btrax CEO
Brandon K. Hill
サンフランシスコと東京を拠点とするグローバルクリエイティブエージェンシーbtraxのCEO。アメリカと日本を含む200社以上のクライアントに対して、ブランディング、グローバル展開コンサルティング、UXデザインサービスを提供。自社メディアFreshtraxやFashionsnap.com 、In the Looopにもデザイン、テクノロジー、海外トレンドに関するコンテンツを提供中。サンフランシスコ在住
3人に1人(33%)がスマートフォンを持つようになり、スマホ経由のネットアクセスもPCの65%に上るようになった2013年。調査会社ニールセンのデータを見る限り、「スマホシフト」はいよいよ過渡期に入ったといえる。
この流れを象徴するかのように、昨年はLINEのようなスマホアプリがうなぎ上りの成長を記録。不適切な投稿によるTwitter炎上事件が頻発したのも、スマートデバイスの普及でネットがより身近なものになった表れと見ていいだろう。
では、2014年のテクノロジーサービスはどんな方向へ転がっていくのか。それを占う意味で、最新ITの発信源となってきたシリコンバレーの現状を知っておくのは悪くない方法だろう。サンフランシスコと東京に拠点を構えるグローバルクリエイティブエージェンシーbtraxのCEOブランドン・ヒル氏に、現地の「今」を聞いた。
btrax CEO
Brandon K. Hill
サンフランシスコと東京を拠点とするグローバルクリエイティブエージェンシーbtraxのCEO。アメリカと日本を含む200社以上のクライアントに対して、ブランディング、グローバル展開コンサルティング、UXデザインサービスを提供。自社メディアFreshtraxやFashionsnap.com 、In the Looopにもデザイン、テクノロジー、海外トレンドに関するコンテンツを提供中。サンフランシスコ在住
まず前提として知っておきたいのは、かの地のエコシステムが徐々に変質しているということ。
「日本ではシリコンバレーが注目されることが多いですが、ここ最近のTech界隈ではサンフランシスコ市内の方が盛り上がっています」
昨年IPOを果たしたTwitterをはじめ、日本展開を開始した『Pinterest』や『Uber』、プログラマーの一大プラットフォームになった『GitHub』、日本人起業家が立ち上げた『AnyPerk』など、勢いのあるスタートアップやテクノロジー企業は、だいたいサンフランシスコ市内に拠点を置いているという。ちなみに、地元の人々はシリコンバレーとサンフランシスコ市内を合わせて、ベイエリア(サンフランシスコ湾の湾岸地域)と呼ぶ。
理由として考えられるのは以下の3つだ。
(a)シリコンバレーよりも若者が多いこと
(b)起業に必要な人数が少人数化していること
(c)差別化要因が「技術力」から「UI/UX」になったこと
特に(a)と(c)について、ブランドン氏はこう説明する。
「シリコンバレーには優秀なエンジニアが集まっているので、以前なら人材採用を考えるとシリコンバレーに拠点を置くのが定石でした。しかし、近年は技術開発より若者ならではの感性でユーザー体験を練り上げていくことの方がサービスの差別化につながるため、シリコンバレーにこだわる必然性がなくなっているのだと思います」
日本でも、今後はスマートデバイス向けUI/UXの研究や、グロースハックのノウハウがより重要度を増していくだろう。この前提を踏まえた上で、2013年の成長領域から、今年伸びそうなサービス&プロダクトをブランドン氏はこう予想する。
2013年のアメリカでは、「何かをシェアすること」をうながすサービスが好調だった。
空き部屋を短期間で貸したい人と、旅行などで宿泊地を借りたい人をマッチングするサービスとして世界的に有名になった『Airbnb』や、クルマの所有者がアプリを使って同乗者を募る『Lyft(リフト)』がその代表格だろう。
スマホアプリを利用したオンデマンド配車サービスの『Uber』 や、昨年末からスマートフォン&タブレット向けサービスもリリースしたオンデマンド音楽配信サービスの『Spotify』なども、広義に解釈すればシェアリング・エコノミーの一例といえる。後者は昨年、年間10億ドル(約1000億円)以上の収益をあげるまでに成長している。
こうしたサービスが拡大傾向にある背景について、ブランドン氏は「デジタルネイティブ世代の成長と関係しているのでは」と分析する。
「彼らは小さなころからSNSがあった世代ゆえ、ネット経由で情報やデータをシェアするのは当たり前のこととして育ってきた。そこからリアルな世界でのシェアへ広がっていったのは、ある意味で当然の流れだったのだと思います」
この「ネットとリアル」をつなぐデバイスとして、昨年はスマホ以外にGoogle Glassを筆頭とするさまざまな形のウエアラブル・コンピュータが注目された。ブランドン氏は、今年こそ普及期に入りそうな気配があると語る。
「2013年がウエアラブル元年だったとすれば、今年は淘汰の年になるでしょう。カギを握るのはAppleの動向。どんなウエアラブルデバイスを出してくるのか楽しみです」
iPhone誕生以降の流れを振り返ると、象徴的なデバイスが出た後に必ず盛り上がるのが、関連製品や付随するネットサービスの開発。btraxが独自に調査しているデータによれば、シリコンバレーとベイエリアでは、ハードウエア関連の事業を手掛けるスタートアップがすでに1000社近く生まれているという。
「この中から、新しいウエアラブルデバイスや、周辺サービスの展開で名を挙げる企業もいくつか出てくるはずです」
そして、スマホやウエアラブルデバイスが人々の生活に浸透すればするほど、ビッグデータと呼ばれる膨大なユーザーデータが蓄積されていく。
今年は、それらをサービス提供者向けに素早く、分かりやすく分析して見せるようなデータビジュアライゼーションサービスが、今まで以上に注目されるはずだとブランドン氏は言う。
「日本でも知られているSEOダッシュボード『Ginzametrics』のように、B2B向けのデータビジュアライゼーションサービスはすでにいくつか立ち上がっています。今後は、広告配信システムのジャンルなどにも、便利なツールが出回るようになっていくのではないでしょうか」
これら3つの領域のほかに、ブランドン氏が個人的に注目しているテーマがあるという。かつてのアメリカを支えてきた、自動車産業の再生である。
その先導役となるのは、昨年、株価が急上昇した電気自動車メーカーのテスラモーターズだ。
ベイエリアのフリーモントに工場を構えるこの企業は、ここで挙げた「ネットとリアル(ハードウエア)の融合」、「UX重視のサービス展開」というキーワードをすべて高次元でこなす稀有な存在として、自動車業界以外からも脚光を浴びていた。
「パーツをモジュール化し、搭載するソフトウエアはネット経由でバージョンアップもできるので、“サービス”の製造工程そのものがネット系のスタートアップとほとんど同じなのです。中の人に聞いたところ、UX専任のスタッフも積極的に雇っているそうなので、彼らがもう少し低価格で自動車を発売し出したら、既存メーカーは一網打尽にされると思っています」
現在、主力車種の『モデルS』は10万ドル以上(1000万円以上)の価格帯だが、「数万ドル(数百万円)まで下がれば一気に普及期に入るはずだ」とブランドン氏。
日本は自動車への規制が厳しく、首都圏では若者のクルマ離れも進んでいるが、アメリカは国土が広いこともあって自動車は生活必需品。この「変化」は、当然インパクトの大きなものになる。
「テスラがメインストリームに躍り出たら、ウエアラブルデバイスと同様に、周辺サービスも盛り上がるはずです。例えばECU(電子制御ユニット)向けのソフトウエアサービスだったり、『クルマのデアゴスティーニ』みたいなサービスが出てきても面白い。ひいては『モノづくりUS』が復活する糸口にもなるでしょう」
日本はまだまだ既存メーカーが奮闘しているのでピンと来ない話かもしれないが、世界を揺るがすような「破壊的イノベーション」とは多くの人が気付かぬうちに起こっているもの。その動向をウォッチしていて損はない。
取材・文/伊藤健吾(編集部)
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