

IoTがもっと盛り上がったら、何が必要になる?カヤック×ユカイ工学×メタップスに聞く「黎明期に市場を作るエンジニアの条件」

(写真左から)メタップス小森谷一生氏、ユカイ工学青木俊介氏、面白法人カヤック松田壮氏
モノとインターネットをつなぐIoT(Internet of Things)に注目が集まっている。
iPhoneの登場後、スマホアプリ開発の仕事が生まれ、市場で求められるエンジニア像が変化したように、IoT時代の到来後は、どのようなエンジニアにニーズが集まるのだろうか。
弊誌の姉妹サイト『@type』が2015年7月18日に開催した『エンジニア適職フェア』では、先駆的にIoTに取り組む企業3社の開発リーダーを招き、「IoTが普及したら、『求められるエンジニア像』はどう変わるのか?~ITだけ、モノだけでは通用しない時代の歩き方~」をテーマにトークセッションを行った。
《登壇者》
面白法人カヤック クライアントワーク事業部 リーダー 松田壮氏
ユカイ工学 CEO 青木俊介氏
メタップス プロダクト統括部 システム基盤開発チーム 部長 小森谷一生氏
まだ業界全体としては黎明期と呼べる状況下、先駆けてこの分野での研究開発に取り組む3社の、IoTに関する知見と今後のエンジニア像を聞いた。
カヤックは2009年からIoTに取り組んでいた!?
――最初に、各社のIoTに対する取り組みからお聞きしたいと思います。
松田 カヤックが最初に現在のIoTと言われるようなものに取り組んだのは2009年ごろでした。明和電機さんとコラボで、『YUREX(TM)』というプロダクトを開発したんですね。これは「貧乏ゆすりをセンサリングしてインターネットでつなぐ」というコンセプトだったのですが、斬新すぎてユーザーにまったく魅力が伝わらなかったようで。全然売れませんでした(笑)。

また、2013年には、新婦が新郎に贈る愛の誓い指輪というIoTデバイス『サオリング』をローンチしました。これはユカイ工学さんのフィジカル・コンピューティングツールキット『konashi』を使って作ったんです。指輪の中にセンサーが内蔵されていてスマホと連動し、新郎が誰と電話番号交換したとか、現在位置などを知ることができるモノですね。
カヤックはWeb系の案件が中心ですが、最近では、クライアントワークでもIoT分野の仕事が増えてきています。
―― 弊誌でも以前、日産自動車さんと共同開発した「“身に付ける”エクストレイル」、アウトドアスポーツギア『X-TECH GEAR』の開発話を取材させてもらいました。
松田 ありがとうございます!そうですね。最近はこのような案件のご依頼が増えているんです。
―― ユカイ工学さんは、主にロボティクス分野でいろいろと取り組んでますね。
青木 はい。ユカイ工学は脳波を測定するセンサを使った『necomimi』を2011年に開発したり、さっき松田さんが紹介してくれた『konashi』をリリースしたりしています。この他、まだ製品化に至っていないのですが、踊るフィギュアの『idoll』などもありますね。
2015年には小型のコミュニケーションロボット『BOCCO』に、クラウドファンディングで2万ドル以上が集まりました。
『BOCCO』についてご説明させていただくと、例えば自分の親が一人暮らしをしていて、実家が離れている場合に、心配なんだけど平日は朝から晩まで働いている方っていますよね?そこで、スマホから『BOCCO』宛てにボイスメールを送ったり、文字メールを送ると『BOCCO』が読んでくれるというモノです。
今後のIoTに関して私の考えとしては、ロボットが家の中にあるさまざまな機器のUI(ユーザーインターフェース)になっていくのではないかと考えています。
現在、家の中というのは、空調からお湯、電気などのスイッチが混在し、ゴチャゴチャになってい印象を受けています。個人的には、この課題を解決したいと考えています。
―― では、メタップスさんはどのような取り組みを?
小森谷 今年4月にユカイ工学さんと業務提携をし、ロボット開発者マネタイズ支援プラットフォーム『Metaps Robotics』の提供に向けて動き出したところです。
IoTデバイスについては、スマホが媒介となってするケースが多いですよね?そこで私たちは、媒介となるスマホに自社の解析ツール『metaps Analytics』を提供することで、ビジネス展開ができるのではないかと考えています。
メタップスがRaspberry Piを社費で支給する理由
―― IoT関連のサービスやプロダクトは、幅広い技術領域に精通しなければ開発が難しいのでは?と感じています。「中の人たち」は、ハードやソフト、通信など関係する技術領域をどう習得しているのですか?
松田 先ほどお話したように、カヤックはWeb開発が中心の会社ですので、社内には電子工学、ハードウエアのスペシャリストがほぼいないという状況です。事業の軸になっているWebあるいはスマホアプリのプログラマーが大半なんですね。だから、Web・アプリエンジニアがハードや通信についてイチから学ばなければならないと感じています。
最近は、イベント演出やプロモーションといったクライアントワークの一環で、IoTデバイスを活用した施策が面白いと思ったら、モノを作るというケースも出てきています。それらを受託として作る中で、実践を通じてスキルを身に付けています。
―― ユカイ工学さんはいかがでしょう。
青木 IoTを前提としたハードウエアデバイスを開発する上で、僕が重要だと思うことが3つあります。まずは、納期を厳守すること、次にドキュメンテーション、最後にユーザー体験です。
IoTデバイスのように実際のモノを作るとなると、Webサービスのように「とにかく早くリリースする」、「改善は後でやればいい」という考え方が通用しません。
また、工場や部品メーカなど多数の協力会社と仕事を進めることになりますので、どこかの工程がストップしてしまうと、そもそも全体が大きくズレてしまう。そのため、各スケジュールを遵守するということがとても重要です。
そこで必要になるのがドキュメンテーション。例えば、工場で使用する組み立ての工程指示書などをしっかりと用意する。こうした地道な努力も大切です。
最後にユーザー体験ですが、アプリから実際のモノまでを見た時に「ユーザーは本当に楽しいのか?」という視点を持つことが欠かせないと感じています。それゆえ、ユカイ工学ではIoTデバイスを開発する際、できるだけ機能をシンプルすることを心掛けています。機能を絞ることで、ユーザーにとって分かりやすいモノになると考えているので。
小森谷 メタップスでは、ソフトウエアエンジニアに会社からRaspberry Piなどのマイコンキットを支給して、「とりあえず皆で触ってみよう」という機会を設けていますよ。

―― ラズパイを会社支給するのは面白い取り組みですね。
小森谷 みんなやっぱり技術者ですので、いざ触ってみると電子工作を楽しみながら学ぶようになるんです。こうして触っているウチに、IoTのサービスにつながるような新しいアイデアも生まれてくるんじゃないかと感じています。
弊社の次の展開としては、IoTデバイスからデータを集めて、どうビジネス化を図るのか?というのを考えることですね。
―― なるほど。カヤックさんに関しては、2015年の5月に「IoT制作室」というのをオープンしたそうですね。
松田 ええ。IoTデバイスのプロトタイプを作って検証するケースが増えてきたものの、入居しているオフィスの設備的な制約もあり、社内にはレーザーカッターや3Dプリンタを設置できなかったので。そのため、オフィスとは別の場所にラボとして設置しました。
「IoT制作室」開設と同時に具体的なプロトタイプ制作の見積額を提示していたこともあり、ファブリケーション界隈の人たちから「興味がある」という声が届きました。「面白い取り組みですね」と。
IoTビジネスの面白さって、例えばAmazonの『Dash Button』のようなモノづくりになってくると思うのですが、カヤックはこうした切り口以外でIoTがどうビジネスに絡んでいくのか検討しています。
広告やマーケティングの世界では、既存のWebプロモーションが一周回ってしまった感覚もあり、クライアントから「プロモーションの中に実体験を取り入れたい」という話が増えています。そこで、モノとインターネットとつなぐIoTデバイスの制作依頼が増えてきているんですね。
青木 それに最近、SNSを中心にYouTubeの映像がシェアされることが増えましたよね。こういう流れは、IoTデバイスの開発にも影響をもたらすと僕も感じています。
―― なぜですか?
青木 実際に映像を撮影する時、IoTデバイスのような「動くモノ」があった方が絵になるじゃないですか。Webやアプリサービスと違って、実際に目に見え、動くモノがあるというのは、ユーザーの感情を動かすという意味で大きなアドバンテージだと思うんです。
特にプロモーションの世界では、IoTデバイスの販売の有無に関係なく、目に見えるモノを作ってみることが重要な時代になってきている。
―― 先ほどお話しになっていたホームロボティクスに関しては、どのようなビジネスチャンスがあるとお考えですか?
青木 社会的には、電力の自由化やスマートメータの導入が進められています。そういった大きな動きが起こっている一方で、自宅のUXについてはあまり考えられてないと感じています。
先ほども話しましたが、今の住宅はリビングの壁に多くのスイッチが設置されていて、とにかく統一感がない。これは、住居者のUXに良い影響がないですよね。
今後は、家全体を管理・制御するシステムまでを含めたUX設計が大切になってくると感じています。そこに商機があるだろうと。
―― なるほど。
青木 弊社に住宅メーカーの方からお声掛けいただき、ロボットを展示して「ロボットのいる生活」を伝えようとという動きもあります。こうしたところから着手している段階ですね。
青木氏「黎明期は何でも広く浅くやれる技術者が強い」
―― 最後に、「IoTが本格到来した時に求められるエンジニア像」についてお聞きしたいと思います。小森谷さんはどのようにお考えですか。
小森谷 IoTは次の成長分野。それに、ラズパイやArduinoなどの登場で、ハードウエア単体の開発は以前よりもやりやすくなったと思います。ですので、そこから“ビジネスの種”を作れるエンジニアは強いでしょうね。
技術面で言えば、1つの分野だけでなく、これまでにも未体験の領域に挑戦してきたという方が順応しやすいのではないでしょうか。
青木 僕も小森谷さんと同じ考えを持っていて、Webに関しても黎明期はコーディングだけをする人っていなかったじゃないですか。自分でPhotoshopで画像も作るし、CGIも埋め込む。やっぱり新しい分野が生まれた時って、1人で何でもできる人が最初に目立つと思いますよ。
ウチの会社でも、自動車メーカー出身者がiPhoneアプリの開発を行ったりもしていますので、とにかくいろんなことに挑戦し、経験を積むのが大切だと思います。

「仕事だから設計をする」ではなく、「週末も楽しんで何かモノを作ってしまう」。そんなイメージです。
例えばハードウエアエンジニアの人で、自分がやりたい“IoTっぽいこと”を実現するには、iPhoneアプリも必要になるから、とりあえずアプリ開発をかじってみようか?みたいな。そうこうしているうちに、デバイスとの連携をやるには「Bluetooth Low Energy(BLE)についても学ばなきゃダメだな」みたいな学習サイクルが回るようになると思うんです。
小森谷 確かに。スマホアプリのランキングも、iPhoneが出たばかりのころは個人のエンジニアが開発したモノが多かったですね。
松田 それと、個人でもモノを作ることが当たり前になりつつある時代が来た今、僕としては改めて「大切だな」と感じていることがあります。それは、リアルのモノを作ってきた経験と言うか、「モノの構造」に関しての知見です。IoTに携わるエンジニアには、そうしたスキルが求められるのかもしれません。
例えば、Web開発の世界ではすごく優れた若手のエンジニアでも、人によっては自宅用の机や椅子を自分で作ったり、組み立てた経験すらないケースもある。だから、「モノの構造」が分からないんです。
メーカーの方とお話をしていると、モノを作る手順がWebと全く違うということが分かります。当たり前の話ですが、モノづくりの知見やエンジアリング力は、やはり経験を通じて高まっていくもの。それをWebの世界にも取り入れていくと言うとおこがましいかもしれませんが、そうした知恵を吸収していくのも大事だと感じています。
―― 本日はお3方とも、貴重なお話をありがとうございました。
取材・文・撮影/川野優希(編集部)
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