Vol.427

Aiming小林俊仁氏が、よりよいチームを作るために参考にしている本【連載:エンジニアとして錆びないために読む本】

株式会社Aimingの最高技術責任者・開発グループ ゼネラルマネージャーである小林俊仁氏

業界でその名を知られるCTO(最高技術責任者)に、仕事に役立つ名著を紹介してもらうこの連載。第6回目となる今回は『剣と魔法のログレス』など、人気ゲームタイトルの開発で知られるAimingの小林俊仁氏だ。

今回、編集部が小林氏に依頼したテーマは「よいチームを作る上で参考になった良書3冊」。果たして小林氏は、どんな書籍を選んだのだろうか?

すぐ効く本と、後で役立つ本。2つのタイプを好んで読む

「大事だなと思うところに線を引きながら読みますね。あとあと自分で引いた赤線の部分を何度も読み返したりします」

じっくり読み込むタイプであると言う小林は、今回の選書にあたり、2つのタイプの本を織り交ぜて選んだと言う。技術書やビジネス書のように即効性を期待して読む本と、人生の岐路に立った時に初めてその真価が理解できるような本だ。順を追って紹介しよう。

よいチームを作るために参考になった良書3冊

小林氏が推薦する3冊のうち、1冊は「意外な」選出だ

【1】『アジャイルなゲーム開発 スクラムによる柔軟なプロジェクト管理』 クリントン・キース著 江端一将訳(ソフトバンククリエイティブ)

どうしたらスクラムやアジャイルがゲーム開発に馴染むんだろうと考えていた時にこの本と出会いました。

ゲーム開発って、最初に作った企画通りに作ればいいというものではなくて、作っては壊し、作っては壊しを繰り返していきながら、面白さを探っていくフェーズがどうしても必要です。

ですから、本書の「プロトタイピングの目的はゲームの面白さを探すことである」という考えにはとても共感を覚えました。この試行錯誤の結果がやがて仕様になり、結果的には数十人、数百人の人が関わるプロジェクトになる。

このフェーズに入ると、手戻りは相当なリスクを伴うようになり、むしろ歩調を合せるためにある程度型にはまった生産プロセスが必要になってきます。つまり面白いゲームを作ろうと思ったら、アジャイルとマスプロダクションを両立しなければならないわけです。

この本は、性質と目的が違う開発フェーズごとにスクラムをどう適用するかについて、具体的な事例と採るべき手法を詳しく解説してくれています。

例えば、EVE Onlineが100人を超える開発チームでリリース計画を行う例なども紹介されており、ゲーム開発のマネジメントで悩んでる人によく勧めています。

【2】『ソニー―ドリーム・キッズの伝説』 ジョン・ネイスン著(文藝春秋)

この本は、ソニーの経営陣がビジネス上の課題に対して、どんな判断を下したのかを知りたくて読み始めたのですが、結果として、理想的なエンジニア像について考えるきっかけを与えてくれました。

多くの人にとってエンジニアとは、単に技術にまつわる仕事をする人です。でも、戦後の焼け野原から会社を興した井深大さん、森田昭夫さんは、この本を読むと、圧倒的にプロダクト指向であり、とんでもない熱量でもって、世の中に価値を届けようとしていたことが分かります。

彼らはエンジニアであると同時に、プロダクトオーナーであり事業責任者、経営者です。なぜこれほどまでに異なる立場、視座が1人の人間のなかで共存できたのかには強く興味があります。

Aimingが職種や担当に関わらず活発な議論を奨励したり、クライアント、サーバの隔てなく幅広い技術の習得を勧めたりするのは、ユーザのために自分の担当や専門分野などにとらわれずどんどん「越境」してほしいから。エンジニアチームの育成や運営方針を考える上で、この本から得た影響は少なくありません。

【3】『愛するということ』 エーリッヒ・フロム著 鈴木晶訳(紀伊國屋書店)

「愛」に関する本ですが、チームのあり方やメンバーマネジメントを考える上で、一番影響を与えたと言っても過言ではありません。

「面白いゲームは仲の悪いチームから生まれない」というのが僕の信念なんですが、組織が大きくなると、どうしてもソリの合わない者同士の諍いや揉め事が増えてきます。

問題を起こした人を叱責したり、疎外したり、チームから外したりするのは簡単ですが、それで済ませてしまうのはあまりに短絡的ですし、学びがありません。彼らも大切な仲間である以上、できれば当事者として一緒に成果を出したい。こうした問題に直面した時、「人を愛することは、鍛錬によって誰にでも習得できる技術である」と説いたこの本のことを思い出しました。

誰かのせい、環境のせい、と言ってしまうのではなく、まず、能動的に愛すること。 本書が説くこういった姿勢は確実に活きていると思います。

組織マネジメントに「愛」を持ち出すのは、少々気恥ずかしいのですが、仲間のあるがまま、無いがままを受け入れること、それにより言い難いことでも言える関係を作ることは、強いチームを作る根幹部分です。

本書はその大きな助けになったと思います。

正しい判断を下すために本を読む

海外での経験も豊富な小林氏が見いだした「よいチームづくりに欠かせないこと」とは?

選書の理由や背景を一通り説明してもらった後、改めて、よりよいチームの定義を聞いてみた。

「仲間を受け入れ、何でも言い合える人間関係が基本。メンバー同士が信頼感で結ばれていなければなりません。その中で自分は果たすべき役割は、チームの中に芽生えた不信の芽をなるべく小さいうちに摘み、腹を割って話して適切に対処することだと思っています」

小林氏にとって読書は、仕事の進め方や仕事への取り組み方、他人との付き合い方について考える上で、とても大切な情報源であり、エンジニアチームを発展させ、さらによい方向に導くためにも役立っているようだ。

「性格的に『泥棒を見て縄をなう』ようなことだけはしたくないので、いざという時のために役立ちそうな知識や考え方を、自分の中に蓄えておきたい。だから本を読むんです。たとえ、すぐに役立たなかったり、ピンとこないことはあっても、知らず知らずのうちに身になるのが読書というもの。蓄積がなければ、問題に直面した時に正しい判断は下せませんから」

読書によって得られるものは他にもある。

「何のために本を読むのかと言うと、もちろん新しい知見が得られるということもあるのですが、それ以上に、自分の中にあるモヤモヤとした課題意識や解決への仮説がある時、本を読むと『やっぱりそうだよな』って思える、ということがあると思います。自分の行動が本によって強化されるというか、自信になるのですね。そういう意味でも、本を読むことをお勧めしたいですね」

中国で見つけた明代の文人の詩をあしらった小さな掛け軸。酒も好きだがそれよりも読書が好きな作者の心意気に共感し、自宅に飾っているという

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹

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