『DELISH KITCHEN』が日本最大級のレシピ動画アプリになったワケ――エブリーのエンジニアが語る、市場を作る面白み
アプリダウンロード数1200万、月間動画本数1500本以上、月間動画再生数6億回超。2016年9月のリリース以降、競合の多いレシピ動画サービスにおいて圧倒的な存在感を放っている『DELISH KITCHEN』。
最近ではAmazon Alexaによる音声検索や、Amazonフレッシュでの食材購入にも対応。社内の料理スタジオには撮影ブースがずらりと並び、絶え間なく撮影が行われている。
このサービスの成長を牽引する開発マネジャー・今井啓介さんに、DELISH KITCHENの強さの秘密を聞いた。
今井さんがエブリーと出会ったのは、16年夏。9月のDELISH KITCHENリリースを間近に控えた時期だった。
「正直、その時はまだ本気で転職するつもりはなかったんです(笑)。『面白そうな会社があるよ』と紹介されて、軽い気持ちで訪問したら、まさかのいきなり代表面接。でも、そこで代表の吉田から聞いたビジョンにとても共感したことを覚えています。
その頃、コミュニケーションの手段が『テキストで読ませる』だけでなく『画像で見せる』というスタイルへと移り変わろうとしていました。ですが吉田は、『将来的には動画でのコミュニケーションが主流になる』と予測し、明確な未来絵図を描いていたのです」
当時のエブリーはまだ社員数も少なく、エンジニアに関してはゼロ。今入社すれば、このサービスを一から作っていける。今後成長するであろう動画市場で面白いことができる。そう確信し、今井さんはエブリーへの入社を決意したという。
「最新テクノロジーはいち早く導入」を可能としたサービス設計
その後、9月にWeb版を、12月にアプリ版をリリース。DELISH KITCHENはレシピ動画サービスのNo.1に輝くこととなるのだが、その強さの秘密はどこにあるのだろうか?今井氏は、当初から意識していたポイントを二つ教えてくれた。
一つ目が、社内CMSを徹底的に作り込むこと。月間1500本という大量の動画を公開することが可能となっている理由がここにあるという。
「サービスを成長させていくためには、レシピ動画を毎日更新し続ける必要があります。そのためには、テキストや画像と比べて容量が大きい動画データを、素早く、大量にアップロードできなければなりません。なので、CMSは当初からかなり作り込りこんでリリースしました」
もう一つのポイントは、どんな設計にも対応できる柔軟な設計だ。
「SNS、アプリと展開してきましたが、もともと特定のSNSやデバイスのみに特化したサービスにするつもりはありませんでした。スマホではできることが他のデバイスではできない、という状況を防ぐためにも、スマホでも、タブレットでも、PCやその他のガジェットでも、どれであっても同じようにサービスが使えるようにしたかったのです」
冒頭でも触れたように、最近ではAmazon Alexaとの連携が話題となっているが、リリース当初からマルチ展開を想定していたからこそ、新しいテクノロジーにすぐさま対応することが可能となっている。
「Amazon Alexaとの連携は、構想から1カ月程度で実装を完了できました。デバイスや他サービスとの連携にかかる工数は最小限に抑えられていますね」
日に日に登場する最新のテクノロジーに対応する体制は万全、というわけだ。しかし、問題はいつ、どのタイミングで実行するか、ということ。成熟しきっていない市場において、新たなテクノロジーの導入・連携は魅力的ではあるものの、時期尚早でもなく、乗り遅れることもなく……というタイミングを見極めるのは難しい。しかし、今井さんは次のように語る。
「確かにタイミングは重要ですが、そのテクノロジーが市場に普及する目処が立つまで待つ、という考えはありません。むしろ、前例がないのであれば僕たちがいち早く取り入れて、周囲を引っ張っていくくらいの気概でいたいですね。レシピ動画という市場のトップでいるためには、常に最先端の技術やデバイスに対応しているべきだと思うのです。それに、ユーザーにとって便利なものなら、どんどん取り入れていきたいですからね」
実際、Amazon AlexaやAmazonフレッシュの他にも、デジタルサイネージを活用してスーパーなどの店頭で動画を流したり、レシピの栄養成分表示に対応したりと、次から次へと新しい境地を切り開いているようだ。
最大の悪は、ユーザーファーストでいられなくなる状況
こうした攻めの姿勢を続けるDELISH KITCHENの根底には、先の今井さんの「ユーザーにとって便利なもの」という言葉にもあった通り、ユーザーファーストの考え方がある。
「ユーザーさんのことを考えて開発を行っていきたいのに、業務に追われるあまりにそれができない……なんて事態に陥ることが一番の悪だ、と僕たちは思っています。そのために、あらゆる部分の自動化・効率化を進めているんです。人の手が加わらなくてもよい部分については、徹底して自動化することを意識していますね」
現在、アプリのデプロイや栄養成分計算はすでに自動化されているし、レシピのレコメンドには当然、機械学習を導入している。ゆくゆくは、最も工数がかかる動画の撮影、編集にも、AIを活用した効率化を実現したいと考えているという。今井さんは「カメラに触れなくとも、料理さえすれば自動で動画ができあがるのが理想」と野望に燃える。
では、サービス改善のアイデアはどこから出てくるのか?答えは、「開発チーム全員から」だ。
開発チームは15人。企画、ディレクター、エンジニアと役割で分業する縦割り型のチームビルディングではなく、プロジェクトごとにチームを組んで取り組むことが多い。
「役割で分けるよりも、プロジェクト単位でのチーム体制をとった方が開発がスピーディーに進みます。それに、『このプロジェクトは自分が作った』という実感があるので、一人一人が責任感を持てるんですよね。それがうちのチームの良いところだと思います」
その責任感があるからこそ、サービスをより良くしようという思いもふくらんでいく。まだまだ少数精鋭な開発チームのため、コミュニケーションも活発だ。デスクで交わしたひと言や、Slackのタイムラインでシェアした技術、サービス、アイデアが新たな機能として実装されることも多いという。
アナログであり続ける「料理」に、デジタルを融合する架け橋でありたい
料理が身近にある環境とはいえ、「うちのエンジニアがみんな料理好きというわけではない」と今井さんは笑う。では、エンジニアが料理というジャンルに携わる醍醐味とは、いったい何なのだろうか。
「さまざまな物事がデジタル化していく中で、料理というジャンルに関しては、きっとずっとアナログな部分が残り続けると思うんです。レシピを見たり、食材を買ったりする部分はデジタル化していますが、実際の調理はアナログですよね。そのアナログな行動とデジタルをトラッキングすることに、とても面白みを感じています」
市場を牽引し続ける今井さんたちがこれから目指すのは、「料理に関わるすべてのことをDELISH KITCHENで解決できる」ようにすることだという。
「かつてGoogleが『ググる』という“検索する”の代名詞になったように、“料理をする”の代名詞的な存在になりたいですね。今までもクーポン、チラシ、その日の天気など、料理に必要な機能は随時追加してきましたが、これからも新しいデバイス、メディア、テクノロジーが出てきたら積極的に対応していきたいと思っています」
レシピ動画のみならず、立体的な事業の広がりを見せている『DELISH KITCHEN』。私たちの日々の料理がより便利に、より快適になるように、さらなる進化を遂げてくれるだろう。
取材・文/石川 香苗子 撮影/吉永和久
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