Google、Facebook、Amazonも注目する「SDN」がもたらすのは、クラウド以来の破壊的イノベーションだ
唐突だが、以下、この1カ月の間に世に出回った「関連記事」をいくつか抜粋してみる。
■[特集1]世界で一番分かりやすいSDNの話
[日経NETWORK | 2013年5月号]
■FacebookもAmazonも、Software-Defined Networkingエンジニアを現在募集中
[Publickey | 5月1日]
■SDNに本格参入した富士通の思惑
[ITmedia | 5月13日]
■ネットで40年ぶりの大革新 新技術「SDN」で挑む日本企業
[日本経済新聞 | 5月16日]
これを見ても分かるように、最近、新しいネットワークのあり方を示す「SDN(Software-Defined Networking)」というキーワードが多方面で取り上げられている。
IT調査会社のガートナージャパンが今年4月に開催した『ITインフラストラクチャ&データセンターサミット2013』でも、登壇したガートナー リサーチ バイスプレジデント兼ガートナー フェローのスティーブ・プレンティス氏が「今後5年間でITに影響を与える最重要トレンド」の一つにSDNを列挙。「数年前にシスコから認定されたきりのネットワークエンジニアは、今後SDNに職を奪われる」と警鐘を鳴らしている。
ではこのSDN、既存のネットワークの何を変えるもので、これまでの制御・運用とは何が違うのか?
2009年からSDNについての調査・研究を進めてきたNTTデータ基盤システム事業本部・システム方式技術ビジネスユニットの永園弘氏に説明してもらったところ、その影響範囲はネットワーク分野だけにとどまる話ではなさそうだ。
近い将来、ソフトウエアやアプリケーション、Webサービスのあり方まで変えてしまうかもしれないというのだ。
【図解付き】SDNの概念と、セットで語られるOpenFlowとは?
まずは言葉の説明から入ろう。
SDNについて語られる記事や文献を見ると、「OpenFlow/SDN」と表記されているケースが多いが、永園氏によると「SDN」とはネットワークを構成するアーキテクチャの1つとのこと。
一方の「OpenFlow」はSDNを実現させるための要素技術で、2008年に米スタンフォード大学で生まれたネットワーク制御技術だ。翌2009年には業界団体「OpenFlowコンソーシアム」が設立され、実用化への研究・開発が進められてきた。
「これまで企業や組織が導入・運用してきたネットワーク装置のほとんどは、機器ベンダーがハードウエアに搭載可能なソフトウエアを独占的に開発し、ユーザーに提供してきました。このソフトウエアを、機器ベンダーではない第三者でも開発できるようにハードウエア制御用のインターフェースを標準化して提供するのが、OpenFlowの考え方です」
OpenFlowがハードウエアを制御するための一インターフェースであることからも分かる通り、OpenFlowでSDNネットワークを実現するにはプログラミングが必須となる。
ここが既存のネットワークシステムとの最大の違いで、「これまで機器ベンダーがブラックボックスにしていたネットワーク装置に、自分たちの手で自由かつ柔軟な制御を与えられるようになった」(永園氏)わけだ。
「このOpenFlow/SDNは当初、ITシステムが物理的・論理的な制約を回避するために仮想化やクラウド化を進める過程で、サーバに比べて遅れていた『ネットワークに対する仮想化』を実現する手段として注目されるようになりました」
このトレンドを一気に“メジャー”へと押し上げたのが、米Googleである。昨年4月、米サンタクララで開催された『Open Networking Summit 2012』で同社が発表した内容によると、Googleは標準的なネットワーク機器およびAPIからの移行を約2年かけて段階的に実施。2012年1月から、アメリカをはじめアジア、ヨーロッパに設置している10カ所超のデータセンターのネットワークをすべてOpenFlow/SDNベースで制御しているという。
それまで「OpenFlow/SDNは実用段階に入っていない」と見ていた多くのネットワーク関係者が、これを機に自社での活用やSIサービスとしての提供に動き出したのだ。
SDNが「キャズム越え」したら、SaaSも通信キャリアもいらなくなる!?
ただし、永園氏は、既存のネットワーク機器およびシステムで特に大きな問題がないという企業が「ムリにOpenFlow/SDNの採用を検討する必要はない」と強調する。
「OpenFlow/SDNの本質は、さきほど述べたように『自分たちでプログラミングしてネットワークを制御できる』こと。市販のネットワーク装置では実現できないことをやりたいと考える企業以外は、やみくもにトレンドに乗らない方がよいでしょう」
が、永園氏のこのコメントにはもう一つの事実が隠されている。異なる視点で考えると、OpenFlow/SDNを駆使することで、今までのネットワーク環境では実現できなかったサービスを生み出すことも可能になるからだ。
例えば、セキュリティ製品のようにパッケージ売りやSaaSでの提供が常識とされてきたITサービスを提供する企業は、自社でOpenFlowコントローラを開発&SDNプラットフォームを構築することで、プラットフォーマーに頼ることなくサービス展開やアップデートができるようになる。
同じように、これまで通信キャリアのネットワーク上でサービスを展開していたWeb企業が、OpenFlow/SDNの普及でキャリアのプラットフォームに依存することなくサービスを提供することもあり得ると永園氏は言う。
こういった未来予想から垣間見えるのは、さまざまなジャンルのIT企業が「ネットワークもSIする時代」の到来である。
「OpenFlow/SDNには、かつてUNIXが主流だった大規模システムがオープンなLinuxベースに移行していったのと同じくらいの可能性、インパクトがあると考えています」
最後に、今の日本でOpenFlow/SDNにかかわっているエンジニアはどのくらいいるのかを聞くと、「1、2年前ならば100人ぐらいだったが、(OpenFlowが注目を集めた昨年の『Interop Tokyo2012』以降の)ここ1年で、急速にOpenFlowを扱うエンジニアが増加している」とのこと。しかし、それを上回るスピードでOpenFlowの適用が広がっており、エンジニアの不足感は増す一方だという。
ならば、これからまさに“未来のイノベーター”となりそうな「OpenFlow/SDNエンジニア」を目指すとするなら、どんな経験・知識を身に付ければいいのか。
「基本的には、ネットワークシステムの構築・制御に関する知識を持つエンジニアが、SDNの概念やOpenFlowでできることを学んでいくのが一番の近道だと思います。ただOpenFlow/SDNによって解決できる課題の範囲が劇的に広まっているので、ビジネスの発展に必要な施策を『そもそも論』で考える能力がないと難しいでしょう」
OpenFlow/SDNは、アーリーアダプターが利便性を追求するフェーズから、多数のユーザーが実用性を享受するフェーズへと移行する過程にある。したがって、SIerとユーザー企業、ハードとソフトどちらのエンジニアも、今のうちに「SDNで何ができるのか」、「どんな付加価値を生み出せるのか」を調べておいて損はないだろう。
過去の例を見ても、この業界の「破壊的なイノベーション」は、突然やってくるのだから。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)
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