「情熱は作り出すことができる」GitHub創業者に聞く、エンジニアが成長し続けるために必要なこと【特集:エンジニア育成の本質】
エンジニアが継続的に成長し続け、自らの価値を高めるためには何が大切なのか。社会に出たばかりの若いエンジニアは、まず何から取り組めばいいのか。
今回、弊誌では上記のような質問を、初来日中だったGitHubのCEOクリス・ワンストラス氏にぶつける機会を得た。
GitHubは言わずと知れた、世界900万人以上のエンジニア、デザイナーらが利用する情報共有ツール。このほど同社初の海外法人としてGitHub Japan合同会社を設立し、サービスの日本展開を強めている。ワンストラス氏はその設立記者会見のために来日した。
同社のソフトウエアは、世界中にいるエンジニアがリモートで開発していることで知られる。ワンストラス氏は世界中に散らばる優秀なエンジニアを目にしてきた人物であり、自身もGitHubを中心となって開発したエンジニアである。
同氏が考える「エンジニア育成の本質」とは? 新卒研修を終え、いよいよスタートラインに立った日本の若いエンジニアに向けて、メッセージをもらった。
視点は外へ。多くの考え方やスタイルに触れよ
―― このたびは日本法人設立おめでとうございます。また、このような貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
さっそくですが、多くの優秀なエンジニアを目にしてきたクリスさんに質問があります。日本の多くの企業ではこの時期、新卒入社した社員が研修を終えてようやく現場配属されるのですが、そうした若いエンジニアが将来的に「一人前」のエンジニアになるために、まず取り組むべきことはどういったことでしょうか?
これはエンジニアに限ったことではありませんが、これから社会に出ていく若い人にとって一番良いのは、良いメンターを探すことです。目指したい職種、仕事をしている人を探し出して、質問攻めにすることです。
もし最適な人間のメンターが見つからない場合は、自分のしたい仕事を探して、そういう仕事は何によってできているのか、どんなテクノロジーが使われているのか、どんな人が担っているのか、そういった情報を集めて、徹底的に研究することが重要です。
それを特にエンジニアに関することとして言い換えれば、大事なのはコードをたくさん書くこと、そしてたくさんのコードを読むことです。GitHubやオープンソースのプロジェクトは、そういった意味で非常に役立つでしょう。
―― 成長するために「学ぶ」という行為は、基本的に本人の問題かとも思いますが、GitHubがそれをサポートするために会社としてやっていることはありますか?
GitHubでは、とにかくいろいろな人とコラボレーションして仕事をすることを奨励しており、自由にオープンソースのプロジェクトに参加することが可能です。
なぜ、そういうプロジェクトに参加することが重要なのか。それは、自分のすぐ周りにいる人だけではなく、世界中の人と仕事をすることによって、自分が今まで目にしたことのない、いろいろな考え方や作業スタイルに触れることができるからです。
そういった経験をすればするほど、人は成長するのだと思います。
―― クリスさんご自身は、若手プログラマーだったころにどうやって学ばれたのですか?
私自身、良いエンジニアになるためのさまざまなことをオープンソースから学びました。
私が育った町では、なかなか良いメンターを探すことが難しかったので、インターネットを活用し、若いころからさまざまなオープンソースのプロジェクトに携わりました。
私よりも経験豊かなプログラマーからコードを修正され、改善するためのヒントを得られたことは、私に大きな影響をもたらし、オープンソース・コミュニティに夢中にさせ、生涯にわたって携わっていきたいと思わせてくれる大きなきっかけになりました。
実際にアドバイスをくれたりメンターになってくれたりする人が見つかれば、それはかけがえのないリソースです。もしそういった人がいなくても、現在のオープンソース・コミュニティは以前と比べより大きく、今までで一番充実しています。
まずはいろいろなプロジェクトを読んでみたり、貢献してみたりしていれば、それらのプロジェクトを管理している人たちが、より良いプログラマーになれるよう、きっと指導してくれるだろうと思います。
―― 会社の外の視点を得ることが非常に重要だということですか?
そうです。それは会社自体についても言えます。
多くの会社のソフトウエア開発のプロセスは、【1】コードを書く、【2】コードの内容をチェックする、【3】出荷する――の3ステップで成り立っていますが、本来、会社は【2】の前に、自分たちが使っているツールや開発プロセス自体が本当に良いかどうかを検証するステップを入れるべきです。
自分たちがやっていることは他の会社と比べてどうなのかという視点を入れることで、刺激を受け、プロセスはどんどん改善できます。
会社を立ち上げたばかりの段階では、どこの会社もそれができています。なぜなら中にはまだ何もないから、外を見る以外にない。しかし、外からどんどん取り込んで大きくなるにつれ、いつしか中しか見なくなります。
外を見ることは重要です。イベントに参加したり、ミートアップのような場で他の会社の人と話したり。そうやっていろいろなものを取り入れることが重要です。
毎日の達成感が枯れることない情熱を生み出す
―― 弊誌では以前、貴社COOのPJさん、CIOのスコットさんにインタビューする機会をいただいたことがあります。そこでお2人が語られたことの中に、「エンジニアの仕事の内容を左右するのは、技術ではなく情熱である」という印象的な言葉がありました。この考えについて、クリスさんはどう思いますか?
最も優れたソフトウエアを開発するのは、最も優れたエンジニア以外にない。重要だと思うのは、ソフトウエアのエンジニアがモチベーションを高く保つことのできる環境を作ることではないでしょうか。
それは良いチームを作るということでもあるし、良いツールを用意するということでもある。そういう全てを整えることが重要です。
情熱は確かに大切です。しかし情熱というのは、ちゃんとサポートしさえすれば作り出すことができると思っています。
―― 面白いですね。どうやって情熱を作り出すのですか? 若いうちは情熱を持っていても、年を取ったり大きな成功を経験したりすることで、情熱が失われてしまうことはないですか?
情熱に年齢は関係ないと思いますね。
情熱というのは、何かを成し遂げることで生まれると思っています。例えば1日の仕事を終えた時に、「俺は何かを成し遂げたぞ!」と思えるかどうか。
若いエンジニアと少しキャリアを積んだエンジニアに違いがあるとすればそれは、キャリアを積むことでいつの間にかマネジャーのような立場になっていて、何かを作ることではなく、何かを管理することに追われるようになり、仕事を終えて家に帰っても、「俺はやったんだ!」と感じられないようになっているのではないでしょうか。
若いエンジニアにとっては、それがたとえ小さな成功であっても大きな達成感が得られますから、情熱が自然と湧き出てくる。経験を積んだエンジニアはそういうわけにはいきませんから、会社はそれでも何かを成し遂げたと感じられるような環境を作ったり、また本人も大きな目標を持つなどして、情熱が湧き出るような工夫をする必要があるはずです。
―― 全てのエンジニアが情熱を持ち続けるために、GitHubがしているのはどんなことですか?
重要なのはチームを持つことです。チームでお互いに刺激し合って、成果物を出すことです。
これは、組織がピラミッド構造だったり、フラットだったりということとは関係ありません。チームで何かを作るということが、情熱を出すためには非常に重要なのです。
そして、チームで何かをする際に大切なことが3つあります。一つはコミュニケーション、二つ目は「Why」、三つ目は自律性です。
コミュニケーションを密に取り、「なぜ」これをやるのかを常にチームに伝えないといけない。ブラックボックスを作ってはいけません。
そして、作業にあたる人に対しては「何をすべきか」は指示してもいいけれど、「どう作るか」は伝えてはいけない。そこは、作業をする人自身が決めて、自分の力でやることが重要です。
私自身、「これをやって」と言われたことを自分で解決するのは好きだったけれども、「こうやってやれ」と言われるのは本当に嫌でしたからね。
―― なるほど。ところでクリスさんは今でも自分でコードを書くのですか?
もちろん自分で書くこともあります。GitHubを設立した当時とは違って、今は趣味でしかないですね。
―― クリスさんご自身の情熱は今、どこへ向かっているのですか?
私の情熱の矛先は常に3つあります。一つはモノを作ること、一つは人がモノを作るのを手助けすること、一つは人をハッピーにすることです。
大事なのは、情熱を注ぐのは「コードを書くこと」ではなく、「ものを作ること」であるということ。
それを成し遂げるのには、どこかのタイミングからは自分でコードを書くのではなく、自分よりも優秀なエンジニアを採用して、彼らに自律させ、その邪魔をすることなくどんどん作ってもらう方が良くなったんですね。
情熱の矛先が何かと問われれば、それはGitHubという会社、GitHubという人が集まるコミュニティを作ることです。だから今回、日本のオフィスを設立することができて、すごく興奮しています。5年後には絶対に素晴らしいものになっていると確信していますよ。
そして、これからも世の中の人が情熱を持ってモノづくりができるようなツールをどんどん生み出していきたいですね。
―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)
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