2005年度下期IPA「天才プログラマー」認定、第24回独創性を拓く先端技術大賞 学生部門文部科学大臣賞(部門最優秀賞)など華々しい経歴を持ち、三児の母でもある五十嵐悠紀の連載です
プログラミングも子育ても。自己研鑽のヒントは「成功者の失敗談」にこそ詰まっている【五十嵐悠紀】
五十嵐 悠紀
計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある
「失敗は成功の素」と言いますし、失敗から学ぶことはとてもたくさんあります。わたしがもっとも大事にしているのは、その中でも成功した人から学ぶことです。
自分の失敗をバネに伸びることも多々あります。けれど、失敗したからといって、次は成功の道を見つけられるかというとそういうわけではありません。失敗か成功かしかないのではなく、失敗の次も失敗かもしれないのです。
わたしが、IPAの未踏ソフトウエア事業や日本学術振興会(学振)の特別研究員に応募した時には、同じ研究室にいたすでに採択されている先輩方に申請書を見せていただきました。採択された人の申請書というのはそれなりのノウハウが隠されている気がします。
わたしは一度落ちてしまった申請書を別のところに出そうと書き直す際も、その書類だけを眺めていると何を直して良いか分からなくなってしまいます。なぜなら、その書類も精一杯自分のチカラを出し切って書いたものだからです。
でも、採択された人の申請書を見せてもらう機会があれば、自分には何が足りなかったかを改めて客観的に考えることができるから不思議です。
上手くいった申請書の文章は、その後も文章を削ったり加えたりしながら、別のところでも活かすことができ、負のスパイラルに陥らずに済むわけです。
プログラミングもしかり。学部生のころは自分では「できる」つもりでいましたが、大学院に入ってプログラミングのできる同期のソースコードなども見せてもらう機会があり、この時はとても勉強になると思った瞬間でした。
ペアプログラミングや、先輩からコードを受け継いだ時、ネットで検索してほかの人のコードを得た時……。人のコードを読むのは億劫だなと思うことも多いと思いますが、そこから学べることも非常に多いと思います。
特にコードを書くのが上手な人、これを読んでいる読者さんなら周りに絶対います。ぜひ一部だけでも見せてもらってみてください。コードを書くのが上手な人は、その人なりのノウハウが隠されていて、自分とは違う何かがあるはずです。
最初は、できる人の「見よう見まね」で良い
スポーツ界のトップアスリートは日本では4~6月生まれが多いと聞きます。これは小さいころの「成功体験」が影響しているとも言われているようです。確かにわが家でも、早生まれの長男は学年の中で一番小さく、幼稚園ではみんなができることがなかなかできない。
一方、5月生まれの次男は同学年のほかの子が何もできない中、一人だけできるという状況。どちらが良いかなんて一概には言えません。長男は自分ができない代わりに周りからすごく吸収して、「3歳6か月」というくくりで見るととても早く物事ができていますし、逆に次男は、(兄からの影響はあるものの)同学年の中にいるとできる子を見て必死になる姿が見られません。
でも、こうして子育てをしていて思うことは、“周りの「できる人」を見て必死に真似て覚えていく姿、超えようとする姿”は大人になっても共通するものではないかということです。
わたしはこれまで「人より1時間多く働いて成果を出す」ことを目標に頑張ってきましたが、今では「今までよりも1時間短く働き、今までと同等もしくはこれまで以上の成果を出す」ことを目標にしています。これは子育てとの両立といった面もありますが、だんだん徹夜などできなくなってきた体力面の都合上、でもあります。(笑)
けれど、育児や体力的な問題がなくても、大事なことだと思うのです。だらだら働くよりも、徹底的に無駄を減らす。気合や根性では残業も減りません。時間を掛けて上手くできるのは当たり前で、それを時間を掛けずにやるのがかっこいいのではないでしょうか。
ではどうすればいいのか? 無駄を省くって、具体的に何をすればいいのか?
会議の時間も、ブレストの時間も大事です。しかも、働く部署によって、業務内容によって、大事な順位は違うと思います。なので、わたしはたくさんの「成功者(だと自分が思っている人)」に話を聞いて、自分に応用できそうなところは真似をすることから始めてみます。
頭の冴えている朝の時間を大事にする。ランチミーティングをする。夫婦で時差生活をして一人の時間を作り出して仕事に充てる。何かしらの形で成功を収めている人たちの習慣については、いろいろな話を耳にします。
自分で実践できるところから始めて、上手くいきそうだったら続ける。そんなことをしていくうちに、自分なりのスタイルができあがってきます。
わたしが一番良いと思ったのは、「成功している自分を想像する」でした。「上手くいかない……」と落ち込んでいる時間があれば、その時間をすかさず「上手くいった自分を想像する時間」に置き換える。上手くいくためにはどうしたらいか?今自分がすぐに取り掛かれることは何か?想像でも妄想でも良いんです(笑)。
身近な成功者から「失敗の乗り越え方」を学ぶ
最後に、これまで「成功者から学ぶのが大事」と述べましたが、本当は成功者から「失敗の体験」が聞くことができればそれが一番学べると思います。失敗し、それを乗り越えて成功した。この体験は非常に貴重ですし、失敗は表面には見えてきません。
例えば、わたしはよく学生さんに「論文いっぱい採択されていて良いですね」と言われますが、「いっぱい採択されている」イコール、「いっぱい落ちてそれをバネにして頑張ってきた」ということなのですが、どれだけ論文が落ちたかをアピールする人なんていませんよね。
前回の連載で書いたビーズの論文だって、昨年不採択でようやく今年採択された2年越しの研究です。ほかにも上手くいかなくてお蔵入りになった研究、いっぱいあります。それでも人に見えている部分は「論文が採択された」という良い結果の部分だけなのです。
「不躾な質問で申し訳ないですが…」と遠慮気味ながらも、「上手くいかなかったことはありますか?」とか、「大変だった時、スランプはどう乗り越えましたか?」とか聞くと、案外話してくれる人は多いです。しかも、成功者はみんな頑張っている。自分だけが頑張らないとできないわけではなく、みんな頑張っている。それを聞いて安心したりするわけです。
実は昨今ではアカデミックな分野でも成功者の失敗・奮闘談を聞ける機会が増えてきています。コンピュータグラフィックス(CG)の分野で有名な国際会議『SIGGRAPH』では、「How to write a SIGGRAPH paper?」といったコース(授業)があり、失敗談・奮闘談も交えて成功の秘訣を聞くことができました。
国内では日本ソフトウェア科学会の大会でも、「トップカンファレンスに論文を通す方法」といったパネルディスカッションが開催されたり、日本バーチャルリアリティ学会大会でも「トップカンファレンス採択論文紹介」と題して採択までのノウハウも交えたディスカッションがされています。
これまでは成功者の成功部分にばかり焦点が当たっていたと思います。しかし、これからは成功者の失敗部分にも焦点を当てることで、そこから学び取れることも多い、そんな勉強会も増えてくるのではないでしょうか。
先日ノーベル賞を授与された山中教授も、講演や取材では自分の辛かった部分も含めて赤裸々に語ってくださっています。わたしはその姿勢にとても好感を持ちましたし、元気をもらいました。
2010年に行われた第26回京都賞ウイーク教育イベント高校生特別授業での山中教授のご講演はyoutubeにアップされており、今でも見ることができるのでぜひご覧になってみてください。
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