バンダイナムコスタジオのヒットメーカー・あすなこうじ氏が考える、「モノづくり人」の根本にある共通点とは
数々のヒットゲームを世に送り出してきたあすなこうじ氏。2018年4月、あすな氏の著書『プログラミングのはじめかた』(サイエンス・アイ新書)が発売となった。
しかし、あすな氏はエンジニアではなくゲームプランナー。なぜ彼は、本業ではないプログラミングの入門書を著したのだろうか? この本にこめられたメッセージとは一体何なのだろうか?あすな氏に話を伺った結果、「人々が忘れかけているモノづくりの本質」が見えてきた。
ヒットメーカーのキャリアは「流れに身を任せて」築かれた?
「僕、熱心に就職活動をする大学生じゃなかったんですよ」
そもそもなぜゲームプランナーに?という質問に、あすな氏は少し困ったように笑いながらそう答えた。
ゲームの世界には、いつまでも遊び心を忘れないやんちゃな大人が集う印象だ。豊富な知識と情熱を持つ“ゲーム愛”満載な人々が多いのではないか……というこちらの勝手な想像とは裏腹に、あすな氏は別段ゲーム関連の仕事に思い焦がれていたわけではないらしい。もちろんゲームは好きだったし、在学中は経営情報学科だったため多少はプログラミングにも触れていた。しかし、まさか自分がゲームの世界で働くことになるとは想像していなかったようだ。
「就職先が見つからずにいた時、たまたま手に取った情報誌で『ゲームプランナー募集』という見出しが目にとまったんです。どうにかゲーム制作会社に入社が決まって、企画の仕事をもらいました。来る日も来る日も企画書を書いて、ほとんどがボツになって。そうこうしているうちに、その会社が倒産してしまったんです。
当時、とあるPlayStation版ゲームのプロジェクトが進行していたので、どうにかそれだけは完成させなければと思い、クライアントだったメーカーと直接契約を結ぶかたちで企画・開発を続けました。そのゲームが無事納品された後、プロジェクトメンバーが立ち上げた会社に入ったんです。」
新たな会社で、あすな氏は本格的にゲームプランナーとしてのキャリアを歩み始める。キャラクターやサウンド、ステージ設定等に触れたのもこの時期だ。当時を振り返りつつ、あすな氏は自身の幼少期について語ってくれた。
「思い起こせば、子どもの頃からオリジナルのゲームを作るのが好きだったんですよね。ゲームといっても、紙に描いたキャラクターを切り抜いたようなアナログなものですが、自分が作ったゲームで友だちが楽しそうに遊んでくれるのが嬉しかったんです」
プログラミングは、伝えるための手段。でも「初心者には優しくない」世界だった
その後、現在のバンダイナムコスタジオに中途入社したあすな氏。プロデューサーに対してプレゼンを行う機会に恵まれたあすな氏だったが、ここで大きな壁にぶつかった。
「新しいパズルゲームをプレゼンするために、厚紙を切り抜いて作ったピースを使って説明したんですよ。『これがこうなって、こうなるんですよ。面白いでしょ』という具合に熱弁したのですが、プロデューサーはピンとこない顔をしていて、最終的には『よくわかんないね』と言われてしまいました」
このプロデューサーの一言が、あすな氏を奮い立たせた。面白いものを作って人に喜んでもらいたい……子ども時代からあすな氏が(知らず知らずのうちに)抱いていた思いに火が点いたのだ。
「『このゲームは絶対に面白い』という自信があったので、どうにかして伝えたいと考えました。その結果、実際に操作して遊べる試作を作ればいいんだという結論にたどり着いたんです。さっそく書店でテキストを買って、Javaを勉強しながら自分でプログラミングしました」
四苦八苦しながら作成した試作をプロデューサーに渡して数日、めでたく企画が採用された。聞くと、プロデューサーは試作を何時間もやりこむほどゲームを楽しんだという。
これ以来、個人的にもゲームを作るようになっていったあすな氏は、いつしか「誰でも気軽にゲーム作りができる入門書があれば、もっと多くの人が楽しめるようになる」と考えるようになる。
「プログラミングを勉強しようと思って書店に行った時、初心者でもわかるプログラミング入門の本がほとんどなかったんですよ。だから、初心者だった僕が作れば、わかりやすいかなって思いまして」
こうして生まれたのが2冊の著書、『ゲーム作りのはじめかた』『プログラミングのはじめかた』というわけだ。
誰もがきっかけは「楽しい」だったはず。プログラミングを覚えた頃の気持ちを思い出して
今年4月に出版となった『プログラミングのはじめかた』は、Unityをダウンロードするところから始まり、ゲーム作りを進めていく手法を分かりやすく解説する内容。ゲーム作りをベースにした理由は、もちろん自身がゲームに携わる仕事をしているからでもあるが、「楽しさを知ってもらうために、ゲーム作りは最適」だと思ったからだという。
「多くの書籍は、理論的な説明から始まり、コードの意味や法則みたいなものが続いていくイメージです。もちろん、エンジニアを志している人には有意義だとは思いますが、あくまでも私が伝えたいのは『プログラミングで楽しいものが作れるから、トライしてみようよ』ということなので、こういう本にしたんです」
プログラミングは、楽しさを体感できる作業であり、楽しさを多くの人に届ける手段であるはず……それが、あすな氏の持論だ。さらに、あすな氏はこう続けた。
「例えば、キャラクターに好きな名前がつけられるだけでもワクワクしますよね。プログラミングスキルが上がっていくうちに、『敵キャラは何人にしようかな』『ステージはどうしよう』なんてことも考えられるようになっていくわけです。それが楽しいんですよ。その感覚を、多くの人にシェアしたかったんです」
同著の想定読者は、お察しの通り非エンジニアだ。しかしよくよく聞くと、そこには現役のエンジニアに向けたメッセージもこめられていた。
「すでにプロのエンジニアとして活躍している人たちだって、プログラミングを覚えた頃は、純粋に『楽しい』と感じていたと思うんです。でも、それが仕事になってやらなければならないことが増えていくうちに、いつの間にかしんどくなってしまう。どことなく疲れて見える目も、最初の頃はキラキラしていたはずなんです。
たしかにこの本は初心者の方に向けて書きました。ですが、もしエンジニアの方が手にとってくれるのであれば、僕がこの本を通じて伝えたかった『楽しい』という気持ちを、少しでも思い出してもらえたらいいなと思います」
あすな氏は、ゲームプランナーとして日々凄腕エンジニアと向き合う立場にいる。最後に、「エンジニアに向けたメッセージはありますか?」とたずねたところ、返ってきた答えは「楽しむこと」を大切にしているあすな氏らしいものだった。
「プランナーとしては、エンジニアの皆さんともっとケンカしたいですね!『こっちの方が面白いと思うのに』とか、『こういう風にも作れるんだけどな』とか、思っていることを押し殺していたら、エンジニアだって楽しくないですよね。だから僕は、エンジニアともたくさん議論しながらゲームを作っていきたいんです。そうした方が、絶対面白いものができると思いませんか?
僕、仕様書を完成させていない状態でエンジニアに渡したりする事もあるんですけど、それは残りを一緒に考えていきたいから。普段は仕様書通りに作ってくれるエンジニアでも、『もっと良いものにしたいんだけど』と相談されたら、言いたいことはたくさんあるはず。そうやってアイデアをぶつけ合えるような人が増えたら、ゲーム開発はもっともっと楽しくなる気がしています」
あすな氏は、そう言ってにこやかに笑った。今もその心の中には、自作のゲームを友だちと遊んで楽しんでいた小学生の頃のあすな氏が生きているのだろう。
取材・文/森川直樹 撮影/秋元祐香里(編集部)
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