2005年度下期IPA「天才プログラマー」認定、第24回独創性を拓く先端技術大賞 学生部門文部科学大臣賞(部門最優秀賞)など華々しい経歴を持ち、三児の母でもある五十嵐悠紀の連載です
Microsoftの研究者として北京で就職した日本人女性に学ぶ、目標達成のための図太い生き方【連載:五十嵐悠紀】
五十嵐 悠紀
計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある
前回に引き続き、女性研究者が集まるランチ会『Women’s Luncheon』でのお話をお届けします。ゲストトーカーの2人目は、就職先に海外を選び、飛び込んでいった若手女性研究者、荒瀬由紀さんにお願いしました。
北京にあるMicrosoft Research (MSRA)で研究者として働く荒瀬由紀さんは、2010年に大阪大学で博士号を取得した後すぐに、MSRAへ就職しました。海外に就職することに迷いはなかったのでしょうか? そして、決断の決め手となったものは一体何だったのでしょう?
就職の決め手は“最先端”のコミュニティに参加できること
荒瀬さんは博士課程の間にほぼ1年間、MSRAでインターンをされていたそう。
「よく、『なぜ北京で働こうと思ったんですか?』と聞かれますが、答えはすごくシンプル。わたしにとってベストな場所かな、と強く思ったんです」とのことです。
荒瀬さんは博士課程の間は、モバイルHCIやWebマイニングといった、インタラクションに近い分野を研究されてきました。そして、MSRAに就職してからは、自然言語処理など少し違った分野にも携わります。
MSRAを“ベストな場所”と感じたのは、当時行っていた研究領域をリードしている人たちが多く、そういった人たちと一緒に働けることが、自分にとっての一番の魅力に感じたからだと言います。
「あこがれていた研究者と一緒に論文を書いたり、一緒にミーティングしたり。ラボ内の給湯室・フリーエリアなどで世間話をするとか。そういうのが日常になるというのが良い環境だな、と思ったんです。今はインターネットがあるので、論文も発表されたらすぐに読めますし、日本ではできない、というのはあまりありません。どこにいても同じ研究はできると思います。ただ、やはりその技術分野をひっぱっているグループの中にいるのといないのでは大きな差があると思います」
MSRAのラボは、コンピュータサイエンス全体をカバーしています。ハードウエアをやっている人たち、理論をやっている人たちともインタラクションがとれます。荒瀬さんは製品やビジネスにも興味もあったため、製品開発が身近にある企業研究所という点でも魅力的だった、とおっしゃっていました。
「もしひっぱっているエリアが日本にあるのであれば、海外にいくメリットはあまりないかもしれません」
1年間の現地でのインターン生活を通して、そこでしか得られない経験という、大きなメリットを感じたからこそ、海外での就職を決断することができたのではないでしょうか。
判断基準をはっきり持つのが大事
「キャリアをデザインする上では、自分の中で判断基準をすごくクリアに持っておくことで、迷いがなくなり中途半端な決断をしなくて済むのではないかと思います」とおっしゃる荒瀬さん。
自分の中で「何に重きを置くか」を決めると、難しい問題でもはっきり決断できるように
by winnifredxoxo
自分の中で「何に重きを置くか」を決めると、難しい問題でもはっきり決断できるように
自分にとって何が大事か。例えば、アカデミアで研究をやっていきたい、という希望が強いのか。それとももっとビジネスの方に興味があるのか。はたまた、家族を大事にしたい、子どもをもって子どもとの時間を最大限大事にしていきたい、というタイプなのか。
そういった、自分の中での『尺度』をはっきり持っておくことで、キャリアをデザインしやすくなるのではないか、とおっしゃっていました。
特に、日本では“見えないプレッシャーが多い”というのです。
「日本に帰ってきた時にはすごく感じるのですが、『できるだけ早く結婚しなくちゃならない』とか、『毎日旦那さんにお弁当を作るべきだ』とか、プレッシャーがあるんです」と切り出した荒瀬さん。
「働くお母さんは賢くて、会社でもバリバリ仕事をして、かつキレイで、子どもの気持ちもすべて分かっている」といった完璧なワーキングウーマン像を、誰かに言われ思い描くわけではない。しかし、例えばNHKの朝ドラにそういったお母さんが出ているなど、そんなささいなきっかけで、プレッシャーを感じることがあるそうだ。
海外に出ているとこういったプレッシャーは一切なくなるため、「良くも悪くも、ちょっと自由になれるんですよね」という。
「見えないプレッシャーに描かれている人物像というのが、自分のなりたい像に合致しているのであれば、良いのですが、そうでなければ、それにひっぱられて正しい判断ができなくなってしまうのではないかな」
今心配しても意味がない。やりたいことには手を挙げる!
『リーン・イン』の著者、Facebookのシェリル・サンドバーグ氏も、「女性はすごく先のことを心配してしまって、まだ結婚もしていないし、子どももいない状態でも、子どものことを考えて就職活動をしてしまう」と指摘しています。
これは日本だけでなく、世界的にある話で、「結婚しちゃったらどうなっちゃうのかな」、「このプロジェクト興味あるけど、結婚しちゃったら今のペースで働けないかもしれない、だからわたしはやめておこうかな」など、先を心配して自分を抑え込んでしまうといいます。
荒瀬さんはそんな女性に、「図太さが大事」と指摘します。
「今心配してもしょうがないし、状況はその時々で変わるので、心配をしないこと。例えば、現段階で女性をすごくケアしている会社であるのは良いことだけれど、会社のポリシーはいつでも変わるもの。そして、自分自身の状況も変わるもの。もしかしたらほかの会社からもっといいオファーがあるかもしれない。
あまりその心配をベースにして、自分の将来を決めない方がいいと思います。どんどんチャレンジすべきです。やりたいプロジェクト、やりたい研究があるのであれば、わたしそれやりたーい!って言っていきましょう!」
と、「今回のトークで一番言いたかったこと」と強調しながら挙げてくださいました。
必要な時はどんどん周りに助けを求めよう
かつ、仕事やキャリアで何か困ったことがあった場合も、抱え込まずに自分から声をあげるのは大事と続ける。
「白馬の王子さまっていないんじゃないですか? それが上司にも当てはまると思うんです。自分が困っている時にさっと白馬に乗って現れて、『ちょっと休みとったら?』なんて言ってくれる上司はいないですよね(笑)。なかなか女心をわかってもらえないのと同じで、男性と女性で体への負担も違いますし、困った時は声をあげて、助けを求めるのも大事です」
MSRAのある男性上司は、「何をしてほしいか全然分からないから、言ってくれ。できるだけサポートするから。『子どもの面倒をみたいから時短にしてくれとか』とか、要望があればとにかく声をあげてくれ」と女性研究者に声をかけているそうです。
向こうから助けが来ないからとイライラするのではなく、「助けて」と声をあげることで、男性も女性もストレスを貯めずにいられるわけです。
荒瀬さんは、「人生、いろいろ状況が変わると思いますが、それにフレキシブルに対応していけば、大丈夫かな」と締めくくってくださいました。
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