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LINE開発の“新2トップ”に直撃~世界展開に向けた体制強化は「基本に忠実に」

働き方

    LINE株式会社 上級執行役員CTO 朴 イビン氏

    LINE株式会社 上級執行役員CTO 朴 イビン氏(写真右)
    システム開発、ソフトウエア開発などを経て、2002年に韓国のオンラインゲーム『NeoWiz(ネオウィズ)』 、2005年から同国の検索サービス『1noon(チョッヌン)』の開発に携わる。 2007年、NHN Corporationへ移籍後、すぐにネイバージャパン株式会社に参画し、同社のサービスインフラを支える存在に。2012年のNHN Japan株式会社(経営統合)、2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、 2014年4月より現職

    上級執行役員 サービス開発担当 池邉智洋氏(写真左)
    2001年、京都大学工学部在学中にWeb制作会社で働き始め、同年10月に株式会社オン・ザ・エッジ(のちのライブドア)に入社。同社の主力事業の一つだったポータルサイト事業の立ち上げから携わる。2007年に新事業会社「ライブドア」として再出発した際には執行役員CTOに就任。その後の2012年、経営統合によりNHN Japan株式会社へ移籍。2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、2014年4月より現職

    2014年4月に登録ユーザー数が4億人を突破したLINE。コミュニケーションツールとして国内外で大きなシェアを獲得するにとどまらず、近年はゲームやeコマース、マンガなど各種コンテンツの総合プラットフォームとしても発展を続けている。

    こうして多彩なサービスを提供していく中、同社は今年4月7日、さらなる躍進を見据えて経営陣の刷新を発表。代表取締役社長CEOの森川亮氏と、代表取締役COOの出澤剛氏による“2トップ”体制がメディアで話題となったが、開発体制においても2頭体制を敷いたことはあまり知られていない。

    上級執行役員CTOに就任した朴イビン氏と、上級執行役員サービス開発担当の池邉智洋氏は、朴氏がプラットフォームの開発責任者として、池邉氏がその上に乗るファミリーアプリ全般の開発責任者として、LINEの進化を支えていくという。

    同社の技術基盤は今後どう発展していくのか。そして、急速にスケールしていくプラットフォームは、どんなチームが支えているのか。LINEが形成するエコシステム全体を支える役員2人に聞いた。

    「10ペタデータ超」をさばく巨大プラットフォームの裏側

    LINE発展の生命線とも言えるインフラ強化について語る朴氏

    LINE発展の生命線とも言えるインフラ強化について語る朴氏

    ―― 今年4月15日、17日に行われた『LINE Developer Conference』では、日本をはじめ海外にも拠点を置き、積極的にグローバル展開を進めるという話が出ていました。

     ええ。現在は日本のほか、韓国やアメリカ、台湾など海外の主要国や地域に支社と連絡事務所があって、開発拠点も東京、福岡だけでなくソウル、大連などに置いています。

    ―― LINEは登録ユーザー数が4億人に達しています。増え続けるトラフィックに対応するインフラの整備には、かなりの設備投資が必要になりますね。 

     サービス開始から3年も経たないうちにユーザーが一気に増えましたから、設備を拡充するのはもちろん、技術的な面でもかなりチャレンジブルな取り組みが求められましたね。

    コミュニケーションツールとしてのLINEは、今では1日に約100億件もの会話が飛び交っている。これに関して、ハンドリングするデータ量は約10ペタデータにも上ります。

    これらのトランザクションを問題なくさばくために、クラウド活用はもちろん、各リージョン間のモニタリング、ネットワーク間のボトルネックを減らす工夫などなど、効率的にスケールアウトできるアーキテクチャを追求してきました。

    ―― 今後、より世界規模でサービスを拡大していくとなると、また違ったアプローチが必要になるのでは?

     そうですね。国や地域によって、通信面など基本的なインフラ品質が異なりますから。そのため、まずは各国・通信事業者ごとのインフラ状況をリモートで把握できるシステムを構築してパケットレベルの解析を進めるとともに、「LINE遠征隊」を組閣してそれぞれの国を直接訪問・調査したりもしています。

    各国の状況に合った方法でトラブルシューティングすることにより、よりクオリティの高いサービスをストレスなく提供できる環境を整えているところです。

    LINEのインフラ基盤については、同社のEngineer’s Blogで詳しく解説されている

    LINEのインフラ基盤については、同社のEngineer’s Blogで詳しく解説されている

    ―― 『LINE Developer Conference』では、さまざまなサービスを統合する「Channel Gateway」についての紹介もありました。

    池邉 ええ。主に認証とAPIの2つの機能で構成されており、認証処理には標準認証プロトコルのOAuth 2をベースにした仕様を採用しています。

    「Channel Gateway」は、ユーザー、ディベロッパーの双方がLINEのプラットフォーム上で動くサービスを使いやすくする上で、とても重要な位置付けとなります。

    ユーザーは、LINE本体やゲームアプリだけではなく、『LINEマンガ』、『LINE MALL』のようなファミリーアプリを利用する際も手持ちのLINEアカウントで認証ができようになります。

    一方のディベロッパーは、サービス連携のデファクトとなっているREST APIを通じて、LINEの持つさまざまな情報とすぐにつながることが可能になる。

    以前から、「LINE Channel」という形でLINE本体のほかにゲームなど複数のサービスをラインアップしていく体制を築いていましたが、本格的にグローバルサービスを展開していくにあたって、“入り口”から見直したわけです。

    ―― 複数の国や地域へサービスを拡充していく上で、プラットフォーム自体の見直しが欠かせなかったということでしょうか。

     その通りです。

    池邉 先日始まった『LINE Creators Market』は、企画当初から海外対応していくことになっていましたし、今後は「Channel Gateway」のような仕組みづくりがいっそう重要になってきます。

     LINEの事業展開上、インフラ強化は終わりがない領域です。現在は東京をはじめとする各大陸ごとの拠点にキャッシュレイヤを置いてスケールアウトに対応していますが、今後はLINEプラットフォーム自体をリージョンことに分散する予定で、さらに本客的なグローバルプラットフォームの構築を進めています。

    ―― 各拠点にまたがる開発は、どんな環境で行っているのですか?

     コードの共有、レビューをサポートするGitHub Enterpriseを使っているほか、バグトラッキングや課題管理を行うJIRA、文書コラボレーションWikiのConfluenceなどで開発環境を作っています。また、LINEを使うことで距離感を意識せずに開発できるようにもしています。

    LINEは仕事でも最強のコミュニケーションツールになるので(笑)。

    加えて、専用のTV会議システムとか出張などのface to faceなミーティングで、直接的なコミュニケーションも常に行っています。

    開発チーム内で明確な「業務分担」をしない理由

    ―― 以前、執行役員の舛田淳さんに取材した際、「あえて3カ月先の計画を立てずに現時点のベストを目指す」と話していました。こうした柔軟な事業方針を、迅速に実現していくには、開発体制にも柔軟さが問われると思いますが。

     それはもう、LINEの文化というか、当たり前なことになっています。

    もちろんビジョンや方向性はあって、今もサービス分野、インフラ分野それぞれで複数のプロジェクトが同時進行しています。でもマーケットの変化に応じて、そのうちのどれかを「より早く進めてリリースしよう」、「強化しよう」とジャッジされた時には、一気にそのプロジェクトへリソースを集中させるというのが当社のスタイルです。

    技術力の高さに定評のあった旧ライブドアでCTOを務めた経験もある池邉氏

    技術力の高さに定評のあった旧ライブドアでCTOを務めた経験もある池邉氏

    ―― 具体的には?

     各拠点横断で開発者全員が一つのチームになり、都度変わっていく開発の優先順位に対応しています。急きょ人員増が必要になったプロジェクトには、タスクフォースとして開発者を割り当て、スピード第一で実装に臨むのです。

    池邉 朴はプラットフォーム担当、私はファミリーアプリ全般と、役員は役割分担されていますが、もともと当社のエンジニアは明確に業務が分かれていません。ですからプロジェクトごとに得意分野だったり、やりたいという意欲があるメンバーが適宜加わっている感じです。

    だから、急な優先順位の変更があっても、わりと自然にスタッフが加わってきて、期限までにみんなで取り組んでいくという文化ができていますね。

    ―― LINE本体のみならず、ファミリーアプリでもこれだけのユーザー数になると、プロジェクトそのものの規模や難易度は非常に高くなるのでは?

     みんな、基本としての専門分野を持ちながらも、新たな問題について共にスピーディーに把握して乗り越えた経験が豊富です。だから、規模が大きくてスケジュールも厳しいというプロジェクトに直面しても、チームの力で乗り越えられるのです。

    池邉 サービス開発では常に何かしらの問題があって当たり前という雰囲気もあって(笑)、どんな取り組みも簡単にはいかないぞ、という心構えができています。だから、決して1人で悩んだり苦しんだりしないし、無理せず仲間の力を借りて乗り越えていこうという雰囲気になっていますね。

    教育と採用では「ソースを追求する姿勢」を重要視

    2人とも「チーム」を強調するが、その真意は「人数を割いて対応する」というものではない

    2人とも「チーム」を強調するが、その真意は「人数を割いて対応する」というものではない

    ―― お話を伺っていると、全員がフルスタックエンジニアでなければ対応できないような現場ですね。

    池邉 例えばアプリ開発者であっても、フロントエンドだけでなくネットワーク知識やサーバサイド開発のノウハウを知っていなければ難しい、というのは事実です。

    ただ、一般的なWebサービスの開発でも、例えばクライアント側のトラブルシューティングにあたっているうちに、サーバやネットワークに原因があるかもしれないと低レイヤまで学ぼうとするじゃないですか。

    そうやって「原因を追求する姿勢」があれば、自然とさまざまなことを学ぶようになっていくと思うんです。

    ―― 「大規模開発」とおっしゃっても、現在のLINEほどのスケールアウトが求められるサービスは、少なくとも日本にはないのでは?

    池邉 そうかもしれませんが、前例がないことで言えば僕ら自身も同じ立場。ですから、知識や経験があること以上に、ソフトウエア開発の基本を押さえた上で、何が必要になるかを追求しながら、学び、試し、実装していく姿勢が問われます。

     池邉が言うように、我々が考える「開発の基本」とは、どの言語が使えるとか、インフラに詳しいということではありません。何が問題になるかを考え、解決できる能力が「基本」になります。

    池邉 だから、LINEは中途採用でも「基本的なことを正確にこなせるエンジニア」を歓迎していますし、そういうエンジニアを育成していこうと考えています。

    ―― そういった「基本」を備え持つエンジニアを育成するために、教育制度なども整えているのですか?

     制度として決まったものはありません。でも、今はeラーニングなどを活用すれば仕事をしながらでも必要なスキルを身に付ける機会が豊富にありますから、申請があれば比較的自由に学んでもらえる体制になっています。

    海外で行われる技術カンファレンスなどにもエンジニアを派遣していますし、学んだナレッジを社員間でシェアするための勉強会やセミナーも活発に行われていますよ。

    ―― 開発拠点が他国にも広がっていくと、自発的に学ぶ姿勢はより重要になっていきますね。

    池邉 朴が申し上げたように、LINEではプロジェクト規模が大きい場合はタスクフォースを組むため、日本のメンバーだけでなく他国のエンジニアとも共同で開発に取り組みます。そういう意味では、拠点横断で学び合う機会も多いので、相互にディスカッションしたりする中で、エンジニアとしての知見が広がっていく環境と言えるかもしれません。

     外国語に堪能でなくても、エンジニアの場合はソースコードを見て学ぶことができますからね。LINEの文化として「コードレビューは徹底して行う」というのがあるのですが、その裏には「コードを見ながらお互いに成長してほしい」という思いもあるのです。

    ―― では、今後の本格的な世界進出に向けてどんなエンジニアを求めていますか?

    池邉 まずは“世界のどこにもない規模”のプロジェクトに挑戦したいという意欲、熱意を持った方ですね。世界規模のサービス開発や運用に必要なのは、今まで話してきた点はもちろん、チームで品質を高めていくという考え方も重要になります。

    コードレビューを重視しているのも、1人で全責任を負って開発するより、みんなでシェアしてより良いものを作っていくことの大切さを知ってもらいたいからです。

    マルチタスクな環境でも、みんなでこなせば良いサービスを提供していけると理解しているエンジニアに、ぜひジョインしてほしいと思っています。

     急激なスケールアウトに対応していく中で、我々開発チームが常に心掛けてきたのが、徹底して高い品質、クオリティにこだわるということです。

    ユーザー数が急増するということは、それだけシビアなサービス運用が求められるということです。目先の課題に「対応できる」だけではダメで、「最善のサービス提供」ができているかどうかを追求してきました。

    ですから、必要なものを最低限実現するだけで満足するのではなくて、もっとクオリティを高められないか、もっと満足度の高い方法は実現できないかを考えていけるエンジニアと一緒に働きたいと思っています。

    取材・文/浦野孝嗣 撮影/ 小林 正

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