リリースから1カ月半、スタートトゥデイの『WEAR』が業界にもたらす「本当の衝撃」をユーザー動向から読み解く
ファッションEC大手のZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイが2013年10月31日にリリースした『WEAR』が、IT業界のみならずファッション業界でも話題を呼んでいる。
ファッションアイテムやコーディネート情報の収集と共有、購入~管理までをスマホアプリ(iOS/Android)&PC Web上で実現するこのサービスが注目されている最大の理由は、ECの最新スタイルとして搭載されたバーコードスキャン機能にある。
アプリを立ち上げ、スマートフォンのカメラで気になったアイテムの商品タグに記載されているバーコードをスキャンすると、そのアイテムの詳細情報を呼び出して購入の判断材料にできるほか、その場で購入しなくても後日ZOZOTOWNやブランドの自社ECサイト経由で購入することができるのだ。
サービス開始当初からUNITED ARROWSやURBAN RESEARCH、A BATHING APE®、TOPSHOP、snidel など、約200におよぶ著名ブランドが参加しており、店頭に「WEAR」のロゴ入りポスターを掲げるショップも出現。
リアル店舗とオンラインをつなぐO2Oサービスとして期待する声が上がる一方、家電量販店と大手ECサイトとの間で起こったような「ショールーミング化」のアパレル業界版になるという懸念も出ていた。
だが、WEARの開発思想とリリース後の反響をスタートトゥデイに取材すると、このサービスが世間で議論を呼んでいるような「リアル店舗の破壊者」とは別の立ち位置にあることが分かった。
本当の狙いは「新しい着こなし検索」の創造にある
「当社では2013年時点のアパレル業界全体におけるECの売上は5%前後であると推定していて、その比率を高めていきたいという狙いは確かにあります。ただそれ以上に、WEARをリリースした背景には、『上質なコーディネートレシピサイトを作りたい』という思いがあったのです」
こう話すのは、WEAR事業部のディレクターを務める久保田竜弥氏。今年4月、スタートトゥデイがZOZOTOWNに次ぐ第2の柱となる事業を創り出すべく集められた、約20名の精鋭の1人である。
久保田氏がWEARのコーディネートレシピサイトとしての側面を強調するのは、服好きの集まるスタートトゥデイとして、世の中に「好きな服を選ぶ楽しみを復活させること」が真の狙いだから。
開発の契機になったのは、かつて裏原宿に長蛇の列をつくった個性的なファッションブランドがかつてほどの勢いを失い、ファストファッションブランドが隆盛を誇る今日のアパレル業界の状況と無縁ではないのだと話す。
「僕自身、ファッションを愛する1人として、かつてのようにブランドさんが自分たちの作りたい服を自由に作れるような環境を取り戻したいという思いを強く持っています。それを実現するには、個性的な洋服を欲しいと感じ、それを楽しむ人を増やしていくしかありません。それができるのは、ZOZOTOWNを通じて各ファッションブランドやショップ、消費者の皆さんと関係を築いてきた僕らであるはずだと考えました」
では、どうやって人々の関心をファッションに引き戻すのか。
そのキーワードとなるのが「着こなし検索」。WEARが洋服の着こなし方をユーザー間で共有するというファッションSNS的な役割を果たすことで、上記したような購買行動を実現したいのだと久保田氏は言う。
ユーザーが支持した「マイクローゼット機能」へのこだわり
シェアされた他人の着こなしからインスピレーションを得ることで、自分なりのスタイリングとアイテム購入を促進し、その着こなし例をほかのユーザーとも共有することで人々のファッションライフを彩る。
こうした狙いがWEARを通じて具現化できそうだという手応えは、リリースから1カ月で見るユーザーの動きによって得ていると久保田氏。
メディアではバーコードスキャン機能に注目が集まっているが、実際には「マイクローゼット機能」の方がユーザーの反響がよく、チームが想定していた以上に使われているという。
この機能は、新規購入アイテムや手持ちのアイテムをWEARの「マイクローゼット」に追加しておくことで、アイテム情報とコーディネート画像の共有・管理が可能になるというもの。登録アイテムがZOZOTOWNで購入したものなら、マイクローゼットへの登録も自動で行われるため、入力の手間がない。
ポイントとなっているのは、ほかのコーディネートサイトが行っている機械的な着こなし例の表示や、ZOZOTOWN自身も取り組んできたレコメンドエンジンによるファッションアイテムの提案とは違ったやり方でコンテンツを提供している部分だ。
「洋服の着こなしが十人十色なのは、そこに人が介在するから。コーディネートを提供するサービスはほかにもありますが、彼らとWEARの違いは、データを機械的に分析して提示するような技術ではなく、例えば『今ボトムスのロールアップは足首から何センチくらいがイイ感じなのか』という情報を端的に伝えるために、着こなしのうまい一般ユーザーの写真を見せることを重視した点にあると思います」
「人の介在」という点では、リアル店舗でもショップ店員による着こなし提案が行われているが、店舗スペースと在庫の制約で、どうしても提案数に限りが出てくる。その制約を、Webという“メディア”を使えば解消できるというわけだ。
「店舗側からすれば、ブランドマーケティングや店外接客という観点でも、WEARは使えるサービスになるはずです。ブランドやショップ店員と協力して着こなし提案を行ったり、アイテムのタグ付け機能を使ってプロモーションイベントを企画したりすることもできます。WEARはエンドユーザーだけでなく、ブランドや店舗にもメリットが多いサービスなんです」
洋服好きの感情を揺さぶるサービスを、「データ重視」で具現化
こうしてユーザーの好奇心を刺激し、ファッション業界の活性化を果たすべく、WEARは今後どのような発展の仕方を考えているのだろうか。
「最終的には、国内で約18万店舗あるといわれるアパレルショップすべての店舗スタッフがWEARのアカウントを持ち、お客さまとのコミュニケーションツールとして使っていただけるようにしたいと考えています。そのため、スーツブランドや着物など、今までスタートトゥデイではお付き合いのなかったようなブランドの開拓にも取り組んでいます」
ユーザーイメージは「洋服を着るすべての人」。それゆえ利用者の拡大を見越して、バックエンドシステムとインフラ構築にはかなりの力を注いだ。
中でも、データベースの構成には相当こだわり抜いており、WEARの運用・解析チームも日々、次につながりそうな定量データを拾い続けている。
「代表の前澤(友作氏)と僕の2人がかりで、約3カ月かけて今後重みを増すであろうデータの洗い出しに取り組みました。今でも完成したER図を眺めながら、WEARの将来を想像してニヤニヤしてしまうんですが(笑)、現状のWEARにできることは構想の3割程度に過ぎません。これからいくつもの面白いサービスが登場するので期待していてください」
その「面白いサービス」の一例として、久保田氏はCtoCマーケットプレイスへの展開を示唆した。
「ユーザーが買いたくても買えない限定商品や廃盤商品をマイクローゼットに保存しているユーザーに対し、買い取りのオファーを出したり、逆にもう着なくなったアイテムをクリック1つでマーケットプレイス上に公開したりすることも技術的には可能な状態になっています。すでにサービス提供に必要なデータは手元にそろっているので、後は世の中の流れを見極めながら、サービス提供のタイミングを図っていくことになるでしょう」
店舗へのチェックイン方法についても、現行のバーコードスキャンではなく、いずれはiBeaconやBluetooth技術を利用した非接触型自動チェックインに置き換わることを見越して、システムには織り込み済だ。
WEARの全貌はまだ見えないが、スマートフォンを入り口としたアパレル情報の一大インフラとなる準備は着々と進んでいるようだ。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)
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