Vol.74

学会や勉強会で、他人の発表を自分の研究に応用するために意識している2つのこと【連載:五十嵐悠紀⑰】

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筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL) 五十嵐 悠紀2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

前回の寄稿から、たくさんの方に読んでいただいた「連載特別編」のUI/UX座談会を経て、はや2カ月が経ちました。

世界的にも注目度の高いSIGGRAPH。五十嵐さんいわく、「今年は大量データを用いた研究が多く見られた」という
世界的にも注目度の高いSIGGRAPH。五十嵐さんいわく、「今年は大量データを用いた研究が多く見られた」という

8月は、連載でもご紹介したビーズの研究を発表しに、アメリカ・ロサンゼルスで行われたSIGGRAPH(Special Interest Group on Computer GRAPHics and Interactive Techniques)という国際会議へ行ってきました。

SIGGRAPHとは、アメリカのコンピュータ学会におけるコンピュータグラフィックス (CG) を扱う分科会が主催する国際会議の一つで、毎年夏にアメリカで開催されています。

今年のトレンドとしては、Amazon Mechanical Turkマシンラーニングなど、大量のデータを用いて行った研究が目立ったように思います。また、既存手法との比較や評価実験のない論文がほとんど見当たらないのが印象的でした。

わたしが発表したのは、モノづくりである「ファブリケーション」のセッションでしたが、こちらも近年できた新しいセッションで今年も注目を集めていたと思います。Exhibitionという企業展示でも、たくさんの企業が3Dプリンタや3Dスキャナを展示しており、ここでも、以前記事で触れたファブリケーションブームを感じられました。

このように、学会に参加する時は、「発表する」ほかに、「人の発表を聞いて勉強する」目的があります。これはエンジニアのみなさんが勉強会やイベントに参加する時も同じですね。

今回はSIGGRAPHで学んだことと共に、ただ「聞く」だけではなく、「自分のものとして取り込む」ために、わたしが意識していることをご紹介したいと思います。

ヒトの発表を「自分ごと化」する

SIGGRAPHでは、「Technical Papers」と呼ばれるセッションで発表をしてきました。これは最難関の研究登壇発表であり、わたしが最も注目しているセッションです。

「新規性は何か?」

わたしが発表を聞く時には、これを常に意識しています。これまで発表されてきた関連研究との位置付けは何なのか? コンピュータの速度が速くなったから、可能になったのか? アルゴリズムを工夫したのか、その人の発想が豊かだから今まで考えられもしなかったことを思い付いたのか。自分がそういった発想を思い付くには何が足りないのかetc……。

これは研究だけでなく、身の回りのいろんなものに共通しています。どんな製品であれ、サービスであれ、人のまねではなく、何か新規性があるからやる価値がある。ほかの人のマネで始めたようなサービスでも、どこか差分が生まれるのです。

わたしの出身が工学部ではなく、理学部だからかもしれませんが、常に「新規性は?」と問われる学生生活を送ってきました。そのせいもあってか、研究発表を聞く時にはこれを常に意識しています。

これを意識して聞くことで、自分が研究テーマを考える時に、「何を発展させたら新規性が出るか」が思い浮かびやすくなるからです。

自分が発表する時にも、先行研究の中での自分の研究の位置付けをきちんと説明するよう心掛けています。「こういう位置付けで、この部分ができていなかったから、それを解決するための研究である」という感じです。

また、何が新しくて、どこが自分の研究の貢献なのかを分かりやすいように伝えます。

当日発表されるセッションの論文は、事前にすべて読むべし

Technical Papersセッションの会場の様子
Technical Papersセッションの会場の様子

「Technical Papers」セッションは狭き門ですが、同様に登壇発表ができる「Talks」や、ポスター発表をする「Posters」といったセッションもあり、学術研究関係はこちらでも多岐の分野にわたって発表されています。

「Talks」での発表は、大学や研究機関で行われた研究発表などのほか、映画に使われたコンピュータグラフィックス技術のメイキングに関する解説なども聞くことができ、こちらも面白いセッションです。

映画のメイキングは技術の応用例として勉強になりますし、映画をこれまで以上に堪能できたりもします。

また、「Emerging Technology」という体験型デモセッションのようなものもあります。このセッションはSIGGRAPHの中でも非常に活気があるセッションの一つで、例年日本からの出展が多く採択されているのが特徴です。

Augmented Reality(AR)やHuman Computer Interaction(HCI)と言われる分野を代表するようなデモを実体験できます。

Emerging Technologyでドラムの練習用システム
Emerging Technologyでドラムの練習用システム

ほかにもたくさんのセッションがあるSIGGRAPH。時間は限られているので、効率良く回るために、渡米する前に興味のある人同士で勉強会を開くんですね。「Technical Papers」で発表される論文すべてを一通り読んで把握してから、学会に参加しています。

これによって、パラレルセッション(同時に2つのセッションが発表される)やトリプルセッションで開催される「Technical Papers」も、自分に関する大事な研究を見逃さずに済みますし、あらかじめ技術的に不明な部分なども分かるのでそこに集中して発表を聞くことができます。

学会は、著名人からフィードバックをもらう絶好の機会

学会に参加するのは「発表をするため」、そして「発表を聞くため」と言いましたが、もう一つ絶対に欠かせないことがあります。

それは、優秀な研究者と顔見知りになること。世界中から優秀な研究者が集まるこの機会。有名なアノ論文の著者があっちにも、そしてこっちにもあの有名な人がいる!などというチャンスは、なかなかありません。

コメントをもらいたい研究者を廊下で見つけたら、「Hello!」と声を掛けて、ちょっと時間をもらい、自分の研究・開発途中のものを見せてコメントやサジェッションをもらったりします。昨年のSIGGRAPHは出産直後で不参加だったのですが、一昨年にビーズの研究をすでにいろんな研究者に見せて、方針など相談に乗ってもらったりしていました。

たった5分でも、もっと短くても良いのです。

研究の方向性を再認識したり、修正したり、知らなかった関連研究を教えてもらえたり。そのためには、簡単なもので良いのでプロトタイプができている方が良いです。プロトタイプが間に合わなかったら、やりたいことをまとめたパワポがあるだけでも良いと思います。

そして、「いいね!頑張って!楽しみにしているよ」などと言われたりしたら、もう、断然やる気がでますしね(笑)。

勉強会やイベントなどに参加するのも、ある意味共通しているのではないかと思っています。そこにいけば有名なあの人に会える、あの人の話が聞ける、知り合いになれる、自分が今やっていることに対するコメントをもらえる。特に、ポジティブでもネガティブでも良いので、第一線で活躍している他者から自分の研究に対するコメントをもらえるのは非常に良い機会であり、自分が成長できるチャンスです。

from bilderheld  ポータブルデバイスに自身の研究成果のデモビデオを入れておくと、もしもの場合にも役に立つ
from bilderheld ポータブルデバイスに自身の研究成果のデモビデオを入れておくと、もしもの場合にも役に立つ

なので、学会や勉強会に参加する時は、わたしは常にPCを持ち歩き、いつでもリアルタイムデモができる状態にしています。どうしてもPCを置いていかないといけないような場合でも、研究成果のデモビデオを入れたiPod touchを持ち歩いています。

自分の研究成果をアピールしたい時のポイントは、これまでに行ってきた研究を見せて紹介します。逆にこれから行う研究のサジェッションがほしい時には、現在進行中の研究を見せて意見を聞きます。

そのために、わたしはまだ完成していない段階でもシステムが動く様子を適宜、録画したビデオを作成して保存しています。

一般には、システムが動いている様子を録画したデモビデオは研究がだいたい収束して論文投稿を行うタイミングでしか作らないものですが、先に作っておくのです。

最初は、子育て中にオンラインで共同研究者とやりとりをするために作成していた、ただの進ちょく報告のための途中経過のビデオだったのですが、これがいろんなところでとても役に立っています。

SIGGRAPHについて書いてきましたが、「Technical Papers」で発表された論文は、2011年からは公式サイトにて論文の最初の1ページが無料で公開されるようになりました(これまではACM会員になってACMデジタルライブラリからダウンロードするか、学会誌を購入しないと読めませんでした)。

SIGGRPHの論文は、1ページ目にティーサーと呼ばれる図(Figure 1)があります。これは、研究内容をよく表すように、どの著者もかなりの時間を掛けて作成した図であり、この図と概要を読めば、少しコンピュータグラフィックスを勉強したことのある人なら何となくは内容を把握できるのでは? と思います。

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