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「デザインエンジニア」という職種も新設~サービスのUX向上に本腰を入れるドワンゴ・モバイル統括業務本部の取り組み

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    niconico(ニコニコ動画や生放送)やdwango.jpなどでおなじみのドワンゴでは、今、草の根的にUX向上への取り組みが進んでいる。

    開催が近付いている『ニコニコ超会議』を例に挙げるまでもなく、ドワンゴは「niconicoの会社」というイメージが強い。ただ、上記したような代表的なサービス以外にも、オンラインゲームやスマートフォンアプリの企画・開発など、多岐にわたるサービスラインアップを有している。

    例えば、恋人たちの思い出を地図情報と連携して保存・共有できるカップルアプリ『LOVE LOCK(ラブロック/サービスPVは以下)』や、日本相撲協会公式アプリとなっている『大相撲』などは、ドワンゴのモバイル統括業務本部の面々が手掛けたものだ。

    今回紹介するのは、そのモバイル統括業務本部で、サービスのUX向上に向けて勉強会などを行っているメンバーの声だ。

    なぜ、UXに着目して企画・開発を行うようになったのか、そして、特にモバイル向けサービスにおけるUX向上で必要となる打ち手とは何なのか。今週4月17日~19日の3日間、東京で行われるカンファレンス『UX Day 2015』のスポンサーも務めている彼らの体験知を紹介しよう。

    サービスを“正しく成長させる”ためにもUX向上が必要だった

    デキる開発者は「酷いコード」とどう付き合っているのか?

    写真左から、ドワンゴ・モバイル統括業務本部の宮城良征氏(テクニカルディレクター)、市川光成氏(デベロップメントエンジニア)、小原美波さん(サービスマネージャ)、蓮池卓史氏(テクニカルディレクター)、金守鉉氏(デザインエンジニア)、佐藤智彦氏(デベロップメントエンジニア)

    ―― 皆さんがUX向上に本格的に取り組むことになった経緯を教えてください。

    池田 過去の施策を繰り返し分析していると、結果の良い施策とそうでない施策にはある傾向が見られました。平たく言えば、「ユーザーとサービスのつながり方をきちんと設計していたか否か」です。

    日本では、多くのサービスが「プレゼントキャンペーン」や「ポイント○倍キャンペーン」などでユーザー獲得を進めていますが、潜在ユーザーの大半は、そもそも何のサービスかすら知らない場合が多い。なので、せっかく開発したキャンペーンはまったく心に響かないし、当然、結果も振るわない。

    僕らの手掛けるサービスでも、こんな状況が頻繁に発生していたため、危機感を抱いてUXの向上に取り組み始めました。

    ―― 現在、社内ではどのような取り組みを行っているのですか?業務レベルでご教示ください。

    金 コンセプトワークを入念に実施します。UIやUXの設計と聞くと、つい細かな手法や技巧にこだわってしまい、ユーザーを置き去りにしてしまうことが決して少なくありません。

    当たり前ですが、「誰に何の価値を提供したいか」というコンテキストはUXに大きく影響します。あらかた方針が定まったら、AppCodeやFramerでMVPを開発し、イメージをつかむようにしています。

    ―― 現在、社内ではどのような取り組みを行っているのですか?業務レベルでご教示ください。

     コンセプトワークを入念に実施します。UIやUXの設計と聞くと、つい細かな手法や技巧にこだわってしまい、ユーザーを置き去りにしてしまうことが決して少なくありません。

    当たり前ですが、「誰に何の価値を提供したいか」というコンテキストはUXに大きく影響します。あらかた方針が定まったら、AppCodeやFramerでMVPを開発し、イメージをつかむようにしています。

    チームでUXについての勉強会を行っている一幕

    チームでUXについての勉強会を行っている一幕

    蓮池 MVPを開発する時は、視点の違うモノをいくつも並べて比較することが有意義なので、素早く提供できるよう、ツールプラグインの開発にも積極的です。

    組織レベルでは、UXガイドの策定、ガイドを基にしたUX監査を実施しています。監査チームは学生、主婦や多国籍で構成し、いろんな角度から評価されるように努めています。部内では、監査に落ちた場合はサービスや機能をリリースできないという制約も設けています。

    ―― 皆さんはディレクター、エンジニア、デザイナーの混成チームですよね? エンジニアリングチームとUI設計・UXデザインは「異なる仕事」とされがちですが、ドワンゴではどうこの溝を埋めようとしているのですか?

    池田 一番大きいのは、「デザインエンジニア」という職種を設定し、育成に力を入れていることですかね。日本ではなじみの薄い職種ですが、UXの実現に必要な開発を担当します。

    Reactive Programmingを代表するAngularJSやReact.jsが支持された理由の一つに、Two-Way Data Bindingがあります。即時応答性を実現する、「データを変更するとバインドした要素にも変更が自動で反映される機能」です。即時応答性というUXは、Two-Way Data Bindingの開発ナシには実現できませんから、昵懇の間柄です。

    既存サービスのUXを見直す手順とは

    ―― Lean UXを筆頭にさまざまなUXデザインのノウハウが体系化されていますが、既存サービスをUXの視点でリ・デザインする上で、「すぐに取り入れるべきこと」と「理論上は必要だけど導入優先度は低くしてもいいもの」の切り分けはどう行っていますか?

    宮城 ストーリーテリングはすぐにでも取り入れるべきですね。プロジェクトが長期化すると、手段と目的が入れ替わってしまうことがざらにありますし、プランナー主体の案件だと必要な機能だけ要求されることもあります。

    これだと「なぜその機能がユーザーにとって必要なのか」が分からなくなりがちです。また、要求通りに実装するのがベストかは、やはり専門家でなければ分からないことも多いです。

    そんな時、ストーリーテリングを導入すれば、達成したい目的が浮き彫りになるし、目指す方向性が可視化されるので、よりベストな方法も提案しやすい。僕たちはストーリーテリングを導入した結果、メンバー間の認識のズレを抑制する効果がありました。

    アプリ『LOVE LOCK』のUXを検討していた際に作成したストーリーテリングのシートの一部

    アプリ『LOVE LOCK』のUXを検討していた際に作成したストーリーテリングのシートの一部

     慣れているIA(インフォメーションアーテクチャ)を一気に変更しないことも重要です。あるサービスで経験値の高いユーザーほど、慣れているIAの変更に強い抵抗感を示します。ユーザーの成長度合いによって、UX も当然変わりますから、少しずつ変更を加え時間を掛けて慣れていただく配慮も必要です。

    小原 UX監査を実施すると、想定外の使い方や意見がたくさん出ます。恐らく、利害関係のない、特に生まれた時からスマホが存在した世代なんかは、(作り手とは)まったく違う意見をたくさん持っているはずです。なのでA/B テスト、コラボレーティブディスカバリーは可能な限り導入した方がいいですね。

    ただ、スモールスタートを前提としたプロジェクトなど、限られた予算の中で実施するのはなかなか難しいのが現状です。

    市川 路上で見ず知らずの人にテストをお願いしようとしても、東京だと変な勧誘と勘違いされて完全に無視されてしまいますしね(笑)。

    ―― UX向上の取り組みに力を入れた結果、日本相撲協会公式アプリの『大相撲』がGoogle Play Best of 2014に選ばれましたね。
    ドワンゴが開発している、日本相撲協会の公式アプリ『大相撲』

    ドワンゴが開発している、日本相撲協会の公式アプリ『大相撲』

    池田 ええ、おかげさまで。

    ―― このアプリのUI設計、UXデザインでは、どのような点に力を入れていますか?

    池田 大相撲は格式の高い伝統技芸。それをスマートフォンで表現するのは難度の高い案件でした。

    デザイン面では、今のトレンドだからといって、やみくもにフラットデザインへ落とすのを避けました。スポーツの魅力でもある臨場感を演出するため、本場所に近い空間価値の開発にこだわった結果、ユーザーの皆さまからご好評いただきよかったと思っています。

    『UX Day 2015』に期待すること

    ―― ドワンゴもスポンサーを務める『UX Day 2015』では、海外から著名なUXデザイナーを招いてワークショップが行われます。その1人であるJosh Clark(ジョッシュ・クラーク)氏の書籍『iPhoneアプリ設計の極意』などで、参考にされた内容はありますか?
    4月17日~19日開催の『UX Day 2015』で初来日し、「インターネット・オブ・シングスと魔法のユーザー体験」という講演を行うジョッシュ・クラーク氏

    4月17日~19日開催の『UX Day 2015』で初来日し、「インターネット・オブ・シングスと魔法のユーザー体験」という講演を行うジョッシュ・クラーク氏

    宮城 可視領域に応じた機能の絞込みは意識して取り組みました。当社はサービスの多くがフィーチャーフォン中心だったため、通信速度、転送量に制限があったころに「ベストだったアプローチ」からまだまだ抜け切れていません。

    例えば縦長のページに情報を詰め込んでしまうケースなどです。「今必要ない情報は隠してしまうことで、ユーザーは迷うことなく必要な情報を受け取りやすくなる」という彼の指摘は、まさにその通りだと思います。

    ――そのジョッシュさんのカンファレンス内容は、今後注目されていく「IoT」についてです。どんな内容を期待していますか?

     IoTは我々も当然注目している分野ですが、持続可能性の範囲が広いため、悩みも多い分野です。カンファレンスでは『魔法のユーザー体験』をいくつか共有してくれるとのことなので、悩みを解消するヒントを得られれば、と期待しています。

    ―― お話ありがとうございました。

    取材/UX Day 2015運営局 文/伊藤健吾(編集部) 撮影/本人提供

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