日本で立ち上がっていく動画広告市場の規模を300~500億円規模と見積もっている。
「アメリカではすでに『ネット広告市場の約5%が動画広告』と言われていますので、日本のネット広告市場約2000億円にそのパーセンテージを重ね合わせると、300~500億円規模になっていくと見ています。コンテンツを持っているTV局や、TVCMを取りまとめている広告代理店などは、効果的に訴求できる配信先があればすぐにでも検討したいと言っている状況です」
気になるのはその内訳だ。一口に「動画広告」と言っても、コンテンツ視聴のマルチデバイス化が進む今、出稿媒体はTV(ネットTV)、PC、スマホ、タブレットとさまざま。当然、配信形式も多種多様になる。
平井氏によると、動画広告の主流となりそうな形式は次の2つだという。
ポータルサイトの右側などに組み込まれていて、クリック(タップ)や自動的に流れる。
主にプレミアムコンテンツ(有料動画)の視聴時、動画再生の前や途中に広告が挿入される形で流れる。
欧米でも日本でも、動画広告マーケットが急拡大すると見られる理由の一つに「スマホの普及」があることからも、今後は【2】のスタイルが普及しそうだと平井氏は語る。
「インストリーム型の動画広告が普及する背景としては、ユーザーの傾向を分析しユーザーの嗜好性に合った広告を表示することができる点が挙げられます。さらに、動画コンテンツに沿った広告の表示も可能。適切なターゲットに適切なタイミングで広告を表示することで、広告の訴求力を高めることができます。
また、スマートフォン向けの動画広告については、インストリーム型の広告を利用することで、より適切な動画広告をピンポイントで挿入することが可能となり、訴求力の改善が見込めます」
この仮説を前提に、SUVTではインストリーム型の動画広告でマーケットを開拓し、いち早く日本でデファクトのポジションを奪取したいのだという。
マーケットが盛り上がった時「流れの中心」にいるには今年1年が勝負
同社が「日本でデファクトを取る」と意気込む理由は、市場動向以外の点にもある。
とりわけインストリーム型の場合、広告を別の動画コンテンツに組み込む形になるため、技術的な参入障壁が高いのだ。
SUVTで技術戦略グループのマネージャーを務める斉藤氏は、特に3つの技術領域に精通していることが肝要だと話す。
「その3つとは、動画配信の基本となる配信技術、コーデックについての知識を含むフォーマット変換技術、そしてDRM(デジタルライツマネジメント)など著作権保護のためのセキュリティ技術です。われわれは、これら3つの技術をさまざまな受託開発案件を通じて習得してきたので、その強みは他社に真似できないものだと自負しています」(斉藤氏)
事実、同社では、ネット上での動画配信のみならずPSPやWii Uといったゲーム機向けや、ネットTVでのコンテンツ配信なども手掛けてきた。こうした「カスタマイズ配信」の経験知も、動画広告の黎明期を開拓するアドバンテージになると踏んでいる。
「今のフェーズでシェアを獲得していく上でもう一つ重要なのが、これらの技術的なバックボーンを持ちつつ、動画広告を配信するプレーヤーをもパッケージで提供していくこと。そこまでやり切れる日本企業は、当社を含め、ブライトコープさんなど片手で数えるほどしかないはずです」(平井氏)
そのため、動画広告配信事業を支えるエンジニアも、絶対数が足りないというのは自明の理。先のソーシャルゲームバブルのように、マーケットが急拡大すれば作り手が不足してしまうという課題を、同社はどう乗り越えようとしているのか。
動画配信の世界で長く開発に携わってきた斉藤氏は、「業界経験者の絶対数が少ない以上、未経験のエンジニアを育成していくしかない」と話す。
「過去の経験上、例えばJavaやC言語でアプリケーション開発をしていた人や、LAMP環境を構築できるエンジニアなら、業務をこなしながら覚えることができると感じています。どの業界でも同じように、扱うもの(=動画の性質や動画広告で扱うデータの性質など)については勉強をしなければなりませんが、興味があれば技術やノウハウを自分のモノにできると思います」(斉藤氏)
SUVTでも、この「興味」を軸に採用を行いながら、業界未経験のエンジニアにはOJTを含めた社内の教育カリキュラムを提供していくという。
1990~2000年代初頭のインターネットブームやスマートデバイスの普及期を振り返ってみると、物事がメインストリームに乗った時には、黎明期からかかわってきた先行者たちが面白いビジネスアイデアを実行に移しているもの。動画広告マーケットも、おそらく同じ変遷をたどるはずだ。
となれば、今年1年が、本格的に動画広告マーケットが立ち上がった際に「中の人」になれるか「外野」になるかの境目となる、というのはほぼ間違いなさそうだ。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正
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