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[特集:スマートグリッドエンジニアって何?①] SEのための舞台が、再生可能エネルギー産業の裏にはある

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    再生可能エネルギーが今後、基幹エネルギーになり、スマートグリッド※1が推進されるのであれば、それに伴って、ITエンジニアが活躍できる場がエネルギー分野に広がるのではないか――。

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    工学院大学 工学部部長 電気システム工学科主任教授
    荒井純一氏

    早稲田大学理工学研究科修士課程を修了後、1972年に東芝・重電技術研究所に入社。1998年、東芝の電力・産業システム技術開発センター技監に。2006年より現職

    そんな問いを、再生可能エネルギーの発電方法に関する門家である荒井純一教授、スマートグリッド推進派として著名な、グーグル日本法人の元名誉会長である村上憲郎氏の二人に投げかけた。荒井氏は、次のように答える。

    「再生可能エネルギーによる発電とスマートメーター※2の設置によって、スマートグリッドが具体化していくでしょう。電力の”地産地消”が始まるわけです。まずはインターネットにつながる次世代電力計スマートメーターの設置があり、並行して太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーの発電機が導入されます。スマートメーターを通じて、電力の売買やIT企業などの情報サービスが行われるため、それらの流れをシステム化するITエンジニアが必要になります」

    とはいえ、再生可能エネルギーを取り巻く日本の現状は、まだスマートグリッドの実現からほど遠いのが事実だ。経済産業省資源エネルギー庁が発表する『エネルギー白書2010』によれば、日本の総発電量に占める再生可能エネルギー割合は1.1%。自然エネルギーの代表格である水力は8.1%。石炭は24.7%、LNG火力は29.4%、石油等火力は7.6%、原子力は29.2%。ちなみにドイツでは2007年の総発電量のうち約8%が再生可能エネルギーで生み出されているという。

    出典:経済産業省 資源エネルギー庁 『エネルギー白書2010』第2部 第1章 第4節 1.電力 (2)供給の動向

    「再生可能エネルギーが普及していない理由の一つは建設費が高いこと。太陽発電や風力発電は燃料費が必要ありませんが、現状、政府の補助金があって何とか回収できるぐらいのコストパフォーマンスです。その発電規模は火力、原子力と比較すると小さく効率が悪い。ただ今後、技術革新と量産効果によって、コスト的に見合う可能性もあります」

    出典:経済産業省 資源エネルギー庁 『エネルギー白書2010』第1部 第2章 第2節 3.導入拡大に当たっての視点

    再生可能エネルギーの発電コストを見てみると、太陽光発電がもっとも高く1キロワット時当たり49円、風力は10円~14円、地熱は8円~22円。一般家庭の電気料金は15円~25円程度なので、太陽光発電のコストはおよそ3倍となる。

    再生可能エネルギーの普及スピードが遅い理由は、コスト高だけではない。

    「再生可能エネルギーは天候、気候に出力が左右されます。太陽光は、夜間や天気が悪いときには発電量が減ります。風力は、常に一定の風を受けられませんから、どうしても発電量に変動があります。そこで、研究室では風力発電に関するさまざまなシミュレーションを行って、発電量の変動を少なくする手法を探っています。一つは設置地域の風を正確に把握するためのシミュレーション。地域に適合するモデルを作って、最適な設置場所を推定しています」

    コストが高く、電力の変動が大きいというクリーンエネルギー。バッテリーに電気を貯めることによって、安定した電力を供給することが考えられる。ただし、電気自動車の走行可能距離が200~300キロ程度にとどまっているように、バッテリーの性能はまだ充分ではない。

    「風力発電や太陽光発電の電力の変動をバッテリーによって安定化したいのですが、バッテリーは現在のところ高価格で大容量の電気を貯めることができません。ですから、バッテリーの容量を少なくして、安定した電力を供給するためのシミュレーションをしています。1000キロワットの風力発電に1000キロワットのバッテリーを付けるのではなく、もっと少ない最適な電気容量のバッテリーを付けて、なるべくフラットな出力にする方法を探っています」

    今、スマートグリッド実現に最も積極的なのは大手IT企業

    現状、日本の電力供給事業は、東京電力など10社の民間企業が、それぞれの地域を担当している。このような形になったのは戦後すぐの1951年。それ以来、一つの電力会社が、発電と送電を担当して60年の歳月が経過した。

    1995年から電力自由化※3が進められており、現在、需要家の6割強までが自由化の対象となった。だが、新規に電力の小売事業に参入した特定規模電気事業者(PPS)※4の自由化対象におけるシェアは2007年で約2%。実質、電力会社の独占的状態に大きな変化はない。欧米では発電、送電を別々の会社が担う”発電・送電分離”という形で電気事業が行われているケースが多く、電力の自由化が日本よりも進んでいる。そこで、日本においても”発電・送電分離”を検討する動きがある。

    「日本の電力ネットワークは、これまで安定した電力供給を実現してきました。その背景には数分刻みに発電所、変電所の電圧、周波数をチェックして電力の需給を調整するシステムがあり、それらを築き上げてきた人材力があります。日本の電力会社には長年の間に培ってきた高い技術力があり、その質は世界一と言ってもいいでしょう」

    電気は”生モノ”。発電したらすぐに使うのが基本で、需要と供給のバランスが崩れることは許されない。供給が足りなくなれば停電になる可能性があり、供給が多すぎれば電圧が高くなって電気製品の不具合が生じる。そのような電気の特性が、将来、再生可能エネルギーによる発電が増えると問題となる。

    「例えば、太陽光発電からの電力が従来の電力ネットワークに大量に入ると、全体の電圧が上昇して、安定的な電力供給ができなくなる可能性があります。それを防ぐためには太陽光発電からの給電停止、電力会社の制御などが必要になりますが、それらの方法についてはハード・ソフト両面から解決法を探らなければなりません。新装置の開発、IT技術の運用による解決が考えられていますが、その一つの手法として話題になっているのがスマートグリッドです」

    スマートグリットはまだ実験段階でイメージがはっきりしていない。注目すべきはグーグル、IBM、マイクロソフトなどのIT企業が積極的にスマートグリッドの実証実験を行っていること。今後、再生可能エネルギーなどの小規模な発電施設が普及するのと並行して、地域の特性に合ったスマートグリッドが実現していくことになるだろう。

    「エネルギーの仕組み」を学べば、SGエンジニアになれる

    「当面の課題は、当研究室で行っているような太陽光発電や風力発電などハードウェアを制御するシステムを開発すること。将来的には、それらをさらに上のレベルでカバーするIT技術・・・それをスマートグリッドと言ってもよいわけですが・・・そのような大規模なシステムが必要になるでしょう。そこにITエンジニアが活躍できる場があります」

    再生可能エネルギーが基幹エネルギーの一つになってスマートグリッドが普及することになれば、エネルギーに詳しいITエンジニアの必要性が高まる。では、そのとき必要なスキルとは何なのか。

    「エネルギーにかかわるエンジニアには、電気工学の知識が必須。当研究室では発電機、パワーコントロールユニットなどを手にとって発電したり測定したりすることで、エネルギーや電気に対する感覚を身に付けています。もし、ITエンジニアが電力ネットワーク関連の仕事に携わるなら、実際に発電機や電気回路に触れて使ってみてください。そのような手触りの感覚を大切にすることによってエネルギーに関する理解が深まり、より良いシステムを構築できるでしょう」

    電力ネットワークがスマートグリッドへと移行していくと、ITエンジニアがエネルギーと情報の流れをコントロールする仕組みを作ることになる。そのとき”スマートグリッド(SG)エンジニア”という新たな職種が生まれるかもしれない。その活躍の場は、電気機器が存在する、すべての場所ということになるだろう。

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