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ルノーが公開した「次世代F1エンジン」に見え隠れする、日の丸サプライヤーの勝機と課題

ITニュース

    自動車開発の最先端を行くF1を長年追い続けてきたジャーナリスト世良耕太氏が、これからのクルマのあり方や そこで働くエンジニアの「ネクストモデル」を語る。 ハイブリッド、電気自動車と進む革新の先にある次世代のクルマづくりと、そこでサバイブできる技術屋の姿とは?

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    F1・自動車ジャーナリスト
    世良耕太(せら・こうた)

    モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

    F1のエンジンが2014年から変わることは連載②でも触れたが、簡単に説明すると、現在のF1カーが搭載する排気量2.4L・V型8気筒自然吸気エンジンから1.6LのV6直噴ターボになる。

    この流れを受けて、つい先日、ルノーがいち早く2014年エンジン(というよりパワーユニット。理由は後述)のレンダリングを公開した。

    From Renault Sport F1 ルノーが先日公開した、2014年F1パワーユニットのレンダリングスケッチ(※確定版ではない)

    連載②では、F1の動きはヨーロッパを中心にトレンドになっている過給ダウンサイジングの流れをなぞるものだとし、日本の自動車メーカーは傍観していていいのかと、危惧の念を表した。

    あれから14カ月。9月には1.5L・直4自然吸気を1.2L・直3スーパーチャージャー(SC)に置き換えた日産ノートが登場。ノートには1.2L・直3自然吸気バージョンも設定されるが、発売後約2週間で受注した2万1880台(!)のうち、73%がSC版だとの報告が上がっている。

    数字の大きさやイメージではなく、効率でクルマ選びをする価値観が、日本にも浸透しつつあるのを感じる。

    新たに導入される「F1版ハイブリッド」が意味すること

    さて、2014年のF1だが、過給ダウンサイジングに取り組むだけでなく、ハイブリッドにもなる。

    「モーターやバッテリーならすでに積んでいるじゃないか」との指摘はごもっともで、2009年以降のF1は、モーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)とエネルギー貯蔵装置を積んでもいいことになっている。

    搭載するコンポーネントだけを見れば量産ハイブリッド車と同じだが、使い方は異なる。

    量産ハイブリッドは、減速時に回生したエネルギーをバッテリーに蓄えておき、エンジンの効率が悪い領域でエネルギーを放出してMGUを駆動することで、無駄な燃料の消費を抑えるのが狙い。蓄えたエネルギーの放出はアクセルペダルの動きと連動する。

    一方のF1版ハイブリッド「KERS(カーズと呼ぶ)」の場合、エネルギー放出はステアリング上に設けられたボタンを押すことによって行う。ボタンを押している間だけ、1周あたり最大約6.7秒、60kW(約82馬力)のエクストラパワーが得られる仕組みだ。

    効率向上の手段というよりは飛び道具で、先行車に追い越しを仕掛けたり、追い上げてくる後続車から逃げたりするときに使う、戦術的な道具なのだ。

    ところが、2014年に導入されるハイブリッドは、量産ハイブリッドと同じ位置付けとなる。すなわち、効率向上の手段としてハイブリッドシステムを使うのだ。エネルギーの放出はステアリング上のボタンではなく、アクセルペダルと連動させるのが基本。

    今回、先行して次世代F1エンジンを公開したルノーは、以前からF1と量産車の結び付けに積極的だった

    画期的であると同時に開発をより複雑にするのは、制動時にブレーキユニットから熱として捨てていた運動エネルギーを回収して電気エネルギーに変換するエネルギー回生システムに加え、排気(熱)エネルギーを電気エネルギーに変換する回生システムの搭載が認められることだ。

    つまり、2014年のF1エンジンは、2種類のエネルギー回生システムを積んだ複合的なパワーユニットに生まれ変わるのである。

    運動エネルギーを電気エネルギーに変換するMGUをMGU-K(Kinetic=運動)、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するMGUをMGU-H(Heat)と呼ぶ。

    排気の持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する仕組みは複数が存在する。熱を直接電気に変換する「熱電変換材料」がそうだし、熱で蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して電気エネルギーを得る「ランキンサイクルシステム」(超小型の火力発電所を車両上に構築するようなもの)もそうだ。

    現実性が最も高いのは「ハイブリッドターボ」と呼ばれるシステムで、ターボチャージャーのタービンハウジングとコンプレッサーハウジングの間にMGUを挟んだ構造だ。

    ターボチャージャーは排気のエネルギーでタービンを回し、同軸上にあるコンプレッサーで吸気を圧縮する装置だが、その軸上にMGUを置くと、吸気を圧縮するだけでなく、発電にも熱エネルギーを使うことができる。

    ターボの場合はアクセルペダルを踏み込んだときの応答遅れ(ターボラグ)が課題になるが、アクセルオン時にMGUを駆動してタービンに力を与えてやれば、応答遅れを解消することができる。

    新パワーユニットの提供で期待が寄せられる日本企業とは?

    2014年にF1にパワーユニットを供給すると表明しているのは、ルノーに加え、フェラーリとメルセデス・ベンツで、残念ながら日本の自動車メーカー、あるいはエンジンコンストラクターは名乗りを上げていない。

    だが、日本のメーカーが活躍するチャンスはあると筆者は思っているし、実際、2014年に供給を表明している欧州のメーカーは、日本の企業の技術に関心を寄せている。

    ターボだけでも高度な技術と知識が必要だが、そのターボにMGUを組み合わせたハイブリッドターボとなれば、自動車メーカーの手には負えず、サプライヤーの専門知識が欠かせないからだ。

    その企業とは、IHIと三菱重工業である。両社ともモータースポーツを視野に入れたハイブリッドターボの開発はしていなかったが、量産車への適用を念頭に置いた研究は行っている。

    From IHI 同社がすでに開発を行っている量産向けハイブリッドターボ。コードがつながっている中央部分がMGU

    日本のターボ、あるいはハイブリッドターボが新しいF1のパワーユニットに搭載されるかどうかはフタを開けてみるまでわからないが、過給ダウンサイジングの流行で勢いに乗る日本のターボメーカーには、新時代のF1を支えるだけの技術力があるのは確かだ。

    2014年のF1は、2つの点で燃料の使用が制限される。1つは燃料流量。高精度な燃料流量計によって、最大流量が100kg/hに制限される。現在のF1エンジンは150kg~200kg/hを消費しているので、だいぶ締め付けが厳しくなる。

    もう1つは燃料搭載量の制限だ。現在は搭載量に制限はないが、2014年からは100kg(約133L)に制限される方向だ。F1のレースは約1時間半だから、最大流量で走りつづければ燃料は確実に足りなくなる。

    パワーユニットとしての効率を高めつつ、速く走るにはどうしたらいいのか。

    MGU-KとMGU-Hで回収できるエネルギーは1周あたり2MJなのに、MGU-Kでアシストに使えるエネルギーは1周あたり4MJなのも戦術的に悩ましい。ある周で一気に4MJ使ってしまうと、次の4MJを蓄えるのに2周を費やさなければならないからだ。

    MGU-KとMGU-Hをどのような状況でどれだけ作動させ、エネルギーを回収したら効率は高くなるのか。エンジンが生む力とMGU-Kがアシストする力はどの配分にしたら効率良く、しかも速く走れるのか。考えなければいけないことはたくさんある。

    そのどれもが将来の量産車に活きるのが魅力で、だからルノーは積極的に2014年F1パワーユニットの開発に取り組んでいるのだ。量産車の過給ダウンサイジング化が着々と進行中で、技術のフィードバックだけでなくPRの面でも好都合なのが、積極的な理由である。

    モータースポーツと量産車の技術を有機的にリンクさせる点、そしてそれを上手にアピールする点も、どこかの国より彼の国の方が一枚上手である。

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