2005年度下期IPA「天才プログラマー」認定、第24回独創性を拓く先端技術大賞 学生部門文部科学大臣賞(部門最優秀賞)など華々しい経歴を持ち、三児の母でもある五十嵐悠紀の連載です
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3Dプリント普及に向けて押さえておきたい、初心者でもできる3Dモデリングツール集【連載:五十嵐悠紀】
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五十嵐 悠紀
計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある
エンジニアtype読者の皆さんは、最近「3次元プリンタ」の話題を耳にすることが多いと思います。
一応、仕組みをご存じない方のために説明すると、普通のプリンタは紙など平面的なものにインクを用いて印刷するものですが、3次元プリンタは樹脂や金属で立体物を造形することができます。
昨年には、DMMの『3Dプリントサービス』がTVCMを始めたので、世の中全体での認知度も高まっているでしょう。ビートたけしさんが
3Dプリンターだってよ
頭で描いた物が形にできる
ちょっといいよな
モノづくりが変わる
そういうこった
と語る、あのCMです(YouTube動画は以下)。
3次元プリンタと合わせて、いよいよ一般的になってきたのが3次元モデリングです。DMM社のほかにも、同様のサービスを行っている会社は複数あります。
また、経済産業省から「教育機関の3Dプリンタの購入に対して補助金を出す」と先日発表があったように、今後は学校などでも触れる機会が多くなるかもしれません。大学でも、少し大げさかもしれませんが、「各研究室に1台」なんていう状況にもなってきたように思います。
しかし、肝心な「3次元データを作ること」に関しては、まだまだ一般的には敷居が高いのが現状ではないでしょうか。
専門家はキーボードだけで3次元を描く
以前、某会社の映画のキャラクターなどをデザインしている部署へ見学に行かせてもらったことがあるのですが、3次元モデリングソフト『Maya』を使ってモデリングしていました。驚いたのは、マウスを使わずに、キーボードだけを使ってどんどんモデリングをしていたこと。
ホームポジションを起点に、まるで文章でも書いているかのように、キーボードをカタカタ叩くと画面上にキャラクターができてくる。その様子を目の当たりにした時は、ちょっと驚きました。実は、F1, F2, などのファンクションキーをはじめとして、さまざまなショートカットを割り当てて、頂点を編集したり、削除したり、などをマウス操作を使わずにモデリングできるようにしてあったのです。
一方、3次元プリントサービスを使いたいターゲットユーザーは、必ずしもプロフェッショナルではありません。例えば、子どもが壊してしまったおもちゃの部品を、お母さんがちょっとモデリングしてプリントアウトして直したいな、という場面もあるでしょう。
そこで、初めての人でも簡単に3次元データがモデリングできるようなシステムを紹介したいと思います。
手軽に使える3次元モデリングソフトウェアは?
3次元モデリングをするためのソフトウエアにはさまざまなものがあります。とっかかりやすさとして、【1】無料で使える、【2】使い方が簡単に理解できる、【3】初心者向け書籍やWebページが充実している、の3つがそろっているものが、敷居が低いと思われます。
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メタセコイアの初心者モードでの編集画面。入力したのは工学ナビのマスコットキャラ「忍者くん」
この条件でセレクトすると、『メタセコイア』 は無料で使える完成度の高いソフトウエアです。最初は初心者向けモードで使い、慣れてきたらモードを切り替えて、より多くの機能を使いこなせるようなUI設計にもなっています。
また、Webサイトや書籍も充実していて、分からないことをすぐに調べられるという観点からも使いやすいと思います。
球や直方体などの基本的な形状を組み合わせたり、面をスイープ(押し出し)したりして、変形していくことから始めてみると良いでしょう。
また、3次元モデルを公開しているサイトも多いので、既存モデルを入力して、編集してみることから始めるのもお勧めです。
Google SkecthUpの後継となる、『SketchUp Make』も無償で利用でき(※非商用利用に限る)、初めての3次元モデルづくりにお勧めです。
アドオンで拡張することで、3Dプリンタで出力する際に使われているSTL形式にエクスポートもできるため、3Dプリンタを使うことを前提として利用する人も増えているようです。
さらに、最近のブームになっているソフトの一つに、Autodesk社の123Dシリーズが挙げられます。複数枚の写真から3次元モデルを構築できる『123D Catch』。スケルトンベースでモデリングをしていく『123D Creature』。従来のいわゆるCADソフトウェア『123D Design』。ほかにもさまざまなツールがすべて初心者向けとして無料で提供されています。
123D Makeの紹介ビデオでは、デザインした3次元モデルを段ボールオブジェにするための機能が紹介されており、DIYや3次元プリンティングを目的としたユーザーに十分必要な機能を満たしていることが分かります。
英語が苦でない人には、Blenderもお勧めです。
オープンソースコードなので、世界中のプログラマーにより日々改良が加えられています。そのため、バージョンアップの頻度や新機能の追加など、開発速度が速いソフトとも言えます。また、GPLライセンスであるため、商用であっても自由に使うことができます。
日本語化はまだまだこれからの段階なので、困ったことがあった時に、英語で検索し、読解する程度の英語力は必要になります。
いち早くモデリング技術を身につけたいなら経験者に教えを請おう
わたしは大学院修士課程のころからモデリングの研究をずっと行ってきました。修士1年の時、「モデリングの研究をしているけれども既存のモデリングソフトウエアを使ったことがないな」と思って、研究室の共有マシンで『Maya』を使おうと画面に向かってみたことがあります。
その時の第一印象は、「たくさんのツールや画面が並んでいて、何をしたらいいのやら……」でした。とりあえずモデルを開いて、画面に読み込むことはできたものの、拡大されたものが表示されてしまい困っていたら、後ろを通りかかった先輩が「Fだよ、F!」と教えてくれました。
「え?」と思って「F」キーを押したら、モデルが画面の中心に、全体像が見えるようなカメラ位置になりました。おそらく、「Focus」のショートカットキーの「F」だったんですね。
そんなおまじないのようなソフトウエアを使いこなすのは、なかなか大変です。わたしの経験上、自分でソフトをいじくり回して探っていくよりは、最初はチュートリアルビデオを見たり、Webや書籍を見たりする時間に費やす方が、早く使いこなせるようになると思います。
それよりももっと早く身につけるためには、身近に3次元モデルを作った経験がある人を探して、作業過程を見せてもらうこと。身近にいないようであれば、みんなでやってみてもいいですね。
Webには研究者が作った3次元モデリング作成プログラムも
国際会議で発表されたような論文も、デモプログラムがWeb上にアップされているものが増えています。例えば、スケッチ入力で初心者でも簡単に3次元モデルが作ることのできる論文『Teddy』は、こちらからダウンロードできます。研究上のプロトタイプシステムですが、3次元モデリングを初めてする人には分かりやすいシステムだと思います。
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3次元モデリング初心者の大学1年生がTeddyでデザインしたモデルたち
わたしが非常勤講師として教えている明治大学の大学1年生からも、「3次元モデリングをやってみたい!」との要望があり、授業の中でメタセコイアとTeddyを扱いました。
一人一人、ノートPCにWebサイトからソフトウエアをダウンロードして、Javaのインストールから始まり、てんやわんやでしたが、30分ほど後には初めての3次元モデリングを楽しんだ成果ができあがりました。
Teddyは『Shade』というソフトウエアや、『Sunny 3D』というアプリにもなっています。
ほかにも、研究者が開発したソフトとして『Shapeshop』などもあります。
このように、モデリングの専門家だけでなく、初心者が使うことを前提としたツールが世の中に増えてきました。来たる3Dプリント普及の時代に向けて、「あなただけの○○」をデザインしてみてはいかがですか?
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