真鍋大度氏×徳井直生氏が人工知能でライブハウスをHackする!?実験的DJイベント『2045』が始動
音楽を学習した人工知能は、人間を感動させることができるのか? ネットワークを介して世界中のありとあらゆる音楽に自由にアクセスできるようになった時、DJやVJといった表現はどう変わるのか?
こんな刺激的な問いかけが、とあるFacebookページに踊った。共にプログラマーでありメディアアーティストでもある真鍋大度氏と徳井直生氏が仕掛けるDJイベント『2045』(2月13日、恵比寿『KATA』にて)がそれである。
イベント名の『2045』は、テクノロジートレンドに詳しい人の多くが想像する通り、コンピュータが人間を超える「シンギュラリティ」が現実になるとされる2045年から取ったもの。その時、音楽はどのような形で存在しているのかを問うのが、『2045』の趣旨だという。
テクノロジーと音楽の懸け橋ともいうべきポジションで活動してきた2人は、このイベントで何をしようとしているのか。その開催意図と、思い描く音楽の未来像について聞いたところ、返ってきたのは「分からないからこそやってみる」とのコメント。第1回イベントの概要と合わせて、インタビュー内容を紹介しよう。
実験する場が必要だった
『2045』開催の一番の目的は、「実験の場を作ることにあった」と2人は口をそろえる。
現在も仕事の合間を縫ってクラブでDJを行っている両氏には、「インターネットを通じて楽曲がいくらでも手に入るようになり、かつさまざまなデータを取得できるようになった今、アナログレコードでプレイしていた時代とは違うやり方で楽しむことができるはず」という感覚があったという。
そこで持ち上がったのが、「人工知能を使って選曲するアルゴリズムでDJ同士が対決する」というアイデアだ。
機械学習を用いた音楽キュレーションサービスはさまざま出てきているが、現状はネット上での音楽配信がメイン。このテクノロジーを、「1対n」で音楽を楽しむリアルな空間に活かすとしたら何ができるのか? という好奇心が『2045』の構想を生んだ。
換言すれば、音楽を介して「アルゴリズムと人間の新しい関係」を模索する実証実験と言えるかもしれない。
「いろんなDJのプレイリストをネットワーク上でシェアし、そこから半自動で選曲するようなアルゴリズムを作ったとして、本当にフロアは盛り上がるのか? 人間のDJと人工知能で、フロアが盛り上がっているかどうかの定義付けはどう変わるのか? 『人間の感性』と『データ』にまつわるいろんな疑問について、楽しみながら考えるイベントになると思います」(徳井氏)
2人が考える「音楽×テクノロジー」の新しい楽しみ方
では、2人は実際に、人工知能を使ってどんな新しいスタイルのDJを見せてくれるのか。今回は初回ゆえ手探り状態とのことだが、継続して開催していくことでインタラクティブな楽しみ方を可能にしたいと真鍋氏は言う。
「これまでは自動選曲しようと思ってもフロアがどのくらい盛り上がっているかどうかを判断するための情報が限られていました。『Ringly』をやっているSean Montgomeryは2005年ごろ、観客に心拍センサを渡してクラブごとの平均心拍数をWebにアップする実験をNYでやっていました。
『あのクラブは観客平均心拍数が130だから盛り上がってる』というのは、口コミでは分からない客観的な情報です。当時は特殊なデバイスが必要だったけど、10年経過して、iPhoneとBLE技術のおかげで生体データは簡単に取れるようになっています」(真鍋氏)
さらに専用のアプリが加われば、踊り疲れて一休みしているオーディエンスに狙いを定め、再びフロアに呼び戻すようなDJingもできるだろう。
「スマホで普段聞いているプレイリストや、FacebookでどんなアーティストのページにLikeを付けているかがアプリ経由で分かれば、来ているお客さんたちが好むジャンルを瞬時に可視化することもできる。もともとDJingは『今来たあの子をどう躍らせるか?』というゲーム感覚で選曲する部分もありました。それをデータを使ってどのようにアルゴリズムに落とし込むか。そんな遊びをしてみたいです」(真鍋氏)
一方で徳井氏は、世界中のDJのプレイリストをビッグデータとして扱うことで生まれるセレンディピティ(思いがけない偶然)に期待している。
「いろんなDJのプレイリストから『この曲の後にはよくこういう曲がかかっている』という傾向を分析して、次にかける曲を提案してくれるシステムを作っています。システムは絶対思いつかなかったような選曲をすることがあり、自分の選曲スキルを超えた部分で驚きがあります」(徳井氏)
DJは人工知能に淘汰されるのか?
こうした取り組みの行き着く先を2人はどう見ているのか。人工知能をめぐる議論ではしばしば、人類の未来がネガティブな論調で語られるが、音楽の領域でも、DJの活躍の場が奪われるといったことは起きないのか。
「djayをはじめとした自動DJingは、類似楽曲をセレクトする精度が非常に高く、現在でも環境によっては『DJなんていらない』と言われてしまうことがあるでしょう。淘汰はされていくと思います。ただ、一方で人間にしかできない部分は必ずあります。極端な例でいえば、ルックスの良いセレブDJがただ曲を流しているだけで、フロアが盛り上がることもあるわけで。これはテクノロジーでは代替できない部分があるという証拠です」(真鍋氏)
機械と人間がそれぞれまったく同じミックスをした時に、客の反応はどう違うのかを比較するなど、アンチテーゼのようにテクノロジーを持ち込むことで、逆に「人間ならではのDJ」を浮き彫りにするというのも、今回のイベントの趣旨の一つであるという。
ただ、2人の関心はそういった「テクノロジーvs人間」の構図以上に、テクノロジーがもたらすポジティブな可能性へと向けられている。
「DJingのフォーマットは、レコードからCD、PCへと移っても基本的には変わっていません。そこに人工知能という“異物”を組み込んだらどうなるか。曲の量が膨大になったら質的な変化が起こるのか。DJ自身にも分からない発見を人工知能がもたらしてくれるとしたら、それは新たな音楽との出会いといえるのではないでしょうか」(徳井氏)
イノベーションは体験から生まれる
ちなみに『2045』はオープンな実験の場として構想されているため、テクノロジーに詳しくないDJや、クラブとは縁遠かったプログラマーなどにも広く参加を呼びかけている。
それは、より多くのデータを収集して上記したような構想を具現化する仲間を募り、第2回、第3回の『2045』に反映するためという意図もあるが、このイベントを企画した意味にもつながる問題意識が根底にあるという。
「データ×DJで新しいことをやろうとしても、両方に精通している人がまだまだ少ないのが現状です。音楽やDJのリアルな楽しみ方を知らない人が作ったモノには、リアリティがないんです。だから、まだまだふわっとした企画ですけど、『音楽が好きだ』っていういろんな作り手たちに集まってほしいし、みんなで遊びながら実験できたらいいなと思っています」(真鍋氏)
音楽の担い手と技術の担い手がリアルに交錯し、新しい体験を生み出す――。そんな2人の意図にちょっとでも興味を持った人は、まずは会場へ行ってみよう。
取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 撮影/赤松洋太
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