南青山アイクリニック 副院長
井手 武氏
大阪大学医学部を卒業、大阪大学大学院医学系研究科にて医学博士号を取得。Miami大学Bascom Palmer Eye Instituteへの留学経験を有する。専門はレーシック、フェイキックIOL、円錐角膜手術、白内障手術。ブルーライト研究会の世話人も務める
南青山アイクリニック 副院長
井手 武氏
大阪大学医学部を卒業、大阪大学大学院医学系研究科にて医学博士号を取得。Miami大学Bascom Palmer Eye Instituteへの留学経験を有する。専門はレーシック、フェイキックIOL、円錐角膜手術、白内障手術。ブルーライト研究会の世話人も務める
エンジニアは頭脳とカラダが資本。しかし、私たちを取り囲む環境は、ますますカラダへの負荷を高めている。
残業続きで不摂生が続くと糖尿病や高脂血症といった生活習慣病になりやすいと言われるが、それ以外にも、長時間PCに向かうエンジニアにとって心配なのはドライアイなど「目」に関する病気だ。
ディスプレイのブルーライトが人の目に与える悪影響について諸説が飛び交い、『JINS PC』のようなヒット商品まで生まれている昨今、「アイケア」に関心を持つ人は増えているだろう。
そこで、PCのみならずスマホやタブレットなどにも触れる機会が非常に多いエンジニアに向け、ブルーライト研究会世話人の井手武医師にアイケア術を聞いたところ、仕事中や日々の生活で気を付けたいポイントがいくつか浮かび上がった。
以下の順で、その内容を紹介しよう。
■エンジニアの目への負荷が大きくなっている背景
■ケアのために知っておきたい目が疲れる原因
■若者にも老眼鏡がイイってホント!?
■「ドライアイ」の方必見、すぐできるライフハック
はい。近年、特に気を付けていただきたいのが「VDT症候群」です。ビジュアル・ディスプレイ・ターミナルの略ですが、その名称からも想像される通り、PCなどのディスプレイを使った長時間の作業により目やカラダ、そして心に支障をきたす病気のことで、別名「IT眼症(がんしょう)」とも呼ばれています。
エンジニアの皆さんは、最近ではLEDのモニタを使ったお仕事も増えていると思います。このLEDは高いエネルギー効率などメリットもあるのですが、一方でデメリットも。例えば、従来の光源と比べてにじみやすい性質があり、目で何か物体をとらえる時にピントを合わせにくい特性があります。
合いにくいピントを合わせるため、目の中にある筋肉はたえず動き、これが目の疲れにつながると言われています。
LEDの青色の光は、人の集中力を高めるとも言われていますが、夜中までLEDの照明を見ていると、本来分泌されるはずのホルモン(メラトニン)の分泌が抑制されることが近年分かってきました。メラトニンが正常に分泌されないと、なかなか眠くならなかったり、睡眠を取っても疲れが取れない時差ボケのような状態に陥りやすくなると言われています。
加えて、ディスプレイといえばもう一つ。「スマートフォン」です。
これはエンジニアの職種に限りませんが、夜自宅に帰って就寝する直前などに、暗いお部屋で操作することがあると思います。特に忙しいエンジニアの皆さんは、仕事のメールが来ていないか日夜チェックしたり、気晴らしにソーシャルメディアを楽しむ時も多いのではないでしょうか。
暗いところで何かを見ようとすると、暗闇で猫の目が光るように、目は瞳孔を開いて光をたくさん取り入れようとします。日中に職場でモニタを眺める時は瞳孔を縮めようとし、夜にスマートフォンをいじる時は瞳孔を開こうとする。
すると一日中、常に目の筋肉を動かしていることになりますよね。これも、目が疲れる原因の一つかもしれません。
そうでしょう。ですから、エンジニアの皆さんには、「仕事道具に投資すべき」とお伝えしたいです。
例えば、これは驚かれると思うのですが、若いエンジニアの方でも、「老眼鏡」を試してみるということ。老眼鏡というと若い人にとって聞こえがあまりよくありませんが、手元など近くを眺めるのに最適なメガネを選んで、必要な状況に応じて使い分けてみていただきたいということです。
メガネはおおむね自分から5メートルの距離のところにある物体をクリアに見られるよう調節して作られますが、エンジニアの皆さんがよく眺めるのは、自分から40~50センチくらいは離れたところにあるラップトップPCやタブレット端末、デスクトップPCだと思います。
通常のメガネで自分から近い距離にあるラップトップPCやタブレット端末を眺める行為は、言ってみれば、普通の道路でスキー靴で全速力で走ろうとするようなもの。用途にあったメガネを作り、デスクワークをする時とそうでない時とでメガネを使い分けることをオススメします。
あの『JINS』も老眼鏡を「リーディンググラス」としてラインアップしているので、意外と若い方々にも抵抗なく買えるのではないでしょうか。
そして、ディスプレイ選びや表示の設定においても、こだわれることはあります。
例えば、グラフィックではなくテキストで仕事を行う時は、モニタの明度を落としたり、画面の背景を黒にして白字で文字を入力してみるなど。黒の背景は白に比べて、放つ青色光が少なく、目への負担も小さいのです。
デスクやチェアは良いモノを使いましょう、とはよく言われますが、大切なのは自分にあった高さかどうか? という点。
デスクが自分には少し高い状態で仕事をしていると、常に少し上を見上げているような状態になります。すると、目が大きく開かれるため、ドライアイの原因となり、疲れやすくなる可能性があります。
ドライアイの問題は、目が乾いてしまうことだけではありません。ドライアイの人の目は、表面にさざなみが立っているような状態で、光が万遍なく入っていきません。すると、目がピントを合わせにくくなり、ますます筋肉を動かそうとして疲れやすくなり、仕事の集中力にも影響を与えます。
全社員に共通のデスクやチェアを使っている企業も多いと思いますので、そのような時はデスクやシェア、もし可能ならばモニタの高さを調整してみるなど、できる限りのカスタマイズを行ってみましょう。チェアにクッションを敷いてみるなど、気軽に取り組むことができる工夫もあります。姿勢の改善にもつながるでしょう。
アイケアの業界では、アイシャンプーというまつ毛を清潔に保つ、目にしみにくいシャンプーがじわじわと人気が出てきていますよ。ご紹介した対策のうち、どれがよいかは個人差がありますし、もしもしっくりこない場合にはあえてする必要はありませんが、この機会にアイケアについて考えていただけるとうれしいです。
取材・文/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo)
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