メーカー大リストラは他人事じゃない!竹内健氏、吉岡弘隆氏に聞く「生き残る技術者」とは【職場がなくなる日】
「情報のタコ壺」から脱出し、少し外側の人物と交流を
「現場のエンジニアは技術を過信し過ぎるきらいがある、とお話ししましたが、それを防ぐための方法はあります。それは、自分の少し外側の人物と交流し、視野を広げることです」(吉岡氏)
彼自身、DECからオラクル、ミラクル・リナックスと活躍の場を移した後に、楽天へと転職している。B to Bビジネスの領域から、これまで経験したことのないB to B to CのWebサービスを運営する楽天への転職を決めたのも、「自分の領域外の人物」との交流がきっかけだったのだという。
吉岡氏自身が、カーネル読書会を始め多くのIT勉強会を主催したり参加したりていることは有名だが、その外部交流があったからこそ、楽天の技術者との縁が生まれ、現職の技術理事として働いているのだ。
「『カーネル読書会』以外にも多くの勉強会に参加していまして、年に1回ほど『勉強会勉強会』も開催しています。エンジニアは、時に情報のタコ壺に入り込んでしまうことがあるので、自分の生活圏や仕事圏の少し外側にあるカジュアルな結び付きを大切にするべき。情報交換を積み重ねれば自然と世の中の流れが見えてくるし、業界全体の動きにも敏感になれるんだと思うのです」(吉岡氏)
「個の時代」に生き残る技術屋は、恐怖心を持っている
竹内氏は「企業も不採算部門からの撤退や部門売却、合併など、あらゆる手を尽くして変わろうとしている。そこで働く人間が変わらなくて良いわけがない」と指摘した上で、「技術者は新しいスキルを身に付けること、つまり自分を変えることを恐れてはいけない」と力説する。
「与えられた仕事をきちんとこなしながら、新しいスキルを身につけるのは、正直言ってつらいものだし面倒なもの。でもそうしなければ生き残れないならやるしかない。わたしの場合、それがアメリカでMBAを取得するという道でしたが、それだって『将来的に技術だけでは食べていけなくなるのではないか?』という恐怖心と無関係ではありません。人間にはいろいろな能力があるもの。得意分野を1つに限定するのではなく、こだわらず広げることが大事ではないでしょうか」(竹内氏)
先述のA氏も、現在は受託開発や自社でパッケージ開発を行う開発会社の品質担当マネージャーとして働いている。「時流に乗ったキャリアの選び方」ではなく、これまでの経験で培ってきた「技術力+マネジメント力」という自分の強みを見つけ出し、次のステップへと進んだのだ。
A氏自身、竹内氏の提言を身をもって体験した技術者の一人である。
「もう、『このプロジェクトにいるからしばらくは大丈夫』だとか、『この企業に勤めているから定年まで安心』とか、そういうことはないんじゃないですかね。わたしの経験でしか語れませんが、そうやって自分以外の『何か』に頼った働き方をして生き残れるような社会じゃなくなったんだなぁと痛感しました」(A氏)
もちろん、身に付けるべきスキルは人によって異なる。将来有望な最新技術を独学することかもしれないし、プロジェクトマネジメント力や顧客折衝力を磨くことかもしれない。ただ、それがどんなスキルであれ獲得するには、日ごろから業界や職場の変化を敏感に察知し、自分の適性や志向を理解しておくことが大前提となる。
つまり、平時から危機感を持って変化への準備をしておくことこそ、「職場がなくなる」という最大の危機を乗り切る最善の方法ではないかと竹内氏は話す。
「少なくともわたしが見る限り、どんな危機的状況に追い込まれても活路を見いだして、新しい世界で活躍している人というのは、本業の傍ら、自分の時間を費やしてやりたいことや、やるべきことを続けていた人たちでした。やっぱり陰の努力は必要なんです。大変な面はもちろんありますが、自分の適性にあったスキルを見つけ、自分の幅を広げることが生き残りのカギになるのではないでしょうか」(竹内氏)
職業観と高い専門性を持った技術屋となれ
吉岡氏はブログなどで「ハッカー文化を根付かせたい」と発言しているが、その背景には日本で働くITエンジニアの職業意識への疑問がある。
「素晴らしい自動車を作りたいから機械工学科で勉強して自動車メーカーで働く、というのは職業観と専門性が一致しています。それとは反対に、日本のIT業界では、ソフトウエアに興味がないのに文系の学部を卒業してSEになるケースが少なくない。その結果、大手SIerなどで起こっている社内SEの職制大転換などによってSEというポジションを失う人が多いのではないでしょうか」(吉岡氏)
ここで言う”ハッカー”とは、吉岡流に言えば「ソフトウエア作りが好きで、朝から晩までプログラムをしている人」である。吉岡氏自身も、大学を卒業するころから職業観と専門性を意識してきたからこそ、過去に訪れたオープンソースやクラウドコンピューティングという二つの大きな変化の潮目にも、自然と対応できたのだろう。
「最近読んだ『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著)という本では、モノづくりをして、それを計測して、そこから学ぶ、ということを繰り返す重要性について触れていました。特にエンジニアは、現在のやり方を仮説として実行し、それを検証するという作業をして考えてほしい。そうして自分をアップデートしていかないと、技術と経験が陳腐化してしまう」(吉岡氏)
「作り、測り、学んで考え続ける」ことによって自分をアップデートしながら、勉強会などで外部に触れて世の中の流れをつかむ。それがエンジニアとしてサバイブするための重要な要件と言えるだろう。
余談ではあるが、吉岡氏が技術理事を務める楽天は、グローバル化を急速に進めている。すでにヨーロッパ、アメリカに進出しており、東南アジア、ブラジルでの事業展開も進んでいる。
「今、楽天の売上高の9割以上は国内だが、数年のうち海外を8割にしようとしています。今年の夏から社内は完全英語化。そのくらいのことをしないと時代に取り残されてしまう。実際のところ、英語で情報発信できないエンジニアには厳しい時代になるんじゃないですかね」(吉岡氏)
取材・文/武田敏則(グレタケ)、中村文雄、小禄卓也(編集部) 撮影/小禄卓也(編集部)※竹内健氏のみ
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